66 / 78
22話(1)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】
しおりを挟む
ーーーーーーーーーーー
■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』
-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
ーーーーーーーーーーー
霧の中に、ぼやっと人の形の影が浮かび上がった。その頭と思しきところからは、二本の長い角が生えている。
「!?」
霧を散らして中から現れた姿を見て、その場にいた全員が息を飲んだ。
耳まで大きく裂けた口元。のぞく鋭い牙。飛び出んばかりに、剥き出しになった金の眼。
何度も見たことがある。
これは般若──女の鬼の面だ。
〽 あら恨めしや
今は打たで叶ひ候ふまじ
般若面を被った花鬼は長い撞木杖(しゅもくづえ)を手に、すり足で部屋の中に入ってきた。
「どこだ。どこにいる」
恨みのこもった低い声が、部屋に反響する。花鬼が通る度、周りの几帳がゆらゆらと揺らめいた。
藤若たちは几帳の後ろで、じっと息を殺していた。どうやら花鬼は、藤若たちの存在には気づいていないらしい。探し回るように、部屋の中をうろうろと徘徊している。
「あれが花鬼の真の姿……? さっきの女面とはどう違うの?」
隣のセイに小声で聞く。
「さっきまでの女面は、あくまでも取り憑かれた人間側の意志で動いていたようなもの。でも今は、花鬼が完全にその身体を乗っ取った状態で──」
セイが口を閉じる。
花鬼の足音が、すぐ近くから聞こえてきたのだ。白い絹ごしに、長い角を生やした人影が通り過ぎるのが見えた。
(行ったか……?)
足音が遠くなったのを確認してから、藤若はそっと外の様子を窺った。
「──そこかぁっ!」
少し離れたところにいた花鬼が、くわっと振り返った。杖を掲げ、真っ直ぐに藤若たちの方に向かってくる。
(しまった! 見つかったっ……!)
だが予想に反して、花鬼は几帳の前を通り過ぎると、迷うことなく部屋の中央に落ちていた藤若の着物に向かって行った。
〽 思ひ知らずや
思ひ知れ
恨めしの心や あら恨めしの心や
バシッバシッと花鬼の杖が、白拍子の着物を打ち据える。
「何して……──ぐっ!」
突然、身体を襲った痛みに、藤若はがくりと膝をつく。
几帳の外では、花鬼が何度も何度も、着物を打ち据えていた。その度、藤若の身体に強烈な痛みが走る。まるで直接打ち据えられているかのように。
「ゼアッ!? どうしたっ!?」
倒れかけた藤若の身体を、義満が支える。
「しっかりしろ! どうしたんだ!」
「……っ、たぶん、あの、着物が……」
「……着物? あれか!」
義満は太刀を抜くと、迷わず几帳から飛び出した。
「そこをどけっ……!」
義満が着物を打ち据える花鬼の背後から、白刃を薙いだ。だが花鬼は背中に目があるかのように両足を揃えて跳躍すると、太刀を避ける。
「さすが鬼だな! 芸人よりもすばしっこい!」
義満はふりきった太刀筋を正すと、今度は正面から太刀を振りかざした。花鬼は撞木杖でそれを受け止める。
両者の視線が、交わる。
「朝日! お前は朝日だろう? 一体、なぜこんなことをする! なぜ俺ではなく、ゼアを狙う!?」
「なぜ、だと……?」
般若の面から、くぐもった低い声が虚ろに響いた。途端、花鬼の身体からぶわりと瘴気の渦が上がる。
「……っ」
義満は反射的に、距離をとった。体勢を低くして、太刀を構える。
「──憎い」
対峙した花鬼の身体からは、黒い瘴気が燃え上がる炎のようにメラメラと立ち上っていた。
「憎い憎い憎い憎い! あの女が憎いっ! あの女を出せっ! 貴方の心を奪おうとしている、あの冷徹で非道な女をっ!」
魂の奥底から、絞りだしたような金切り声。
花鬼の目は、真っ直ぐに義満に向けられていた。だがその目は義満を見ているようで、見ていなかった。まるで義満を通して、違う他の誰かを見ているかのように。
(あれは、花鬼自身の叫びだ……あの人のじゃない……)
それでも藤若はじっとしていられなかった。いまだ軋む身体を起こして、几帳から這い出る。
