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Chapter-01『覚醒する蒼の神姫、交錯する運命』
エピローグ:誰かが君を愛してる/02
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あれから少しの時間が過ぎ去った、ある日の夕暮れ時のことだ。
戒斗と遥の二人は、いつものように実家であり居候先である純喫茶『ノワール・エンフォーサー』を手伝っていた。今日は暇だったのか、アンジェも一緒になって店を手伝ってくれている。
「珈琲がお二つですね、畏まりました。少々お待ちくださいね」
遥が普段通りに柔らかな笑顔で接客をしていると、するとカランコロン、と来客ベルを鳴らして誰かが店に入ってくる気配がした。
「はい、いらっしゃいま――――!?」
丁度カウンターに戻ろうとした矢先で立ち止まり、振り向いて歓迎の挨拶を投げ掛けようとした遥だったが。しかし店に入ってきたその客の姿を見て、彼女は眼を見開いて驚く。
だって、現れたその客というのは――――。
「…………お久しぶりです、お姉さん」
あの時、夕暮れ時の堤防沿いで遥が話を聞いてやった――――あの、少女だったのだ。
「貴女は……!!」
ぺこり、と遥に頭を下げてお辞儀をする彼女は、前逢った時と同じく見知らぬ学校のセーラー服を身に纏っていた。
だが、あの時よりも幾らか顔色は良い感じだ。今の少女の顔にあるのは、もうあの時のように悲しさに満ちた暗い色ではなく。この先の未来を見据えた、そんな明るい色だけだった。
「お姉さんに話を聞いて貰ったお陰で、色々と吹っ切れました。お父さんが死んじゃったことは今でも悲しいし、耐えきれないぐらいに辛いけれど……でも、今は前を向いて歩いて行こうと思います。お姉さんが言ってくれたように、生きている私たちに出来ることは……今という時間を、ただ精いっぱいに生きるだけですから」
「……はい」
柔らかな笑顔を浮かべる少女の言葉を聞いて、遥もまた心からの安堵とともに微笑みかける。
そんな風に微笑む遥に、少女はこうも言った。
「それに、お父さんを手に掛けた怪物も倒されたみたいですからね」
と、少女は笑顔を浮かべながら遥にそう言ったのだ。
「警察は、特殊部隊が駆除したって発表していましたけれど。でも……私、見ちゃったんです。綺麗な青い髪をした女の人が、怪物をやっつけてくれるところを。
あの時、商店街で戦っていたあのヒトが誰なのかは分かりませんでしたけれど。でも……多分、あのヒトが噂になっている、都市伝説のヒーローなんじゃないかって。私はそう思います」
「……そう、ですか」
ニッコリと笑顔でそう言う彼女に、遥は心の底からの微笑みを投げ掛けた。
――――自分の戦いには、確かに意味があったんだ。
あの日あの時、あのバンディットと戦ったことで……今こうして、一人の少女の笑顔を取り戻すことが出来た。
こんなこと、本当に些細なことかも知れない。世界には今も沢山の悲しみが溢れていて、今も何処かで誰かが涙を流している。
…………だとしても。
だとしても、一人でも誰かの笑顔を守れるのなら。こんなに素敵な笑顔を、ひとつでも多く取り戻すことが出来るのなら。だとしたら――――自分の、間宮遥の戦いにも、きっと意味がある。
そう思えばこそ、遥は心からの笑顔を目の前の少女に向けていた。
「……良かったな、遥」
そんな風に微笑む遥の方を、戒斗がニヤリとしながらポンッと叩く。
「えへへ、はーるかさんっ!」
すると、戒斗の反対側では。今度はアンジェが遥の腕に抱きつきながら彼女の顔を見上げ、ニッコリと満面の笑みを浮かべていた。
「……はい、本当に」
二人に笑顔を向けられながら、目の前に立つ少女の顔を……絶望の消えた、未来に歩き出そうと決心した顔を見て、遥は改めて思った。自分の選んだこの道は、間違いなんかじゃない。自分の戦いにも、きっと何かの意味がある。この力に目覚めたことにも……神姫の力に目覚めたことにも、きっと意味があるのだろうと。
「折角です、席にどうぞ。今日は私が奢りますから」
柔らかな笑顔で遥はそう言って、少女をすぐ傍にあるカウンター席へと案内する。
そうして自分はカウンターの奥に戻り、席にちょこんと腰掛けたセーラー服の少女とカウンター越しに笑顔を交わし合って。そうしながら、遥は確かな手応えを胸に、決意を胸に。カウンターの下で静かに、密かに出現させた右手のセイレーン・ブレスを光らせる。
煌めくブレスの、エナジーコアの輝きは。今までのように戸惑いと葛藤に満ちたものではなく――――何処までも真っ直ぐで、純粋な輝きに満ちていた。
