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省エネ令嬢
省エネ令嬢
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「これって悪役令嬢に転生ってやつ?」
事故に巻き込まれた記憶が目覚めると私の知らない場所で目覚めた。
「お嬢様?」
「……誰?」
「お嬢様? 私が分かりませんか?」
「……えっと……」
「お医者様を呼んでまいります」
突然見知らぬ人が現れたかと思えば、『お嬢様呼び』
夢なのかと過ごすも、この世界が携帯小説の世界ではないかと受け入れる。
そして、私は悪役令嬢だということも。
ヒロインと王子の恋を盛り上げる障害だ。
「まだ、ゲーム開始ではないのね」
開始はしていないが序章にある通り、私は王子と婚約してしまっている。
それだけでなく、性格の不一致?
テンプレのようにワガママな悪役令嬢だったので、私は王子に距離を置かれている。
だが、その事を正しく理解していない。
というより、自分の都合の良いよう結論付けている。
「今は、ゲームでいう序章……断罪まで時間はある」
今は、本格的に開始される学園入学前。
王子はヒロインに出会っていない。
大抵私のように悪役令嬢に転生するとゲーム通りの結末を回避するべく、関係改善を図ったり自身の評価は挙げたり接触を回避するなどなんらかの行動を起こす。
かくいう私も入学初日に行動している。
「王子にお話があるのですが、お時間頂けないでしょうか?」
入学早々、生徒会室に突撃。
これだけを見ると、私は悪役令嬢そのものの行動だ。
私からすると理由があるのだが、相手にどう伝わるのかは……ご想像通り。
「王子は忙しく、日を改めてもらえないでしょうか?」
側近の一人が対応。
王子は姿を見せず。
この時点で私は王子にどう思われているのか一目瞭然。
ゲーム通り、思いっきり拒絶されている。
王子は私の一つ年上。
生徒会に在籍している。
悪役令嬢から逃れる為に、忙しくも無いのに忙しいフリをして生徒会室に逃げ込む。
「分かりました。では、王子にお伝えいただけますか? 婚約解消の意志があるのでしたらすぐにお申し付けください。私は構いません。お返事は早めにお願いいたします……と。それでは」
「……令嬢、それは」
以前まで王子大好きだった私の思いがけない言葉に側近は困惑。
私は彼との会話を続けるつもりは無く終え立ち去る。
「……様……シア様……ま……待ってくだい……」
側近の彼が慌てた様子で私を追いかけて来た。
「……何でしょう?」
「王子に確認したところお会いになると」
「王子はお忙しいのですよね? 会う必要はありません。王子の意志を確認したいだけでしたので」
私は性格が悪いだろう。
数分前に『忙しい』と言ったのだから、その状況が変わるわけがない。
嫌味のように、側近に返答した。
「王子から、婚約については直接お話ししたいと……」
「そうですか。いつお伺いすればよろしいですか?」
「今からお会いになると」
「本日はお忙しいのではありませんか?」
「婚約については重要な案件ですので、令嬢の話を伺うと」
「……そうですか。分かりました」
踵を返し、再び生徒会室へ向かう。
彼は私の様子を窺っている。
学園入学前の私は王子の迷惑など考えず彼を追いかけていたのは有名な話。
側近の彼は王子の補佐だが、ほとんどの仕事は迷惑な婚約者が王子に接近しないよう盾となる事。
そんな彼が王子の支持とはいえ私が王子に接触するのを手引きしている。
本当にそれでいいのか、判断は正しかったのか悩んでいるのが見て取れる。
「アクレンシア様をお連れ致しました」
「……失礼致します」
「やぁ、先程はすまなかった」
にこやかな笑顔で出迎える。
これぞメイン攻略対象といえる人物。
