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女神(割とアッサリと)降臨(1)
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皆の気持ちは一つに決まったが、ずいぶんと長い会議となってしまった。会議室の窓が夕焼けで赤く照らされていた。
定時を過ぎたので受付嬢リリアナは迎えにきた執事アスリーと共に帰宅し、聖騎士達も滞在先であるマシューの実家へ引き上げていった。国内の治安回復に動くのは明日からだ。
「話してただけなのに疲れたな」
肩を回しながらルパートがぼやいた。同感だ。二階の独身寮へ続く階段を昇る脚が重い。
「……なぁ、ウィー」
並んで歩くルパートが私へ囁いた。
「俺はどうしようもなく疑い深い性格だ。ループの時もおまえの話をなかなか信じてやれなかった。でもな、信じようが信じまいがおまえの味方をすると決めているんだ。だから……これからは困ったことに遭遇した時は俺にも相談してくれ」
「先輩……」
自分ではなく私がアルクナイトに相談したことが気になっているんだね。
「それは僕も不満だった。力不足かもしれないけど悩みの共有くらいならできるからさ、ロックウィーナ、困った時は僕にも相談して」
背後から追随したキースは丁寧口調を捨てていた。全員に暗黒面が知られたから取り繕っても無駄だと考えたか、それとも魔王に「今の方が生き生きしている」と肯定されたからか。何となく後者の気がした。
「私もいつでも呼んでくれ」
「俺も」
前を歩くエリアスとエンも続いた。私は階段を、そして廊下を男達に囲まれるように歩いていた。人口密度が高くて圧迫感が半端なく、しかも男臭い。
「ごめんなさい。これからは遠慮なく皆さんを頼りにさせてもらいます」
私が言うとルパートは嬉しそうに笑い、私に触れようと肩へ手を伸ばした。いつの間にかキースに張られていた防御障壁に弾かれていたが。
「いてっ……くそ、じゃあまた19時に食堂でな!」
弾かれた手を擦りつつルパートは自室へ引っ込んだ。他のみんなも。
最後に廊下へ残ったアルクナイトに私は笑いかけた。
「お疲れ様。あなたが丁寧に説明してくれたから、何とかみんなに真実を伝えることができたよ」
私ではあんなに順序立てて説明できなかっただろう。賢者とはたいしたものだ。魔導アカデミーと関わりが有るみたいだし、昔ひょっとして教師とかもしていたんじゃないかな、先生役が板についていた。
「おまえもだロウィー。頑張って発言したな」
健闘を称えようとしてくれたのか、アルクナイトは私をギュッと抱きしめた。もうキースは居ない。障壁に邪魔されることなく私達の身体が密着した。
そして思い出した。彼が上半身ほとんど裸だったことを。
押し付けられた私の顔は、意識せず彼の胸の上部分に口づけをしてしまった。
「ごめんっ」
いや悪いのは急に抱き寄せた魔王なんだけどさ、男性の素肌にキスをするという大人の階段を昇ってしまった私は大いに慌てた。
アルクナイトから離れようとしたのだが彼はそれを許されず、回す腕で私の背中と腰を固定した。
「あの、アルクナイ……」
見上げた私の唇の上に、彼の唇が落ちた。
「!………………」
驚きで一瞬見開かれた私の瞳は、自然にゆっくりと閉じていった。
情熱的だったエンやルパートとは違う大人のキス。エンの時はただ怖くて、ルパートの時は脳が痺れて、そしてアルクナイトとのキスは私の全身をとろけさせた。
ヤバイ。力が抜ける。
そう思うと同時に、ふわりと私は重力から解放された。私の脱力を見抜いたアルクナイトが抱き上げたのだ。
「まだまだおまえはお子様だな、ロウィー」
とても綺麗な微笑みで魔王にからかわれた。ううう、情けない。キス一つで自立できないくらいにヘロヘロになるなんて。でもこの人が悪い。巧過ぎるのがいけない。恐るべし魔王ぶっちゅ。
「少し横になるといい」
夕食まで一時間弱、これから軽く筋トレするつもりだったんだけどね。こうなってしまった以上、彼の言う通り大人しく休憩するしかなさそうだ。
私をお姫様抱っこしたアルクナイトは、開錠の呪文を唱えて扉を開けた。鍵を取り出さなくてもいいのは便利だよね。部屋へ運んでくれたことに対して、私は彼に感謝の言葉を贈ろうとした。
「!」
しかし視界に入ってきたのは、豪華な家具と工事で設置された天蓋付きベッドだった。あれれ、ここってば私の部屋じゃないよ? 斜め前の魔王の改造部屋に連れてこられたの?
