7 / 291
一幕 エリアスが日常に(5)
しおりを挟む
「概要は合っている。難しく考えることはないさ。先祖は騎士だったらしいが、魔王を追い詰めた功績で国から土地と爵位を賜ったんだ。勇者の称号も」
優しいなぁエリアスは。言動に嫌味が無くて清々しい。うーん、駄目だと解っているのに好きになってしまいそうだ。嫌いになろうとしても弱点らしい弱点が方向音痴という点しか無い。これについては私でも簡単にフォローできてしまえるからなぁ。
「レディ、表情が固まっているがどうかしたのか?」
まさか貴方に惚れないように欠点を探しているとは言えない。
「あはは、少し考えごとをしていました。エリアスさんたら恋愛小説に出てくるヒーローみたいだなって思ったんです」
「恋愛小説か……」
エリアスは困った顔をした。
「気を悪くされましたか?」
「いいや、そんなことは無い。ただ私は恋愛小説というものを読んだことが無いのだ」
「お嫌いでしたか」
「そうではなく、触れ合う機会が無かった」
「?」
私達のやり取りを見ていたルパートがヤレヤレと肩を揺らした。いいね、背負っている荷物が無くて身軽で。
「貴族社会ではな、恋愛小説の類は俗文化と見なされているんだよ。だから家にその手の書物を置く者は少ない。もちろん愛好家は居るだろうが、低俗と思われることを恐れて隠れて嗜んでいるんだろう」
「……詳しいですね先輩」
エリアスのモルガナンの姓にもすぐに反応したし、もしかしてルパートは……。
「先輩も、ひょっとして貴族の出だったりします?」
「あん? いや……俺は庶民の出だよ」
良かった。女の私の前でもポンポン脱いで着替える無神経な男が高貴な生まれでなくて。無駄にイイ身体をしているのがまたムカつく。コイツには絶対に膝を折りたくない。
エリアスが愁いを帯びた瞳を私に向けた。
「私も恋愛小説の一冊でも読んでいれば、貴女と会話を弾ませることができたのに」
うっはあぁ。連日モンスターをブツ斬りにしている人とは思えない甘いムードを放ってきたよ!! ルパートの存在無視してエリアスに抱き付いてしまいそうだ。ヤバイヤバイヤバイ。余裕が無くなった私はストレートに聞いた。
「エリアスさんには苦手なものとか無いんですか?」
どうか有りますように。そしてそれで私を冷静にさせて下さい。ドン引きできれば尚良しdeath!
「苦手なもの……有るぞ」
私にはいつも紳士的なエリアスが、珍しく強張った顔つきになった。そんなに嫌いなものが彼に?
「幼馴染みだ」
この答えには些か拍子抜けした。よりによって人物か。学校とか職場とかで離れられない関係ならともかく、エリアスは実家と領地を出て自由な冒険者生活。どれだけ嫌う相手だとしても、もう幼馴染みと邂逅する可能性は低いんじゃないのかな。
「ええと、幼馴染みさんとは性格が合わないということですか?」
「それ以前に魔王なんだ」
「はい?」
「私の幼馴染みは、先ほど話題に出た魔王その人なんだ」
「………………はい?」
私とルパートは顔を見合わせた。彼もよく解らないといった顔をしていた。
「魔王って三百歳以上ですよね? どうしてそんなお爺さんと幼馴染みになれるんです?」
「アイツの外見は少年のままなんだ。それでもって城を抜け出してウチの領地へよくお忍びで遊びに来る。私は少年時代、アイツが魔王だと知らずに友達になってしまったんだ」
「…………え」
再度私とルパートは互いの顔を見た。ルパートがエリアスに尋ねた。
「それってマジ話ですか?」
「マジだ」
一拍置いて私達は大声を上げた。
「ええええええ!?」
「魔王と幼馴染みッスか!? 勇者と魔王が友達!?」
たまげた。流石にどんな歴史書にもこの事実は知らされていないだろう。
「お父様達はご存知で!?」
「知らないはずだ。言える訳がない。勇者の家系の者が魔王と親友などと」
ただの友達じゃなくて親友ですか。熱い友情を育んでしまったのですね。
「だから私は二人の仲を隠そうと必死になった。だのにアイツときたら……! 私が家族と食事している時に窓にへばり付いていたり、誕生日でガーデンパーティーをした際には呼んでいないのに招待客に紛れ込んでいたり」
「それ……自分も呼んで欲しかったという、寂しさから起こした抗議行動では?」
「断じて違う。アイツは私が慌てる姿を見て楽しんでいるだけだ。現に尻文字で今どんな気持ち? と不快なメッセージを送ってきた」
「尻文字……」
世界中に喧嘩を売った魔王が、お尻をクネクネさせてメッセージを送ってくるの? 想像できない。
「長生きし過ぎて退屈なんだそうだ。私は親友だと思っていたのに、奴にとって私は暇潰しの玩具だった。当然距離を置こうとしたが、私で遊ぼうとする奴に付き纏われた。そんな関係にうんざりして家を出たんだ」
「なんとまぁ……」
家出の原因は魔王のちょっかいだった。大問題なのか些細なことなのかよく判らない。
それにしてもエリアスさんてば設定盛り過ぎ。恋愛小説に登場するヒーローは、高い身分を隠したイケメンがせいぜいですよ。それでも庶民の主人公は身分違いの恋や、相手の婚約者の嫌がらせに大いに悩むというのに。魔王の幼馴染みというオプションまで追加されたら物語は何処へ着地するんですか。
うん。大いに引いた。思っていたのとは違うけど、魔王に取り憑かれた男性と恋仲になるのは荷が重過ぎる。
私は改めて心の中で、エリアスに恋をしないと強く誓ったのだった。
