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フランツ・タドミール
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<フランツ・タドミール視点>
「ちっ……面倒になったな」
記憶喪失で人が変わるというのは本当らしい。
以前までは従順で、手がかからなかったのに……
「侯爵になるまでは、耐えるしかないな……くそっ」
爵位だけの面白みのない女から、いい女を婚約者にしようとした瞬間邪魔が入るなんて……
「俺が次期侯爵という立場を捨ててまで選んでやったのに……」
あいつは簡単に侯爵に靡きやがった。
伯爵に挨拶を終えたというのに、家門も俺も捨て侯爵夫人を選んだ。
伯爵も「娘の気持ちを優先させたい。婚約解消を選んだ君ならわかるだろう? 」と言われた。
「ふざけるなっ。あの女から俺に近寄って来たんじゃないかっ」
侯爵夫人になるあの女に対して、俺がそれ以下だと我慢ならない。
その為には、侯爵以上の適齢期の令嬢なんて都合よくはいない。
仕方なく、つまらない女にだって媚びを売ってやる。
「侯爵にさえなれば……」
今までずっと我慢してきた。
仕事の提携で結ばれた婚約。
相手が侯爵という事で、父から「令嬢の機嫌を損ねるな」と何度言われた事か。
初めは俺だって、良好な関係を築こうとしていた。
だが、俺の存在意義を見失う。
タドミール家では兄の補佐を、ギャスパル侯爵家では令嬢の補佐を……俺は俺だけの為に生きちゃいけないのか?
「フランツ様ですよね? 」
公爵家のお茶会に参加した時、美しい令嬢に出会った。
令嬢は、金色に輝く髪がキラキラとして美しかった。
「えっと……名前を窺っても? 」
「失礼いたしました、私の名前は伯爵家のトゥーリッキ・カタストロフィと申します」
「トゥーリッキ……伯爵令嬢……」
伯爵令嬢となれば、どこかのお茶会で顔を合わせていそうなものだが話を聞くと今日が初めてだと、
令嬢は幼い頃から体が弱く、領地で静養していた。
成長し体調も安定と医師の許可も得て、王都での生活を始めたらしい。
「初めてで緊張しているんです、お友達出来るか心配で」
彼女は今まで領地の屋敷から出たことはなく、友人もいないと話す。
「おレェが……友達になろうか? 」
声が裏返ってしまい、余計に緊張する。
俺はそれ程、彼女を意識していた。
「私の初めての友達になってくれるの? 」
純粋な彼女の期待に満ちた目。
「あぁ」
彼女によく見られたくて余裕ぶった態度を見せているが、心臓が壊れる程だ。
『初めて』という言葉で、彼女の全ての初めてを俺で埋め尽くしたかった。
彼女と親しく出来るのは『俺だけでいいのに』と初めての感情を知る。
「今日も令嬢はいるだろうか? 」
退屈だと感じていたお茶会だが、今日も彼女に会えるかもしれないと思うと朝から浮かれていた。
両親は俺の姿を見て、相手は婚約者だろうと勘違いしているのを知っていたが否定せずに過ごす。
婚約者のいる俺が彼女に対して抱く感情は、周囲に知られてはいけないのを理解していたから。
それからは出来る限り誰よりも彼女を優先した。
俺に婚約者がいることは黙っていたのだが、当然隠しきれるものじゃない。
「私……フランツ様とお会いするのやめます」
突然の彼女の言葉に頭が真っ白になる。
俺は嫌われてしまったのか?
