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第50話 勝手に魔石が「私の恋人認定」しちゃったのは!?
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≪約130字あらすじ・異世界トリップした主人公・唯花は不思議なうさぎティコティスから、魔石の ついチョーカーをもらう。このチョーカーの持ち主には副作用がでる場合もあることが判明。唯花に出始めている副作用についてティコティスが説明するのを、トリップ先の館の主、ロエルと2人で聞くが――≫
『魔石は、持ち主がチョーカーをつけた瞬間から、石の色がピンクに変わりつつある時点までで、一番多く言葉を交わした異性を、持ち主の意中の相手であり恋人なのだと。そう、判断してしまうんだ』
な、なにそれ……。
魔石は、私にこの世界で恋人をつくることを望む。そして結果的に、それは魔石は私に恋人をさがすようにうながすというよりも――。
私が魔石の はめ込まれたチョーカーをつけてから、石の色がピンクに変わりつつある時点までで、一番多く言葉を交わした異性を、私の意中の相手であり恋人なのだと……魔石は判断してしまう。
ティコティスの言葉におどろきのあまり、声もでない。
私の代わりに、ロエルがティコティスに聞く。
「チョーカーの持ち主と、一番多く話した異性?」
『うん。そういった報告が多数よせられているから、信頼できる情報だよ』
私がチョーカーを身につけたのは、この世界にトリップして、ティコティスに出会ってから。
いま私の首にピタリと、ひっついているチョーカーは、もともとはティコティスが持っていたアイテム。
チョーカーに はめ込まれた魔石が翻訳機になるから、異世界の言葉を知らない私に、ティコティスがくれた。
私がティコティスに手渡されたとき、魔石はたしかに混じりけのないオレンジ色をしていた。
なのに、いま鏡にうつっている私の首元に輝いている魔石は、ピンク色に変わりつつあるオレンジ色。
あきらかに他の色――ピンク――が混じっている。
いつから魔石の色が変化したのかは、鏡をみないと魔石の色を確認できないから、私は把握してない。魔石は私の首にピタリとくっついたチョーカーの中央に、はめ込まれているから。
――魔石は、持ち主がチョーカーをつけた瞬間から、石の色がピンクに変わりつつある時点までで、一番多く言葉を交わした異性を、持ち主の意中の相手なのだと、判断してしまう――
私は心臓をバクバクさせながら、となりにいるロエルに質問する。
「……ロエル、私とあなたが中庭で会ったときや、ふたりで客間で話したとき――。私がつけているチョーカーの魔石が何色だったか、おぼえている?」
ロエルの答えが気になって、私の体に緊張が走る。
彼は、はっきりとした口調で言った。
「ああ、きみのしているチョーカーの石が何色だったかならば、おぼえている。中庭で会ったときも、客間できみがこの世界についてオレに質問をしていたときも、石の色はオレンジ色だった」
「……それって、私はこのチョーカーをつけてからは、ロエルと一番多く言葉を交わしているってこと――?」
声をふるわせる私とちがい、ロエルはくちぶりは、しっかりしていた。
「そうなるだろうな」
……私はこのチョーカーをつけてから、ロエルとだけ話していたわけじゃない。
ペピートには、この客間について、そしてロエルについて話してもらった。
ラウレアーノ先生には問診してもらった。
でも、ロエルには、この世界について本当にたくさん話してもらった。
この世界の人は、「普通の人間」と言われている人でも、翼のある生物に変身することができること。
なぜ、そのように人類が進化したか――そんな話も教えてくれた。
中庭にいた時点で魔石の色が変化してしまったのならともかく、そうじゃないなら、たしかに私はロエルと一番言葉を交わしている。
『唯花、ロエル。ふたりに聞いてもらいたいことがある。今度こそ、ぼく、言葉につまったりしないで、ちゃんと伝えるよ。唯花があてはまってしまったタイプCの副作用は――。「ある行動」をしないと何日も眠れなくなっちゃう。その反動で今度は何日も眠りつづけちゃうんだっ!