自身が悪役令嬢でなければ、舞い上がってしまったかもしれない。
好きなゲームだったから。
だが、断罪が控えている今の私は彼を見ても浮かれた気分にはなれない。
「……いえ、こちらこそ事前に約束もなく失礼いたしました」
冷静に……いや表情を変えず冷酷に見えるよう答える。
私が王子を前にしても浮かれるどころか謝罪をすると、王子と側近の二人が目を見開く。
小説のワガママ令嬢は謝罪などするような人物ではなかった。
なので、私が相手を配慮するというのに驚いたのだろう。
「あっ……座ってくれ」
王子は自身が座っている目の前のソファーを勧める。
側近は自然と王子の後ろに待機し私を監視。
「……はい」
「入学おめでとう」
「ありがとうございます。それで、お話なのですが王子は私との婚約についてどうお考えですか?」
世間話など一切なく、本題に入る。
無駄な事は嫌い。
「どう……とは?」
私を探るような視線。
「このまま継続するつもりなのかどうかです」
「令嬢はどう思う?」
王子は自身の考えを見せない。
話を持ち出した私の真意を先に知りたいのだろう。
「私の考えは必要ありません。私は王子がこの婚約を継続するつもりなのかどうなのかをお聞きしたいのです」
継続するつもりなのかという質問に、はい・いいえで答えてほしいのに望む答えを貰えなかったことに怒ったりはしていない。
私は、怒っていない。
えぇ、怒ってない。
「令嬢との婚約は国王と、公爵が決定したもの。私がどう思うと変わらないよ」
私達の婚約は王子の意思は考慮されていない。
諦めていると言っているようなもの。
「本当にそのようにお考えですか?」
「それはどういう意味かな?」
「私達が不仲であり、婚約継続の意志が互いになければ決定は覆るのではありませんか? 今なら婚約解消しても問題ないかと」
「……令嬢はそれでいいのか?」
「関係改善が見込めないようであれば、婚約は解消するべきです」
悪役令嬢の口から『婚約解消』の言葉が二回も出たことで、王子も側近も視線を合わせ面白い表情をしている。
「婚約は簡単に解消できるものではない」
「私達の関係について国内で不穏な噂が立てば他国に利用されることもあるでしょう。隙を見せない方が国の為ですと言えば覆せるのでは?」
「……令嬢は、婚約解消を望んでいるのか?」
「私の考えは必要ありません。全ては王族に決定権があります」
「私が婚約解消を願えば解消すると?」
「はい」
躊躇せず答えた。
「……継続を望んだ場合は?」
「継続ですか? その時は、私達の婚約関係に条件を設けるべきです」
継続なんてありえない。
ヒロインが現れる前から婚約解消を望んでいたのは王子の方。
なぜどうでもいい質問をして無駄な時間を過ごすのだろうか?
悪役令嬢が婚約解消を提案しているんだから、私の気が変わる前にとっとと婚約解消に動けばいいものを。
「条件?」
「婚約関係を継続するにあたり、最低限の条件です」
「最低限の条件とは?」
「それを互いに話し合うべきではないでしょうか?」
なんでも私に決めさせないでよ。
「……例えば?」
面倒だな。
「継続しないのであれば、不要な話になります。まずは、継続する意思があるのかどうかお聞かせ願えますか?」
「……確認なのだが継続を選択した場合、令嬢は条件を遂行する気はあるのか?」
「はい。私達の関係は王命ですから。尽力するつもりです」
そんな事にはならないだろうけど。
「そうか……」
王子はしばし悩む。
婚約解消しようって言いなさいよ。
「分かった。令嬢との婚約継続を望む」
「えっ? 継続するんですか?」
「あぁ。その為にわざわざ生徒会室まで来たのだろう?」
「いや、そうなんですが……」
まさか、継続を選択されるとは思わなかった。
もしかして、ヒロインが現れていないから他の令嬢避けに私を利用したいとか?
私、あなたに近付く女を牽制なんてしませんよ?
