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クリストフ王子の背中を見送った後、いつまでもここに隠れているわけにもいかず私もテントに戻ることに。
隠れていても見つかってしまったので、ここにいても意味がないと判断した。

「貴方、ちょっとよろしいかしら?」

心臓を貫くような鋭い声に、体がビクンと反応した。
手のひらの匂袋から視線をあげれば、一番関わりたくない人物が目の前にいた。

「なぜ貴方がそれを手にしているの?」

目の前の人物も私のよく知っているゲームの登場人物。
クレアベール・ジョバルディー公爵令嬢、クリストフ王子の婚約者てあり「本怖乙女」の最大の悪役令嬢。

「私の声が聞こえていないのかしら?」

「あっ…聞こえてます…これは…」

一番恐れていた悪役令嬢との初対面は最悪な出会いとなってしまった。

「貴方…その匂袋…」

悪役令嬢は私の手の中にある匂袋を見て顔を歪めた。

なんて言おう…王子から預かりましたって本当のことでも婚約者が聞いたら嫌な内容だよね?
嘘は吐きたくないが、真実も口にできない…

「こ…れは…」

バシン

いきなり手を叩かれ、持っていた匂袋が地面に落ちてしまった。

「あの方がどなたか、存知てないのかしら?」

匂袋を拾う前に距離を詰められ、威圧的に質問される。
先程王子には名乗られてしまったので、知らないとは言えない…

「…ク…リストフ…王子だと…先程聞きました」

ゲームの登場人物なのに、目の前にするとかなりの威圧感があった。

「クリストフ王子に婚約者がいることは知っているのかしら?」

「(ゲームでは知っているが、本人から直接はまだ)…聞いて…おりません」

なんだろう…客観的に見て、私は悪いことをしているの? 
相手が悪役令嬢ということもあり、ゲーム中のヒロインのように一方的に責められている構図になっているが…納得できない。
私は匂袋を預かっているのは、婚約者である貴方が拒絶したからで貴方が受け取っていれば私とはなんの接点もなかったはずなのに…

「そう…私がクリストフ王子の婚約者、クレアベール・ジョバルディー公爵令嬢です」

貴族社会では、爵位の高い者から名乗られたら自身も名乗らないわけにはいかない。

「わ…た…しは…ェレナ・ワンダーソンです…」

自身の声が震えているのがわかるも、震えを止める事が出来なかった。

「貴方は貴族なのでしょう?でしたら、乞食と勘違いされないように安易に他人から物を頂くのはよしなさい」

乞食…酷い言い方…

…私は頂いたわけではない、そこは理解しているし一度は断っている。
なぜ私が受け取ったのか理由を聞いてほしい、婚約者の貴方が断ったので私が王子から預かっていただけと言えるのに…どうしてこんな酷い言い方をされなきゃいけないの?

悔しくて悪役令嬢に目線を合わせると、見下されているような目付きだった。

「この匂袋は、クリストフ王子に狩猟大会には積極的に参加したいからその間だけでも預かっていてほしいと渡されただけで、頂いたわけではありません」

悪役令嬢に対して怖いという感情はあったが、悔しくて拳を握りながら意を決して応えた。

「…上手い言い方ね…貴方、落ちた物をクリストフ王子に渡すことは許されないわ。そのまま捨てておきなさい」

クレアベール・ジョバルディーはそれだけ言い、テントのある方へ向かった。
今まで話していた私の事など忘れ、振り向くことなく消えていく。
その姿はゲーム中の悪役令嬢そのものだった。
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