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現実は恋愛小説のようにはいかないのよ
現実は恋愛小説のようにはいかないのよ
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「アンナ様、それはどういう事でしょうか?」
冷静を保ちながらクローディアが質問する。
「私の母はアルドリット公爵家の使用人として働いていました。ある時から旦那様である公爵と親密に……恋仲になったと。二人の関係を不審に思った夫人に関係が知られてしまい、夫人から守る為に母を逃がしてくれたと。公爵様には内緒でしたが、母のお腹には私がいたんです。私は、公爵様の娘のアンナです」
招待客の全員が、公爵の言葉を待つ。
「君はもしかして……ローズの娘か?」
「はい。私の母の名はローズです。やっぱり、私の父は公爵様だったんですね」
嬉しそうにするアンナ。
「僕も、アンナから話を聞いた時は驚いた。だが忙しくしているアルドリット公爵に事実を伝えるには、今日しかないと思ったんだ」
クローディアの誕生日にアンナが公爵の子供だと宣言するのは今日しかないと宣言するアイザック。
二人の衣装はアイザックの髪と瞳の色。
平民のアンナが用意できるものではない。
アイザックが準備したのだろう。
婚約者には何も送らず、エスコートもせず遅れて登場。
これでは誰が婚約者なのか分からない。
「アンナと言ったか?」
「はい」
公爵に期待を込めた視線を送るアンナ。
「君は勘違いをしている」
「勘違い? 何のことでしょうか?」
「私は、君の父親ではない」
「嘘です。母が、父は貴方だと」
「……ローズは可哀想な人だった」
「可哀想?」
「ローズはある時、買い出しの帰りに暴漢に襲われてしまった。それからのローズはみていられない程衰弱していき、私は休暇は与えた。その後、部屋から出ることが出来なくなってしまったと報告を受け、病院を紹介し今後の生活に十分な金額を渡した。回復し、仕事復帰できるようならいつでも戻ってきていいと使用人を通して話したこともある」
「……嘘です。そんな事……私を娘と認める事がそんなに嫌なんですか?」
「では、聞くがどうしてそこまで私を父だと断定できる?」
「母の言葉です」
「それ以外には? 私との関係が記された手紙を所持しているとか、公爵家との繋がりを示すような指輪やらネックレスを持っているなど確実な証拠はあるのか?」
「それは……ありません……ですがっ」
「ローズを責める事はしない。あの事件は酷いものだった。君に父親が犯罪者とは言いたくないのか、私だと空想を作り上げることで精神が保たれているのであればそれで構わない。だが、君には真実を伝えておく。私は君の父親ではない」
公爵は断言する。
「そんな……嘘よ……だって……」
「では聞くが、私と君に似ているところはあるか? 髪の色や瞳の色。何でもいい」
アンナはピンク色の髪に緑色の瞳。
公爵は銀色の髪に青い瞳。
顔のつくりも似ていない。
二人が親子と言うには似ていなさすぎる。
「嫌よ……だって……それだとアイザックと結婚出来ない……」
「それはどういう意味だ?」
動揺し口走ってしまった事にアンナ黙り込む。
公爵はアイザックに視線を向ける。
アイザックはアンナから『自分はアルドリット公爵の娘』と聞き、信じたのだろう。
違うとは夢にも思わず、自身のパートナーとして参加させた。
婚約者のエスコートもせず、別の女性に対になるようなドレスを贈り登場。
そして、アンナの発言。
二人が何を企んでいたのか容易に想像できる。
だが、失敗した。
「はぁ……体調が悪いようだな。もう、帰るといい。ローズを一人にすると心配だろう。アイザック君、送ってやりなさい」
「いや、でも僕は……クローディアの婚約者で……」
クローディアのエスコートを断っておきながら、すがり付くよう傍に居ようとするアイザック。
