【完結】恋愛に向いていない女性の記録。婚約者との関係改善を目指して記憶喪失のフリをしたら……婚約解消になった編

天冨 七緒

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フランツ・タドミール

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 あれだけ俺達の関係を見せつけ・宣言すれば、婚約は確実。
 俺達を引き裂くことはできない。
 
「フランツ、カタストロフィ令嬢とは本気なのか? 」

 パーティーでは、周囲の目を気にして何も追及しなかった父。
 屋敷に戻ると父が待ち構えていた。
 俺はトゥーリッキを屋敷まで見送っていたので、帰宅が遅くなってしまった。

「はい」

「まさかとは思うが……婚約中からの関係ではないだろうな? 」

「ふふっ」

 何も答えず笑うと、父は言葉を失う。
 
「そうだ、トゥーリッキ……カタストロフィ伯爵令嬢との婚約を進めてもらえますか? 」

「……お前は……何を考えているんだ? 侯爵家を敵に回すつもりか? 」

「俺は貴族の矜持を守ろうとする父の事は尊敬しています。だが、俺には俺の人生がある」

「それがどれ程の事なのか分かっているのか? 」

「はい、覚悟の上です」

 それからの父は一気に老けたように見えた。
 もう、兄に爵位を譲ったらいい。

「フランツ……これは、どういうことだ? 」

 婚約解消後、父は俺を睨みつけるだけで何も語らなかった。
 なのに、今日は機嫌がすこぶる悪い。

「なんでしょうか? 」

 父の怒りが激増しないよう、こちらは冷静に対応する。

「カタストロフィ伯爵から、婚約の断りの返事が届いたぞっ」

  父は届いたばかりの手紙を俺目掛け投げつける。

「……断り? 何故です? 」

 トゥーリッキが俺の婚約を断るはずがない。
 足元に落ちた手紙を確認する。

「お前の目で確かめろ」

 確かに、父の言う通り手紙には
 『有り難い申し出なのですが、状況も状況ですし今回の件はお互い見送った方が賢明かと。我が娘でなくとも、令息には相応しい令嬢がおられる思います。この度の提案はお断りさせていただきます』

 カタストロフィ伯爵からの返事は『保留』ではなく、明確に『お断り』だった。

「婚約解消してまで選んだ女に断られたなんて……お前は……セラフィーナお嬢様に頭を下げて寄りを戻してもらえ」

 それこそお断りだ。
 漸くトゥーリッキと婚約できると思っていたのに……
 急いでカタストロフィ邸に向かい、確かめる事にした。
 突然の訪問という事で門番が俺を受け入れないことに苛立ちが増す。
 今まで何度も訪れていたのに、どうして今日に限って俺を拒む?
「これはこれはフランツ様、本日は先触れもなく如何なされました? 」

 門番とのやり取りで漸く伯爵が気が付いたのか、門が開かれる。

「手紙が届きました。あれは……間違いですよね? カタストロフィ伯爵は、俺とトゥーリッキの婚約……認めてくださいますよね? 」

 あの手紙は何かの間違いだ。
 俺は何度もカタストロフィ邸に訪れていたし、伯爵とも良好な関係を築いていた。
 きっとトゥーリッキの美しさに婚約が殺到し、伯爵は返事を送る相手を間違ってしまったに違いない。
 応接室に向かう間、俺は伯爵に確認し続ける。
 応接室に到着し、使用人に紅茶の準備をさせる伯爵の優雅ともとれる行動に不安と共に苛立ちを感じる。
 愛しい人の親なのでそんな感情抱きたくないのだが、抑えられない。

「……それが、申し訳ないのだがオルトロス侯爵から婚約の打診が先に来まして。伯爵家としては断れず……申し訳ない。だが……親としては娘の気持ちを優先させたい。婚約解消を選んだフランツ様にならわかってくださいますよね? フランツ様にもすぐに新たな婚約者が見つかりますよ」

