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第三章 愛と欲望の狭間
第百十三話 セクシー過ぎて辛い
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「イザークが私と一緒に社交デビューして、びっくりしたよ」
ある時、ジャネットが、そんな事を口にした。
「あいつまだ十七才だろ? 成人するまで好きなことしてりゃいいのに。社交場なんで堅苦しいだけだと思うけどなぁ。んで、何度もダンスに誘ってくれるんだよなー。嬉しいけど、あんな真似ばっかしてると私と噂になるぞ? いいのかね?」
ジャネットが困惑気味に言う。
セレスティナはくすりと笑った。
「イザークお兄様なら逆に喜びそうよ」
セレスティナがそう言うと、いや、ないないとジャネットに笑われてしまう。本気にしていない? やっぱり身分差が障害になっているのかしら? でも、そこはイザークお兄様がきっと上手くやるわね。
シリウスは約束通り、例の空間を渡るステッキを使って、セレスティナを常夏の海へ連れて行った。目にしたのは満月の光に包まれた白い砂浜だ。
セレスティナが靴を脱いで水際ではしゃげば、バランスを崩して、背後から誰かに支えられる。シリウスだろうと予想はしたけれど、青年になっているシリウスだとは思わなくて、セレスティナは驚き、目をしばたたいてしまった。
「恋人のように一緒に浜辺を歩きたい、そう言っただろ?」
十八才のシリウスが、そう言って笑った。片眼鏡をかけた端正な顔は、少年特有の幻想美を伴っていて、長い白銀の髪が月の光でよりいっそう輝いている。
あ……人気の恋愛小説、よね? 覚えて……
じわりと涙が浮かんだ。差し出されたシリウスの手にそっと手を添え、セレスティナは浜辺を歩いた。さくさくと砂を踏みしめながら。さくさく、さくさくと……
ふふ、握った手が熱い……
つい、浮かれてしまって、海の中へ足を浸し、水を跳ね返して遊べば、急に大きな波がやって来て、ずぶ濡れだ。しょっぱい……海水って本当に塩水なのね……
「ね、シリウス、水が……」
本当に塩辛いわ、そう伝える前に、シリウスにジャケットで覆われてしまう。
「大丈夫よ、寒くは……」
ないわ、そう言う前に止められた。
「脱ぐな、駄目だ! その……」
服が透けていると耳元で囁かれて、セレスティナは真っ赤になった。
え? あ……濡れて……
ジャケットを羽織ったままシリウスを見上げてしまう。ほんのり頬が赤い? 少しは意識されているのかしら? だとしたら嬉しいけれど……
そっと身を寄せれば、シリウスの熱い眼差しと交差する。
口づけは軽いもの、そう思っていたけれど、違った。押し入った熱いものに舌を絡め取られて、とくんとセレスティナの心臓が跳ね上がる。
その動きは酷くまろやかで、労るように優しいけれど、逆にそのゆったりとした動きが、感覚の一つ一つを押し開くようで、唇から舌先から、じんわりと快感が広がっていく。熱い吐息がどうしたって漏れてしまう。
シリウス……
好きよ、あなたが好き……
力の抜けたセレスティナをシリウスが膝上に抱え上げる。
ごめんなさい、砂だらけね。
ついばむような口づけは、そのあと何度も続いて、優しい口づけが頬に首筋に落とされる。シリウスに抱きしめられて、夢心地だ。髪を撫でる感触も、愛しているという囁きも何もかもがくすぐったい。そう、夢心地だったから、余計に驚いた。
「熱いわね、焼けちゃうわ」
そんな女性の声が聞こえて。
はっとなって振り向けば、黒々とした海の波間に女の人影があった。月光に照らし出されているのは美麗なシルエット。露出した胸にドキリとなる。
裸で泳いでいたの?
セレスティナの目にはそんな風に見えた。濡れた長い髪が体に張り付いていて、豊満な乳房を惜しげもなく晒し、笑う唇は艶を含んで美しい。
二人っきりだと思っていたのに、女の人がいたなんて……人? いいえ、違う。下半身が魚……マーメイドだわ。
セレスティナは目を見張った。下半身は魚のそれだけれど、上半身は美しい女の人で、色気たっぷりに微笑んでいる。赤い舌がちろりと唇を舐めた。
まるで誘っているみたい……シリウスを……
どくんと心臓が波打った。違う、わよね?