面倒なので。
「私も、婚約について真正面から向き合わないとと思っていた。令嬢から提案してくれて良かった」
きっと王子は『性格が合わない』『嫌いだから』という理由ではなく、正当な理由で私との婚約を解消したいってことだろう。
「そう……ですか。ではこれから条件について話し合いましょう」
「条件はこちらが提案しても」
やっぱり。
無理難題を提案し、私が王子の婚約者失格だったということにしたいのだろう。
「はい、構いません」
「では、私から。婚約者として対面するのは重要な案件がある時を除き月に一度。人前では必要以上に接触しない事。私が会話している時は遮らない事。身分差別もせず、王族の婚約者として相応しい行動を心がけるように」
婚約解消して迷惑を被るくらいなら、条件という名で私の行動を制限したいのだと分かった。
こちらから話を持ち掛けたのだが、頭の回転の速い男だ。
今の私にはその条件でなんの問題もない。
むしろ、月に一度も会わなくていい。
「はい」
「……良いのか?」
「はい、問題ありません」
受け入れると言っているのに何度も聞いてくるところから、悪役令嬢は相当王子を困らせていたのだろう。
ゲームでの情報しかない私とは違い、王子は長年悪役令嬢に苦しめられていたのが分かる。
過激でストーカー気質の悪役令嬢。
公爵令嬢という権力もあるので、王子も対応に困ったことだろう。
健気なヒロインを引き立てる為、性格に難ありの悪役令嬢。
この人も可哀想な人だったのかもしれない。
「では、令嬢からの条件は?」
「継続した結果、婚約解消を望む場合には必ず話し合う事。相手に不満がある場合も話し合う事。事実無根で相手を陥れる事はしない事」
「それは、当然の事だな」
「……そうですね。ですが、人は恋に落ちると冷静な判断が効かなくなると言いますから」
「私が誰かに恋をすると?」
「さぁ。未来については分かりません。恋をしてありもしない罪をでっち上げるかもしれないですし、何も起きないかもしれない。どうなるかは、分かりませんから」
「……そうだな。他には?」
「今、私達の関係が不仲であるのは事実です。これまでの私の態度から婚約解消が囁かれています。継続するのであれば申し訳ありませんが、その噂について口を慎むよう王子の方からお願いできませんか?」
「分かった」
「私からは以上です。王子の方は他にありませんか?」
「……月に一度、条件の確認や見直しというのはどうだ?」
「はい、分かりました。それでは私からは以上です。本日はお時間を頂きありがとうございました」
話し合いが終わり、生徒会室を退出。
その後、私は条件を守り静かに過ごしている。
悪役令嬢らしからぬ私に周囲は
『人が変わった』
『王子に生徒会室に呼ばれ、婚約の見直しの話が合ったのでは?』
『婚約解消を宣言されたのでは?』
噂されている。
どう噂されようと私は気にならない。
私が鳴りを潜めると、王子に接近する令嬢が後を絶たないらしい。
それを聞いても、私は何もしない。
王子が誰と親密になろうと興味はない。
「ねぇ、貴方が王子の婚約者なのでしょう? 王子、貴方と婚約解消したいみたいよ?」
大人しくしていると、最近では直接言いがかりを付けてくる者が現れる。
「そうですか」
「……彼ね、私と婚約したいそうなの」
「そうですか」
「ちょっとあなたっ、待ちなさい」
自慢したいのか、私を挑発し問題にしたいのか分からないが私としては何を言われようと関係ない。
そんな令嬢の相手は面倒なので興味なく立ち去る。
だけど、婚約解消を狙う私なのでその令嬢をしっかり利用させてもらう。
月に一度の婚約者としての対面。
「私と婚約解消し別の方との婚約が決まっているということなので、速やかに婚約解消を致しましょう」
「そのような事実はない」
「そうなのですか? 相手の女性からそのように聞いたのですが……」
「誰だそんなことを言っているのは?」
「名前は聞きそびれてしまいました」
「そうか。今後は相手の名前も聞いて報告してくれ。私の婚約の偽情報が出回っては困る」
「そうですね、分かりました。では、婚約は継続ということでしょうか?」
「あぁ。解消するつもりは無い。条件なんだが、追加をいいか?」
「はい、構いません」
条件が多くなれば、婚約解消へ近づく。
「もうすぐ試験だろう?」
「そうですね」