おまけに、起きているときは、とても熱っぽくて全身がフラフラ。体が熱くてたまらなくなる。……それに、対処するために必要な、「ある行動」とは――』
ある行動をしないと、不眠になったり、寝すぎになったり。
それはたしかにとっても困る――。
慣れない土地で健康サイクルまで不規則になってしまったら、そのうち、体のさまざまな部分に不調がでてきてしまいそう。
そして、「とても熱っぽくて全身がフラフラ」って……。
認めるのは怖いけど、いまの私の状態に、すでに、あてはまっているような気がする。
さっきから声がふるえっぱなしの私だけど、ティコティスに質問したいって気持ちは止められない。
気づくと私は、ティコティスの説明に割って入っていた。
「……その、『ある行動』を実行したら、副作用は本当に おさまってくれるの?」
『よせられた報告によると、ちゃんとおさまるそうだよ。毎日、この対処法を実行すれば、3ヶ月ちょっとでチョーカーは持ち主の首から無理なくはずれるみたい。そしたら、通訳が必要なときだけ、チョーカーをつければいいし、長時間身につけていても、もう副作用は起きなくなるって』
――毎日、この対処法を実行すれば、3ヶ月ちょっとでチョーカーは持ち主の首から無理なくはずれる――
一瞬、ティコティスの答えに、よかったぁ! ちゃんと対策方法がわかっているんだ……って気持ちになった。
……でも。対処法が、ごく普通のものなら、ティコティスは言いよどんだりしないはず。
きっとすぐに『――――という行動をしてねっ!』と教えてくれる気がした。
ティコティスが何度も前置きしたり、くちごもったりするからには――「ある行動」とは、普通の行動では、ない気がする。
見えない不安から、私は声ではなく体がふるえてしまう。
こきざみに動く手を、となりにいるロエルが、そっとにぎってくれた。
『しっかりしろ。オレがついている』と大きな手がささやいているようだった。
さっき私のおでこにふらたのが、今日だけで2度目だったけど……。この館の室内で、ロエルが自分の手を私の手にかさねたのは、これで3度目になるはず。
たしか、このチョーカーには副作用があることをラウレアーノ先生から告げられたあと、とても動揺してしまった私の手をロエルは にぎってくれた。
ロエルと気球の話をしたあとも、私の手をにぎってくれた。
彼の手はいつも大きくてあたたかい――。
ロエルの、困った者をみすごせないやさしさを、彼の手のぬくもりから感じる。
そのおかげで、私の体のふるえは少しおさまってくれた。
でも、ロエルからみて、いまの私はきっと、まだまだあきらかに動揺を引きずっているようにみえたのかもしれない。
ロエルは自分の手を私の手に添えたまま、私に代わってティコティスに聞いた。
「……『ある行動』とは、いったいどんな行動なんだ」
単刀直入なロエルの質問に、ティコティスは答える。まるで少しまえまで言いよどんでいた反動のように、早口で一気に。
『「ある行動」とはっ、「タイプCの副作用が発症した魔石の持ち主は――魔石が恋人と判断した者に、100回キスされること」なんだーっ!』
『魔石は、持ち主がチョーカーをつけた瞬間から、石の色がピンクに変わりつつある時点までで、一番多く言葉を交わした異性を、持ち主の意中の相手であり恋人なのだと。そう、判断してしまうんだ』
な、なにそれ……。
魔石は、私にこの世界で恋人をつくることを望む。そして結果的に、それは魔石は私に恋人をさがすようにうながすというよりも――。
私が魔石の はめ込まれたチョーカーをつけてから、石の色がピンクに変わりつつある時点までで、一番多く言葉を交わした異性を、私の意中の相手であり恋人なのだと……魔石は判断してしまう。
ティコティスの言葉におどろきのあまり、声もでない。
私の代わりに、ロエルがティコティスに聞く。
「チョーカーの持ち主と、一番多く話した異性?」
『うん。そういった報告が多数よせられているから、信頼できる情報だよ』
私がチョーカーを身につけたのは、この世界にトリップして、ティコティスに出会ってから。
いま私の首にピタリと、ひっついているチョーカーは、もともとはティコティスが持っていたアイテム。
チョーカーに はめ込まれた魔石が翻訳機になるから、異世界の言葉を知らない私に、ティコティスがくれた。
私がティコティスに手渡されたとき、魔石はたしかに混じりけのないオレンジ色をしていた。
なのに、いま鏡にうつっている私の首元に輝いている魔石は、ピンク色に変わりつつあるオレンジ色。
あきらかに他の色――ピンク――が混じっている。
いつから魔石の色が変化したのかは、鏡をみないと魔石の色を確認できないから、私は把握してない。魔石は私の首にピタリとくっついたチョーカーの中央に、はめ込まれているから。
――魔石は、持ち主がチョーカーをつけた瞬間から、石の色がピンクに変わりつつある時点までで、一番多く言葉を交わした異性を、持ち主の意中の相手なのだと、判断してしまう――