「今日はそちらの女性のパートナーなのだろう?」
「……はい」
「責任を持って、送ってやりなさい」
渋々のアイザックとアンナが立ち去り、クローディアの誕生日パーティーが再開される。
パーティーから数日後。
アルドリット公爵家とトラヴァース侯爵家との話し合いが行われた。
「アイザック君。クローディアの誕生日パーティーで、どうしてあのような振る舞いをした?」
公爵はあの日のアイザックの行動の真意を尋ねる。
アイザックは公爵に自身の浅はかな行動を追及され震えていた。
「僕は……アンナから『自分は公爵の娘だ』と聞きました。アンナの母の話も聞き……嘘を吐いているようには見えなかったので……」
「あのような愚行に走ったと?」
公爵はアイザックの行動を『愚行』と判断。
愛する娘の誕生日パーティーを壊し、愛人の存在をでっち上げたのだ。
侮辱された名誉を傷つけられた事に怒りをにじませる。
「……申し訳ありません」
手を震わせ、俯くアイザック。
「君はクローディアの誕生日パーティーに、私のいもしない愛人の娘を連れてきた。娘のエスコートもせず、招待もしていない平民をパートナーとしてやってきた。相手のドレスや宝石も君が準備したんじゃないのか?」
「……はぃ……その通りです」
「君の学園での行いも確認させてもらった」
『確認させてもらった』という言葉に顔色を悪くするアイザック。
「ぁ……あのっ……」
「クローディアとの婚約を見直したいという事でいいかな?」
学園であれだけの行動をし、クローディアの誕生日パーティーでもエスコートを断った。
婚約に不満があると捉えらえても仕方がない。
それなのに、アイザックは震えながら首を振る。
「アルドリット公爵、アイザックは愚かな事をしました。再教育を行いますので、婚約はこのまま続行でお願いします。クローディア様も、解消となるのは避けたいことでしょう?」
言葉を発せずにいるアイザックに代わりトラヴァース侯爵が代わりに答える。
「私からよろしいですか?」
「もちろんだ、クローディア。言いたいことがあるなら、今言っておきなさい」
「はい。私は学園に入学してから何度もアイザック様にアンナ様との関係について指摘しで参りました。ですが二人は関係を改めるどころか、更に親密になりましたね。二年生になる頃には、隠す事のない二人の関係を後押しする生徒も現れるほどでした。皆さん、私を『真実の愛を邪魔する悪役』と仰るようになったわ」
「……それは……申し訳……」
「アイザック様、謝罪してほしいのではありません。謝罪で終わる段階はとうに過ぎましたから」
謝罪したところで何にもならないと告げると、アイザックは口をパクパクさせる。
「アイザック様は私がそのように呼ばれているのをご存じでしたか?」
アイザックはクローディアの質問に首を振る。
「そうですか……あれだけ噂されているのに、ご存じない……アイザック様は、私に興味がないのですね」
「これ……からは、変わる。だから……」
「いえ。アイザック様は変わりませんよ。今まで、私の忠告に耳を傾けたことは一度もありませんでしたよね? それと同じです。私はアイザック様との婚約の解消を望みます。継続するつもりはありません」
「トラヴァース侯爵、これか娘の気持ちだ。学園でのアイザック君の行動をご存じないだろう、これは私が調査した結果だ。侯爵も自身で調査するだろうが、先に確認してくれ」
公爵は調査報告書を差し出す。
パラパラとページをめくる侯爵。
「この程度の事で婚約解消は……」
侯爵は報告書を一ページ目から読み始めているので、二人の出会いや買い物に出かけている部分で発言している。
「侯爵、最後のページを確認するべきだ」
「最後ですか?」
途中を飛ばし最後のページに飛ぶ。
「私も正直信じられませんでしたが、パーティーでのあの子の発言もありますからね」
「……まさか……アイザック、ここに書いてあることは本当なのか?」
書類を握りしめながら、アイザックに確認を求める侯爵。
