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こういう時に限って、という歯痒い状況は往々にしてやってくるものである。
騎馬隊の訓練用蹄鉄の発注が入ったと思ったら今度は手綱の金具も作れときたもんだ。
これでは休みなんて取ってる暇がない。
人手は相変わらずぎりぎりだというのに、仕事ばかりが増えている。
親方の腕は一級品だから、それが広まった事自体は良い事なんだけど…。
「おい、イーリィ。買い出し行ってこい。ついでに休憩も取っとけ」
「いいの?ありがとうございます!」
そんな風にそわそわしてたのを見兼ねたのか、親方がそんな風に声を掛けてくれた。
ぶっきらぼうだけど意外と細かいとこ見てくれてるのよね。
そういうとこがもっと伝わりやすければ人が辞めないのに。
この時刻だとなんとか巡回時間に間に合うかしら。
買い出しついでにカイルの顔見に行けるかも……ってわくわくしてたのに。
「えーホルスト君も付いて来るのぉ?」
「あからさまに嫌って態度を出すな。不満は内心で隠してにこにこしておくのが本物の商売人だぞ」
なぜか親方の息子さん、ホルスト君(10歳)も一緒に買い物することに。
これじゃあんまり自由にあちこち行けないわ…。
「今日買う物は大物があるからな。俺は荷物持ちだ」
「わーこれ以上ない人選」
小さい頃から親方の手伝いをしているので筋肉バキバキのホルスト君。
腕まくりしてるところから見えている筋肉がもう凄い。これぞ職人の腕。
前に納品する荷物が倒れてきた時にホルスト君が助けてくれたのには本当にびっくりした。
あの箱の中、大量の鍋が入ってて凄く重かったはずなのに普通に受け止めてるんだもん。伊達に親方の子供じゃないわ。
ちなみに親方は山から切って来た、本来馬車を使う重量の丸太を担いで帰って来るような人だ。
あたしももう少し重い物が持てるようになれば仕事の効率上がるのにな。
親方に倣って鍛えてみようかしら。
「ちょっとホルスト!そのおばさん誰よ!?」
買い物に行く店の順番をホルスト君と決めている最中、誰かが突っかかって来た。
おばさんって…あたしまだ18なのに…。
ホルスト君に詰め寄ってきた子は大体ホルスト君と同じ年齢くらいの女の子で、こちらを睨みつけている。なぜかあたしを敵視しているようだ。
「うちで働いてるイーリィだ。失礼はよせ」
「ああ、なんだ。私てっきりホルストの愛人かと思っちゃったわ」
「愛人!?あたしのこと!?」
「私は心が広いから浮気の一つ二つくらい許してあげるけど、年上過ぎるのは駄目だからね!テイサイが悪いじゃない!」
「お前に許される覚えはないぞ。それに俺は浮気を許さない女の方が好きだ。俺も浮気されたら嫌だからな」
なにやら痴話喧嘩のようなものを始める二人。
これはあたしは口挟まない方がいいやつかな。
しっかり自分の意見を持って結婚を視野に入れてお付き合いしてるのね。最近の10歳って大人だわ。
それに比べて、あたしは――。
好きだからって気持ちだけで追っかけていたけど、あのカイルと結婚なんて想像できない。
いや、結婚の話なんてされたら逃げられるんじゃないかしら。
万が一結婚できたとして、夫婦生活はどうなるの?
カイルのあの態度がずっと続く生活……。どうしよう、とっても暗い気分になる。
「だから、お前とは結婚しないって言ってるだろ。それに付き合ってもいない」
ホルスト君に手を握られ、思考が明後日に飛んでいたあたしの意識が引き戻される。
え?二人恋人じゃ無いの?
「なんで?私かわいいじゃない。年齢だってホルストと釣り合ってるし、何が駄目なの!?」
「お前に駄目な部分があるとは言ってない。結婚は相手の人生も背負うことだって親父から教えられてんだ。自分に釣り合うかどうかってだけで、誰かの人生背負えないぞ俺は」
親方素敵…。とか感動してたら、あたしの手を掴んでるホルスト君の手が汗ばんできた。
ピンチなのね。
そうよね、強引に迫られて来たら困っちゃうわよね。
カイルもそうだったのかしら。
ああダメ。なんでもカイルとあたしの事に繋げてしまう。
「ほらもう、二人ともそのくらいにしなさい。ここじゃ他の人の迷惑になるから」
「うるさい!他人のおばさんは黙ってて!」
「あら、他人のことを考えられない失礼なおこちゃまが良いお嫁さんになれるの?」
「お、お、お、おこちゃま!?」
「お嫁さんになるって、近所付き合いとか旦那様の仕事先の人と付き合いとか考えなきゃ駄目なのよ?今のあなた結婚相手として素晴らしいとは言えないんじゃなあい?」
肩を怒らせて震え出す女の子。
できるだけ冷静に言い含めたつもりだけど、ちょっと棘が入ってしまったかもしれない。
だって二度もおばさんて言った。
道の往来だから女の子の大声に人も集まって来ちゃったし、なんとか切り上げないと。
ホルスト君に目線で合図を送り、人混みの少ない方へ徐々に後退する。
――と、人混の間から巡回中の騎士たちの姿を見つけてしまった。
その中にカイルもいる。
ちょっと遠いけどあたしにはわかる。カイルの事は見間違えない。
けど、でも。
さっきにホルスト君と女の子のやり取りでちょっと考えさせられてしまった。
今は、顔見たくないかも。
見つからないうちに逃げよう。
「今買い物中だから、別の機会に話したらいいと思うわ」
「親父待たすと怒られるからな。あんまり仕事中に話しかけられたくない」
あたしとホルスト君は言うだけ言って退散した。