シリウスがセレスティナを抱きかかえて歩き出せば、人魚が追いすがった。
「ね、待って、待って。ハンサムさん。私と一晩、どう? 後腐れのない関係よ? 人間はそういうの好きでしょう? 私は子種をもらえるし、あなたは欲望を満たせるわ? そちらの彼女には一晩だけだって、目を瞑ってもらって?」
いつの間にか魚のひれが足に変わって、そこに立っていたのは裸体の美女だ。色気たっぷりの……
しかもその仕草ときたら、淫魔も顔負けかもしれない。どこをどうすれば男の欲望をあおれるのか知り尽くしているかのよう。自分の乳房を掴んで指をしゃぶる仕草が、どきりとするほど色っぽい。女である自分でさえ、かあっと顔が熱くなってしまう。
「……近付くな、吐き気がする」
不安になってシリウスを見上げれば、彼は不機嫌そうにそう吐き捨てた。眼差しは酷く冷たくて、声には怒気すら含まれている。セレスティナは驚いてしまった。ふるいつきたくなるほどの美女である。これが駄目?
人の姿になった人魚も驚いたようだ。
「え、あの、待って……」
思わずといった感じで、シリウスに追いすがったけれど、シリウスの頭上からビッと光弾が発射され、彼女の足下がドンッと爆破四散した。人魚の足がピタリと止まる。
驚いたみたい。私もだけど……
セレスティナがふっと見上げれば、たくさんの防衛球に囲まれているのが分かった。監視の目を光らせた金属の球体が、あちこちに浮いている。シリウスが護衛として連れてきていたのね。暗くて気が付かなかったわ。
「失せろ」
シリウスは歩みを止めないまま、そう告げた。ふわりと白銀の髪が風に翻る。歩み去るシリウスの背を眺めていた人魚は、ふっと色っぽく笑った。
「あら、まぁ……あなた、愛されているのね? 羨ましいわ?」
そう告げ、諦めたのか投げキッスだ。身を翻し海へと戻っていく。
綺麗だけれど、魔物、なのよね。
セレスティナは歩み去る人魚の背を見送った。シルエットが再び人から人魚のそれへと変わる。海へ戻るのだろう。男の人魚はいないから、彼女達はこうして時折、人間の男を誘いに夜の浜辺に姿を現すという。
「君以外いらない」
シリウスはそう言って、額にキスしてくれた。翌日、セレスティナがシャーロットにその話をすると、彼女はしたり顔だ。
「そりゃ、当たり前よ」
朝食を口にしつつ、そう口にする。
「パパは他人との接触を極度に嫌がるの。触るのも触られるのも嫌なんだから、どんな美女だろうが、スタイル抜群だろうが、言い寄られようものなら鳥肌ものでしょ? 気色悪く感じると思うわ。ティナが特別なのよ」
「特別……」
「そそ、接触に嫌悪を感じないのは、家族以外ではティナだけだもん」
そ、そうなのね……
セレスティナは、つい浮かれてしまうも、ふと気が付く。
でも、あんな美女の裸を見ても何も感じないのなら、私は? 私の場合はどうなのかしら? そう言えば、一緒に寝ていても反応はない。キスはしてくれるけれど……
セレスティナは急に不安になった。
だ、大丈夫よね、十八才の大人になれば……大人に……本当に? だって、もう、十七才よ? それなりに反応があってもおかしくはない年で……
裸を見てがっかりとか……な、ないわよね?
まさか、吐き気がするとか……
嫌な思考がぐるぐる回ってしまう。事ここに至って不安が爆発し、セレスティナは大胆な行動に出た。テンパったとも言う。
「あのう、シリウス?」
就寝前、シリウスの前におずおずと進み出た。
「十七才の誕生日に頂いたランジェリーなんだけど、に、似合うかしら!」
決死の覚悟だった。少しは反応して欲しい、そんな思いである。シリウスを正視出来ず、セレスティナは目は瞑ったまま、はらりとネグリジェを脱ぎ捨てた。
◇◇◇
顔を真っ赤にさせ、スケスケの大人ランジェリーを着た十七才のセレスティナは、シリウスにとっては爆弾もいいところだった。
白く滑らかな肌を包むレースの下着は、見えそうで見えないチラリズムで、手の中に収まりきらないほどの柔らかな膨らみは、今にもブラからこぼれ落ちそうである。
シリウスはほぼ反射的に、傍のシーツをひっつかみ、セレスティナの体をぐるぐるまきにし、ベッドへ放り込んでいた。
間一髪間に合ったような、間に合っていないような……
どくどくとシリウスの心臓が脈打っている。
シリウスは自分の記憶力の良さをこの時ほど呪ったことはない。ばっちり覚えている! くっきりはっきり! どうすればいいんだ、これは! 忘れられない!