「試験の成績で最低百位以内。出来れば五十位以内を目指してほしい。初めての試験で要領が掴めないようなら、私の方でも協力しよう」
「分かりました。百位以内に入るよう努力いたします」
努力はする。
婚約解消したいからと手を抜いて自身の評価を落としたくない。
私はゲームの断罪から逃れたいので、婚約解消と悪役令嬢というレッテルをどうにか剥がさなければいけない。
試験結果は二十二位。
全力で勉強した。
そして報告。
「初めての試験だったが、問題なかったようだな」
「はい」
「私に出来る事があればと思ったんだが」
「王子も試験日は同じですよね? 婚約者だからと、私を気遣う必要はありません。私としては、迷惑をかけるような事は避けたいので」
「……そうか。 条件なんだか……」
「はい」
月に一度婚約者としての対面し報告会をしている。
そして、条件の見直し。
初めのうち警戒していた王子だが、気が付けば側近の姿がなくなり生徒会室には二人きり。
小説のようにヒロインと接触したようだが、親密になっているのか不明。
『婚約解消したい場合は話し合う』という条件を付けているので、突然解消を宣言する事は無いだろう。
となると、まだヒロインとは親密ではない様子。
二人の関係を邪魔することなく、私は条件を違反しないよう生活している。
以前の頃のように、王子の婚約者狙いに挑発的な発言を受ける事は無くなったが、一人の女性に話しかけられる事が多くなった。
「私はただ、皆と仲良くしているだけなのに……」
急に訳の分からないことを言い出したかと思えば、私が何か言う前に走り去る。
「泣いて去るくらいなら、話しかけなければいいのに」
私が怖いのか涙目になり走り去るのを何度も繰り返している。
どうしてそこまで私に話しかけるのか理解できない。
暫く続いたが、いつの間にかなくなっていた。
飽きたのだろう。
そして、今日も月に一度の条件の確認をしている。
「条件の追加をいいか?」
「はい」
「私達が婚約者と見えないようなので、次の休み観劇に行き周囲に私達の関係が良好であるのを示したい」
「分かりました」
「では、次の休み公爵家へ迎えに行く」
「王子に迷惑をかけるわけにはいきません。現地集合にしましょう」
「一緒の馬車で来たというのを見せた方が、より婚約が良好である証明になる」
「……そうですね。分かりました。では、お待ちしております」
「あぁ」
私は未だに婚約解消を告げられていない。
やはり、定番の卒業パーティーまで関係は続くようだ。
事故に巻き込まれた記憶が目覚めると私の知らない場所で目覚めた。
「お嬢様?」
「……誰?」
「お嬢様? 私が分かりませんか?」
「……えっと……」
「お医者様を呼んでまいります」
突然見知らぬ人が現れたかと思えば、『お嬢様呼び』
夢なのかと過ごすも、この世界が携帯小説の世界ではないかと受け入れる。
そして、私は悪役令嬢だということも。
ヒロインと王子の恋を盛り上げる障害だ。
「まだ、ゲーム開始ではないのね」
開始はしていないが序章にある通り、私は王子と婚約してしまっている。
それだけでなく、性格の不一致?
テンプレのようにワガママな悪役令嬢だったので、私は王子に距離を置かれている。
だが、その事を正しく理解していない。
というより、自分の都合の良いよう結論付けている。
「今は、ゲームでいう序章……断罪まで時間はある」
今は、本格的に開始される学園入学前。
王子はヒロインに出会っていない。
大抵私のように悪役令嬢に転生するとゲーム通りの結末を回避するべく、関係改善を図ったり自身の評価は挙げたり接触を回避するなどなんらかの行動を起こす。
かくいう私も入学初日に行動している。
「王子にお話があるのですが、お時間頂けないでしょうか?」
入学早々、生徒会室に突撃。
これだけを見ると、私は悪役令嬢そのものの行動だ。
私からすると理由があるのだが、相手にどう伝わるのかは……ご想像通り。
「王子は忙しく、日を改めてもらえないでしょうか?」
側近の一人が対応。
王子は姿を見せず。
この時点で私は王子にどう思われているのか一目瞭然。
ゲーム通り、思いっきり拒絶されている。
王子は私の一つ年上。
生徒会に在籍している。
悪役令嬢から逃れる為に、忙しくも無いのに忙しいフリをして生徒会室に逃げ込む。
「分かりました。では、王子にお伝えいただけますか? 婚約解消の意志があるのでしたらすぐにお申し付けください。私は構いません。お返事は早めにお願いいたします……と。それでは」