「どうしてだっ、何か嫌な事をしてしまったのか? 教えてくれ」
「いえ、そうじゃないんです……そうじゃ……フランツ様には……婚約者様がいらっしゃるのでしょ? 」
涙を浮かべながら訴える彼女に、これほどまで婚約者が疎ましく思ったことは無い。
この時、俺は完全に婚約者を嫌うようになった。
「あれは、父が決めた政略的なもの。俺達に恋愛感情は無いんだ。俺はトゥーリッキと一緒にいたいと思っている」
「私も……フランツ様と一緒が良い」
涙を流す彼女を抱きしめていた。
彼女も俺の背に手を回したことで気持ちが通じ合ったと舞い上がる。
俺は彼女の不安が拭えるまで何度も訴えた。
不安に思う彼女からの手紙が届けばいつだって向かった。
それでも婚約者との時間は動かす事が出来ない。
「婚約者と会った事で、私の事が邪魔になるんじゃないですか? 」
明日は会えないことを彼女に伝えると、一気に悲しい表情を見せるので「婚約者の定期訪問だ」と伝えた。
彼女に嘘は吐きたくないから。
それが彼女を落ち詰めてしまった。
「なら、婚約者との対面が終わったら必ず会いに来る。俺を信じてくれ」
俺は彼女に誠意を見せたかった。
それから婚約者との対面後だけでなく、対面前にも会うようになった。
「行かないで」
彼女にお願いされれば、叶えていた。
婚約者の事なんてどうでもいい。
「ごめんなさい、ワガママを言ってしまいましたね」
落ち着くと彼女は涙ながらに微笑む。
その姿はまるで天使のように美しい。
「いや、トゥーリッキのワガママならいくらでも嬉しいよ」
「んふふ。私はもう大丈夫ですから、婚約者様のところへ向かってください」
心臓を抉られるような痛み。
一生忘れてしまいたい相手の事を、愛しい人の口から思い出させられてしまった。
こんな時でも、相手を思いやれる彼女は心まで美しい。
「……はぁ……気が進まないが、相手は侯爵令嬢。仕方なく行くが、終わればすぐにまた来るから安心してくれ」
「はい、お待ちしております」
憂鬱が、行くしかない。
爵位が高いというだけで、俺は婚約解消を提案することもできない。
屋敷に戻ると、執事の複雑な表情で婚約者がまだいるのだと理解出来た。
これだけ遅刻しているんだ、帰ればいいものを……
「本当にあの女は人の感情が分からないんだな」
政略的な婚約だと思っていたが、もしかしたら令嬢のワガママじゃないかと思えてきた。
「うっとおしい女だ」
時間まで婚約者ごっこに付き合い、時間が過ぎれば俺はすぐに彼女の元へ走る。
俺を待つ彼女はいじらしく、守ってやらなければと再確認する。
「ちっ……面倒になったな」
記憶喪失で人が変わるというのは本当らしい。
以前までは従順で、手がかからなかったのに……
「侯爵になるまでは、耐えるしかないな……くそっ」
爵位だけの面白みのない女から、いい女を婚約者にしようとした瞬間邪魔が入るなんて……
「俺が次期侯爵という立場を捨ててまで選んでやったのに……」
あいつは簡単に侯爵に靡きやがった。
伯爵に挨拶を終えたというのに、家門も俺も捨て侯爵夫人を選んだ。
伯爵も「娘の気持ちを優先させたい。婚約解消を選んだ君ならわかるだろう? 」と言われた。
「ふざけるなっ。あの女から俺に近寄って来たんじゃないかっ」
侯爵夫人になるあの女に対して、俺がそれ以下だと我慢ならない。
その為には、侯爵以上の適齢期の令嬢なんて都合よくはいない。
仕方なく、つまらない女にだって媚びを売ってやる。
「侯爵にさえなれば……」
今までずっと我慢してきた。
仕事の提携で結ばれた婚約。
相手が侯爵という事で、父から「令嬢の機嫌を損ねるな」と何度言われた事か。
初めは俺だって、良好な関係を築こうとしていた。
だが、俺の存在意義を見失う。
タドミール家では兄の補佐を、ギャスパル侯爵家では令嬢の補佐を……俺は俺だけの為に生きちゃいけないのか?
