【完結】ホラー乙女ゲームに転生しちゃった…

天冨 七緒

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狩猟大会

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狩猟大会当日。

狩猟大会には不釣り合いと思える格好で私は参加している。
森の中というのに女性は皆がドレスを着ているのは、事前にこの場所まで道が整備され馬車が通れるようになっており、安全が確保されている場所にテントが設営されているからだ。

全てはゲーム通り。

そして、これから男性達は狩猟に行く前に願掛けとして、令嬢達から刺繍入りのハンカチを頂く時間となる。
婚約者がいる者は婚約者から、婚約者がいない者は目をギラつかせながら令嬢達を意識している。
ハンカチを貰えたかどうかで、その後の狩猟への意気込みも変わる。
喩えハンカチを貰えなかったとしても、狩猟大会で優勝さえすれば気になる令嬢へアピールすることができる。

狩猟大会はヒロインだけのイベントではなく、参加する女性・男性全てのイベントであり皆がかなり気合いが入っている。

人目につかないよう人混みに隠れていると、男性達が女性に何かを渡している光景が目についた。
ゲームの枠から出た恋愛イベントが、現実にはあるようだ。
恋人同士なのか、女性ははにかみながら男性から何かを受け取っている。

私はその他大勢に紛れていたが、令嬢達は婚約者のいない素敵な男性に二人きりでハンカチを渡すタイミングを見計らっているのか、皆が散り散りになっていた。
私は誰かにハンカチを渡す予定はなかったので開会式が始まるまで、テントで過ごそうと歩き出した時、ある人物達に視線を奪われた。

王子と婚約者である悪役令嬢だ。

今のところ二人の仲は良さそうに見える。
「本怖乙女」の王子と悪役令嬢はヒロインが現れるまでは仲が良い設定だ。
私に聖女の力が覚醒しなければ、周囲が騒ぐこともなく二人の幸せは続いていたのだろう。突然現れた聖女の存在に、ざわめきたち纏まっていた貴族達は分裂し始めてしまう。

「王家で聖女を保護するべき」と囁かれ、公爵令嬢との婚約は今一度考え直すべきと議題に上がる程。その言葉は子供を通じて本人にも届いてしまい、その結果…悪役令嬢が誕生してしまう。公爵令嬢はヒロインさえ現れなければ悪役令嬢になんてならずに、幸せな王妃になっているような人物に見える…私にはそう見えた。
後から現れ、弱っている人の心の隙間を突くようなやり方をする女は嫌いだ。私はそんな女にはならない、なりたくない。

あそこにいるのは悪役令嬢になる前の、公爵令嬢。
王子にハンカチを渡し、代わりに何かを受け取り幸せそうな笑顔を向けている。

二人の仲は良好なんだと確認したが、次第に不穏な雰囲気に…

私は何となく隠れてしまったが、それが余計に目立ったのか二人が振り向く姿を視界の片隅で捉えた。気付いていないふりをして急いでその場を離れ、人気のない場所を探すも至るところでハンカチを贈る光景が目についてしまう。覗きは良くないと思い、その場を離れテントに入った。逃げた先のテント内も、気まずい雰囲気が漂っているように感じた。

テント内は貴婦人達の攻防が既に始まっており、婚約者のいない高位貴族の令息に自身の娘はどうかという親のアピール合戦が白熱していた。
心休まる場を見つける事が出来ずに再びテントから離れることになり、テントと人混みを避けていると、いつの間にか林まで足を踏み入れていた。

開会式が始まるまでは、この場で時間を過ごすことに決めた。

「…あっ君っ」

木に寄りかかり隠れているつもりだったが、見つかり声を掛けられてしまった。

「…はぃ…ぁ…」

観念して姿を見せると、そこにいたのはクリストフ王子だった。

「こんな場所で何をしているんだ?」

好感度を上げていない今の状態の私は…王子から不審者と思われているのでは?

やばっ…このゲームのバットエンドって知らないんだけど…
どんな終わりなんだろうか?
このゲームのヒロインって…バットエンドだと死んだりする?

