ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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一幕  エリアスが日常に(5)

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「概要は合っている。難しく考えることはないさ。先祖は騎士だったらしいが、魔王を追い詰めた功績で国から土地と爵位をたまわったんだ。勇者の称号も」

 優しいなぁエリアスは。言動に嫌味が無くて清々しい。うーん、駄目だと解っているのに好きになってしまいそうだ。嫌いになろうとしても弱点らしい弱点が方向音痴という点しか無い。これについては私でも簡単にフォローできてしまえるからなぁ。

「レディ、表情が固まっているがどうかしたのか?」

 まさか貴方に惚れないように欠点を探しているとは言えない。

「あはは、少し考えごとをしていました。エリアスさんたら恋愛小説に出てくるヒーローみたいだなって思ったんです」
「恋愛小説か……」

 エリアスは困った顔をした。

「気を悪くされましたか?」
「いいや、そんなことは無い。ただ私は恋愛小説というものを読んだことが無いのだ」
「お嫌いでしたか」
「そうではなく、触れ合う機会が無かった」
「?」

 私達のやり取りを見ていたルパートがヤレヤレと肩を揺らした。いいね、背負っている荷物が無くて身軽で。

「貴族社会ではな、恋愛小説の類は俗文化と見なされているんだよ。だから家にその手の書物を置く者は少ない。もちろん愛好家は居るだろうが、低俗と思われることを恐れて隠れてたしなんでいるんだろう」
「……詳しいですね先輩」

 エリアスのモルガナンの姓にもすぐに反応したし、もしかしてルパートは……。

「先輩も、ひょっとして貴族の出だったりします?」
「あん? いや……俺は庶民の出だよ」

 良かった。女の私の前でもポンポン脱いで着替える無神経な男が高貴な生まれでなくて。無駄にイイ身体をしているのがまたムカつく。コイツには絶対に膝を折りたくない。

 エリアスが愁いを帯びた瞳を私に向けた。

「私も恋愛小説の一冊でも読んでいれば、貴女と会話を弾ませることができたのに」

 うっはあぁ。連日モンスターをブツ斬りにしている人とは思えない甘いムードを放ってきたよ!! ルパートの存在無視してエリアスに抱き付いてしまいそうだ。ヤバイヤバイヤバイ。余裕が無くなった私はストレートに聞いた。

「エリアスさんには苦手なものとか無いんですか?」

 どうか有りますように。そしてそれで私を冷静にさせて下さい。ドン引きできれば尚良しdeathデス

「苦手なもの……有るぞ」

 私にはいつも紳士的なエリアスが、珍しく強張こわばった顔つきになった。そんなに嫌いなものが彼に?

「幼馴染みだ」

 この答えにはいささか拍子抜けした。よりによって人物か。学校とか職場とかで離れられない関係ならともかく、エリアスは実家と領地を出て自由な冒険者生活。どれだけ嫌う相手だとしても、もう幼馴染みと邂逅かいこうする可能性は低いんじゃないのかな。

「ええと、幼馴染みさんとは性格が合わないということですか?」
「それ以前に魔王なんだ」
「はい?」
「私の幼馴染みは、先ほど話題に出た魔王その人なんだ」
「………………はい?」

 私とルパートは顔を見合わせた。彼もよく解らないといった顔をしていた。

「魔王って三百歳以上ですよね? どうしてそんなお爺さんと幼馴染みになれるんです?」
「アイツの外見は少年のままなんだ。それでもって城を抜け出してウチの領地へよくお忍びで遊びに来る。私は少年時代、アイツが魔王だと知らずに友達になってしまったんだ」
「…………え」

 再度私とルパートは互いの顔を見た。ルパートがエリアスに尋ねた。

「それってマジ話ですか?」
「マジだ」

 一拍置いて私達は大声を上げた。

「ええええええ!?」
「魔王と幼馴染みッスか!? 勇者と魔王が友達!?」

 たまげた。流石にどんな歴史書にもこの事実は知らされていないだろう。

「お父様達はご存知で!?」
「知らないはずだ。言える訳がない。勇者の家系の者が魔王と親友などと」

 ただの友達じゃなくて親友ですか。熱い友情をはぐくんでしまったのですね。

「だから私は二人の仲を隠そうと必死になった。だのにアイツときたら……! 私が家族と食事している時に窓にへばり付いていたり、誕生日でガーデンパーティーをした際には呼んでいないのに招待客に紛れ込んでいたり」
「それ……自分も呼んで欲しかったという、寂しさから起こした抗議行動では?」
「断じて違う。アイツは私が慌てる姿を見て楽しんでいるだけだ。現に尻文字で今どんな気持ち? と不快なメッセージを送ってきた」
「尻文字……」

 世界中に喧嘩を売った魔王が、お尻をクネクネさせてメッセージを送ってくるの? 想像できない。

「長生きし過ぎて退屈なんだそうだ。私は親友だと思っていたのに、奴にとって私は暇潰しの玩具だった。当然距離を置こうとしたが、私で遊ぼうとする奴に付きまとわれた。そんな関係にうんざりして家を出たんだ」
「なんとまぁ……」

 家出の原因は魔王のちょっかいだった。大問題なのか些細なことなのかよく判らない。
 それにしてもエリアスさんてば設定盛り過ぎ。恋愛小説に登場するヒーローは、高い身分を隠したイケメンがせいぜいですよ。それでも庶民の主人公は身分違いの恋や、相手の婚約者の嫌がらせに大いに悩むというのに。魔王の幼馴染みというオプションまで追加されたら物語は何処へ着地するんですか。

 うん。大いに引いた。思っていたのとは違うけど、魔王に取り憑かれた男性と恋仲になるのは荷が重過ぎる。
 私は改めて心の中で、エリアスに恋をしないと強く誓ったのだった。 
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