【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒

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これが切っ掛けで…

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 <ケイトリーン>

「ケイトリーンはお姉さんだから皆の面倒見てね」

「はい」

 私は王都から遠く離れた小さな孤児院で育った。
 そこには私の他に十数名の孤児が存在し、世話をしてくれる先生と院長がいる。
 運営費は領地を納めている子爵の施しから成り立っていると聞く。
 皆で協力し孤児院の庭を畑にし、食料の足しにしている。
 お腹が空いた時は、シンボルツリーとなっているリンゴの木に登りリンゴを食べていた。
 真面目に過ごすも、時にはふざけ過ぎて先生達に叱られる事もあった。
 それでも先生から暴力を受けたり一日二回の食事を抜かれるという事はなく、こんな日がずっと続くと疑わなかった。

「晴れた……」

 前日まで雷雨が続き、漸く晴れた今日。
 男の子達はここぞとばかりに走り回り、遊んでいる姿を私は遠くから眺めていた。
 彼らは昨日、雷に打たれた木に興味があるようで周囲を囲んでいる。
 だが次第にその興味は眺めているだけでは飽き足らず、好奇心を抑えきれず一人が登りだす。
 近くで見れば太く頑丈に見える木でも、遠く離れて観ると雷の衝撃で中央が割れていて危険と感じた。

「その木は危ないから登らないのっ」

 木が危ないから登らないよう大声で注意しながら向かうも、男の子達は聞く耳を持たず順々に登って行く。
 そして、嫌な予感というものは当たってしまう。

「あっ、危ないっアヴィールッ」

 一番幼いアヴィールも皆に負けじと木に登り始めた瞬間、滑り落ち地面に倒れた。
 前日までの雨を吸った木は滑りやすく、アヴィールの握力では掴みきれずに落下してしまったようだ。
 急いで駆け寄り確認すると、彼の左手の甲には折れた枝が突き刺さっていた。

「うぇ~んうぇ~ん……イタイ、イタイ、イタイよぉ……うわぁ~」

 傷を見た瞬間アヴィールが泣きながら痛みを訴えている。
 先生達も異変に気が付き駆け付ける。

「どうしたの、何があったの? 」

「アヴィールが……アヴィールが……」

「まぁ、なんて事。すぐにお医者さんを呼ばなければっ」

 アヴィールの状態を確認した先生達の慌てる姿に、アヴィールだけでなく私達も恐怖を感じその場から動けず見ているしか出来なかった。
 皆で部屋まで移動し医者を待つ。
 急いでくれているんだろうが、医者が来る間の時間が長くもどかしい。

「あっ、ダルト先生っ」

 現れたのは孤児の私達にも優しく診察してくれる、医者のお爺ちゃん先生。
 お爺ちゃん先生が来てくれた事でアヴィールの手は治るんだと自分に言い聞かせた。

「これは……」

 アヴィールの手を見たお爺ちゃん先生は血相を変え、手当てを急ぐ。

「ひゃっ」
 
 アヴィールの手に刺さっていた枝を抜くと、勢いよく血が吹き出し思わず悲鳴を上げてしまった。

「あなた達は別の部屋で待機……待っていなさい……」

 どうすることも出来ず、泣き喚くアヴィールの治療姿を眺めているも衝撃に悲鳴をあげてしまう。
 そんな私達がお爺ちゃん先生の邪魔になると判断した先生により、その場を離れるよう指示を受ける。
 普段静かになることのない孤児院が今日はとても静まり返り、誰も口を開かない。

「……ありがとうございました」

「いえ、暫くは安静にしてください。傷は濡らさず、消毒も忘れずにするように」

 窓越しに院長とお爺ちゃん先生の会話を聞き、アヴィールの治療が終わったことを知る。
 アヴィールは治療が終わると気絶したらしく、今は眠っている。
 私達は皆、お爺ちゃん先生に診てもらったのだから『アヴィールの手は治る』と言い聞かせ怖いことから目を背けた。
 だけど……いくら時間が経ってもアヴィールの手が動くことはなく、色も悪くなっているように見えた。
 『どうしてあの時、木に登ってしまったのか』『一番幼いアヴィールを最後にしなければけがは防げたのではないか』誰もがあの日の自分の行動を責めていた。
 何もできない私は近く教会に通い、神様に祈りを捧げる。

