幻影文庫

ささがき

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ガラテアの肖像

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「魂を込める、という考え方がありますね」
 広い展示室に解説員の声が響く。
「昔の人は、技をこらし精密に作った絵には魂がこもると考えていました」
 壁面いっぱいに今回の企画展で集められた肖像画が飾られている。
「ここに飾られた絵は、完成時にモデルとなった人物にはない特徴が加えられています。たとえば」と、 解説員は目の前の肖像画の目元の部分を指した。
「こちらの人物には本来はないほくろが最後に描き加えられています。そっくりに描くと魂を取られてしまうと考えられていたためです」
 確かにほくろがあれば、印象はかなり変わるだろう。
 横には習作として描かれたラフスケッチも飾られているが、そちらにはほくろは描かれていない。
「次の展示室には今回の企画の本題である、そのような慣習ができる前の傑作が飾られています。」
 解説員の声を後ろに、次の部屋に進む。
 飾られた肖像画はどれもため息をつくほどの美しさだ。
 まるで生きているかのような。
 肖像画の少女と、目が合った気がした。
 画家はこの美しさを永遠に閉じ込めておきたいと思ったのだろう。
 その気持ちは分かる気がした。
 とてつもない価値のついた絵は、これからも元の状態を可能な限り保って大切に飾られるはずだ。
 元の絵自体が劣化するか、何かのはずみで絵が欠損する日まで。
 そういえば美術館につきものの怪談として、人がいないのに声がするだとか、彫像が動き回るだとかいう話がよくあるが…
「まさかね」

 写実的な絵画が禁止・焼き捨てられてから数世紀。
 この「特別な」企画展では、国の捜索を逃れた品々が極秘に集められ、愛好家だけに公開されている。
 観覧者たちは夜闇に紛れて帰っていった。

 秘密の美術館のフロアには、今晩も絵の破棄を願う嘆きの声が響いている。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

【ガラテア】:自作の彫像に恋焦がれる男の願いを神が叶え、人間となった彫像。
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