夏服と雨と君の席

神楽耶 夏輝

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疑心暗鬼

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 ゆらは上体を起こした。
 頭と首に激しい鈍痛をおぼえ、思わず顔を歪める。
「あっ……いた……」
 尋常じゃない痛みがゆらに何があったかを教える。覚えていないとはいえ、車にはねられたのだ。これまで経験した事のない苦痛がゆらを襲う。

「大丈夫? 無理するな」
「うん、大丈夫」
 枕を背もたれにして、重い体をどうにか持ち上げて態勢を整えた。

 千秋とシンジが……。
 信じられない気持ち半分だが、昨日からのシンジの態度を考えると合点がいく気がした。なぜなら、千秋はずっとシンジの事が好きなのだから。
 千秋がシンジを奪うために、何か嘘を吹き込んだのだろうか。それをシンジは信じてしまった?
 ゆらは、ベッドカバーの端をぎゅっと握り、下唇を噛んだ。
 中学に上がるまでは、千秋とは親友と呼べるほど仲がよかった。バレンタインには手作りのチョコを送り合ったり、お揃いの服を一緒に買いに行って、仲良しコーデだってよくやっていた。
 遠足の時は一緒にお弁当を食べて、修学旅行の時は同じ部屋でこっそり好きな人を教え合ったり……。
 今でも、ゆらは千秋に対してネガティブな感情など持ってはいなかったのだ。できれば仲良くしたいと思っていたし、シンジとの事を祝福してほしかった。

「そんな顔するなよ」
 蓮斗の声がゆらに顔を上げさせた。
 ズキンとこめかみに痛みが襲う。

「ごめん。まださっき目覚めたばかりで、なんだか頭がぼーっとしちゃって」
 こめかみを抑えるゆらの背中を、蓮斗は優しくさすってくれた。

「悪かった。突然押しかけて。まだ辛いよな。俺、帰るわ。何かあったらラインして」
 蓮斗は制服のポケットに手を突っ込んで、ガサガサと何やら取り出す。
 ゆらの前に差し出したのは、さくらんぼ味のグミだった。
 自然と頬が緩む。
「嬉しい。それ大好き」
「知ってる」
 蓮斗は白い歯を見せて笑った後、すぐに沈んだ顔をした。
「こんな事ぐらいしかできなくてごめん」
「そんな事ない。来てくれて嬉しかったよ」
「また来るよ」
 そう言って、ベッドサイドの台にグミの袋を置いて、バッグを肩にかけ背を向けた。
 ドアの所で、名残惜しそうに振り返り、手を振って帰って行った。

 それを見届けて、ゆらは再びベッドに横になる。
 体中が痛すぎて、胸が苦しすぎる。
 真実を知りたい。シンジはどうしてしまったの?
 動けない体がもどかしくて、ただただ涙があふれて来る。

 蓮斗の気持ちはもちろん嬉しかった。
 それなのに、ぽっかりと心に空いた穴は、蓮斗では絶対に埋まらない。
 心も体も脳も、シンジを求めていた。
 逢いたくて、声が聴きたくて、傍にいたい。誰よりも一番近くでシンジを見ていたい。
 誰にも渡したくない。
 そんな事を心の中で叫んでいたら涙があふれてきて、更にこめかみを締め付けた。
 大粒の涙がじゅくじゅくと枕を濡らす。
 込み上げる嗚咽を飲み込むたびに、頭がズキズキと痛み、首の後ろが熱を持った。

 もしもこのままシンジと戻らないのなら、学校なんてもう行きたくない。
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