「あ、アルクナイト私、休むなら落ち着ける自分の部屋の方がいいな……」
「おまえの部屋のベッドは硬くて狭い。一度寝て身体が痛くなったわ」
王様め。コイツ一度私の部屋で寝落ちしたんだったな。
「私は慣れているから平気だよ」
「俺が痛いと言っているんだ」
「………………?」
私は最初アルクナイトの発言の意味が解らなかった。しかし数秒後に察した。
「ちょっと! あああアンタも一緒に寝る気なの!?」
「当たり前だ、夫婦だろうが」
「この時間軸は違う! まだ夫婦じゃない!!」
「そこに抜かりはない。これから夫婦に成る」
「……っ!? やめれ放せ馬鹿!!」
腕の中で暴れる私を悠々と運ぶ魔王。大声を出そう、隣の部屋のエリアスさんへ助けを求めよう。魔王と勇者の戦いで独身寮が吹っ飛ぶかもしれないが仕方が無い。困った時はいつでも呼んでくれって言ってたし。
しかし私が叫ぶ前に魔王が動きを止めた。そして超不機嫌そうな声で呟いたのだった。
「……何でコイツが俺のベッドで寝ている?」
うん? 言われて私も天蓋付きベッドへ視線を移した。
「えええっ!?」
そこには全く予期せぬ光景が在った。
ベッドに横たわるのは十代に見える少女。ややぽっちゃりとした体型に艶やかな黒髪。髪とお揃いとも思える黒いワンピースは、学校の制服でセーラー服と呼ばれるものだ。
「岩見……鈴音?」
始まりの女神、岩見鈴音が気持ちよさそうに寝転んで寝息を立てていた。
定時を過ぎたので受付嬢リリアナは迎えにきた執事アスリーと共に帰宅し、聖騎士達も滞在先であるマシューの実家へ引き上げていった。国内の治安回復に動くのは明日からだ。
「話してただけなのに疲れたな」
肩を回しながらルパートがぼやいた。同感だ。二階の独身寮へ続く階段を昇る脚が重い。
「……なぁ、ウィー」
並んで歩くルパートが私へ囁いた。
「俺はどうしようもなく疑い深い性格だ。ループの時もおまえの話をなかなか信じてやれなかった。でもな、信じようが信じまいがおまえの味方をすると決めているんだ。だから……これからは困ったことに遭遇した時は俺にも相談してくれ」
「先輩……」
自分ではなく私がアルクナイトに相談したことが気になっているんだね。
「それは僕も不満だった。力不足かもしれないけど悩みの共有くらいならできるからさ、ロックウィーナ、困った時は僕にも相談して」
背後から追随したキースは丁寧口調を捨てていた。全員に暗黒面が知られたから取り繕っても無駄だと考えたか、それとも魔王に「今の方が生き生きしている」と肯定されたからか。何となく後者の気がした。
「私もいつでも呼んでくれ」
「俺も」
前を歩くエリアスとエンも続いた。私は階段を、そして廊下を男達に囲まれるように歩いていた。人口密度が高くて圧迫感が半端なく、しかも男臭い。
「ごめんなさい。これからは遠慮なく皆さんを頼りにさせてもらいます」
私が言うとルパートは嬉しそうに笑い、私に触れようと肩へ手を伸ばした。いつの間にかキースに張られていた防御障壁に弾かれていたが。
「いてっ……くそ、じゃあまた19時に食堂でな!」
弾かれた手を擦りつつルパートは自室へ引っ込んだ。他のみんなも。
最後に廊下へ残ったアルクナイトに私は笑いかけた。
「お疲れ様。あなたが丁寧に説明してくれたから、何とかみんなに真実を伝えることができたよ」
私ではあんなに順序立てて説明できなかっただろう。賢者とはたいしたものだ。魔導アカデミーと関わりが有るみたいだし、昔ひょっとして教師とかもしていたんじゃないかな、先生役が板についていた。
