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聖女の役割
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聖女と認定されてから騎士が呼ばれ、私専属の護衛騎士が任命される。
移動の際は常に彼らと行動するようにと念を押され「はい」と強制的に頷かされた。
「男爵、少し残ってもらっていいか?」
「はい、勿論です」
国王陛下の言葉に拒絶など出来るはずもなく、男爵は肯定した。
「男爵と話している間クリストフ、エレナ嬢を庭園に案内してあげなさい」
「はい。エレナ嬢、庭園の花が見頃なんだ、私が案内するよ」
「…はぃ、お願いします」
いつの間にか私は、王子との庭園散歩イベントに成功してしまった…
縋るようにお父様を見ても優しい笑みで頷かれ、私は王子の案内で庭園を散歩している。
公爵令嬢という婚約者がいる王子と二人で散歩しているなんて、誰かに見られたら面倒でしかない。
王宮は誰でも入れる場所ではないが、誰も入れない場所でもない。庭園は規制がないので、貴族であれば許される場所だ。
こんなところをあの人に見られたら…と思うと自然と王子と距離を取って歩いていた。
「先程から暗い顔だな。聖女と認定されて混乱しているのか?」
「えっ?あっはい…」
この状況を悪役令嬢に知られてしまえば、嫌がらせされるのではないかと考えてしまい、つい顔に出してしまっていた。
「ワンダーソン令嬢にとっては「聖女」という存在は不安で重荷と感じるかもしれない。我が国には随分聖女がいない時期が続いた。その間も様々な災害や魔獣被害に見舞われるも私達は乗り越えることが出来た。だが、自身でも気付かぬうちに心に負担が掛かっている。その救いとなる存在が欲しいんだ」
「心の負担…」
「あぁ、聖女というのは類い稀な能力ばかりに目がいきがちだが、私は人々の心を救ってほしいと考えている」
心を救う…
「…私に出来るのか…」
「私に聖女としての能力は無いが、聖女を傍で支えることは出来る。我が国の心の支えになってくれないか?」
足を止め王子と向かい合い、手を差し出された。
心の支え…怪我や傷は目に見えて治った事が分かるが、心はとても難しい。治ったと思っているのは自分だけで実際は違うかもしれない…心の傷が一番難しい…それを私に出来るんだろうか…漫画やゲームの中の聖女は祈りだけで怪我や傷を治していた…あの人達は皆、心まで救っていたのだろうか…それを私は出来るのだろうか…正直なところ「私には出来ない」と断りたかったが、王子の真剣な表情を前にすると言えず…結局私は…
「…はぃ…私で…良ければ…」
王子の想いに負けて頷き、王子の手に手を重ね聖女を受け入れた…
「あっそうだ、これを…」
手を繋いでいるのが急に恥ずかしくなり、話題を変えた。
私が差し出したのは狩猟大会で王子から預かっていた匂袋だ。返せる機会が有るかもしれないと思い、持ってきていた。学園で返すところを誰かに目撃され噂になりたくなかったのだ。
「あぁ、これか…」
王子は私の手から匂袋を掴み上げ、見つめていた。
「あの…」
「この匂袋は…」
王子の言葉はそこで途切れた。
「忌避効果のある匂袋」…王子はそう言って私に渡した。匂袋を所持していたにも拘らず、私は魔獣に追いかけられた。魔獣は逃げ惑う人間を匂いではなく視覚で捉え追ってきていた可能性もあるので、効果が無いと言いきることは出来ない。だからといって、王族が手にするものなので今回の事を踏まえ念入りに調査が必要となるだろう。もしかしたら、この匂袋を製作した人はこれから…やめよう、それは私が考えることではない。
それからは綺麗な庭園をゲームの映像のように眺めながら散歩している。
私の中にゲームのように聖女の能力が本当にあるのか不思議でならない。怪我や傷だけでなく「心の支え」というのも、よく分からない。
今の私は恋愛ゲームと言うより、聖女育成ゲームなっている気がしてなら無い。
庭園を見終わっても男爵は現れないので、王宮には池も存在していると言うのでそちらを案内された。
