ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
201 / 291

残酷な事実(7)

しおりを挟む
 言われてもルービックは難しい顔をしたままだった。

「信じたい。だが……私達がそう思うだけで解決するとはとても思えない。世界は大きく、私達はあまりにも矮小わいしょうだ」

 確かに、会議室につどった十数名で世界のほころびを止めるのは無謀な気がした。

「俺達だけじゃない。ラグゼリア王国には大勢の国民が居るだろうが」

 アルクナイトの言葉にマシューが噛み付いた。

「そりゃそうですけど魔王殿、国民にこの世界が小説の舞台だったなんて説明できませんよ? 心で対抗するどころか精神崩壊を引き起こされます。平常心を保つ訓練を受けている俺達でさえ、事実を知った今このザマなんですからね」
「国民に真実を伝える必要は無い」
「え、じゃあどうしたら……」
「アンドラや汚職議員といった国の憂い事を早期解決せよ。国民を安心させ、彼らに今後も国が安泰であると……、ずっと存続するものだと信じさせるんだ。その信じる心が世界を安定させるだろう」
「え……あ、もしかして、国の内部が乱れているから人喰い霧が発生しちゃったんですか!?」

 マシューの意見に私達はハッとした。

「俺はそう考えている。突拍子も無い話だと思われるかもしれないが」
「いや……俺は魔王様の考えを支持します」

 メンバーの中では年若いマキアが、ハッキリと自分の考えを口にした。

「ループ中の俺達はずっとラグゼリア王国を舞台に、芝居をしていたような感じだったのでは? でも今は監督である神様がどっかに行っちゃって、おまけに台本も無いときた。舞台の上は大混乱ですよ。このままじゃ演目を続けられません。世界もきっとこんな感じなんです」

 芝居好きの彼らしいたとえだった。

「ああ……なるほど、そう考えると理解しやすいな。観客が怒って席を立つ前に手を打たないと」

 ユーリが後押しして、他の皆も納得した。

「世界の治安を回復させることが、舞台を継続させる手段となるのか」
「てことは観客は国民だな」
「現在しっちゃかめっちゃかな舞台に、観客が大ブーイングをしている最中か」
「はい、きっとそうなんです! アドリブやアクロバティックな動作を駆使してピンチを切り抜けましょう。あの天才役者レンフォードみたいに!!」

 世界を何とかする……となると大事過ぎて足がすくむが、監督不在でバラバラな舞台を私達で立て直そう……なら何とかなりそうだ。考え方一つでずいぶんと心が軽くなった。
 アルクナイトがまとめた。

「聖騎士達よ任務に励め。今後は事情を知り、国の中枢で働くおまえ達騎士団が世界の舵を握ることになる。もちろん俺も部下と共に動くがな」

 ギルドマスターが挙手した。

「冒険者ギルドも秩序回復に積極的に動きます。汚職議員については手出しできませんので、当面は隠れているアンドラ構成員の摘発に焦点を絞ります。いいよな、みんな?」
「やるさ。何もしないで大人しく霧に喰われてたまるか」
「僕も異論は無いよ」
「あの魔王様……、今日話したことをアスリーにも伝えていいですか?」
「いいぞ女装男。あの執事のジジイは役に立つからな」

 ギルドメンバーはマスターに賛同した。かつてアンダー・ドラゴンの一員だったユーリも頷いていた。

「私達も、しばらくは騎士団と別行動になるがすぐに動く。ただし冒険者としてな」

 聖騎士達も唇を結んで決意を表した。

「国が安定すればきっと霧が晴れますよね! ……あ、でも、霧の向こうにはもう何も無いんでしたっけ……」

 自分の発言で暗くなりかけたマキアを、相棒のエンが慰めた。

「邪魔な霧さえ排除できれば世界が力を取り戻して、喰われた部分を少しずつ修復とか復活させるんじゃないか? エドガー連隊長やマシュー中隊長を短期間にポンと生み出すくらいなんだから」
「そっか……世界も頑張っているんだよな!」
「ポンてアンタら……」

 された表現にマシューは口を尖らせたが、すぐに柔らかく笑った。

「ま、生まれたばかりでまた消されるのは面白くないし? 世界の均衡を守る為に人知れず働きますか! ヤベッ、俺ってば世界を救う勇者じゃん!」

 彼の軽口は久し振りに室内の空気を明るくしてくれた。エドガーは複雑そうだったが。

「まだ自分が生まれたばかりというのが信じられない。どういった経緯で私達は世界に生み出されたのだろうか」

 アルクナイトが推測した。

「おそらくヒゲとニャンコは明るい中年から派生したんだ。師団長には側近となる優れた騎士が必要だと世界が判断したのだろう。そして皆の記憶が上書きされた」
「え、私とマシューは師団長から派生したのか!?」
「じゃあ師団長、俺達のパパですか!?」
「ば、馬鹿なことを言うな!」
「パパ、俺パパの愛馬に乗ってみたいです」
「駄目だ、メリンダには誰も乗せない!!」

 一気に騒々しくなった。

「ま、世界には綿密なキャラメイクをする時間までは無かったはずだから、性格その他はおまえ達自身が決定した個性だろうがな」
「そうか……。心の大切な部分は自分のものか」

 エドガーの表情がようやく少し緩んだ。ヒゲと言う酷い渾名あだなも受け入れることにしたようだ。

 国内の秩序を正して国民を安心させる。そして私達は駒ではなく、個々の自立した生命体なのだと自覚する。それが世界崩壊を止める為に、今の私達にできること。
 それで本当に人喰い霧を消せるのだろうか……?
 生まれた不安を頭を振ってすぐに打ち消した。と信じるんだ。強く願え。
 私達は時間のループ破壊というとんでもないことをやり遂げたんだ。またやれるよ、絶対に。
 みんなと一緒なら。きっと今度だって。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...