【完結】恋愛に向いていない女性の記録。婚約者との関係改善を目指して記憶喪失のフリをしたら……婚約解消になった編

天冨 七緒

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カフェ

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 私の姿を発見すると、彼は席を立ち笑顔を振りまき手を上げる。
 
「あれは……誰? 」

 私の知る彼ではない。
 彼は私に笑顔を見せるような人物ではない。
 いつも無表情で、感情のない謝罪を口にする男。
 
「令嬢、会いたかった。会いたい思いが募り過ぎて昨日は眠れなかった……そうだ、これを。令嬢ににあると思って、受け取ってくれないか? 」

 彼は事前に準備していた花束を差し出す。
 彼の言葉を鵜呑みにすることなく、席に着く。
 私が席についてから彼も座る。
 以前とはまるで立場が逆転した。
 
「令息に伝えておきたいことがあるんです」

「なんでしょう」

「一方的に贈り物を送りつけるのは止めて頂けますか? 」

 今回の周囲に見せつける為だけの花束の事もだが、今まで送って来た送り物全ての事を言っている。

「一方的……」

 彼は自身が贈り物を与えれば、私が喜ぶと思っているのだろう。

「私達は婚約者ではないのですから」

「……俺は……どうにか、気持ちを伝えたくて……」

「どんな気持ちですか? 」

 次期侯爵になりたい気持ち?
 捨てた伯爵令嬢に見せつけたい気持ち?
 今度はどんな『嘘』を口にするだろう。

「俺は、令嬢を愛している。この気持ちは本物だ信じてほしい」

 愛してる……
 どんな嘘が出てくるのかと思えば……笑いを堪えるのが大変だ。

「本物ですか……証明して頂けますか? 」

「証明……とは? 」

「こちらの書類にサインして頂けますか? 」

 私は準備していた書類を彼の前に差し出す。

「書類? 」

 彼は書類に目を通す。
 私の思わぬ提案に困惑しつつ読み進めているようだが、表情が曇る。

「どうですか? サイン出来そうですか? 」

 今まで令息に振り回されていた私が彼を試す。

「令嬢、こちらは……大袈裟ではありませんか? 」

「そうでしょうか? 私達は一度婚約解消したのですよ? このくらいしないと互いに信頼できないかと」

「しかし……」

「それに、今の私は記憶喪失。記憶が戻った時に証拠がないと、何もかも白紙になりますよ? 」

 脅迫しているつもりは無いが、記憶喪失を持ち出すと令息はそれ以上言わず黙って考え込む。
 
「分かった、サインする」

 彼は覚悟を決めた様子。
 サインを終えるとフランツは取り繕った笑みを私に向ける。
 
「ケーキでもどうだ? この店のケーキは美味しいらしい」

 書類にサインした途端、婚約者……恋人気取り。

「結構です。長居するつもりはありませんから」

「えっ、俺達は婚約者に戻るんだから良いじゃないか? 」

「私達が婚約者に戻る可能性は、これからの一年間で信頼関係を築くことが出来たらの話です。築けない場合は、私達の再婚約はありません」

「……そうだな」

 振り返ることなく、私は先にカフェを退出させてもらった。
 過去の仕返しをしているつもりは無いが、過去の彼と同じことをしていると思えてしまった。
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