王子とあまり親しくならないように会話を極力控えているので、とっても気まずい。沈黙が重く、ひたすら遠くを見ているしかなかった。
池を案内されると、国王陛下に呼ばれていた男爵が先に池を見つめながら佇んでいた。
「お父様?」
声を掛けると男爵はゆっくりと振り向く。
「あぁエレナ…庭園はどうだった?」
男爵は作ったような笑みで私に尋ねてくるも、心ここにあらずという会話だった。
「とても美しかったです。お父様は国王陛下との用は終わったのですか?」
「…あぁ」
「では、男爵家へ?」
「待ってくれ」
これで帰れると期待するも、少し慌てたような王子に引き止められた。
「どうかされましたか?」
「男爵と少し話したい、良いか?」
良いか?と男爵というより私に許可を得たいように聞こえた。
「私は構いません」
「そうか、ありがとう…ん?ジョルジオ」
クリストフ王子の目線を辿ると王子に似ている人物がいた。
「兄さん?」
兄さん…ということはクリストフ王子の弟。第二王子のジョルジオ王子、彼もまた攻略対象の一人。
「ジョルジオ、こちらはワンダーソン男爵とエレナ嬢だ」
「ロナルド・ワンダーソンと申します。ジョルジオ王子、お目にかかれて光栄です」
「娘のエレナ・ワンダーソンです」
男爵に続き私も名乗った。
「クリストフ兄さんの弟のジョルジオです」
クリストフ王子とジョルジオ王子はとても似ているので、きっと両親は同じだろう。王族特有の複雑さは二人から感じられなかった。
「ジョルジオ、エレナ嬢は先程聖女と認定された」
「…聖女…ですか?」
ジョルジオ王子は目を見開き私を凝視した。
「あぁ。これからエレナ嬢は王宮や教会にも足を運び、顔を会わせることもあるだろう。護衛騎士が付き、私も出来る限り補佐するが何かあればジョルジオも頼む」
「はい」
「それと、これから男爵と話したいんだ。エレナ嬢を頼めるか?」
「はい、では…庭を…」
「庭園は案内した、訓練場にサリモンがいるはずだ。エレナ嬢が聖女と認定されたことを伝えてくれ」
私が動かなくても、攻略対象と出合ってしまう運命…
「はい。エレナ嬢、訓練場まで案内します」
「…はい…お願いします…」
私は男爵とクリストフ王子と別れ、ジョルジオ王子と共にサリモンに会いに訓練場へ向かうことに…
移動の際は常に彼らと行動するようにと念を押され「はい」と強制的に頷かされた。
「男爵、少し残ってもらっていいか?」
「はい、勿論です」
国王陛下の言葉に拒絶など出来るはずもなく、男爵は肯定した。
「男爵と話している間クリストフ、エレナ嬢を庭園に案内してあげなさい」
「はい。エレナ嬢、庭園の花が見頃なんだ、私が案内するよ」
「…はぃ、お願いします」
いつの間にか私は、王子との庭園散歩イベントに成功してしまった…
縋るようにお父様を見ても優しい笑みで頷かれ、私は王子の案内で庭園を散歩している。
公爵令嬢という婚約者がいる王子と二人で散歩しているなんて、誰かに見られたら面倒でしかない。
王宮は誰でも入れる場所ではないが、誰も入れない場所でもない。庭園は規制がないので、貴族であれば許される場所だ。
こんなところをあの人に見られたら…と思うと自然と王子と距離を取って歩いていた。
「先程から暗い顔だな。聖女と認定されて混乱しているのか?」
「えっ?あっはい…」
この状況を悪役令嬢に知られてしまえば、嫌がらせされるのではないかと考えてしまい、つい顔に出してしまっていた。
「ワンダーソン令嬢にとっては「聖女」という存在は不安で重荷と感じるかもしれない。我が国には随分聖女がいない時期が続いた。その間も様々な災害や魔獣被害に見舞われるも私達は乗り越えることが出来た。だが、自身でも気付かぬうちに心に負担が掛かっている。その救いとなる存在が欲しいんだ」
「心の負担…」
「あぁ、聖女というのは類い稀な能力ばかりに目がいきがちだが、私は人々の心を救ってほしいと考えている」
心を救う…
「…私に出来るのか…」
「私に聖女としての能力は無いが、聖女を傍で支えることは出来る。我が国の心の支えになってくれないか?」
足を止め王子と向かい合い、手を差し出された。
心の支え…怪我や傷は目に見えて治った事が分かるが、心はとても難しい。治ったと思っているのは自分だけで実際は違うかもしれない…心の傷が一番難しい…それを私に出来るんだろうか…漫画やゲームの中の聖女は祈りだけで怪我や傷を治していた…あの人達は皆、心まで救っていたのだろうか…それを私は出来るのだろうか…正直なところ「私には出来ない」と断りたかったが、王子の真剣な表情を前にすると言えず…結局私は…
「…はぃ…私で…良ければ…」
王子の想いに負けて頷き、王子の手に手を重ね聖女を受け入れた…
「あっそうだ、これを…」
手を繋いでいるのが急に恥ずかしくなり、話題を変えた。
私が差し出したのは狩猟大会で王子から預かっていた匂袋だ。返せる機会が有るかもしれないと思い、持ってきていた。学園で返すところを誰かに目撃され噂になりたくなかったのだ。
「あぁ、これか…」
王子は私の手から匂袋を掴み上げ、見つめていた。
「あの…」
「この匂袋は…」
王子の言葉はそこで途切れた。
「忌避効果のある匂袋」…王子はそう言って私に渡した。匂袋を所持していたにも拘らず、私は魔獣に追いかけられた。魔獣は逃げ惑う人間を匂いではなく視覚で捉え追ってきていた可能性もあるので、効果が無いと言いきることは出来ない。だからといって、王族が手にするものなので今回の事を踏まえ念入りに調査が必要となるだろう。もしかしたら、この匂袋を製作した人はこれから…やめよう、それは私が考えることではない。
それからは綺麗な庭園をゲームの映像のように眺めながら散歩している。
私の中にゲームのように聖女の能力が本当にあるのか不思議でならない。怪我や傷だけでなく「心の支え」というのも、よく分からない。
今の私は恋愛ゲームと言うより、聖女育成ゲームなっている気がしてなら無い。
庭園を見終わっても男爵は現れないので、王宮には池も存在していると言うのでそちらを案内された。
王子とあまり親しくならないように会話を極力控えているので、とっても気まずい。沈黙が重く、ひたすら遠くを見ているしかなかった。
池を案内されると、国王陛下に呼ばれていた男爵が先に池を見つめながら佇んでいた。
「お父様?」
声を掛けると男爵はゆっくりと振り向く。
「あぁエレナ…庭園はどうだった?」
男爵は作ったような笑みで私に尋ねてくるも、心ここにあらずという会話だった。
「とても美しかったです。お父様は国王陛下との用は終わったのですか?」
「…あぁ」
「では、男爵家へ?」
「待ってくれ」
これで帰れると期待するも、少し慌てたような王子に引き止められた。
「どうかされましたか?」
「男爵と少し話したい、良いか?」
良いか?と男爵というより私に許可を得たいように聞こえた。
「私は構いません」
「そうか、ありがとう…ん?ジョルジオ」
クリストフ王子の目線を辿ると王子に似ている人物がいた。
「兄さん?」
兄さん…ということはクリストフ王子の弟。第二王子のジョルジオ王子、彼もまた攻略対象の一人。
「ジョルジオ、こちらはワンダーソン男爵とエレナ嬢だ」
「ロナルド・ワンダーソンと申します。ジョルジオ王子、お目にかかれて光栄です」
「娘のエレナ・ワンダーソンです」
男爵に続き私も名乗った。
「クリストフ兄さんの弟のジョルジオです」
クリストフ王子とジョルジオ王子はとても似ているので、きっと両親は同じだろう。王族特有の複雑さは二人から感じられなかった。
「ジョルジオ、エレナ嬢は先程聖女と認定された」
「…聖女…ですか?」
ジョルジオ王子は目を見開き私を凝視した。
「あぁ。これからエレナ嬢は王宮や教会にも足を運び、顔を会わせることもあるだろう。護衛騎士が付き、私も出来る限り補佐するが何かあればジョルジオも頼む」
「はい」
「それと、これから男爵と話したいんだ。エレナ嬢を頼めるか?」
「はい、では…庭を…」
「庭園は案内した、訓練場にサリモンがいるはずだ。エレナ嬢が聖女と認定されたことを伝えてくれ」
私が動かなくても、攻略対象と出合ってしまう運命…
「はい。エレナ嬢、訓練場まで案内します」
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