【完結】恋愛に向いていない女性の記録。婚約者との関係改善を目指して記憶喪失のフリをしたら……婚約解消になった編

天冨 七緒

文字の大きさ
5 / 75

出来心だった……

「ん゛っん……つあぁ……」

 目覚めると頭に痛みを感じ優しく触れたのだが、予想以上の痛みに襲われた。

「何……? 」

 何故頭に痛みを感じているのか原因を思い出す。
 確か……フランツ様とお会いする日で……会えたのだったかしら?

「あっ、そうよそう。今回もフランツ様は遅刻されて、お会いする時間の大半を一人応接室で過ごしていたの。それで帰りに馬車が大きく揺れて……頭を……ぶつけたんだった」

 思い出すだけで、疲れた。
 だけど、この疲れはそれだけではない。
 私一人婚約者との仲を改善しようと必死になって、それでも彼には届かない。

「あの小説にそっくり」

 小説のヒロインも私と同じ気持ちだったのかもしれない。
 壊れてもいいから関係を変えたかった。

「私も……記憶喪失のフリしてみようかな……」

 彼は心配してくれるかしら? 

「お嬢様、お目覚めになったのですね。心配したんですよ、タドミール伯爵邸からの帰りに馬車が故障してしまうなんて……お嬢様……お嬢様?」

「……あなたは? フランツ様とは誰かしら? 」

「……お……嬢様? ……私の事……分かりませんか? 」

 どうしよう……やっぱり覚えているって、言うべき?
 今なら……

「すぐに旦那様とお医者様に報告をしてまいります。お嬢様はもう少しお休みください」

「……ぁっ……待っ……て……」

 使用人は慌てた様子で、私の静止する言葉を置き去りにして部屋を去って行く。

「ど……どうしよう……」

 怖いと思いつつ、このまま続けたらどうなるのか考えてしまう。

「そうだ、これっ」

 分からないが、あの恋愛小説は隠さないといけないと体が勝手に動いた。
 机の上にあった小説を棚の奥に隠し、ベッドに戻ると扉が開いた。
 間一髪で私の犯罪は成し遂げられた。

「セラフィーナ、大丈夫なのかっ」

 慌てた様子で入って来たのは父のアレクサンテリ。
 その後ろの我が家お抱えの医師のコルンバ、そして使用人のヴァローナ。
 私は記憶など失っていない。
 全員の事、確り覚えている。
 
「セラフィーナ様、私は医者です。少し診察をよろしいですか? 」

 どうしよう……
 今なら記憶が混乱していただけで、覚えていますって言えば問題ないよね?
 自分の吐いた嘘に緊張している。

「……はい」

 私の様子が周囲にどのように見えているのか、考える余裕はない。
 私はいつ真実を話すべきか、それしか考えられなかった。

「それでお嬢様は、私の事は分かりますか? 」

「ぇっ……ぁっ……わ……」

 言わないと……

「無理はしなくて結構です。大丈夫です……」

 医師は父に視線を送り、小さく首を振る。
 その仕草で私の嘘が肯定されてしまったのが伝わる。

「ぁっぁっ……」

「まさか、言葉もお忘れですか? 」

 私の動揺が別の疑惑まで生まれてしまう。

「いえっ、話せます」

 私が話せる事を伝えると、三人が安堵する。

「お嬢様は目覚めたばかり、もう少し安静になさってください。侯爵、よろしいですか? 」

「あぁ」

 記憶喪失だと信じている医師と父が部屋を出て行ってしまう。
 私は、真実が言えず二人を目で追うしか出来なかった。

「お嬢様、少しお休みになってください」

 使用人に横になるよう促され、従ってしまった。
 この際一度眠り、起きたら記憶が戻っていたという事にしよう。
 大事にはならないはず……落ち着く為に自分に言い聞かせる。
感想 61

あなたにおすすめの小説

殿下の婚約者は、記憶喪失です。

有沢真尋
恋愛
 王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。  王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。  たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。  彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。 ※ざまあ要素はありません。 ※表紙はかんたん表紙メーカーさま

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。 必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。 ──目を覚まして気付く。 私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰? “私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。 こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。 だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。 彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!? そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。