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悪役令嬢には悪役でいてもらう
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ついクレアベールに対してあんな事を言ってしまった。
いつまでも続く嫌がらせに、嘘ばかりの噂、いくら真剣に取り組んでも糸口さえ掴めない聖女の能力。焦り苛立ちばかりが募っていた私の気持ちなど理解せず、正論で責め立てる口調に我慢できずに、彼女を傷付ける言葉を口にしてしまった。
叩かれた頬の痛みを手で押さえながら、彼女は私と同じくらい心が傷ついているのだろう…聖女として心を救ってほしいと言われたのに…
サリモンに肩を抱かれながら校舎を目指す。
「サリモン?」
サリモンを呼んだのはクリストフ王子だった。
「クリストフ」
「どうした?」
気まずくて、王子の顔を見ることが出来ず顔を隠していた。
「ジョバルディー公爵令嬢と少々…」
サリモンは私がクレアベールに頬を叩かれた事を目撃したとはいえ、婚約者である王子に告げ口するのは気が引けたのだろう…私も言いづらい。
「クレアと?」
クリストフ王子に顔を覗き込まれるも、目線を逸らして口をつぐんだ。
「手を外して、見せてくれないか?」
王子に言われてゆっくり手を離し、叩かれた頬を見せた。
「…クレアがしたのか?」
私は何も答えなかった。
「…サリモン」
「あぁ、ジョバルディー公爵令嬢が叩く姿を目撃した」
私の代わりにサリモンが告げだ…
「クレアが何故?」
私が余計なことを言ったのが切っ掛けである…だけど、私は何も言わなかった。
王子はクレアベールが私を叩いたこという事実が信じられずにいる。
どうして悪役令嬢の彼女をそこまで信じているの?
私には…それが悔しかった…
「…手当てを…した方がいいな…サリモン保健医まで聖女を頼む」
「あぁ」
「…クレアが何処にいるか分かるか?」
「俺達は裏庭で会った。今は…分からん」
クリストフ王子は私の事で悪役令嬢を責め立てるのだろうか?
あの人の傍に行かせたくない…
「クリストフ王子…」
「…なんだ?」
私が名前を呼ぶと、彼の顔から怒りが窺える。私の為にそこまで怒りを露にしてくれるのを嬉しく感じていた。
「…一緒に…いてもらえませんか?」
「…私は一度クレアに真実を確認する。その後、保健室に向かう」
王子はそう言ったが、悪役令嬢が正直に話すとは思えない。私の姿を見て更に信頼のおける護衛騎士まで証言したんだ、王子は既に真実に辿り着いているだろう。それでも直接悪役令嬢に確認するということは、彼女の悪事を暴き見切りを着けるため…
クレアベールも王子に問い詰められれば、自分が間違っていたことに気付くはず。これでも暴走するようであれば、没落・追放・処刑という道に進むことになる。そんな道を彼女が選ぶとは思わないが、万が一そうなったら私が助けてあげる。そして、今までの暴言を謝罪し私に感謝しなさい。
「大丈夫だ、サリモンがついている。私も確認してから直ぐに向かう」
彼の表情はヒロインによく見せる、王子スマイルだった。
「保健室へ…」
「…はぃ」
私はサリモンと二人で保健室へ行き手当てを受ける。
サリモンと共に現れた事で、私が重要人物なのではと推測した保健医は「私の方から学園側に報告しておきます」と気を使ってくれた。
その時クリストフ王子が現れ「いや、この事は私が処理するので学園に報告はする必要ない」と宣言する。
これはもしや、卒業パーティーの断罪の為のフラグなのでは?と沢山乙女ゲームしてきた私にはピンと来た。
王子がクレアベールとどんな会話をしたのか気になるが、私は黙って彼の話を待った。彼女がどんな風に語ったのか分からないので、墓穴を掘るような行為はしたくない。私が彼女を挑発したことが知られてしまうと、王子の好感度が下がり悪役令嬢との不仲が解消されてしまう恐れもある。
折角良い感じに来たのに、それは避けたかった。
「今後は私も聖女の傍に居ることにする」
王子のその言葉でクレアベールが私に暴力を振るったのを認めたか、問い詰めた結果暴力を振るった事が事実だと導いたのだろう。
漸く王子と悪役令嬢の立場が正常になったと確信した。
「クレアはまだ聖女を受け入れるのに反対らしい。きっと公爵に色々聞いているのだろう」
「…公爵…様ですか?」
何故突然公爵が出てくる?