優しいなぁエリアスは。言動に嫌味が無くて清々しい。うーん、駄目だと解っているのに好きになってしまいそうだ。嫌いになろうとしても弱点らしい弱点が方向音痴という点しか無い。これについては私でも簡単にフォローできてしまえるからなぁ。
「レディ、表情が固まっているがどうかしたのか?」
まさか貴方に惚れないように欠点を探しているとは言えない。
「あはは、少し考えごとをしていました。エリアスさんたら恋愛小説に出てくるヒーローみたいだなって思ったんです」
「恋愛小説か……」
エリアスは困った顔をした。
「気を悪くされましたか?」
「いいや、そんなことは無い。ただ私は恋愛小説というものを読んだことが無いのだ」
「お嫌いでしたか」
「そうではなく、触れ合う機会が無かった」
「?」
私達のやり取りを見ていたルパートがヤレヤレと肩を揺らした。いいね、背負っている荷物が無くて身軽で。
「貴族社会ではな、恋愛小説の類は俗文化と見なされているんだよ。だから家にその手の書物を置く者は少ない。もちろん愛好家は居るだろうが、低俗と思われることを恐れて隠れて嗜んでいるんだろう」
「……詳しいですね先輩」
エリアスのモルガナンの姓にもすぐに反応したし、もしかしてルパートは……。
「先輩も、ひょっとして貴族の出だったりします?」
「あん? いや……俺は庶民の出だよ」
良かった。女の私の前でもポンポン脱いで着替える無神経な男が高貴な生まれでなくて。無駄にイイ身体をしているのがまたムカつく。コイツには絶対に膝を折りたくない。
エリアスが愁いを帯びた瞳を私に向けた。
「私も恋愛小説の一冊でも読んでいれば、貴女と会話を弾ませることができたのに」
うっはあぁ。連日モンスターをブツ斬りにしている人とは思えない甘いムードを放ってきたよ!! ルパートの存在無視してエリアスに抱き付いてしまいそうだ。ヤバイヤバイヤバイ。余裕が無くなった私はストレートに聞いた。
「エリアスさんには苦手なものとか無いんですか?」
どうか有りますように。そしてそれで私を冷静にさせて下さい。ドン引きできれば尚良しdeath!
「苦手なもの……有るぞ」
私にはいつも紳士的なエリアスが、珍しく強張った顔つきになった。そんなに嫌いなものが彼に?
「幼馴染みだ」
この答えには些か拍子抜けした。よりによって人物か。学校とか職場とかで離れられない関係ならともかく、エリアスは実家と領地を出て自由な冒険者生活。どれだけ嫌う相手だとしても、もう幼馴染みと邂逅する可能性は低いんじゃないのかな。
「ええと、幼馴染みさんとは性格が合わないということですか?」
「それ以前に魔王なんだ」
「はい?」
「私の幼馴染みは、先ほど話題に出た魔王その人なんだ」
「………………はい?」
私とルパートは顔を見合わせた。彼もよく解らないといった顔をしていた。
「魔王って三百歳以上ですよね? どうしてそんなお爺さんと幼馴染みになれるんです?」
「アイツの外見は少年のままなんだ。それでもって城を抜け出してウチの領地へよくお忍びで遊びに来る。私は少年時代、アイツが魔王だと知らずに友達になってしまったんだ」
「…………え」
再度私とルパートは互いの顔を見た。ルパートがエリアスに尋ねた。
「それってマジ話ですか?」
「マジだ」
一拍置いて私達は大声を上げた。
「ええええええ!?」
「魔王と幼馴染みッスか!? 勇者と魔王が友達!?」
たまげた。流石にどんな歴史書にもこの事実は知らされていないだろう。
「お父様達はご存知で!?」
「知らないはずだ。言える訳がない。勇者の家系の者が魔王と親友などと」
ただの友達じゃなくて親友ですか。熱い友情を育んでしまったのですね。
「だから私は二人の仲を隠そうと必死になった。だのにアイツときたら……! 私が家族と食事している時に窓にへばり付いていたり、誕生日でガーデンパーティーをした際には呼んでいないのに招待客に紛れ込んでいたり」
「それ……自分も呼んで欲しかったという、寂しさから起こした抗議行動では?」
「断じて違う。アイツは私が慌てる姿を見て楽しんでいるだけだ。現に尻文字で今どんな気持ち? と不快なメッセージを送ってきた」
「尻文字……」
世界中に喧嘩を売った魔王が、お尻をクネクネさせてメッセージを送ってくるの? 想像できない。
「長生きし過ぎて退屈なんだそうだ。私は親友だと思っていたのに、奴にとって私は暇潰しの玩具だった。当然距離を置こうとしたが、私で遊ぼうとする奴に付き纏われた。そんな関係にうんざりして家を出たんだ」
「なんとまぁ……」
家出の原因は魔王のちょっかいだった。大問題なのか些細なことなのかよく判らない。
それにしてもエリアスさんてば設定盛り過ぎ。恋愛小説に登場するヒーローは、高い身分を隠したイケメンがせいぜいですよ。それでも庶民の主人公は身分違いの恋や、相手の婚約者の嫌がらせに大いに悩むというのに。魔王の幼馴染みというオプションまで追加されたら物語は何処へ着地するんですか。
うん。大いに引いた。思っていたのとは違うけど、魔王に取り憑かれた男性と恋仲になるのは荷が重過ぎる。
私は改めて心の中で、エリアスに恋をしないと強く誓ったのだった。
12
あなたにおすすめの小説
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる