【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒

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私の知らなかった事

 ダンスを実践した時に先生から指摘された言葉を思い出す。

「相手の目を見て呼吸を合わせる、決して下を向いては行けませんよ」

 先生の言葉通り顔をあげ、王子を見た。
 彼はお手本のような姿勢で、遠くを見据えている。
 足取りを間違わないよう意識していると、いつの間にか視線が彼の肩に落ちていた。
 慌てて彼を見上げると、変わらぬ姿勢で遠くを見つめている。
 曲が終わり、漸く彼と視線が合う。

「パーティーでのダンスは初めてだろう? 少し休もう」

「はい」

 王子の提案に頷き、私達はダンスホールを離れるも視線が絡み付く。
 その合間、王子と私に暖かい言葉を受ける。

「婚約おめでとうございます」
「聖女様、後で私ともダンスを……」
「マカリオン王子、おめでとうございます。この後私ともダンスをお願いします」

 笑顔で対応しながら人混みを抜ける。

「聖女様、ご挨拶をよろしいかしら? 」

 声を掛けて来たのは、綺麗な顔立ちでいかにも貴族令嬢の人。
 腰まである光輝くゴールドの髪は人の視線を奪い、深い海を連想させるブルーの瞳は吸い込まれてしまいそうな印象。
 年齢は私より年上に見える。

「はいっ」

「私、スノーミリアン・ノウエーと申します」

「ぁっ、ケイトリーン・ミシェリングと申します」

「この度は王妃陛下を治癒されたとお聞きしました。私もとても心を痛めておりましたので感謝致しますわ」

「いえっ私などが王妃様のお役に立てて何よりです」

 パーティーに参加すれば常に注目されるのは覚悟していたが、令嬢が現れた途端周囲の反応が変わったように感じる。

「マカリオン様、ダンスを宜しいかしら? 」

「聖女、少しの間一人で大丈夫か? 」

 王子にダンスを求めた令嬢は手を差し出しており、王子も既に令嬢の手を受け入れていた。
 その状態で『行かないでください』『私を一人にするんですか? 』など言えば、私達の会話すら聞き逃さないよう興味津々の貴族になんと噂されるのか考えてしまうと、私の応えは……

「はい。私はこちらで休んでおりますので、どうぞ行ってきてください」

 笑顔で二人を送り出すしかなかった。
 二人が離れると女性達は去るが、代わりに男性達が集まりひっきりなしにダンスに誘われる。
 ダンスをするのも疲れるが、断るのも気力がいる。
 今の身分は子爵令嬢であるが元は孤児。
 貴族の誘いを断り機嫌を損ねるのではないかと思考を巡らせると、適切な言葉が思い浮かばず神経を使い次第に笑顔も引き攣り始める。
 なんとか人混みを抜け、一人になれそうな場所を探し行き着いたのはバルコニー。

「驚きましたね」
「えぇ。まさか、マカリオン王子が聖女と婚約なさるなんて思いもよりませんでした」
「やはり、ご挨拶した方がよいのかしら? 」

 バルコニーには既に先客がいた。
 しかも私の話をしているので、ここで私が登場しては気まずい雰囲気になると予想しその場を去ることにする。

「私はてっきり、王子は別の方と婚約なさると思っておりました」
「私もです」
「それは、貴族の大半はそう感じておりましたよ」
「多数の高位貴族の方々は、そのように動いていると聞いたことありましたわ」
「まさか、聖女が現れるとは……」
「聖女が現れただけでなく、王妃の病を完治させてしまったんですもの婚約するのも当然の流れです……が……ねぇ……」

 令嬢達の会話を盗み聞きするつもりはなかったが、足が動かなくなってしまった。
 私は今まで王子に婚約話がある事など考えもせず過ごし、王子本人からも『婚約者は居ない』としか聞いていなかった。
 その言葉を深読みすることなく受け入れていた。
 王族の婚約は重要なので議論を重ね未だに決め兼ねているのだろうくらいにしか考えておらず、まさか水面下で婚約話が進んでいたとは想像していなかった。
 私はそれを壊してしまったと言うことになるのだろうか? 
 だが私の婚約は国王自ら進めたことなので、それはただの噂にすぎないのではないだろうか? 
 私は怖くなり、全ては『国王陛下の采配だ』と責任逃れし始めた。

「これからは、聖女に付くべきかしら? 」
「……難しいですわよね」
「ですが、先程国王陛下は聖女は能力を使いきったと仰っていましたよね? 」
「王妃陛下を救うために能力を失ったとあれば、能力を理由にマカリオン王子と婚約解消することはないということですよね? 」
「それだど二人が婚約解消する事は、決してないと言うことですか? 」

 私は物音立てないよう気を付けながらその場を離れる。

「知らなかった……」

 王子は本来、別の令嬢との婚約が進んでいた。
 そこに能力を消失したとはいえ王妃を治癒した私が現れてしまい、急遽婚約者の変更が行われた。
 国王としては王妃を救った私への褒美なのだろうが、私は望んでいないしそれどころか王子にとっては迷惑でしかない事だった。
 喜ばれる婚約ではないと理解していたが、時間が経過したとしても受け入れられる可能性も少ないと知った。

「もう、私には何も出来ないのに……」

 会場に視線を向けると王子の姿をいち早く捉えた。
 王子は一人ではなく先程の令嬢と楽し気にしている。
 彼らの姿はとても目を奪われ、自然と注目を浴びていた。

「お似合いの二人……」

 王子の相手は絵に描いたような令嬢で、互いに見つめ合えば自然と微笑み合い私の知らない王子がそこにいる。
 彼らを目で追うと王子と視線があったように感じたが、彼は直ぐに逸らし私に背を向ける。
 もしかしたら令嬢達が話していた婚約の相手とは、王子がダンスを受け入れた令嬢の事なのかもしれない。
 何人もの令嬢にダンスに誘われていたが、承諾したのはあの令嬢だけだった。
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