僕と小林くんの純情で猿並みなせいかつ

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《きっかけ》

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「よいしょ……」

 クリスマスも差し迫った、12月の週末──勤め先のドラッグストア。
 行事に合わせて似合わないサンタ帽を被らされている僕がのろのろと品出しをしていると、向かいの避妊具コーナーで腕を組んで、品物とにらめっこしている男性がひとり。スーツの格好は、仕事帰りのサラリーマンだろうか。

「うーん。これと、これと……おっ、新製品。エロいなー……」

 目についたものをぽいぽいと見境なくカゴへ放り込んでいく勢いに、少し驚く。そんなに量を使うほど、性行為をするのかって。最近の子は性欲旺盛だな……思わずチラチラと様子を窺ってしまうと、彼の元へ一回り小柄な、スーツ姿の男性が近づいてくる。

「たぁくんっ♡」
「お、まゆ。欲しいもんあった?」
「はい、ありました。カゴに入れますね。後で個別に精算……わっ。スキン、いっぱいです……っ♡」
「連休中はずっとヤるって決めてたろ?♡ほら、まゆも好きなの選べよ」
「えっ、僕もですか?え、ええっと……♡それじゃ、これ、かな……♡」
「うわッ、エッグ♡まゆ、やっぱ天然でドスケベだな~♡」
「そ、そんなことありませんっ!だってこれが一番薄くて、えっちな形してるので……♡」
「その発想がドスケベなんだよ♡ゴム、今日もいっぱいぶら下げような♡」
「ひゃ♡やぁ♡お゙ッ♡たぁくぅん……ッ♡♡♡」
「っ……♡」

 お店の中だっていうのに腰を引き寄せていちゃいちゃと淫猥に絡み始める二人に、こっちが赤面してしまう。僕は奥手で性に淡白なのもあって、どうもこういう場面が苦手だ。急いで品出しを終えて、その場を去るようにバックヤードへ戻る。少しだけ呼吸を整えてからレジへ向かうと、ちょうど小林くんが例のサラリーマン達への対応を終えた所だった。

「ありがとうございました~っ」

 明るく声を出して深く頭を下げる気持ちのいい接客に感心しながら、僕は声を掛ける。

「小林くん、お疲れさま。さっきのお客さん大丈夫だった?」
「あ、田中さん……っ♡ゴムすごい量買っててびっくりしましたけど、心配されるようなことはなかったですよ?」

 彼は小林侑利(こばやしゆうり)くん。フリーターで、今は週に数日、夜の時間だけ入って貰っているアルバイトさんだ。大人しくて控えめな性格だけど、見ての通り仕事ぶりは丁寧で、僕もなにかと助けて貰っている。ミディアムヘアで、いつもふわふわの髪を後ろでひとつにまとめているんだよね。
 あ……ちなみに僕は田中敏弘(たなかとしひろ)。このドラッグストアで薬剤師として働いている34歳。恋人なし、趣味なし。冴えない毎日を、なんとなく過ごしているダメな大人だ。昔から目が悪くて、学生の頃に作った銀縁のスクエアメガネをずっと掛けている。ちなみに小林くんは24歳で、僕の10個下。しっかりしてるなぁ。

「そう?それなら良かった。さっき、ちょっとお店の中で過度に触れ合ったりしてたから……」
「そうなんですか?大胆……♡仲良さそうでしたし、カップルですかね?いいなぁ……♡」
「僕も、ちょっと羨ましくなったなぁ。僕はヘテロ寄りの指向だけど、同姓同士でもああやって親しくしてるのを見ると、いいなぁって思えてくるよ」
「えっ。本当ですか?」
「うん。もうずっとパートナーも居ないし、やっぱりひとりは淋しいなって思うし。僕は恋愛したい気持ちもあるし、性欲も一応、ないわけじゃないから……なにか出会い系のイベントにでも行ってみようかなぁ……」

 消極的な性格のせいで、僕は恋愛経験がほとんどない。別に愛情の在り方は恋愛だけじゃないし、様々な生き方を様々な方々が選んでいるから、引け目を感じているわけでもない。でも、やっぱり一人で居るとふと寂しくなって、誰かのぬくもりが欲しくなる。さっきのカップルみたいに、甘くイチャイチャしたいなって、そう思ったりしちゃうしね。
 だから勇気を出して、そういうイベントに行くのもいいかなって思ったんだ。最近は性的なイベントも増えてきて、恋愛経験が少ない人向けの内容もあるみたいだし。そういう所から試してみるのも悪くないかなって……。
 すると僕の言葉を聞いた小林くんは、真剣な顔でずいっと僕に近づいた。なにか──ひとつの決意を、固めたように。

「っ……。た、田中さんッ」
「うん?なに?」
「あ、あの。それ、なら……っ。僕が、立候補してもいいですか……っ?」
「えっ?立候補……?」
「そ、その。つまりっ。えっと……っ。ぼ、僕と。エッチ、しませんか……っ!?♡」
「──えっ。ええええぇぇぇっ!?」
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