ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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新一幕 勇者と聖騎士と魔王(5)

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 隣のルパートが私に囁いた。

「あまり奴を挑発するな。アイツは強い。戦いになったら俺とエリアスさんの二人がかりでも勝てる気がしない」

 一周目でエンにも注意されたな。でもやっぱり私はアルクナイトを怖いと思えなかった。世界を震撼させた魔王で、私の首を絞めてきた相手なのに。
 それでも私より実戦経験が豊富な二人から忠告されたのだから、態度は改めるべきだよね。私は一礼してから魔王に改めて話しかけた。

「魔王アルクナイト、私はロックウィーナと申します」
「知っている」
「信じ難い事象ですが、私は約十日後から現在へ戻ってきたのです」
「急な丁寧口調が気持ち悪い」

 挑発しちゃ駄目で、気を遣っても駄目。どないせーっちゅうねん。
 おブス顔になった私へ、アルクナイトは呆れたように勧めた。

「普通に話せばいい。おまえはもっとガサツな女のはずだろう?」
「何を言うか。ロックウィーナはスズランのように可憐なレディだ」
「スズランは毒草だ。馬鹿エリーが」

 もういいや。本人が許可を出したのだからタメぐちでいっちゃおう。

「……単刀直入に聞くね。あなたにも未来の記憶が有るの?」
「その通りだ。俺も記憶を持ったまま過去へジャンプしている」
「!」

 私とルパート、エリアスは顔を見合わせた。私以外にも時の旅人が居ただなんて。

「アルクナイト、それは本当か? ロックウィーナの言う通り、時間を遡《さかのぼ》ることが可能だと証明できるか?」

 エリアスの問いにアルクナイトはそっぽを向いた。こうした姿は完全に少年だ。

「昔のようにアルと呼ばなければ答えてやらん」
「貴様……、素直に協力しようという気持ちは無いのか?」
「無い」

 まだ抜き身状態の大剣をエリアスは再度構えた。

「この剣には魔力を無効化する印が彫られている。いかにおまえの魔力が強大だとしても私には効かないぞ」
「ふん。誉れ高き勇者の一族が、セコセコとくだらんことばかり研究するものだ。だが残念だったなエリー。剣に当たらないように魔法を放てば良いだけだ」

 ブワッと足元から熱波が吹き上がった。勇者と魔王の闘気が大気と混ざり合ったのだ。

「シャレにならねぇ……」

 充分強いはずの元聖騎士ルパートが、厳しい表情をして私を自分の背中へ隠そうとした。護ろうとしてくれたことに感謝する。でも今は……。

「駄目──!! 喧嘩している場合じゃありません! 時間が無いんです!!」

 私は大声を出して対峙していた二人の気をいだ。

「ロックウィーナ……」
「エリアスさん、今はこらえて下さい。お願いです、エンとマキアを助ける為に力を貸して。その為には私、何でもしますから!」

 エリアスは悲しそうに微笑んだ。

「私は女性を助けることで代償を求めたりはしない。名誉と救いを求める者の為に剣を振るえと教えられた。騎士とはそういうものだよな? 聖騎士ルパート!」

 突然名指しされたルパートはたじろいた。

「え、ええ? 俺も巻き込む……? 聖騎士っつっても元だし」
「もう面倒臭い風を装うのはよせ。キミ……おまえはどうせ彼女の為なら、信じる信じない関係無く動くつもりなんだろう?」

 えっ、そうなの!? 最初から協力してくれるつもりだったの?
 ルパートは舌打ちしたがエリアスの言葉を否定しなかった。お、お兄ちゃんてばそこまで私のことを……? ちょっと萌えたのは内緒だ。

 エリアスは大剣をさやに戻し、ルパートは軽く両手を上げて対立する意思が無いことを魔王に示した。

「……アル。手を貸してくれ。ロックウィーナはずっと悩んでいる」
「俺からも頼みます。知っていることが有るなら教えて下さい」

 エリアスとルパート、二人の強戦士が私の為にアルクナイトへ頭を下げた。嬉しくてありがたくて申し訳なくて、目頭がまた熱くなった。

「いいだろう」

 アルクナイトは背けていた顔を元に戻し、

「……からかって悪かったな」

 意外にも素直に謝罪の言葉を述べた。魔王がツンデレ属性であることが判明した。

「そうと決まれば落ち着いて話そう。そこに座れ」

 私達の腰は再び草の上に落とされた。魔王・勇者・ギルド職員の下っ端・元聖騎士が仲良く小さな一つの円を描いて。いろいろとツッコミたかったが我慢した。それどころじゃない。
 それどころじゃないのに魔王が草笛作ってピープー吹いている。はよ喋れや。

「あの、未来から過去へジャンプした件だけど……」

 待ち切れず私の方から話を振った。

「私やあなた以外にも同じ体験をした人が居るのかな?」
「全員だ」
「ん?」
「俺とお前だけじゃない。この世界に存在する者、全員がジャンプしている」
「はぇ…………?」

 私はアルクナイトの言っている意味が解らなかった。エリアスとルパートもキョトンとしていたので同様だろう。

「あの……どういうこと?」
「言葉通りの意味だ。全員が十日前から現在へ戻ってきている。記憶が有るか無いかの違いだ」
「???」

 頭の上に大量の疑問詞を浮かべた私に代わり、エリアスが彼に尋ねた。

「では私やルパート、街の住民やモンスターもジャンプしたと言いたいのか? 覚えていないだけで?」

 ピープー。

「草笛で返事をするな。それではハイかイイエか判らん」
「ハイ、だ」
「おいおいマジか……。俺も時間を飛んだのか?」

 頭を抱えたルパートの隣で、私は新たに生じた疑問を口にした。

「どうしてあなたはそんなに冷静でいられるの?」

 時間逆行なんて世界がひっくり返るほどの大事件だろうに。過去へ戻ることを望んだ私ですら、混乱と興奮で昨日からずっとドキドキしている。

「十七回も同じ十日間を繰り返せば嫌でも慣れる」
「はい…………?」

 ぶっきらぼうに魔王は呟いた。とても恐ろしい事実を。

「待って、今、十七回って言った?」
「アル、ジャンプ現象が起きたのは今回だけじゃないのか!?」
「……そうだ。俺が認識しているだけで十七回時間が巻き戻されている。覚えていないだけで、本当はもっと多いのだろう」
「噓……だろ?」

 魔王以外の三人の顔が蒼ざめた。最低でも十七回!? 私には一周目の記憶しか無いけれど、彼は十七周もしているの?
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