「……令嬢、それは」
以前まで王子大好きだった私の思いがけない言葉に側近は困惑。
私は彼との会話を続けるつもりは無く終え立ち去る。
「……様……シア様……ま……待ってくだい……」
側近の彼が慌てた様子で私を追いかけて来た。
「……何でしょう?」
「王子に確認したところお会いになると」
「王子はお忙しいのですよね? 会う必要はありません。王子の意志を確認したいだけでしたので」
私は性格が悪いだろう。
数分前に『忙しい』と言ったのだから、その状況が変わるわけがない。
嫌味のように、側近に返答した。
「王子から、婚約については直接お話ししたいと……」
「そうですか。いつお伺いすればよろしいですか?」
「今からお会いになると」
「本日はお忙しいのではありませんか?」
「婚約については重要な案件ですので、令嬢の話を伺うと」
「……そうですか。分かりました」
踵を返し、再び生徒会室へ向かう。
彼は私の様子を窺っている。
学園入学前の私は王子の迷惑など考えず彼を追いかけていたのは有名な話。
側近の彼は王子の補佐だが、ほとんどの仕事は迷惑な婚約者が王子に接近しないよう盾となる事。
そんな彼が王子の支持とはいえ私が王子に接触するのを手引きしている。
本当にそれでいいのか、判断は正しかったのか悩んでいるのが見て取れる。
「アクレンシア様をお連れ致しました」
「……失礼致します」
「やぁ、先程はすまなかった」
にこやかな笑顔で出迎える。
これぞメイン攻略対象といえる人物。
自身が悪役令嬢でなければ、舞い上がってしまったかもしれない。
好きなゲームだったから。
だが、断罪が控えている今の私は彼を見ても浮かれた気分にはなれない。
「……いえ、こちらこそ事前に約束もなく失礼いたしました」
冷静に……いや表情を変えず冷酷に見えるよう答える。
私が王子を前にしても浮かれるどころか謝罪をすると、王子と側近の二人が目を見開く。
小説のワガママ令嬢は謝罪などするような人物ではなかった。
なので、私が相手を配慮するというのに驚いたのだろう。
「あっ……座ってくれ」
王子は自身が座っている目の前のソファーを勧める。
側近は自然と王子の後ろに待機し私を監視。
「……はい」
「入学おめでとう」
「ありがとうございます。それで、お話なのですが王子は私との婚約についてどうお考えですか?」
世間話など一切なく、本題に入る。
無駄な事は嫌い。
「どう……とは?」
私を探るような視線。
「このまま継続するつもりなのかどうかです」
「令嬢はどう思う?」
王子は自身の考えを見せない。
話を持ち出した私の真意を先に知りたいのだろう。
「私の考えは必要ありません。私は王子がこの婚約を継続するつもりなのかどうなのかをお聞きしたいのです」
継続するつもりなのかという質問に、はい・いいえで答えてほしいのに望む答えを貰えなかったことに怒ったりはしていない。
私は、怒っていない。
えぇ、怒ってない。
「令嬢との婚約は国王と、公爵が決定したもの。私がどう思うと変わらないよ」
私達の婚約は王子の意思は考慮されていない。
諦めていると言っているようなもの。
「本当にそのようにお考えですか?」
「それはどういう意味かな?」
「私達が不仲であり、婚約継続の意志が互いになければ決定は覆るのではありませんか? 今なら婚約解消しても問題ないかと」
「……令嬢はそれでいいのか?」
「関係改善が見込めないようであれば、婚約は解消するべきです」
悪役令嬢の口から『婚約解消』の言葉が二回も出たことで、王子も側近も視線を合わせ面白い表情をしている。
「婚約は簡単に解消できるものではない」
「私達の関係について国内で不穏な噂が立てば他国に利用されることもあるでしょう。隙を見せない方が国の為ですと言えば覆せるのでは?」
「……令嬢は、婚約解消を望んでいるのか?」
「私の考えは必要ありません。全ては王族に決定権があります」
「私が婚約解消を願えば解消すると?」
「はい」
躊躇せず答えた。
「……継続を望んだ場合は?」
「継続ですか? その時は、私達の婚約関係に条件を設けるべきです」
継続なんてありえない。
ヒロインが現れる前から婚約解消を望んでいたのは王子の方。
なぜどうでもいい質問をして無駄な時間を過ごすのだろうか?
