【あらすじ動画あり / 室町和風歴史ファンタジー】『花鬼花伝~世阿弥、花の都で鬼退治!?~』

郁嵐(いくらん)

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22話(3)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】

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■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI

■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』

-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU    
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花鬼の身体が、ぶるりと大きく震えた。

「それでも止められない! 寝ても覚めても煩悶するのは、貴方のことばかり! 私よりも七つ下の貴方にこんなに執着するなんて、何と浅ましい……! これでは駄目だと何度も伊勢へ下ろうと思った。でも離れることはできなかった……」

狂気の金を宿した般若の瞳が、静かに義満を射た。

「どんなに強く想っても、貴方の心は離れていくばかり。子を宿したあの女のところへ。それを思うと夜も眠れず、眠ったかと思えば、夢の中であの女を打ち据えている。そのうち心と身体が離れていっているようになり、何が夢で現(うつつ)なのかすらわからなくなってしまったっ……!」

花鬼は喉を詰まらせた。漂う瘴気が、その身体を抱き締めるように取り巻く。

「そして私は生き霊となってあの女を呪い殺した! これも全て、私が貴方に恋をしてしまった罪なのだ。何て浅ましい……! 何て恥ずかしいのだ……!」

花鬼は耐えきれなくなったように、膝をつき顔を覆った。面の裂けた口元から、嗚咽がもれる。

愛おしい。狂おしい。

浅ましい。憎らしい。

殺したい。

でも、人間でいたい。

──人間の心と、鬼の心。

その狭間(はざま)で泣き叫ぶ花鬼の姿は、確かに怖かった。
だが、同時に哀れでもあった。

(……何で気がつかなかったんだろう……僕は、この人を知ってるはずだ……)

藤若は自分でも知らないうちにふらふらと立ち上がって、花鬼に近づいて行った。
先ほど打ち据えられた痛みで、身体中が悲鳴を上げる。それでも、足は止まらなかった。

「貴方は──」
歩きながら、真っ直ぐに花鬼を見据えた。

「貴方は……六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)、ですね?」
「六条御息所?」

義満が花鬼に近づこうとする藤若を腕でとめた。

「『源氏物語』の? 源氏の正妻である葵上(あおいのうえ)を呪殺した、あの?」
藤若はこくりと頷き、花鬼に視線を戻した。

「もっと早くに気づくべきだったんだ。芥子(けし)の花の匂い、破れ車。そして、この屋敷」
藤若はぐるりと周りを眺め見た。

「てっきり僕は最初、貴方がこの屋敷に執着するのは、ここが貴方の宿主である朝日殿の屋敷だからだと思っていました。でも、違った。この屋敷の近くには河原(かわら)院がある。つまり、ここは六条。『源氏物語』の中で、貴方の屋敷と後の源氏の屋敷があった場所ですね」

ぴくりと花鬼が顔を上げた。金泥(きんでい)の瞳で藤若を見上げる。

「そして、あの破れ車──」
「なるほど、車争いか」

義満が言葉を継いだ。

──六条御息所。

光源氏の恋人の一人であった彼女は、源氏よりも年長で、身分も高く教養もあり、かつ美貌も兼ね備えている完璧な女性であった。
だがそれゆえに自尊心が高く、源氏の正妻という栄光を得ている葵上を日頃から心憎く思っていた。

ある時、御息所が気分をまぎらわそうと加茂(かも)の祭りに出掛けた際、彼女の忍び車が、祭りの場所争いで葵上の車に押しのけられ、半壊させられるという事件が起った。

それをきっかけとしてさらに恨みを深くした御息所は、夜な夜な生き霊となり葵上の枕元で彼女を苦しめる。

そのことを、初めはただの夢だと思っていた御息所だが、自分の着物に葵上の屋敷で焚かれている退魔の芥子の香りが染みついていることに気づき、自分のしていることの恐ろしさにおののく。

そして一度は源氏のもとを去り伊勢へ下ろうと決心した。しかし恋慕の情がそれを邪魔し、結局は京に留まる。

離れることもできない。かと言って、嫉妬の心を抑えることもできない。
度重なる懊悩のなかで、最後まで苦しんだ彼女は、ついに本物の鬼となり葵上を呪殺してしまう。

(……高橋殿も、同じ気持ちだったのだろうか……)

信じたくはない。
しかし御息所の花鬼が彼女についたということは、やはりそうゆうことなのだろう。

くっと唇を噛む。

もし、本当にそうなら、きっと彼女は苦しんだに違いない。
いや、苦しまなかったはずがない。
あんなに優しくて、頭の良い人が。

自分にあんなに優しくしてくれたのも、もしかしたら、贖罪の気持ちからなのかもしれない。高橋殿は鬼の気持ちが深くなればなるほど、それを抑え込もうと人間の気持ちを深くしていったのだ。

それを、どうして責めることができるだろうか。
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