「おまえもだロウィー。頑張って発言したな」
健闘を称えようとしてくれたのか、アルクナイトは私をギュッと抱きしめた。もうキースは居ない。障壁に邪魔されることなく私達の身体が密着した。
そして思い出した。彼が上半身ほとんど裸だったことを。
押し付けられた私の顔は、意識せず彼の胸の上部分に口づけをしてしまった。
「ごめんっ」
いや悪いのは急に抱き寄せた魔王なんだけどさ、男性の素肌にキスをするという大人の階段を昇ってしまった私は大いに慌てた。
アルクナイトから離れようとしたのだが彼はそれを許されず、回す腕で私の背中と腰を固定した。
「あの、アルクナイ……」
見上げた私の唇の上に、彼の唇が落ちた。
「!………………」
驚きで一瞬見開かれた私の瞳は、自然にゆっくりと閉じていった。
情熱的だったエンやルパートとは違う大人のキス。エンの時はただ怖くて、ルパートの時は脳が痺れて、そしてアルクナイトとのキスは私の全身をとろけさせた。
ヤバイ。力が抜ける。
そう思うと同時に、ふわりと私は重力から解放された。私の脱力を見抜いたアルクナイトが抱き上げたのだ。
「まだまだおまえはお子様だな、ロウィー」
とても綺麗な微笑みで魔王にからかわれた。ううう、情けない。キス一つで自立できないくらいにヘロヘロになるなんて。でもこの人が悪い。巧過ぎるのがいけない。恐るべし魔王ぶっちゅ。
「少し横になるといい」
夕食まで一時間弱、これから軽く筋トレするつもりだったんだけどね。こうなってしまった以上、彼の言う通り大人しく休憩するしかなさそうだ。
私をお姫様抱っこしたアルクナイトは、開錠の呪文を唱えて扉を開けた。鍵を取り出さなくてもいいのは便利だよね。部屋へ運んでくれたことに対して、私は彼に感謝の言葉を贈ろうとした。
「!」
しかし視界に入ってきたのは、豪華な家具と工事で設置された天蓋付きベッドだった。あれれ、ここってば私の部屋じゃないよ? 斜め前の魔王の改造部屋に連れてこられたの?
「あ、アルクナイト私、休むなら落ち着ける自分の部屋の方がいいな……」
「おまえの部屋のベッドは硬くて狭い。一度寝て身体が痛くなったわ」
王様め。コイツ一度私の部屋で寝落ちしたんだったな。
「私は慣れているから平気だよ」
「俺が痛いと言っているんだ」
「………………?」
私は最初アルクナイトの発言の意味が解らなかった。しかし数秒後に察した。
「ちょっと! あああアンタも一緒に寝る気なの!?」
「当たり前だ、夫婦だろうが」
「この時間軸は違う! まだ夫婦じゃない!!」
「そこに抜かりはない。これから夫婦に成る」
「……っ!? やめれ放せ馬鹿!!」
腕の中で暴れる私を悠々と運ぶ魔王。大声を出そう、隣の部屋のエリアスさんへ助けを求めよう。魔王と勇者の戦いで独身寮が吹っ飛ぶかもしれないが仕方が無い。困った時はいつでも呼んでくれって言ってたし。
しかし私が叫ぶ前に魔王が動きを止めた。そして超不機嫌そうな声で呟いたのだった。
「……何でコイツが俺のベッドで寝ている?」
うん? 言われて私も天蓋付きベッドへ視線を移した。
「えええっ!?」
そこには全く予期せぬ光景が在った。
ベッドに横たわるのは十代に見える少女。ややぽっちゃりとした体型に艶やかな黒髪。髪とお揃いとも思える黒いワンピースは、学校の制服でセーラー服と呼ばれるものだ。
「岩見……鈴音?」
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