「ティナ、すまないが心臓に悪い……」
はーはーと、本当にシリウスの顔色が悪い。今にも窒息死しそうに見え、セレスティナは落ち込んだ。
「……吐き気が、する、とか?」
おずおずと悲しそうにそう言われ、シリウスは目を剥いた。くるんと小さく小さく丸まったセレスティナは、まるで寒さに震えるちっちゃな子猫のよう。
「は? 何故そうなる? あ……私の接触嫌悪のせいだな? そうなんだな? 違う違う違う! 君の場合はそんなことはない! 似合っている! 似合いすぎて心臓に悪いんだ! 頼む、理解してくれ! 君の場合はセクシー過ぎて辛い、ただそれだけだ!」
「セクシー過ぎて辛い……」
「そうだ、それ以外にない。君は綺麗だし可愛いし、セクシーだ、ああ、どう言えば伝わるんだ?」
「気持ち悪くは……」
「まったくない」
シリウスの返答に、セレスティナはほっとしたようで、よかったと呟くが、シリウスの心中は逆である。急ぎ水風呂と運動を往復し、落ち着いた頃合いにそっとセレスティナを背後から抱きしめても、自分が贈ったランジェリーの感触から、欲望が再燃するという有様で、さもありなん。
一緒に寝たいのに寝られない。抱きしめたいのに抱きしめられない。可愛いティナの寝顔がこの場合凶器である。こんなものプレゼントするんじゃなかったと、シリウスは心底後悔するも、後悔先に立たずであった。ちくしょう。
ある時、ジャネットが、そんな事を口にした。
「あいつまだ十七才だろ? 成人するまで好きなことしてりゃいいのに。社交場なんで堅苦しいだけだと思うけどなぁ。んで、何度もダンスに誘ってくれるんだよなー。嬉しいけど、あんな真似ばっかしてると私と噂になるぞ? いいのかね?」
ジャネットが困惑気味に言う。
セレスティナはくすりと笑った。
「イザークお兄様なら逆に喜びそうよ」
セレスティナがそう言うと、いや、ないないとジャネットに笑われてしまう。本気にしていない? やっぱり身分差が障害になっているのかしら? でも、そこはイザークお兄様がきっと上手くやるわね。
シリウスは約束通り、例の空間を渡るステッキを使って、セレスティナを常夏の海へ連れて行った。目にしたのは満月の光に包まれた白い砂浜だ。
セレスティナが靴を脱いで水際ではしゃげば、バランスを崩して、背後から誰かに支えられる。シリウスだろうと予想はしたけれど、青年になっているシリウスだとは思わなくて、セレスティナは驚き、目をしばたたいてしまった。
「恋人のように一緒に浜辺を歩きたい、そう言っただろ?」
十八才のシリウスが、そう言って笑った。片眼鏡をかけた端正な顔は、少年特有の幻想美を伴っていて、長い白銀の髪が月の光でよりいっそう輝いている。
あ……人気の恋愛小説、よね? 覚えて……
じわりと涙が浮かんだ。差し出されたシリウスの手にそっと手を添え、セレスティナは浜辺を歩いた。さくさくと砂を踏みしめながら。さくさく、さくさくと……
ふふ、握った手が熱い……
つい、浮かれてしまって、海の中へ足を浸し、水を跳ね返して遊べば、急に大きな波がやって来て、ずぶ濡れだ。しょっぱい……海水って本当に塩水なのね……
