大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ

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 翌日。フェリシアは侯爵家の厨房にいた。

 長い銀髪はひとつに束ね、いつものデイドレスよりも質素なワンピースに、借りてきたエプロン姿で。

「お、お嬢様が本当にやるんですか……?」


 突然のことに明らかに困り果てている若き料理長のロックを前に気合十分だ。

「ええ。まずは簡単なものからでいいから、よろしくお願いします」

「うう~ん……そうですね……いや困ったなぁ。お嬢様、これまでに料理をされたことはありますか?」

 ロックからの問いかけに、フェリシアは首を横に振る。

「ありません」

「厨房に来るのも……」

「今回が初めてですわ」

 恐る恐る質問をしていたロックは、フェリシアの明朗回答に「ソウデスヨネ……」と呟いて頭を抱えている。

 深窓の令嬢がなにがどうして気合十分で厨房にいるのか。本当に混乱している。


「ロックさん! お嬢様にお料理の伝授をよろしくお願いしますね」

 フェリシアの後ろから、侍女のロージーが援護の言葉を飛ばす。

 ばちんと大袈裟にウインクをしたりして、可愛らしいことだ。

「ロージー、お前か……」

 その侍女を恨めしげに一瞥したあと、ロックはまたうんうんと唸り始めた。

 フェリシアの自分磨き計画が始まった。
 その道のプロに教えを乞う、第一弾は料理にした。

 アーサー殿下は甘いものに目がなく、フェリシアとのお茶会の際は毎回流行りの菓子がテーブルに並んでいる。

『フェリシア。これはマカロンという菓子だよ。食べた事はある? 摘んで、こう齧ってごらん』

『フェリシア。見てご覧。ショコラというのは溶けやすいらしい。ずっと手で持っていないようにね』

 新しい菓子が並ぶ度、アーサーはフェリシアに細かく菓子の説明をしてくれた。きっと彼は菓子に造詣が深いのだ。

(アーサー殿下がお好きなのでしたら、わたくしも菓子を作ってみたいです……!)

 色々と考えた結果、それならばと閃いたのだ。

 最終的にはあのレベルの菓子を作りたいとは思うけれど、何分料理なんてこれまでやったことがない。

 そんなフェリシアの申し出にロックが困っていることは分かっていても、こちらだってゆずれない闘いなのだ。
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