「…あっえっと…休憩…です」

言い訳が苦しいと分かっていても、これしか思い浮かばなかった。
私としては、嘘は吐いていない。

「…こんな場所でか?」

テントが用意されているのに、人気の無いこんな場所で休憩と言う私は完全に王子に不審人物として疑われていた。

「えっと…」

なんといえば良いのか…テント内は貴婦人達による攻防が…なんて言えない。

「君は確か…男爵の養子になったんだよな?こういう場は慣れないか?」

「ぁっ…はぃ…」

そうだ、王子は学園入学の時には既に私の環境のことを把握していた。
最近下位貴族になったばかりの元平民の情報まで把握している王子に驚いたのを思い出した。
これはヒロインだからではなく「王子の記憶力が良いからだ」と自分の都合の良いように解釈しないよう言い聞かせた。
王子は、学園での出会いを覚えていて気を遣ってくれたに過ぎず、私は王子の「特別」ではない。

「今日はそこまで爵位を気にする場ではない」

「…はぃ」

私の立場を考え言ってくれたのだろうが、上の立場の者と下の立場の者では「無礼講」の意味も違ってくる。未だに貴族社会というものがよくわからない私には、何が失礼に当たるのか判断がいまいち。粗相をする前に人の多いところは避けたい、というのが本音だ。

「…そうだ、これを」

「これは…?」

私が煮えきらない態度だった事で、王子が話題を変えてくれた。
王子から差し出されたのは、小さな袋。

「これは、獣にとって忌避効果のある匂袋だ」

「…忌避効果のある匂い袋…ぇっ?受け取れません、これから狩猟に行くのに危険じゃないですかっ」

そんな物があるのを初めて知り、咄嗟に受け取ってしまったが冷静になると、とても大事な物だと気付き王子に突き出した。

「ふっ、これから狩猟に行くのに忌避効果のある匂袋を持っていては狩猟にならないだろ?」

「(確かに)…では、何故それを?」

「私に危険があっては大変だと家臣の一人に手渡された。私の為に用意してくれたのに本人に突き返すのも忍びなくて受け取ったが、私も狩猟に参加するので困ったいたんだ」

あっ、狩猟大会だから獣が現れてもおかしくない、そこで王子に何かあったら大変だということで用意されたのか…
そんな事聞いちゃったら尚更私が持つ訳にはいかない。

「お返しします…狩猟大会は危険なので、欠席することは出来ないんですか?」

王子がわざわざこの様な危険な催しに参加する必要はないのでは?
会場まで足を運び、参加者の意欲を高めるだけで充分なのではないのかと考えてしまう。

「…狩猟大会は貴族の娯楽のように見えるかもしれないが、実際は残った獣を村に近付かせないためなんだ。「人間に近付くと処分される」獣にそう理解させるために行う。村の人間が襲われたりすれば貴族の生活にも支障を来すというのに、直接自身に被害が出ない限り平民の為に動こうとする貴族は少ない。そんな貴族を誘導するのが私の役割なんだ。なので、私も出来る限り狩猟大会など率先して参加するようにしている」

知らなかった…狩猟は紳士のスポーツと言われていたから、貴族の娯楽としか考えていなかった。

…目の前にいる人はまだ十五歳の学生というのに、王族として国を…貴族を導こうとしている。王族に生まれ致し方なく過ごすのではなく、思考を巡らせ自ら積極的に動く。
こんな姿見せられたらちゃったら…ヒロインが惚れてしまうのは仕方がない。
私も…

「…だとしても、私が受け取るわけには…」

これを受け取るのは私ではなく、婚約者に…ちゃんと距離をおかないと…

「婚約者には既に渡してある。その時にこの匂袋の件を相談したんだが、断られてしまったんだ。なので困っていたんだ…ん?…もしかして既に誰かから貰っているのか?それとも、これから貰う予定があるのか?」

えっ?これは男性から女性に贈るものなんですよね?そんな予定もなければ、相手もいない。

「いえ…そのような予定は…ないです…」

「なら、今日一日これを預かってもらえるか?」

「預かる……今日…一日?」

「あぁ明日、学園で返してほしい」

一日だけ…一日だけなら…

「…わかりました」

私は手元にある匂袋を握りしめた。

「ありがとう」

王子は笑顔で去って行った。
その後ろ姿は、私になんの未練もない。
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