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第2章 裏切りという名の誠実

15 ダメですよ!

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「それで、仮にお前が俺を捕らえようとしているなら、俺は抵抗するが、どうする?」立ち上がった私と向き合いながら彼はその黒い瞳に少しだけ優しさを秘め、そう提案した。しかし、私はそんなことは望んでいないから。だから、少し話を聞こうと思った。
「そんなことは無いですけど、でも、なんでこうなったのかは教えてくれますか?」すると、予想外の反応が来た。
「分かった。じゃあ、どこから知りたい?」そう言いながら彼は海岸にある流木に歩いて行き、そこに腰掛けた。
「那由他。座ろう?」私は少し小走りでそこに向かい、横に座った。
 私は口を開く。
「君が本当にやったんですか?」
「するわけないだろ。俺にそんな大層なこと出来ねぇって」そして彼は立ち上がる。星が出ている。私も立ち上がって、隣に立つが、彼は少しだけ声のトーンを落として
「それで、もう夜だ。お前はもう戻れ。ここに居るのを見られたらお前もおわれる羽目になる」そうして彼はまた防風林の方に歩いて行く。でも、これを許してしまえば彼は更に強い監視下で追いかけ回される。ここから逃げたところで名誉的な問題がある。それに、私は(彼が何というかは知らないが)幼馴染なのだ。と言った要因で、気付かぬうちに声をかけていた。
「行かせませんよ!」それでも止まらずに彼は歩いて行く。そして、私はその手を掴んでいた。彼が振り返って私を見る。
「那由他。離せ」
「いいえ。離しません。ツタで縛り上げても私は君と一緒に行動します!」私は、何を言っているのだろう。これで私に処罰がくだれば親を悲しませてしまうだろうし、最悪、退学になるかも知れない。それでも、私はそんな言葉を口にしていた。彼には響かず、
「なら、縛り上げてみろ。俺は抵抗する」知らぬ間に手を引き抜かれ、彼と私には五メートルほどの距離があった。
「ほら。かかってこい」森林という植物の多い地では私の能力はかなり強化される。無から植物を生み出すわけではないからだ。少し細工すれば良いから。地面から木の根を隆起させ、彼の腕に巻き付ける。
「ふむ。なかなかだな。だが」それは何故か彼の腕に吸い込まれた。
「えっ?」私は目を見張った。だって、そんなことが出来るなんて知らなかったから。
「だが、俺には効かない」すると、彼の突き出した掌に植物能力のエネルギーが収束しだした。そして、それが解き放たれ、飛んでくる。理解が出来ないが、避ける。
「那由他。俺はお前を傷つけたくない。だから、頼むから、帰ってくれ」必死に懇願するかのような声をかけられる。
「絶対に嫌です!」すると、彼は何かを決意したような眼で
「じゃあ、すまないな。那由他」彼の気配が一瞬変わる。次の瞬間には私がツタに縛られていた。何が起こった?私の能力と色が同じなので取り込むことが出来るので抜け出すのは些細な問題だった。しかし、それにしても相当なエネルギー量だ。私の限界でもここまでは出来ない。しかし、抜け出せた時には既に彼はいなくなっていた。
「三郎!」柄にもなくここまで声を出してしまった。それに、三郎と呼ぶのはいつぶりだっただろうか。そして、私は幼馴染の勘を信じて走り出し、思ったよりもあっさりと見つけられるのだった。
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