(Chapter-01『覚醒する蒼の神姫、交錯する運命』完)
戒斗と遥の二人は、いつものように実家であり居候先である純喫茶『ノワール・エンフォーサー』を手伝っていた。今日は暇だったのか、アンジェも一緒になって店を手伝ってくれている。
「珈琲がお二つですね、畏まりました。少々お待ちくださいね」
遥が普段通りに柔らかな笑顔で接客をしていると、するとカランコロン、と来客ベルを鳴らして誰かが店に入ってくる気配がした。
「はい、いらっしゃいま――――!?」
丁度カウンターに戻ろうとした矢先で立ち止まり、振り向いて歓迎の挨拶を投げ掛けようとした遥だったが。しかし店に入ってきたその客の姿を見て、彼女は眼を見開いて驚く。
だって、現れたその客というのは――――。
「…………お久しぶりです、お姉さん」
あの時、夕暮れ時の堤防沿いで遥が話を聞いてやった――――あの、少女だったのだ。
「貴女は……!!」
ぺこり、と遥に頭を下げてお辞儀をする彼女は、前逢った時と同じく見知らぬ学校のセーラー服を身に纏っていた。
だが、あの時よりも幾らか顔色は良い感じだ。今の少女の顔にあるのは、もうあの時のように悲しさに満ちた暗い色ではなく。この先の未来を見据えた、そんな明るい色だけだった。
「お姉さんに話を聞いて貰ったお陰で、色々と吹っ切れました。お父さんが死んじゃったことは今でも悲しいし、耐えきれないぐらいに辛いけれど……でも、今は前を向いて歩いて行こうと思います。お姉さんが言ってくれたように、生きている私たちに出来ることは……今という時間を、ただ精いっぱいに生きるだけですから」
「……はい」
柔らかな笑顔を浮かべる少女の言葉を聞いて、遥もまた心からの安堵とともに微笑みかける。
そんな風に微笑む遥に、少女はこうも言った。
「それに、お父さんを手に掛けた怪物も倒されたみたいですからね」
と、少女は笑顔を浮かべながら遥にそう言ったのだ。
「警察は、特殊部隊が駆除したって発表していましたけれど。でも……私、見ちゃったんです。綺麗な青い髪をした女の人が、怪物をやっつけてくれるところを。
あの時、商店街で戦っていたあのヒトが誰なのかは分かりませんでしたけれど。でも……多分、あのヒトが噂になっている、都市伝説のヒーローなんじゃないかって。私はそう思います」
「……そう、ですか」
ニッコリと笑顔でそう言う彼女に、遥は心の底からの微笑みを投げ掛けた。
――――自分の戦いには、確かに意味があったんだ。
あの日あの時、あのバンディットと戦ったことで……今こうして、一人の少女の笑顔を取り戻すことが出来た。
こんなこと、本当に些細なことかも知れない。世界には今も沢山の悲しみが溢れていて、今も何処かで誰かが涙を流している。
…………だとしても。
だとしても、一人でも誰かの笑顔を守れるのなら。こんなに素敵な笑顔を、ひとつでも多く取り戻すことが出来るのなら。だとしたら――――自分の、間宮遥の戦いにも、きっと意味がある。
そう思えばこそ、遥は心からの笑顔を目の前の少女に向けていた。
「……良かったな、遥」
そんな風に微笑む遥の方を、戒斗がニヤリとしながらポンッと叩く。
「えへへ、はーるかさんっ!」
すると、戒斗の反対側では。今度はアンジェが遥の腕に抱きつきながら彼女の顔を見上げ、ニッコリと満面の笑みを浮かべていた。
「……はい、本当に」
二人に笑顔を向けられながら、目の前に立つ少女の顔を……絶望の消えた、未来に歩き出そうと決心した顔を見て、遥は改めて思った。自分の選んだこの道は、間違いなんかじゃない。自分の戦いにも、きっと何かの意味がある。この力に目覚めたことにも……神姫の力に目覚めたことにも、きっと意味があるのだろうと。
「折角です、席にどうぞ。今日は私が奢りますから」
柔らかな笑顔で遥はそう言って、少女をすぐ傍にあるカウンター席へと案内する。
そうして自分はカウンターの奥に戻り、席にちょこんと腰掛けたセーラー服の少女とカウンター越しに笑顔を交わし合って。そうしながら、遥は確かな手応えを胸に、決意を胸に。カウンターの下で静かに、密かに出現させた右手のセイレーン・ブレスを光らせる。
煌めくブレスの、エナジーコアの輝きは。今までのように戸惑いと葛藤に満ちたものではなく――――何処までも真っ直ぐで、純粋な輝きに満ちていた。
(Chapter-01『覚醒する蒼の神姫、交錯する運命』完)
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