「何の……ことでしょうか?」
何がかかれているのか想像するしかないアイザックの声が震えている。
「アンナと言う平民と何を話した?」
「……アンナと? えっと……」
アイザックはアンナとの会話を思い出そうとしても、何も思い出せないでいる。
侯爵は確認するべく、報告内容を読み上げる。
「『平民がアルドリット公爵の娘と認められた後、クローディア嬢との婚約を解消。その後、公爵令嬢となった平民と婚約をしなおしアルドリット公爵家へ婿入りする』と、学園の裏庭で会話しているのを数名の生徒が目撃……」
「あっそれは……」
焦りだすアイザック。
恋愛小説の主人公のような二人は、いつも多くの者に視線を向けられていた。
会話に居合わせた者も、二人の愛は正義だと思い込んでいたので彼らが話している内容がとんでもないことと理解できていなかった。
「まさか、我が公爵家乗っ取りを計画しているとは思わなかった」
芝居じみたような公爵。
「違っ……違います。アンナが公爵の娘だと……なので、婚約者を変更する事に問題ない……と……」
アイザックは報告書の内容を認めた。
「問題ない? 婚約解消が令嬢に与える損害を理解していないのか?」
「……クローディアは……アルドリット公爵の正式な娘で……貴族令嬢としても長く……婚約解消となっても、すぐに婚約者が決まると……」
「私の実の娘であるクローディアは婚約者がすぐに決まるだろうから、傷付けても問題ないと言うことか?」
「問題ない……とは……思って……」
「アイザック君、都合よく考えすぎだな。結果どうだ? アンナという平民は私の娘ではなかった。クローディアとの婚約を不満に思いながらもアルドリット公爵家との繋がりを断つことも、自身が婿入り先を失うことも選べず両方失った。君の浅はかさが招いた事だ」
「すみません……すみません……すみません……」
涙を流すアイザック。
「平民の言葉だけで、どうして私の娘と信じた? 確たる証拠を探そうとは思わなかったのか?」
「それは……」
「クローディアとの婚約を解消したいあまり、先走ったのではないか?」
何も言わないアイザック。
「君の願い通り、クローディアとの婚約は解消だ。愛する平民のアンナと幸せになると良い」
侯爵もアイザックがアルドリット公爵家乗っ取りを考えていたとは思っていない。
だが、乗っ取りと思われても仕方がない事をしたと認めた。
婚約継続を訴えるのを諦め、深々と頭を下げアルドリット公爵家を去る。
当然、婚約は解消。
そして、アンナに肩入れしていた者達にはアルドリット公爵家から抗議の手紙を送る。
多額の慰謝料や謝罪に訪れる者が後を絶たなかったが、クローディアは誰一人会うことは無かった。
最終学年が始まる。
学園を去った者が数名。
クローディアを遠巻きにする者や、媚びを売る者。
二年生の時とは態度を変える。
それでもクローディアは変わらない。
「皆さん、人の恋路を邪魔する私など気にする必要はありませんよ。婚約者以外の方と恋愛を楽しんだり、平民の方に婚約者と密会させたりと有意義な時間をお過ごしください。私は、皆様と価値観が違うようなので」
笑顔で全員を制した。
クローディアは孤高でありながら、学園の頂点に君臨。
そして、卒業間近に二歳年下の王弟の息子と婚約。
国王陛下に許可され、誰も二人の婚約に異を唱える者はおらず祝福する。
トラヴァース侯爵家の次男であるアイザックは、アルドリット公爵家を敵に回したことで婿入り先を得られないどころか兄の婚約まで破断させた。
貴族の記憶から一刻も失態を風化させるために、侯爵はアイザックの退学を決行。
貴族の目に触れない平民の住む場所に拠点を移させた。
それは、トラヴァース侯爵からの温情であり皮肉でもある。
学園では、もう一人のお騒がせ人物のアンナも去っていた。
残ったところでアルドリット公爵家やトラヴァース侯爵家だけでなく多くの貴族に迷惑をかけたのだ、復讐や仕返しされてもおかしくない為に退学の道を選択。
