【完結】ホラー乙女ゲームに転生しちゃった…

天冨 七緒

文字の大きさ
14 / 52

削られていく

しおりを挟む
あれから夫人を筆頭に様々な人から、根掘り葉掘り質問された。
魔力のことから養女となった経緯に、両親のこと。
目の前の集団と話しているが、遠巻きに見ている人間も聞き耳をたてているのに気付き、丁寧に失礼のないように事実を口にした。
貴婦人達は私が平民で、森の中で生活をしていたことを知ると扇子で口許を隠しながら隣の人達と噂話をしだす。
聞こえはしないが、私に対して良くない感情を抱いているのは彼らの目が物語っていた。

どのくらい時間が経ったのかわからない質問責めにもようやく終わりを迎えたのは、外が騒がしくなり男性達が帰って来た時だった。
誰がどんな大物を捉えたのか、夫人達は私のことなど忘れ一気に男性達へと意識が向かった。

「貴方」

この人声を聞いただけで、全身を捉えられたように体が強ばる。

「はひっ」

緊張して変な声になってしまった。
ゆっくり振り向くとそこにいたのは予想通りのジョバルディー公爵令嬢がいた。先ほどのキツイ言葉は私を守るためとフィリップス子爵令嬢に聞かされるも、実際はわからない。
判断するには材料が少なすぎる。
なので今回何故私は呼び止められ、何について話があるのかで公爵令嬢が悪役なのかどうかを判断することにした。

「正直に話すのは素晴らしいことよ、だけど貴方は既に貴族なのだから過去の事を事細かに話す必要はないわ。貴族の質問は上手に交わし、養女として受け入れてくれた男爵の名誉を傷つけることのないようにしなさい」

「…はい」

ジョバルディー公爵令嬢はそれだけ言って去って行った。
平民を軽視する貴族に、過去平民だった事を話す必要はないと言われたように感じた。
悪役令嬢は悪い人ではないのかもしれない。
そんなことを考えていると、いつの間にか最後の一人となりテントを後にした。

外に出ると三箇所に人の群れができていた。
獲物を囲む人達と、狩りで興奮が収まらない男性達、そしてクイーンになりたい女性達。
私は少し離れた場所で、これ以上話題に上がらないようにした。

今回の勝者はサリモン・フィルデガード、彼はクリストフ王子の側近の一人で攻略対象の一人。
護衛を任されている人物だが、狩猟などでは王子より存在を発揮する。
猪突猛進な所もあり、勝負事になると全力で挑み王子に勝つこともしばしば…
それでも王子が傍に置くのは、彼が直球な性格で王族以外に寝返ることがないと信頼しているからだ。

そんな彼が獲物を贈った人物、今回のクイーンは彼の婚約者であるエスメラルダ・ナターシャル伯爵令嬢。

サリモンを選んだ時のライバル令嬢である。
ゲーム中の彼女は私に強く当たることはなく、婚約者にしつこいくらい理由を尋ねているのが印象的だった。
サリモンは堅っ苦しい話を嫌い、そんな婚約者を煩わしく思っているように見えた。
彼はいつも単純明快な人だ。

彼がどれだけの量を狩ったのか気になり確認すると、四本の白い…フェレット?と鹿を一頭に熊も一頭仕留めていた。
大抵の人は小動物三匹だったり大物一頭を仕留めることができれば充分なところ、彼は大物二頭に小動物四…ん?三?
仕留められた獲物をよく見ると、真っ二つになったフェレットだった。
狩猟は基本弓矢で行うものだと思っていたが、サリモンは剣で仕留めるのを得意とする。
素早いフェレットを剣で真っ二つに出来てしまうのは、彼が並大抵の騎士ではないと判断できる。

そんなサリモンにも常に競っている怪力の男がいた。
彼は常にサリモンと良い勝負をして今回こそはと気合いをいれていたが、結果は惨敗。
小動物を四匹捕らえ大物を狙っていたところ、獣の返り血が目に飛び視力が回復するのに時間が掛かり後半はまともな狩猟が出来なかった。
大物も逃がしてしまったとか、私の知らないところで狩猟大会には様々なドラマが生まれていた。

そして、今回の狩猟大会優勝者とクイーンが発表されると今度は捕らえた獲物の料理が始まる。
収穫された全ての獲物を一ヶ所に集めると、獲物の塔が出来ていた。

多くのテントがありながら一つのテントに集まっていたのは、テント毎に用途が違っていたことを知った。
貴族の休憩場以外のテントは動物の皮を剥ぎ、更に別のテントでは調理を行う場、騎士専用に医療班と様々だ。
狩猟大会は獲物を捕らえて終わりではなく、その後この場にいる貴族達と共に食事をするまでが大会らしい。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...