カイルと目が合った気がしたけど、距離的に気のせいよね。
騎馬隊の訓練用蹄鉄の発注が入ったと思ったら今度は手綱の金具も作れときたもんだ。
これでは休みなんて取ってる暇がない。
人手は相変わらずぎりぎりだというのに、仕事ばかりが増えている。
親方の腕は一級品だから、それが広まった事自体は良い事なんだけど…。
「おい、イーリィ。買い出し行ってこい。ついでに休憩も取っとけ」
「いいの?ありがとうございます!」
そんな風にそわそわしてたのを見兼ねたのか、親方がそんな風に声を掛けてくれた。
ぶっきらぼうだけど意外と細かいとこ見てくれてるのよね。
そういうとこがもっと伝わりやすければ人が辞めないのに。
この時刻だとなんとか巡回時間に間に合うかしら。
買い出しついでにカイルの顔見に行けるかも……ってわくわくしてたのに。
「えーホルスト君も付いて来るのぉ?」
「あからさまに嫌って態度を出すな。不満は内心で隠してにこにこしておくのが本物の商売人だぞ」
なぜか親方の息子さん、ホルスト君(10歳)も一緒に買い物することに。
これじゃあんまり自由にあちこち行けないわ…。
「今日買う物は大物があるからな。俺は荷物持ちだ」
「わーこれ以上ない人選」
小さい頃から親方の手伝いをしているので筋肉バキバキのホルスト君。
腕まくりしてるところから見えている筋肉がもう凄い。これぞ職人の腕。
前に納品する荷物が倒れてきた時にホルスト君が助けてくれたのには本当にびっくりした。
あの箱の中、大量の鍋が入ってて凄く重かったはずなのに普通に受け止めてるんだもん。伊達に親方の子供じゃないわ。
ちなみに親方は山から切って来た、本来馬車を使う重量の丸太を担いで帰って来るような人だ。
あたしももう少し重い物が持てるようになれば仕事の効率上がるのにな。
親方に倣って鍛えてみようかしら。
「ちょっとホルスト!そのおばさん誰よ!?」
買い物に行く店の順番をホルスト君と決めている最中、誰かが突っかかって来た。
おばさんって…あたしまだ18なのに…。
ホルスト君に詰め寄ってきた子は大体ホルスト君と同じ年齢くらいの女の子で、こちらを睨みつけている。なぜかあたしを敵視しているようだ。
「うちで働いてるイーリィだ。失礼はよせ」
「ああ、なんだ。私てっきりホルストの愛人かと思っちゃったわ」
「愛人!?あたしのこと!?」
「私は心が広いから浮気の一つ二つくらい許してあげるけど、年上過ぎるのは駄目だからね!テイサイが悪いじゃない!」
「お前に許される覚えはないぞ。それに俺は浮気を許さない女の方が好きだ。俺も浮気されたら嫌だからな」
なにやら痴話喧嘩のようなものを始める二人。
これはあたしは口挟まない方がいいやつかな。
しっかり自分の意見を持って結婚を視野に入れてお付き合いしてるのね。最近の10歳って大人だわ。
それに比べて、あたしは――。
好きだからって気持ちだけで追っかけていたけど、あのカイルと結婚なんて想像できない。
いや、結婚の話なんてされたら逃げられるんじゃないかしら。
万が一結婚できたとして、夫婦生活はどうなるの?
カイルのあの態度がずっと続く生活……。どうしよう、とっても暗い気分になる。
「だから、お前とは結婚しないって言ってるだろ。それに付き合ってもいない」
ホルスト君に手を握られ、思考が明後日に飛んでいたあたしの意識が引き戻される。
え?二人恋人じゃ無いの?
「なんで?私かわいいじゃない。年齢だってホルストと釣り合ってるし、何が駄目なの!?」
「お前に駄目な部分があるとは言ってない。結婚は相手の人生も背負うことだって親父から教えられてんだ。自分に釣り合うかどうかってだけで、誰かの人生背負えないぞ俺は」
親方素敵…。とか感動してたら、あたしの手を掴んでるホルスト君の手が汗ばんできた。
ピンチなのね。
そうよね、強引に迫られて来たら困っちゃうわよね。
カイルもそうだったのかしら。
ああダメ。なんでもカイルとあたしの事に繋げてしまう。
「ほらもう、二人ともそのくらいにしなさい。ここじゃ他の人の迷惑になるから」
「うるさい!他人のおばさんは黙ってて!」
「あら、他人のことを考えられない失礼なおこちゃまが良いお嫁さんになれるの?」
「お、お、お、おこちゃま!?」
「お嫁さんになるって、近所付き合いとか旦那様の仕事先の人と付き合いとか考えなきゃ駄目なのよ?今のあなた結婚相手として素晴らしいとは言えないんじゃなあい?」
肩を怒らせて震え出す女の子。
できるだけ冷静に言い含めたつもりだけど、ちょっと棘が入ってしまったかもしれない。
だって二度もおばさんて言った。
道の往来だから女の子の大声に人も集まって来ちゃったし、なんとか切り上げないと。
ホルスト君に目線で合図を送り、人混みの少ない方へ徐々に後退する。
――と、人混の間から巡回中の騎士たちの姿を見つけてしまった。
その中にカイルもいる。
ちょっと遠いけどあたしにはわかる。カイルの事は見間違えない。
けど、でも。
さっきにホルスト君と女の子のやり取りでちょっと考えさせられてしまった。
今は、顔見たくないかも。
見つからないうちに逃げよう。
「今買い物中だから、別の機会に話したらいいと思うわ」
「親父待たすと怒られるからな。あんまり仕事中に話しかけられたくない」
あたしとホルスト君は言うだけ言って退散した。
カイルと目が合った気がしたけど、距離的に気のせいよね。
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