今は精神を病んでいる母と、愛する者の三人で幸せかどうか分からない平民暮らしをしている。
冷静を保ちながらクローディアが質問する。
「私の母はアルドリット公爵家の使用人として働いていました。ある時から旦那様である公爵と親密に……恋仲になったと。二人の関係を不審に思った夫人に関係が知られてしまい、夫人から守る為に母を逃がしてくれたと。公爵様には内緒でしたが、母のお腹には私がいたんです。私は、公爵様の娘のアンナです」
招待客の全員が、公爵の言葉を待つ。
「君はもしかして……ローズの娘か?」
「はい。私の母の名はローズです。やっぱり、私の父は公爵様だったんですね」
嬉しそうにするアンナ。
「僕も、アンナから話を聞いた時は驚いた。だが忙しくしているアルドリット公爵に事実を伝えるには、今日しかないと思ったんだ」
クローディアの誕生日にアンナが公爵の子供だと宣言するのは今日しかないと宣言するアイザック。
二人の衣装はアイザックの髪と瞳の色。
平民のアンナが用意できるものではない。
アイザックが準備したのだろう。
婚約者には何も送らず、エスコートもせず遅れて登場。
これでは誰が婚約者なのか分からない。
「アンナと言ったか?」
「はい」
公爵に期待を込めた視線を送るアンナ。
「君は勘違いをしている」
「勘違い? 何のことでしょうか?」
「私は、君の父親ではない」
「嘘です。母が、父は貴方だと」
「……ローズは可哀想な人だった」
「可哀想?」
「ローズはある時、買い出しの帰りに暴漢に襲われてしまった。それからのローズはみていられない程衰弱していき、私は休暇は与えた。その後、部屋から出ることが出来なくなってしまったと報告を受け、病院を紹介し今後の生活に十分な金額を渡した。回復し、仕事復帰できるようならいつでも戻ってきていいと使用人を通して話したこともある」
「……嘘です。そんな事……私を娘と認める事がそんなに嫌なんですか?」
「では、聞くがどうしてそこまで私を父だと断定できる?」
「母の言葉です」
「それ以外には? 私との関係が記された手紙を所持しているとか、公爵家との繋がりを示すような指輪やらネックレスを持っているなど確実な証拠はあるのか?」
「それは……ありません……ですがっ」
「ローズを責める事はしない。あの事件は酷いものだった。君に父親が犯罪者とは言いたくないのか、私だと空想を作り上げることで精神が保たれているのであればそれで構わない。だが、君には真実を伝えておく。私は君の父親ではない」
公爵は断言する。
「そんな……嘘よ……だって……」
「では聞くが、私と君に似ているところはあるか? 髪の色や瞳の色。何でもいい」
アンナはピンク色の髪に緑色の瞳。
公爵は銀色の髪に青い瞳。
顔のつくりも似ていない。
二人が親子と言うには似ていなさすぎる。
「嫌よ……だって……それだとアイザックと結婚出来ない……」
「それはどういう意味だ?」
動揺し口走ってしまった事にアンナ黙り込む。
公爵はアイザックに視線を向ける。
アイザックはアンナから『自分はアルドリット公爵の娘』と聞き、信じたのだろう。
違うとは夢にも思わず、自身のパートナーとして参加させた。
婚約者のエスコートもせず、別の女性に対になるようなドレスを贈り登場。
そして、アンナの発言。
二人が何を企んでいたのか容易に想像できる。
だが、失敗した。
「はぁ……体調が悪いようだな。もう、帰るといい。ローズを一人にすると心配だろう。アイザック君、送ってやりなさい」
「いや、でも僕は……クローディアの婚約者で……」
クローディアのエスコートを断っておきながら、すがり付くよう傍に居ようとするアイザック。
「今日はそちらの女性のパートナーなのだろう?」
「……はい」
「責任を持って、送ってやりなさい」
渋々のアイザックとアンナが立ち去り、クローディアの誕生日パーティーが再開される。
パーティーから数日後。
アルドリット公爵家とトラヴァース侯爵家との話し合いが行われた。