悪役令嬢が婚約解消を提案しているんだから、私の気が変わる前にとっとと婚約解消に動けばいいものを。
「条件?」
「婚約関係を継続するにあたり、最低限の条件です」
「最低限の条件とは?」
「それを互いに話し合うべきではないでしょうか?」
なんでも私に決めさせないでよ。
「……例えば?」
面倒だな。
「継続しないのであれば、不要な話になります。まずは、継続する意思があるのかどうかお聞かせ願えますか?」
「……確認なのだが継続を選択した場合、令嬢は条件を遂行する気はあるのか?」
「はい。私達の関係は王命ですから。尽力するつもりです」
そんな事にはならないだろうけど。
「そうか……」
王子はしばし悩む。
婚約解消しようって言いなさいよ。
「分かった。令嬢との婚約継続を望む」
「えっ? 継続するんですか?」
「あぁ。その為にわざわざ生徒会室まで来たのだろう?」
「いや、そうなんですが……」
まさか、継続を選択されるとは思わなかった。
もしかして、ヒロインが現れていないから他の令嬢避けに私を利用したいとか?
私、あなたに近付く女を牽制なんてしませんよ?
面倒なので。
「私も、婚約について真正面から向き合わないとと思っていた。令嬢から提案してくれて良かった」
きっと王子は『性格が合わない』『嫌いだから』という理由ではなく、正当な理由で私との婚約を解消したいってことだろう。
「そう……ですか。ではこれから条件について話し合いましょう」
「条件はこちらが提案しても」
やっぱり。
無理難題を提案し、私が王子の婚約者失格だったということにしたいのだろう。
「はい、構いません」
「では、私から。婚約者として対面するのは重要な案件がある時を除き月に一度。人前では必要以上に接触しない事。私が会話している時は遮らない事。身分差別もせず、王族の婚約者として相応しい行動を心がけるように」
婚約解消して迷惑を被るくらいなら、条件という名で私の行動を制限したいのだと分かった。
こちらから話を持ち掛けたのだが、頭の回転の速い男だ。
今の私にはその条件でなんの問題もない。
むしろ、月に一度も会わなくていい。
「はい」
「……良いのか?」
「はい、問題ありません」
受け入れると言っているのに何度も聞いてくるところから、悪役令嬢は相当王子を困らせていたのだろう。
ゲームでの情報しかない私とは違い、王子は長年悪役令嬢に苦しめられていたのが分かる。
過激でストーカー気質の悪役令嬢。
公爵令嬢という権力もあるので、王子も対応に困ったことだろう。
健気なヒロインを引き立てる為、性格に難ありの悪役令嬢。
この人も可哀想な人だったのかもしれない。
「では、令嬢からの条件は?」
「継続した結果、婚約解消を望む場合には必ず話し合う事。相手に不満がある場合も話し合う事。事実無根で相手を陥れる事はしない事」
「それは、当然の事だな」
「……そうですね。ですが、人は恋に落ちると冷静な判断が効かなくなると言いますから」
「私が誰かに恋をすると?」
「さぁ。未来については分かりません。恋をしてありもしない罪をでっち上げるかもしれないですし、何も起きないかもしれない。どうなるかは、分かりませんから」
「……そうだな。他には?」
「今、私達の関係が不仲であるのは事実です。これまでの私の態度から婚約解消が囁かれています。継続するのであれば申し訳ありませんが、その噂について口を慎むよう王子の方からお願いできませんか?」
「分かった」
「私からは以上です。王子の方は他にありませんか?」
「……月に一度、条件の確認や見直しというのはどうだ?」
「はい、分かりました。それでは私からは以上です。本日はお時間を頂きありがとうございました」
話し合いが終わり、生徒会室を退出。
その後、私は条件を守り静かに過ごしている。
悪役令嬢らしからぬ私に周囲は
『人が変わった』
『王子に生徒会室に呼ばれ、婚約の見直しの話が合ったのでは?』
『婚約解消を宣言されたのでは?』
噂されている。
どう噂されようと私は気にならない。