 ふざけんな……ふざけんな……ふざけんなっ
 今更何言っているんだっ

「トゥーリッキは? トゥーリッキは婚約に納得しているのか? 彼女は今どこに? 彼女に会わせてくれ」

「娘は納得している。それに会うことは難しい」

「何故ですか? 」

 どうせ部屋にいるんだろう?
 俺に会わせないよう伯爵が監禁しているに違いない。
 もしかしたら、俺が助けに入るのを待っているのかもしれない。

「知っての通り、娘は婚約している。仲の良い君と一緒にいるのを誰かに見られて、良からぬ噂がたったら困るだろう? 」

「……俺達は婚約を約束していたんだ。トゥーリッキの気持ちはどうなる? 」

「娘の気持ちですか……娘は今、オルトロス侯爵の屋敷にいます」

「侯爵の……屋敷……」

「侯爵夫人になるんだ、一日でも早く立場に相応しい振る舞いが出来るようにならなければならない。その為娘は既は、侯爵家で教育を受けている。婚約発表パーティーには君も招待するので、是非参加してほしい」

 トゥーリッキの婚約発表パーティーに参加してくれ?
 笑みを浮かべながらそのような発言をする伯爵の神経が分からない。

「それは……トゥーリッキを強引に侯爵の屋敷に向かわせたのですか? 」

 トゥーリッキが自らの意思で向かうとは思えない。
 別の理由でオルトロス邸に向かわせ、トゥーリッキを言いくるめそのまま侯爵夫人の教育として屋敷に滞在させているのかもしれない。
 伯爵はトゥーリッキを侯爵に売った……

「フランツ様は娘を心配してくれているのですよね。ですが、フランツ様の考えとは違います。娘は自らの意思でオルトロス侯爵家へ向かい侯爵夫人となるべく教育を受けております」

「嘘だっ、そんなはずない。トゥーリッキは俺との婚約を望んでいた」

「……私も父親です。娘が望む幸せの後押しをしたいと思っております。爵位ではなく、娘の気持ちを優先いたしました」

 気持ちを優先……
 あいつは……俺よりも侯爵夫人になることを選んだ……
 トゥーリッキへの恋心は消え去り怒りに満ちていた。
 それから、オルトロスと共に買い物をするトゥーリッキの姿が目撃され、噂は瞬く間に拡散されていく。
 俺の知らないところでは……

「カタストロフィ令嬢ってフランツと婚約間近って話だったよな? 」
「あぁ。以前のパーティーでも『懸念事項も解消され、皆様には近々素敵な報告が出来るかと思います』って本人が話してたものな」
「まぁ、本人も『素敵な報告』としか言っていないからな」
「確かに『フランツとの婚約』とは言及していないな」
「侯爵との婚約を発表したとしても、俺達が勝手に相手はフランツだと勘違いしたに過ぎないからな」
「伯爵家のフランツより侯爵を選んだってことか」
「カタストロフィ令嬢って、病気療養で王都の習慣には不慣れって言って近づいたよな」
「あぁ。素直っていうか純情って印象だったものな……」
「結局は、王都育ちの他の高飛車な令嬢達と変わらなかったってことか」
「あいつ……捨てられたな」
「まぁ、自業自得だろう? 」
「元婚約者をあっさり捨てて、新しい女を選んだんだから……同類だろう」
「侯爵令嬢を捨てて、侯爵に女を奪われたのか」

 他人の言葉など気にした事なかったが、今ではやたら耳に届く。
 俺に気が付くと、友人面する奴らは……

「元婚約者に頭を下げて再婚約してもらったらいいんじゃないのか? 」

 軽口を叩く奴らに視線を向ければ、全員が俺を笑ってやがる。

「お前らがそう言うならそうしてやるよ……」

 俺はあの女の下手に出て、侯爵という地位を手にするつもりだ。
 そして、お前らを見下してやる。
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