「アイザック君。クローディアの誕生日パーティーで、どうしてあのような振る舞いをした?」
公爵はあの日のアイザックの行動の真意を尋ねる。
アイザックは公爵に自身の浅はかな行動を追及され震えていた。
「僕は……アンナから『自分は公爵の娘だ』と聞きました。アンナの母の話も聞き……嘘を吐いているようには見えなかったので……」
「あのような愚行に走ったと?」
公爵はアイザックの行動を『愚行』と判断。
愛する娘の誕生日パーティーを壊し、愛人の存在をでっち上げたのだ。
侮辱された名誉を傷つけられた事に怒りをにじませる。
「……申し訳ありません」
手を震わせ、俯くアイザック。
「君はクローディアの誕生日パーティーに、私のいもしない愛人の娘を連れてきた。娘のエスコートもせず、招待もしていない平民をパートナーとしてやってきた。相手のドレスや宝石も君が準備したんじゃないのか?」
「……はぃ……その通りです」
「君の学園での行いも確認させてもらった」
『確認させてもらった』という言葉に顔色を悪くするアイザック。
「ぁ……あのっ……」
「クローディアとの婚約を見直したいという事でいいかな?」
学園であれだけの行動をし、クローディアの誕生日パーティーでもエスコートを断った。
婚約に不満があると捉えらえても仕方がない。
それなのに、アイザックは震えながら首を振る。
「アルドリット公爵、アイザックは愚かな事をしました。再教育を行いますので、婚約はこのまま続行でお願いします。クローディア様も、解消となるのは避けたいことでしょう?」
言葉を発せずにいるアイザックに代わりトラヴァース侯爵が代わりに答える。
「私からよろしいですか?」
「もちろんだ、クローディア。言いたいことがあるなら、今言っておきなさい」
「はい。私は学園に入学してから何度もアイザック様にアンナ様との関係について指摘しで参りました。ですが二人は関係を改めるどころか、更に親密になりましたね。二年生になる頃には、隠す事のない二人の関係を後押しする生徒も現れるほどでした。皆さん、私を『真実の愛を邪魔する悪役』と仰るようになったわ」
「……それは……申し訳……」
「アイザック様、謝罪してほしいのではありません。謝罪で終わる段階はとうに過ぎましたから」
謝罪したところで何にもならないと告げると、アイザックは口をパクパクさせる。
「アイザック様は私がそのように呼ばれているのをご存じでしたか?」
アイザックはクローディアの質問に首を振る。
「そうですか……あれだけ噂されているのに、ご存じない……アイザック様は、私に興味がないのですね」
「これ……からは、変わる。だから……」
「いえ。アイザック様は変わりませんよ。今まで、私の忠告に耳を傾けたことは一度もありませんでしたよね? それと同じです。私はアイザック様との婚約の解消を望みます。継続するつもりはありません」
「トラヴァース侯爵、これか娘の気持ちだ。学園でのアイザック君の行動をご存じないだろう、これは私が調査した結果だ。侯爵も自身で調査するだろうが、先に確認してくれ」
公爵は調査報告書を差し出す。
パラパラとページをめくる侯爵。
「この程度の事で婚約解消は……」
侯爵は報告書を一ページ目から読み始めているので、二人の出会いや買い物に出かけている部分で発言している。
「侯爵、最後のページを確認するべきだ」
「最後ですか?」
途中を飛ばし最後のページに飛ぶ。
「私も正直信じられませんでしたが、パーティーでのあの子の発言もありますからね」
「……まさか……アイザック、ここに書いてあることは本当なのか?」
書類を握りしめながら、アイザックに確認を求める侯爵。
「何の……ことでしょうか?」
何がかかれているのか想像するしかないアイザックの声が震えている。
「アンナと言う平民と何を話した?」
「……アンナと? えっと……」
アイザックはアンナとの会話を思い出そうとしても、何も思い出せないでいる。
侯爵は確認するべく、報告内容を読み上げる。