私が鳴りを潜めると、王子に接近する令嬢が後を絶たないらしい。
それを聞いても、私は何もしない。
王子が誰と親密になろうと興味はない。
「ねぇ、貴方が王子の婚約者なのでしょう? 王子、貴方と婚約解消したいみたいよ?」
大人しくしていると、最近では直接言いがかりを付けてくる者が現れる。
「そうですか」
「……彼ね、私と婚約したいそうなの」
「そうですか」
「ちょっとあなたっ、待ちなさい」
自慢したいのか、私を挑発し問題にしたいのか分からないが私としては何を言われようと関係ない。
そんな令嬢の相手は面倒なので興味なく立ち去る。
だけど、婚約解消を狙う私なのでその令嬢をしっかり利用させてもらう。
月に一度の婚約者としての対面。
「私と婚約解消し別の方との婚約が決まっているということなので、速やかに婚約解消を致しましょう」
「そのような事実はない」
「そうなのですか? 相手の女性からそのように聞いたのですが……」
「誰だそんなことを言っているのは?」
「名前は聞きそびれてしまいました」
「そうか。今後は相手の名前も聞いて報告してくれ。私の婚約の偽情報が出回っては困る」
「そうですね、分かりました。では、婚約は継続ということでしょうか?」
「あぁ。解消するつもりは無い。条件なんだが、追加をいいか?」
「はい、構いません」
条件が多くなれば、婚約解消へ近づく。
「もうすぐ試験だろう?」
「そうですね」
「試験の成績で最低百位以内。出来れば五十位以内を目指してほしい。初めての試験で要領が掴めないようなら、私の方でも協力しよう」
「分かりました。百位以内に入るよう努力いたします」
努力はする。
婚約解消したいからと手を抜いて自身の評価を落としたくない。
私はゲームの断罪から逃れたいので、婚約解消と悪役令嬢というレッテルをどうにか剥がさなければいけない。
試験結果は二十二位。
全力で勉強した。
そして報告。
「初めての試験だったが、問題なかったようだな」
「はい」
「私に出来る事があればと思ったんだが」
「王子も試験日は同じですよね? 婚約者だからと、私を気遣う必要はありません。私としては、迷惑をかけるような事は避けたいので」
「……そうか。 条件なんだか……」
「はい」
月に一度婚約者としての対面し報告会をしている。
そして、条件の見直し。
初めのうち警戒していた王子だが、気が付けば側近の姿がなくなり生徒会室には二人きり。
小説のようにヒロインと接触したようだが、親密になっているのか不明。
『婚約解消したい場合は話し合う』という条件を付けているので、突然解消を宣言する事は無いだろう。
となると、まだヒロインとは親密ではない様子。
二人の関係を邪魔することなく、私は条件を違反しないよう生活している。
以前の頃のように、王子の婚約者狙いに挑発的な発言を受ける事は無くなったが、一人の女性に話しかけられる事が多くなった。
「私はただ、皆と仲良くしているだけなのに……」
急に訳の分からないことを言い出したかと思えば、私が何か言う前に走り去る。
「泣いて去るくらいなら、話しかけなければいいのに」
私が怖いのか涙目になり走り去るのを何度も繰り返している。
どうしてそこまで私に話しかけるのか理解できない。
暫く続いたが、いつの間にかなくなっていた。
飽きたのだろう。
そして、今日も月に一度の条件の確認をしている。
「条件の追加をいいか?」
「はい」
「私達が婚約者と見えないようなので、次の休み観劇に行き周囲に私達の関係が良好であるのを示したい」
「分かりました」
「では、次の休み公爵家へ迎えに行く」
「王子に迷惑をかけるわけにはいきません。現地集合にしましょう」
「一緒の馬車で来たというのを見せた方が、より婚約が良好である証明になる」
「……そうですね。分かりました。では、お待ちしております」
「あぁ」
私は未だに婚約解消を告げられていない。
やはり、定番の卒業パーティーまで関係は続くようだ。
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