私は心臓をバクバクさせながら、となりにいるロエルに質問する。
「……ロエル、私とあなたが中庭で会ったときや、ふたりで客間で話したとき――。私がつけているチョーカーの魔石が何色だったか、おぼえている?」
ロエルの答えが気になって、私の体に緊張が走る。
彼は、はっきりとした口調で言った。
「ああ、きみのしているチョーカーの石が何色だったかならば、おぼえている。中庭で会ったときも、客間できみがこの世界についてオレに質問をしていたときも、石の色はオレンジ色だった」
「……それって、私はこのチョーカーをつけてからは、ロエルと一番多く言葉を交わしているってこと――?」
声をふるわせる私とちがい、ロエルはくちぶりは、しっかりしていた。
「そうなるだろうな」
……私はこのチョーカーをつけてから、ロエルとだけ話していたわけじゃない。
ペピートには、この客間について、そしてロエルについて話してもらった。
ラウレアーノ先生には問診してもらった。
でも、ロエルには、この世界について本当にたくさん話してもらった。
この世界の人は、「普通の人間」と言われている人でも、翼のある生物に変身することができること。
なぜ、そのように人類が進化したか――そんな話も教えてくれた。
中庭にいた時点で魔石の色が変化してしまったのならともかく、そうじゃないなら、たしかに私はロエルと一番言葉を交わしている。
『唯花、ロエル。ふたりに聞いてもらいたいことがある。今度こそ、ぼく、言葉につまったりしないで、ちゃんと伝えるよ。唯花があてはまってしまったタイプCの副作用は――。「ある行動」をしないと何日も眠れなくなっちゃう。その反動で今度は何日も眠りつづけちゃうんだっ!
おまけに、起きているときは、とても熱っぽくて全身がフラフラ。体が熱くてたまらなくなる。……それに、対処するために必要な、「ある行動」とは――』
ある行動をしないと、不眠になったり、寝すぎになったり。
それはたしかにとっても困る――。
慣れない土地で健康サイクルまで不規則になってしまったら、そのうち、体のさまざまな部分に不調がでてきてしまいそう。
そして、「とても熱っぽくて全身がフラフラ」って……。
認めるのは怖いけど、いまの私の状態に、すでに、あてはまっているような気がする。
さっきから声がふるえっぱなしの私だけど、ティコティスに質問したいって気持ちは止められない。
気づくと私は、ティコティスの説明に割って入っていた。
「……その、『ある行動』を実行したら、副作用は本当に おさまってくれるの?」
『よせられた報告によると、ちゃんとおさまるそうだよ。毎日、この対処法を実行すれば、3ヶ月ちょっとでチョーカーは持ち主の首から無理なくはずれるみたい。そしたら、通訳が必要なときだけ、チョーカーをつければいいし、長時間身につけていても、もう副作用は起きなくなるって』
――毎日、この対処法を実行すれば、3ヶ月ちょっとでチョーカーは持ち主の首から無理なくはずれる――
一瞬、ティコティスの答えに、よかったぁ! ちゃんと対策方法がわかっているんだ……って気持ちになった。
……でも。対処法が、ごく普通のものなら、ティコティスは言いよどんだりしないはず。
きっとすぐに『――――という行動をしてねっ!』と教えてくれる気がした。
ティコティスが何度も前置きしたり、くちごもったりするからには――「ある行動」とは、普通の行動では、ない気がする。
見えない不安から、私は声ではなく体がふるえてしまう。
こきざみに動く手を、となりにいるロエルが、そっとにぎってくれた。
『しっかりしろ。オレがついている』と大きな手がささやいているようだった。
さっき私のおでこにふらたのが、今日だけで2度目だったけど……。この館の室内で、ロエルが自分の手を私の手にかさねたのは、これで3度目になるはず。
たしか、このチョーカーには副作用があることをラウレアーノ先生から告げられたあと、とても動揺してしまった私の手をロエルは にぎってくれた。
ロエルと気球の話をしたあとも、私の手をにぎってくれた。
彼の手はいつも大きくてあたたかい――。
ロエルの、困った者をみすごせないやさしさを、彼の手のぬくもりから感じる。
そのおかげで、私の体のふるえは少しおさまってくれた。
でも、ロエルからみて、いまの私はきっと、まだまだあきらかに動揺を引きずっているようにみえたのかもしれない。
ロエルは自分の手を私の手に添えたまま、私に代わってティコティスに聞いた。
「……『ある行動』とは、いったいどんな行動なんだ」
単刀直入なロエルの質問に、ティコティスは答える。まるで少しまえまで言いよどんでいた反動のように、早口で一気に。
『「ある行動」とはっ、「タイプCの副作用が発症した魔石の持ち主は――魔石が恋人と判断した者に、100回キスされること」なんだーっ!』
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