「『平民がアルドリット公爵の娘と認められた後、クローディア嬢との婚約を解消。その後、公爵令嬢となった平民と婚約をしなおしアルドリット公爵家へ婿入りする』と、学園の裏庭で会話しているのを数名の生徒が目撃……」
「あっそれは……」
焦りだすアイザック。
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会話に居合わせた者も、二人の愛は正義だと思い込んでいたので彼らが話している内容がとんでもないことと理解できていなかった。
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芝居じみたような公爵。
「違っ……違います。アンナが公爵の娘だと……なので、婚約者を変更する事に問題ない……と……」
アイザックは報告書の内容を認めた。
「問題ない? 婚約解消が令嬢に与える損害を理解していないのか?」
「……クローディアは……アルドリット公爵の正式な娘で……貴族令嬢としても長く……婚約解消となっても、すぐに婚約者が決まると……」
「私の実の娘であるクローディアは婚約者がすぐに決まるだろうから、傷付けても問題ないと言うことか?」
「問題ない……とは……思って……」
「アイザック君、都合よく考えすぎだな。結果どうだ? アンナという平民は私の娘ではなかった。クローディアとの婚約を不満に思いながらもアルドリット公爵家との繋がりを断つことも、自身が婿入り先を失うことも選べず両方失った。君の浅はかさが招いた事だ」
「すみません……すみません……すみません……」
涙を流すアイザック。
「平民の言葉だけで、どうして私の娘と信じた? 確たる証拠を探そうとは思わなかったのか?」
「それは……」
「クローディアとの婚約を解消したいあまり、先走ったのではないか?」
何も言わないアイザック。
「君の願い通り、クローディアとの婚約は解消だ。愛する平民のアンナと幸せになると良い」
侯爵もアイザックがアルドリット公爵家乗っ取りを考えていたとは思っていない。
だが、乗っ取りと思われても仕方がない事をしたと認めた。
婚約継続を訴えるのを諦め、深々と頭を下げアルドリット公爵家を去る。
当然、婚約は解消。
そして、アンナに肩入れしていた者達にはアルドリット公爵家から抗議の手紙を送る。
多額の慰謝料や謝罪に訪れる者が後を絶たなかったが、クローディアは誰一人会うことは無かった。
最終学年が始まる。
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クローディアを遠巻きにする者や、媚びを売る者。
二年生の時とは態度を変える。
それでもクローディアは変わらない。
「皆さん、人の恋路を邪魔する私など気にする必要はありませんよ。婚約者以外の方と恋愛を楽しんだり、平民の方に婚約者と密会させたりと有意義な時間をお過ごしください。私は、皆様と価値観が違うようなので」
笑顔で全員を制した。
クローディアは孤高でありながら、学園の頂点に君臨。
そして、卒業間近に二歳年下の王弟の息子と婚約。
国王陛下に許可され、誰も二人の婚約に異を唱える者はおらず祝福する。
トラヴァース侯爵家の次男であるアイザックは、アルドリット公爵家を敵に回したことで婿入り先を得られないどころか兄の婚約まで破断させた。
貴族の記憶から一刻も失態を風化させるために、侯爵はアイザックの退学を決行。
貴族の目に触れない平民の住む場所に拠点を移させた。
それは、トラヴァース侯爵からの温情であり皮肉でもある。
学園では、もう一人のお騒がせ人物のアンナも去っていた。
残ったところでアルドリット公爵家やトラヴァース侯爵家だけでなく多くの貴族に迷惑をかけたのだ、復讐や仕返しされてもおかしくない為に退学の道を選択。
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