「フランツ様ですよね? 」
公爵家のお茶会に参加した時、美しい令嬢に出会った。
令嬢は、金色に輝く髪がキラキラとして美しかった。
「えっと……名前を窺っても? 」
「失礼いたしました、私の名前は伯爵家のトゥーリッキ・カタストロフィと申します」
「トゥーリッキ……伯爵令嬢……」
伯爵令嬢となれば、どこかのお茶会で顔を合わせていそうなものだが話を聞くと今日が初めてだと、
令嬢は幼い頃から体が弱く、領地で静養していた。
成長し体調も安定と医師の許可も得て、王都での生活を始めたらしい。
「初めてで緊張しているんです、お友達出来るか心配で」
彼女は今まで領地の屋敷から出たことはなく、友人もいないと話す。
「おレェが……友達になろうか? 」
声が裏返ってしまい、余計に緊張する。
俺はそれ程、彼女を意識していた。
「私の初めての友達になってくれるの? 」
純粋な彼女の期待に満ちた目。
「あぁ」
彼女によく見られたくて余裕ぶった態度を見せているが、心臓が壊れる程だ。
『初めて』という言葉で、彼女の全ての初めてを俺で埋め尽くしたかった。
彼女と親しく出来るのは『俺だけでいいのに』と初めての感情を知る。
「今日も令嬢はいるだろうか? 」
退屈だと感じていたお茶会だが、今日も彼女に会えるかもしれないと思うと朝から浮かれていた。
両親は俺の姿を見て、相手は婚約者だろうと勘違いしているのを知っていたが否定せずに過ごす。
婚約者のいる俺が彼女に対して抱く感情は、周囲に知られてはいけないのを理解していたから。
それからは出来る限り誰よりも彼女を優先した。
俺に婚約者がいることは黙っていたのだが、当然隠しきれるものじゃない。
「私……フランツ様とお会いするのやめます」
突然の彼女の言葉に頭が真っ白になる。
俺は嫌われてしまったのか?
「どうしてだっ、何か嫌な事をしてしまったのか? 教えてくれ」
「いえ、そうじゃないんです……そうじゃ……フランツ様には……婚約者様がいらっしゃるのでしょ? 」
涙を浮かべながら訴える彼女に、これほどまで婚約者が疎ましく思ったことは無い。
この時、俺は完全に婚約者を嫌うようになった。
「あれは、父が決めた政略的なもの。俺達に恋愛感情は無いんだ。俺はトゥーリッキと一緒にいたいと思っている」
「私も……フランツ様と一緒が良い」
涙を流す彼女を抱きしめていた。
彼女も俺の背に手を回したことで気持ちが通じ合ったと舞い上がる。
俺は彼女の不安が拭えるまで何度も訴えた。
不安に思う彼女からの手紙が届けばいつだって向かった。
それでも婚約者との時間は動かす事が出来ない。
「婚約者と会った事で、私の事が邪魔になるんじゃないですか? 」
明日は会えないことを彼女に伝えると、一気に悲しい表情を見せるので「婚約者の定期訪問だ」と伝えた。
彼女に嘘は吐きたくないから。
それが彼女を落ち詰めてしまった。
「なら、婚約者との対面が終わったら必ず会いに来る。俺を信じてくれ」
俺は彼女に誠意を見せたかった。
それから婚約者との対面後だけでなく、対面前にも会うようになった。
「行かないで」
彼女にお願いされれば、叶えていた。
婚約者の事なんてどうでもいい。
「ごめんなさい、ワガママを言ってしまいましたね」
落ち着くと彼女は涙ながらに微笑む。
その姿はまるで天使のように美しい。
「いや、トゥーリッキのワガママならいくらでも嬉しいよ」
「んふふ。私はもう大丈夫ですから、婚約者様のところへ向かってください」
心臓を抉られるような痛み。
一生忘れてしまいたい相手の事を、愛しい人の口から思い出させられてしまった。
こんな時でも、相手を思いやれる彼女は心まで美しい。
「……はぁ……気が進まないが、相手は侯爵令嬢。仕方なく行くが、終わればすぐにまた来るから安心してくれ」
「はい、お待ちしております」
憂鬱が、行くしかない。
爵位が高いというだけで、俺は婚約解消を提案することもできない。
屋敷に戻ると、執事の複雑な表情で婚約者がまだいるのだと理解出来た。
これだけ遅刻しているんだ、帰ればいいものを……
「本当にあの女は人の感情が分からないんだな」
政略的な婚約だと思っていたが、もしかしたら令嬢のワガママじゃないかと思えてきた。
「うっとおしい女だ」
時間まで婚約者ごっこに付き合い、時間が過ぎれば俺はすぐに彼女の元へ走る。
俺を待つ彼女はいじらしく、守ってやらなければと再確認する。
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