「ね、シリウス、水が……」
本当に塩辛いわ、そう伝える前に、シリウスにジャケットで覆われてしまう。
「大丈夫よ、寒くは……」
ないわ、そう言う前に止められた。
「脱ぐな、駄目だ! その……」
服が透けていると耳元で囁かれて、セレスティナは真っ赤になった。
え? あ……濡れて……
ジャケットを羽織ったままシリウスを見上げてしまう。ほんのり頬が赤い? 少しは意識されているのかしら? だとしたら嬉しいけれど……
そっと身を寄せれば、シリウスの熱い眼差しと交差する。
口づけは軽いもの、そう思っていたけれど、違った。押し入った熱いものに舌を絡め取られて、とくんとセレスティナの心臓が跳ね上がる。
その動きは酷くまろやかで、労るように優しいけれど、逆にそのゆったりとした動きが、感覚の一つ一つを押し開くようで、唇から舌先から、じんわりと快感が広がっていく。熱い吐息がどうしたって漏れてしまう。
シリウス……
好きよ、あなたが好き……
力の抜けたセレスティナをシリウスが膝上に抱え上げる。
ごめんなさい、砂だらけね。
ついばむような口づけは、そのあと何度も続いて、優しい口づけが頬に首筋に落とされる。シリウスに抱きしめられて、夢心地だ。髪を撫でる感触も、愛しているという囁きも何もかもがくすぐったい。そう、夢心地だったから、余計に驚いた。
「熱いわね、焼けちゃうわ」
そんな女性の声が聞こえて。
はっとなって振り向けば、黒々とした海の波間に女の人影があった。月光に照らし出されているのは美麗なシルエット。露出した胸にドキリとなる。
裸で泳いでいたの?
セレスティナの目にはそんな風に見えた。濡れた長い髪が体に張り付いていて、豊満な乳房を惜しげもなく晒し、笑う唇は艶を含んで美しい。
二人っきりだと思っていたのに、女の人がいたなんて……人? いいえ、違う。下半身が魚……マーメイドだわ。
セレスティナは目を見張った。下半身は魚のそれだけれど、上半身は美しい女の人で、色気たっぷりに微笑んでいる。赤い舌がちろりと唇を舐めた。
まるで誘っているみたい……シリウスを……
どくんと心臓が波打った。違う、わよね?
シリウスがセレスティナを抱きかかえて歩き出せば、人魚が追いすがった。
「ね、待って、待って。ハンサムさん。私と一晩、どう? 後腐れのない関係よ? 人間はそういうの好きでしょう? 私は子種をもらえるし、あなたは欲望を満たせるわ? そちらの彼女には一晩だけだって、目を瞑ってもらって?」
いつの間にか魚のひれが足に変わって、そこに立っていたのは裸体の美女だ。色気たっぷりの……
しかもその仕草ときたら、淫魔も顔負けかもしれない。どこをどうすれば男の欲望をあおれるのか知り尽くしているかのよう。自分の乳房を掴んで指をしゃぶる仕草が、どきりとするほど色っぽい。女である自分でさえ、かあっと顔が熱くなってしまう。
「……近付くな、吐き気がする」
不安になってシリウスを見上げれば、彼は不機嫌そうにそう吐き捨てた。眼差しは酷く冷たくて、声には怒気すら含まれている。セレスティナは驚いてしまった。ふるいつきたくなるほどの美女である。これが駄目?
