ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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崩壊の足音(2)

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 話し声が聞こえていたようで、キースの左手は前髪にセットされていた。これ以上エリアスとルパートが余計なお世話を焼いたら、即座に前髪を掻き上げて魅了する気だ。

「二人ともいろいろと助言をしてくれてありがとう、ロックウィーナが世話になったね」
「うっ……」
「ああロックウィーナ、今夜も逢いに来てくれて嬉しいよ」
「くぅっ……」

 禁呪を使われた訳ではないのに、ルパートとエリアスは右手でそれぞれ心臓を押さえた。

「さぁロックウィーナ、部屋にお入り」
「ま、待て……!」

 すがるエリアスをキースは冷たく一瞥いちべつした。

「何?」

 魅了が怖いエリアスはキースと目を合わせられずに呟いた。

「我々は決してキミ達の仲を邪魔しようとしているのではない。ただ仲間として、ロックウィーナやキース殿ともっと親睦を深めたいと思っただけだ」
「そう、そうなんだよ! 俺達にやましい気持ちは無いから」
「へぇ、ロックウィーナだけではなく、僕とも仲良くなりたいの?」
「当たり前だろ、俺達は仲間だ。みんなで楽しく過ごそうぜ!」

 キースはニッコリした。

「僕は構わないよ。でも何をしたらいいんだろう。プライベートなお喋りは食事中に行っているから、話し足りないってことは無いよね?」
「う……」

 最も手っ取り早い友好手段「会話」を封じられた。ルパートが歯軋りしたが勇者はめげなかった。

「……ジェンガをしよう」
「はい?」
「ジェンガだ。楽しいバランスゲームだ。スズネの部屋を改装した時に出た木材が有るはずだ。それを積み上げてみんなで競おう」
「いいねぇジェンガ! 俺上手いよ? 天井近くまで積んじゃうよ? そっからドンドン引き抜いちゃう!」
「……………………」

 流石のキースも言葉を失った。デートの邪魔をする為に、21時にジェンガをしようと提案した29歳と28歳の男達を憐れんだのだろう。私も泣きそうだ。

 ダダダダダダダ!!!!

 その何とも言えない鬱な空気をはらったのはギルドマスターの荒々しい足音だった。

「あれケイシー、今夜もギルドに泊まるのかい?」

 マスターは家庭を持っているので基本は家に帰るが、多忙な時期は治療室のベッドを使って泊まり込みで仕事をする。
 眉間に三本もしわを刻んだマスターは、キースの質問には答えず指示を出した。

「キースにルパート、至急みんなを会議室へ集めてくれ。屋根裏部屋のスズネにも声をかけてな」

 それだけ伝えてまた乱暴な足取りで彼は階下へ去っていった。残された私達は顔を見合わせた。

「……何だ?」
「判らないけど……、ケイシーのあの顔を見る限り緊急事態が起きたようだ。言われた通りにみんなを会議室へ集めよう」
「ロックウィーナ、キミはスズネを呼んできてくれるか?」
「はい!」

 私達は散って仲間達に声をかけた。こんな時間に何だろう。
 とても嫌な予感がしたが、現実はその予感を上回る深刻さだった。


「王都が落ちた」

 向かった会議室には聖騎士三人組が揃っていた。険しい表情をしたルービックが発した第一声により、久し振りだと懐かしむ感情が吹っ飛んだ。

「王都……陥落……? そんな馬鹿な」
「嘘だろ? だって王都には大勢の兵が居るじゃないか!」

 エンとマキアが引きった顔で否定の言葉を述べた。

「王都は霧の巨人兵に敗れたのか?」

 アルクナイトの確認にルービックが重々しく頷いた。

「そうだ。国王陛下と王太子殿下は崩御された」
「ち…………」

 アルクナイトは腕を組んでイスの一つに座った。
 正に悪夢を見ているような気分だった。王都には第二師団と第七師団を除く国の全ての兵力が集中していたのだ。
 私達は王都を攻めあぐねた霧の巨人兵が、フィースノーや他の都市へ攻略対象を切り替えると予想していた。それがまさか……。王都すらかなわなかった相手に、地方都市が勝てるとはとても思えない。
 そんな状況でもアルクナイトは冷静だった。

「王都周辺も霧に呑まれたのだろう。現存している街の中で、武力らしきものを保持しているのは何処と何処だ?」
「無事なのはラグゼリア王国南方に位置する地域だけだ。大きな街はここフィースノー、レクセン、そして建設途中の港街だけとなった」
「ちょっと待ってくれ!」

 エリアスが会話に乱入した。

「父が統治するディーザ領はどうなった!? アルの魔王領は!?」

 ルービックは苦しそうに告げた。

「ディーザ陥落の報は、二日前に王都に入っていたそうだ。王都からの早馬が知らせてくれたよ。ディーザ領と隣接している魔王領もおそらくは……」
「くそぉ!!!!」

 エリアスが叫び、アルクナイトは唇を噛んだ。
 そんな。そんな。エリアスとアルクナイトが帰る場所を失ってしまった。

「スズネ!?」

 私にしがみ付いていた鈴音が会議室の床にへたり込んだ。

「私が運ぼう」

 使い魔猫に呼ばれたのだろう、宿屋から駆け付けてくれたソルがスズネを抱き上げてイスに座らせた。立ち尽くしていた私達もそれぞれイスを選んでテーブルに着いた。
 皆はまるで死刑判決を受けるような顔をしていた。
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