■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』
-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
ーーーーーーーーーーー
霧の中に、ぼやっと人の形の影が浮かび上がった。その頭と思しきところからは、二本の長い角が生えている。
「!?」
霧を散らして中から現れた姿を見て、その場にいた全員が息を飲んだ。
耳まで大きく裂けた口元。のぞく鋭い牙。飛び出んばかりに、剥き出しになった金の眼。
何度も見たことがある。
これは般若──女の鬼の面だ。
〽 あら恨めしや
今は打たで叶ひ候ふまじ
般若面を被った花鬼は長い撞木杖(しゅもくづえ)を手に、すり足で部屋の中に入ってきた。
「どこだ。どこにいる」
恨みのこもった低い声が、部屋に反響する。花鬼が通る度、周りの几帳がゆらゆらと揺らめいた。
藤若たちは几帳の後ろで、じっと息を殺していた。どうやら花鬼は、藤若たちの存在には気づいていないらしい。探し回るように、部屋の中をうろうろと徘徊している。
「あれが花鬼の真の姿……? さっきの女面とはどう違うの?」
隣のセイに小声で聞く。
「さっきまでの女面は、あくまでも取り憑かれた人間側の意志で動いていたようなもの。でも今は、花鬼が完全にその身体を乗っ取った状態で──」
セイが口を閉じる。
花鬼の足音が、すぐ近くから聞こえてきたのだ。白い絹ごしに、長い角を生やした人影が通り過ぎるのが見えた。
(行ったか……?)
足音が遠くなったのを確認してから、藤若はそっと外の様子を窺った。
「──そこかぁっ!」
少し離れたところにいた花鬼が、くわっと振り返った。杖を掲げ、真っ直ぐに藤若たちの方に向かってくる。
(しまった! 見つかったっ……!)
だが予想に反して、花鬼は几帳の前を通り過ぎると、迷うことなく部屋の中央に落ちていた藤若の着物に向かって行った。
〽 思ひ知らずや
思ひ知れ
恨めしの心や あら恨めしの心や
バシッバシッと花鬼の杖が、白拍子の着物を打ち据える。
「何して……──ぐっ!」
突然、身体を襲った痛みに、藤若はがくりと膝をつく。
几帳の外では、花鬼が何度も何度も、着物を打ち据えていた。その度、藤若の身体に強烈な痛みが走る。まるで直接打ち据えられているかのように。
「ゼアッ!? どうしたっ!?」
倒れかけた藤若の身体を、義満が支える。
「しっかりしろ! どうしたんだ!」
「……っ、たぶん、あの、着物が……」
「……着物? あれか!」
義満は太刀を抜くと、迷わず几帳から飛び出した。
「そこをどけっ……!」
義満が着物を打ち据える花鬼の背後から、白刃を薙いだ。だが花鬼は背中に目があるかのように両足を揃えて跳躍すると、太刀を避ける。
「さすが鬼だな! 芸人よりもすばしっこい!」
義満はふりきった太刀筋を正すと、今度は正面から太刀を振りかざした。花鬼は撞木杖でそれを受け止める。
両者の視線が、交わる。
「朝日! お前は朝日だろう? 一体、なぜこんなことをする! なぜ俺ではなく、ゼアを狙う!?」
「なぜ、だと……?」
般若の面から、くぐもった低い声が虚ろに響いた。途端、花鬼の身体からぶわりと瘴気の渦が上がる。
「……っ」
義満は反射的に、距離をとった。体勢を低くして、太刀を構える。
「──憎い」
対峙した花鬼の身体からは、黒い瘴気が燃え上がる炎のようにメラメラと立ち上っていた。
「憎い憎い憎い憎い! あの女が憎いっ! あの女を出せっ! 貴方の心を奪おうとしている、あの冷徹で非道な女をっ!」
魂の奥底から、絞りだしたような金切り声。
花鬼の目は、真っ直ぐに義満に向けられていた。だがその目は義満を見ているようで、見ていなかった。まるで義満を通して、違う他の誰かを見ているかのように。
(あれは、花鬼自身の叫びだ……あの人のじゃない……)
それでも藤若はじっとしていられなかった。いまだ軋む身体を起こして、几帳から這い出る。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