人の姿になった人魚も驚いたようだ。
「え、あの、待って……」
思わずといった感じで、シリウスに追いすがったけれど、シリウスの頭上からビッと光弾が発射され、彼女の足下がドンッと爆破四散した。人魚の足がピタリと止まる。
驚いたみたい。私もだけど……
セレスティナがふっと見上げれば、たくさんの防衛球に囲まれているのが分かった。監視の目を光らせた金属の球体が、あちこちに浮いている。シリウスが護衛として連れてきていたのね。暗くて気が付かなかったわ。
「失せろ」
シリウスは歩みを止めないまま、そう告げた。ふわりと白銀の髪が風に翻る。歩み去るシリウスの背を眺めていた人魚は、ふっと色っぽく笑った。
「あら、まぁ……あなた、愛されているのね? 羨ましいわ?」
そう告げ、諦めたのか投げキッスだ。身を翻し海へと戻っていく。
綺麗だけれど、魔物、なのよね。
セレスティナは歩み去る人魚の背を見送った。シルエットが再び人から人魚のそれへと変わる。海へ戻るのだろう。男の人魚はいないから、彼女達はこうして時折、人間の男を誘いに夜の浜辺に姿を現すという。
「君以外いらない」
シリウスはそう言って、額にキスしてくれた。翌日、セレスティナがシャーロットにその話をすると、彼女はしたり顔だ。
「そりゃ、当たり前よ」
朝食を口にしつつ、そう口にする。
「パパは他人との接触を極度に嫌がるの。触るのも触られるのも嫌なんだから、どんな美女だろうが、スタイル抜群だろうが、言い寄られようものなら鳥肌ものでしょ? 気色悪く感じると思うわ。ティナが特別なのよ」
「特別……」
「そそ、接触に嫌悪を感じないのは、家族以外ではティナだけだもん」
そ、そうなのね……
セレスティナは、つい浮かれてしまうも、ふと気が付く。
でも、あんな美女の裸を見ても何も感じないのなら、私は? 私の場合はどうなのかしら? そう言えば、一緒に寝ていても反応はない。キスはしてくれるけれど……
セレスティナは急に不安になった。
だ、大丈夫よね、十八才の大人になれば……大人に……本当に? だって、もう、十七才よ? それなりに反応があってもおかしくはない年で……
裸を見てがっかりとか……な、ないわよね?
まさか、吐き気がするとか……
嫌な思考がぐるぐる回ってしまう。事ここに至って不安が爆発し、セレスティナは大胆な行動に出た。テンパったとも言う。
「あのう、シリウス?」
就寝前、シリウスの前におずおずと進み出た。
「十七才の誕生日に頂いたランジェリーなんだけど、に、似合うかしら!」
決死の覚悟だった。少しは反応して欲しい、そんな思いである。シリウスを正視出来ず、セレスティナは目は瞑ったまま、はらりとネグリジェを脱ぎ捨てた。
◇◇◇
顔を真っ赤にさせ、スケスケの大人ランジェリーを着た十七才のセレスティナは、シリウスにとっては爆弾もいいところだった。
白く滑らかな肌を包むレースの下着は、見えそうで見えないチラリズムで、手の中に収まりきらないほどの柔らかな膨らみは、今にもブラからこぼれ落ちそうである。
シリウスはほぼ反射的に、傍のシーツをひっつかみ、セレスティナの体をぐるぐるまきにし、ベッドへ放り込んでいた。
間一髪間に合ったような、間に合っていないような……
どくどくとシリウスの心臓が脈打っている。
シリウスは自分の記憶力の良さをこの時ほど呪ったことはない。ばっちり覚えている! くっきりはっきり! どうすればいいんだ、これは! 忘れられない!
「ティナ、すまないが心臓に悪い……」
はーはーと、本当にシリウスの顔色が悪い。今にも窒息死しそうに見え、セレスティナは落ち込んだ。
「……吐き気が、する、とか?」
おずおずと悲しそうにそう言われ、シリウスは目を剥いた。くるんと小さく小さく丸まったセレスティナは、まるで寒さに震えるちっちゃな子猫のよう。
「は? 何故そうなる? あ……私の接触嫌悪のせいだな? そうなんだな? 違う違う違う! 君の場合はそんなことはない! 似合っている! 似合いすぎて心臓に悪いんだ! 頼む、理解してくれ! 君の場合はセクシー過ぎて辛い、ただそれだけだ!」
「セクシー過ぎて辛い……」
「そうだ、それ以外にない。君は綺麗だし可愛いし、セクシーだ、ああ、どう言えば伝わるんだ?」
「気持ち悪くは……」
「まったくない」
シリウスの返答に、セレスティナはほっとしたようで、よかったと呟くが、シリウスの心中は逆である。急ぎ水風呂と運動を往復し、落ち着いた頃合いにそっとセレスティナを背後から抱きしめても、自分が贈ったランジェリーの感触から、欲望が再燃するという有様で、さもありなん。
一緒に寝たいのに寝られない。抱きしめたいのに抱きしめられない。可愛いティナの寝顔がこの場合凶器である。こんなものプレゼントするんじゃなかったと、シリウスは心底後悔するも、後悔先に立たずであった。ちくしょう。
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