それよりも、まだ「クレア」呼びなんですね…私の事は未だに「聖女」なのに…
「あぁ、ジョバルディー公爵が聖女は必要ないと主張している。公爵の意見を無視して王族の独断で進めてしまえば国の均衡が崩れてしまう。その事もあり、未だに公表できずにいる」
公表せずいるのは公爵が原因なのか…
確かに普通の家族より、貴族社会の親の意見って家門の代表ということになる。娘が当主の意見を覆すことは難しく、従うのが当然。クレアベールが異常なまでに聖女反対するのは父親の影響かもしれない。
なら、クレアベールが聖女を認めないのは父親の意見であって彼女本人は…って本人に直接聞いたわけではないから憶測で判断するな。
王子からそんな話を聞いてしまい、彼女を悪役令嬢にさせようとした自分が嫌になる…
惑わされるな、私が頬を叩かれたのは事実なんだ。
いつまでも続く嫌がらせに、嘘ばかりの噂、いくら真剣に取り組んでも糸口さえ掴めない聖女の能力。焦り苛立ちばかりが募っていた私の気持ちなど理解せず、正論で責め立てる口調に我慢できずに、彼女を傷付ける言葉を口にしてしまった。
叩かれた頬の痛みを手で押さえながら、彼女は私と同じくらい心が傷ついているのだろう…聖女として心を救ってほしいと言われたのに…
サリモンに肩を抱かれながら校舎を目指す。
「サリモン?」
サリモンを呼んだのはクリストフ王子だった。
「クリストフ」
「どうした?」
気まずくて、王子の顔を見ることが出来ず顔を隠していた。
「ジョバルディー公爵令嬢と少々…」
サリモンは私がクレアベールに頬を叩かれた事を目撃したとはいえ、婚約者である王子に告げ口するのは気が引けたのだろう…私も言いづらい。
「クレアと?」
クリストフ王子に顔を覗き込まれるも、目線を逸らして口をつぐんだ。
「手を外して、見せてくれないか?」
王子に言われてゆっくり手を離し、叩かれた頬を見せた。
「…クレアがしたのか?」
私は何も答えなかった。
「…サリモン」
「あぁ、ジョバルディー公爵令嬢が叩く姿を目撃した」
私の代わりにサリモンが告げだ…
「クレアが何故?」
私が余計なことを言ったのが切っ掛けである…だけど、私は何も言わなかった。
王子はクレアベールが私を叩いたこという事実が信じられずにいる。
どうして悪役令嬢の彼女をそこまで信じているの?
私には…それが悔しかった…
「…手当てを…した方がいいな…サリモン保健医まで聖女を頼む」
「あぁ」
「…クレアが何処にいるか分かるか?」
「俺達は裏庭で会った。今は…分からん」
クリストフ王子は私の事で悪役令嬢を責め立てるのだろうか?
あの人の傍に行かせたくない…
「クリストフ王子…」
「…なんだ?」
私が名前を呼ぶと、彼の顔から怒りが窺える。私の為にそこまで怒りを露にしてくれるのを嬉しく感じていた。
「…一緒に…いてもらえませんか?」
「…私は一度クレアに真実を確認する。その後、保健室に向かう」
王子はそう言ったが、悪役令嬢が正直に話すとは思えない。私の姿を見て更に信頼のおける護衛騎士まで証言したんだ、王子は既に真実に辿り着いているだろう。それでも直接悪役令嬢に確認するということは、彼女の悪事を暴き見切りを着けるため…
クレアベールも王子に問い詰められれば、自分が間違っていたことに気付くはず。これでも暴走するようであれば、没落・追放・処刑という道に進むことになる。そんな道を彼女が選ぶとは思わないが、万が一そうなったら私が助けてあげる。そして、今までの暴言を謝罪し私に感謝しなさい。
「大丈夫だ、サリモンがついている。私も確認してから直ぐに向かう」
彼の表情はヒロインによく見せる、王子スマイルだった。
「保健室へ…」
「…はぃ」
私はサリモンと二人で保健室へ行き手当てを受ける。
サリモンと共に現れた事で、私が重要人物なのではと推測した保健医は「私の方から学園側に報告しておきます」と気を使ってくれた。
その時クリストフ王子が現れ「いや、この事は私が処理するので学園に報告はする必要ない」と宣言する。
これはもしや、卒業パーティーの断罪の為のフラグなのでは?と沢山乙女ゲームしてきた私にはピンと来た。
王子がクレアベールとどんな会話をしたのか気になるが、私は黙って彼の話を待った。彼女がどんな風に語ったのか分からないので、墓穴を掘るような行為はしたくない。私が彼女を挑発したことが知られてしまうと、王子の好感度が下がり悪役令嬢との不仲が解消されてしまう恐れもある。
折角良い感じに来たのに、それは避けたかった。
「今後は私も聖女の傍に居ることにする」
王子のその言葉でクレアベールが私に暴力を振るったのを認めたか、問い詰めた結果暴力を振るった事が事実だと導いたのだろう。
漸く王子と悪役令嬢の立場が正常になったと確信した。
「クレアはまだ聖女を受け入れるのに反対らしい。きっと公爵に色々聞いているのだろう」
「…公爵…様ですか?」
何故突然公爵が出てくる?
それよりも、まだ「クレア」呼びなんですね…私の事は未だに「聖女」なのに…
「あぁ、ジョバルディー公爵が聖女は必要ないと主張している。公爵の意見を無視して王族の独断で進めてしまえば国の均衡が崩れてしまう。その事もあり、未だに公表できずにいる」
公表せずいるのは公爵が原因なのか…
確かに普通の家族より、貴族社会の親の意見って家門の代表ということになる。娘が当主の意見を覆すことは難しく、従うのが当然。クレアベールが異常なまでに聖女反対するのは父親の影響かもしれない。
なら、クレアベールが聖女を認めないのは父親の意見であって彼女本人は…って本人に直接聞いたわけではないから憶測で判断するな。
王子からそんな話を聞いてしまい、彼女を悪役令嬢にさせようとした自分が嫌になる…
惑わされるな、私が頬を叩かれたのは事実なんだ。
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