「アヴィールの手が治りますように……」

 願うだけでは神様に叶えてもらえないと思い、教会の掃除をさせてほしいと願った。
 それからは、アヴィールの手が治るように毎日通い祈り続ける。
 アヴィールの手はもう駄目かもしれないと諦めの心が生れるも、教会に通う事を辞めるのも怖かった。

『どうか……どうか……あの子を助けてください。
 苦しみから解放してくあげてださい。
 決して六歳で亡くなっていい子じゃないんです。
 生涯、神様に感謝を忘れません。だから……』  

 教会通いが義務となりだした頃、夢に見たこともない女性が現れた。
 そして女性は私に暖かな光を差し出すと、その光は私の中に吸い込まれる。

「あの子のところに行き祈りなさい」

 直接相手の声を聞いたわけではない。
 なんとなくそう感じただけ。
 貴方は誰? アヴィールは助かるの? 
 疑問を口にすることはなく、目が覚めた。
 夢を覚えていた私は急いでアヴィールの部屋に向かう。
 孤児の私達には個人部屋などはなく、集団部屋。
 それでも男女で別けられている。
 アヴィールの部屋は私達の部屋の隣。
 ノックもせず扉を開け、まだ眠っているアヴィールの黒く冷たい手を握り祈った。
 祈り始めると途端に眠くなり意識が遠のく。

「……ケイト……姉ちゃん? 」

 突然私が入室したことで、同室の子が起き始めたがその時の私は意識がなかった。
 今の私は暗い闇の中を彷徨っている。

「おはよう……」
「ケイトねぇちゃん、何してんの? 」
「分かんない」

 同室の子が続々と起き始めるが私には全く聞こえなかった。
 私は必死にアヴィールを探し続けた。

「アヴィール、どこにいるの? アヴィール」

 必死に探すと蹲っているアヴィールがいた。

「アヴィール、そこにいたの? 戻ろう? 」

「うん」

 発見したアヴィールの手はちゃんと肌色をしている。
 アヴィールとはぐれないように手を繋いで光の方へと歩く。

「ケイト姉ちゃん? 」

「アヴィール……何か……変わった感覚ない? 手……とか……」

 あの夢は私が毎日アヴィールの手が動いてほしいと願うあまり、都合の良い夢を見たのかもしれない。
 神様が私の願いを叶えてくれるなんて夢みたいな事起きるはず……

「あれ? 」

 黒かったアヴィールの手は肌色に戻っていた。
 それだけではなく、全く動かなかったアヴィールの指がゆっくりと動き始める。

「ん? ……ぇっ……動いた……手……動いたぁ」

 初めはアヴィールも信じられない様子だったが、何回か開いたり閉じたりを繰り返した後叫んだ。

「朝から何騒いでるのっ」

 子供部屋で騒いでいると先生達が駆けつける。
 朝から喧嘩でもしていると勘違いされたのだろう。

「先生っ、アヴィールがっアヴィールの手がっ」

「何っ、アヴィールっどうしたの? 」

 扉付近にいた子が代表してアヴィールの手の事を伝えようとするも、混乱し上手く伝えられずにいた。
 要領を得ない事に先生方はアヴィールの手の怪我が悪化したのでは? と慌てた様子で駆け寄る。

「動くのっ……手がね、動くようになったの」

 嬉しそうにアヴィールは、動くようになった手を先生方に見せる。

「……なんと」

「まさか……」

「こんな事が……」

 以前、医者のお爺ちゃん先生が話すのを聞いてしまった事がある。

「リハビリをしても動く可能性は……それよりも、症状が悪化するようなら切断も覚悟しなければならない」

 先生達が内密に話しているのを私一人が偶然立ち聞きしてしまったので、誰にも話せず教会に逃げた。
 医者でさえお手上げだったアヴィールの手が、朝目覚めたら動くようになったなんて信じられない様子。

「ケイトッ……」

 皆が見た光景を必死に伝え始めると、徐々に私に視線が集まるが意識が遠のき倒れてしまった。
 それから、医者のお爺ちゃん先生が到着しアヴィールの手を診察していたらしい。
 これが、私の人生を変えることになった事件の一つ。
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