ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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素直になりたくて(9)

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「それじゃルパート先輩、これから俺には丁寧語無しの気楽な話し方にして下さいね!」

 早速マシューが距離を詰めてきた。ルパートは苦笑しつつも彼の申し出を受け入れる態度を取った。

「中隊長が俺に対して敬語を消して下さるのなら」
「えっ、俺もタメぐちにしていいんですか?」
「ええ」
「……うわ、どうしようマジで嬉しい。本気で俺、ルパート先輩と仲良くなりたいって思ってたから……」

 さっきまでの積極的態度は何処へやら、マシューは急にもじもじ照れ出した。隠れ陰キャらしいからな。同僚と仲違いして騎士団を去ったルパートに、自分と同じ闇を感じているのかもしれない。

 場がなごんだタイミングで給仕が登場し、私とルパートに紅茶と茶菓子を、聖騎士達にはワインと前菜が運ばれた。
 ルービックが赤ワインのそそがれたグラスを手に取った。

「乾杯といくか」

 全員がグラスやティーカップを軽く上に掲げた。

「再会を祝して! そしてルパートとロックウィーナ、交際おめでとう!」
「!」

 動揺して手がブレた私とルパートは紅茶をこぼしそうになった。

「……師団長、あのですね、訂正したいことが」
「ルパート、語調が固ーい。そんな態度は寂しーい。マシューだけではなく私にもタメぐちで話せよ。昔はそうだったろ?」

 駄々をこねたイケオジに軽く引いたが、二人はそこまでフランクな仲だったのかと私は驚いた。それだったらルービック、八年ぶりに再会した弟分に敬語で距離を取られたら悲しくなるやね。
 はあぁ、と息を吐いたルパートはついに降参した模様だ。

「解ったよ、ルービックさん。これからは前のようにさせてもらう」
「おう」

 ルービックが満面の笑みとなった。そしてルパートは私をチラリと窺ってから聖騎士の誤解を正した。

「祝福してもらって悪いが、俺とウィーはまだ正式に付き合ってないんだわ」
「えっ」
「そうなのか?」
「うん。今日はまだお試しデート。他の男達を出し抜く形で決行したから、冒険者ギルドへ行った際は黙っててもらいたい」

 みんなにバレたらどうなるか。激昂した魔王と勇者によって冒険者ギルドが倒壊するかもしれない。忍者に至ってはルパートを闇討ちに来るかも。一番怖いのは普段穏やかな元僧侶だったりするが。

「ええ~先ぱーい、付き合ってない女のコを路地裏に引っ張り込んで、無理矢理ちゅーしようとしたの~?」

 マシューに的確に突っ込まれて、ルパートは「うっ」と声を漏らした。

「あれは……その……」
「その、とは? どうしてあんな行動に出ちゃったのかなー?」

 ニヤニヤしながらマシューが追及した。絶対面白がっている。

「……チャンスだったから……」
「少ないチャンスをモノにしようとしたのか、流石だなルパート」

 弟属性大好きなルービックが肯定したが、常識人エドガーは苦言を呈した。

「いや付き合っていない相手にキスは早いだろう。してもいいかロックウィーナに事前確認をしたのか?」
「それは……」

 ルパートがまた私を見て、聖騎士達の視線も私にそそがれた。ひぃ。

「……確認、してないな。不意打ちだった」

 自嘲したルパートへ聖騎士達のしっせきが飛んだ。

「駄目じゃないか」
「おまけに街中だもんね。知り合いに見られたら噂になっちゃうよ?」
「ううむ……ロックウィーナは純情っぽいからな……、もう少し時間をかけてあげるべきだったな」

 ルパートは言い訳せずに聞いていた。このままでは彼が悪者にされてしまう。

「あのっ」

 私は裏返った声で発言した。

「先輩、悪くないです。確認は無かったけど……その、私……キスを受け入れるつもりだったので……」

 語尾が消え入りそうに小さくなったが何とか言えた。今日のルパートは本音で私と接してくれた。私だって素直にならなくちゃ。
 また全員の視線が私に集中した。

「ウィー……?」

 ルパートが信じられないといった表情をしていた。うわあぁん、恥ずかしいからこっち見んな。

「ええと、ロックウィーナ、受け入れるって……、キミはルパート先輩に恋をしているの……?」

 遠慮がちに確認してきたマシューへ何と答えたらいいのだろう。
 私はルパートに恋をしている? 確かにかれていると思う。彼の良い所をたくさん知って見直した。でも六年前のように真っ直ぐに突き進む情熱はまだ無い気がする。
 ……いいや、今の気持ちをそのまま言おう。

「恋かどうかは判りません……。でも先輩とのデートは本当に楽しくて、キスをされそうになった時も……嫌じゃなかったんです……」
「ロックウィーナ、キミは……」
「はいマシュー、そこまでだ。女性に立ち入った質問をするべきではない。男だけに囲まれてあれこれ聞かれるのは怖いだろうしな」

 エドガーが軽く両手を広げて制止してくれた。

「……あっ、そうだよね、ごめんロックウィーナ」

 助かった。羞恥心MAXで口から魂が抜けかけていた。マリナ、あなたが好きになったエドガーさんは滅茶苦茶イイ人だよ。迷わずアタックしなさい。
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