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Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
第一章:深紅の欠片、目覚めの刻は足音もなく忍び寄る/04
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そのまま家に戻ってきた戒斗はガレージにZを停めると、車から降りたアンジェと一緒に……どうやら今日もちょっとだけ店を手伝ってくれるらしい彼女と一緒に、戒斗の実家でもある純喫茶『ノワール・エンフォーサー』の扉を潜る。
「いらっしゃいませ。……ああ、戒斗さんでしたか。それにアンジェさんも、おかえりなさい」
カランコロンとベルの鳴る戸を潜れば、丁度接客をしていた……店の看板娘でもある、青い髪を揺らす長身の乙女がそう言って戒斗たちを出迎えてくれた。
――――間宮遥。
この店の看板娘で、記憶喪失で、そして神姫である乙女。そんな彼女が、店に入ってきた戒斗とアンジェを出迎えてくれていた。
「おう、ただいま遥」
「遥さーんっ、たっだいまー♪」
そんな風に出迎えてくれた遥に対し、戒斗とアンジェは各々の反応で返す。
「アンジェさん、今日も学園は楽しかったですか?」
「うんっ。今日も楽しく過ごせたよー」
「ふふっ、それは何よりです。楽しいに越したことはありませんからね」
「店、任せっきりにしちまって悪かったな。今から俺たちも手伝うよ。アンジェがまた手伝ってくれるみたいだしな」
「宜しいんですか?」
「今日はちょっと宿題の量が多いから、ちょっとだけ。いつもみたいに長くは手伝えないけどね。でも出来る限りは手伝うよっ」
「そんな……申し訳ないです」
「謝るのはなしだよ、遥さんっ。僕がしたくてすることだから……ね?」
「……はい。でしたら、本日もよろしくお願いしますね」
「うん、任せてよっ」
こんな会話も、柔らかな微笑みを交わし合うアンジェと遥も……全てが、いつも通りの光景だ。
遥と笑みを交わし合ったアンジェが先んじてこの場から離れ、店を手伝うべくカウンターの奥に入っていく。
それは普段通りの、見慣れた日常の景色。まるで羽毛に包まれているような、そんなふんわりとした優しい感覚すら覚えてしまう……そんな優しい景色が、この上ない幸せな景色が、確かに此処にあった。
そして――――。
「……ごめんなさい、戒斗さん。アンジェさんも。私……行かなくちゃ」
――――頭の中に甲高い、耳鳴りのような感触を覚えた遥が二人にそう告げるのも、ある意味で新たな日常の景色だった。
「…………ああ、分かった。店のことは俺たちに任せろ。遥は気にせず、遥のやりたいようにやってこい」
「……はい!」
戒斗がフッと小さく笑んでそう言うと、遥は強く頷き返し。身に着けていたエプロンを放り出せば、そのまま戒斗たちの傍をすり抜けて……バンッと戸を開けて、そのまま店の外へと駆け出していく。
そのままの勢いで店の前に停めてあった黒いバイク、二〇一九年式のカワサキ・ニンジャZX‐10Rに飛び乗り、フルフェイス・ヘルメットを被った遥は暖機運転の時間も待たぬまま、スロットル全開で飛び出していった。
(遥……今日も忙しいんだな)
そんな遥の、加速度的に遠ざかっていくZX‐10Rの音色を聴きながら、戒斗はふとそんなことを思っていた。
飛び出していった遥はきっと、辿り着いた先でまた誰かの笑顔を守ることだろう。神姫ウィスタリア・セイレーンとして、誰かの笑顔を護り抜く為に……彼女は日々、こうして人知れず戦っているのだ。
だからこそ、そんな彼女の使命を知っているからこそ……戒斗は、そしてアンジェは彼女を快く見送るのだ。無力な自分たちに出来ることは、彼女にしてやれることは……結局のところ、それだけなのだから。
「っ……!」
とまあ、戒斗がそんなことを思いながらカウンターの方に戻っていくと。すると、そこで戒斗が見たのは――――。
「アンジェ……!?」
――――カウンターの奥、隅の方で頭を抱えて蹲っている、そんなアンジェの姿だった。
「いらっしゃいませ。……ああ、戒斗さんでしたか。それにアンジェさんも、おかえりなさい」
カランコロンとベルの鳴る戸を潜れば、丁度接客をしていた……店の看板娘でもある、青い髪を揺らす長身の乙女がそう言って戒斗たちを出迎えてくれた。
――――間宮遥。
この店の看板娘で、記憶喪失で、そして神姫である乙女。そんな彼女が、店に入ってきた戒斗とアンジェを出迎えてくれていた。
「おう、ただいま遥」
「遥さーんっ、たっだいまー♪」
そんな風に出迎えてくれた遥に対し、戒斗とアンジェは各々の反応で返す。
「アンジェさん、今日も学園は楽しかったですか?」
「うんっ。今日も楽しく過ごせたよー」
「ふふっ、それは何よりです。楽しいに越したことはありませんからね」
「店、任せっきりにしちまって悪かったな。今から俺たちも手伝うよ。アンジェがまた手伝ってくれるみたいだしな」
「宜しいんですか?」
「今日はちょっと宿題の量が多いから、ちょっとだけ。いつもみたいに長くは手伝えないけどね。でも出来る限りは手伝うよっ」
「そんな……申し訳ないです」
「謝るのはなしだよ、遥さんっ。僕がしたくてすることだから……ね?」
「……はい。でしたら、本日もよろしくお願いしますね」
「うん、任せてよっ」
こんな会話も、柔らかな微笑みを交わし合うアンジェと遥も……全てが、いつも通りの光景だ。
遥と笑みを交わし合ったアンジェが先んじてこの場から離れ、店を手伝うべくカウンターの奥に入っていく。
それは普段通りの、見慣れた日常の景色。まるで羽毛に包まれているような、そんなふんわりとした優しい感覚すら覚えてしまう……そんな優しい景色が、この上ない幸せな景色が、確かに此処にあった。
そして――――。
「……ごめんなさい、戒斗さん。アンジェさんも。私……行かなくちゃ」
――――頭の中に甲高い、耳鳴りのような感触を覚えた遥が二人にそう告げるのも、ある意味で新たな日常の景色だった。
「…………ああ、分かった。店のことは俺たちに任せろ。遥は気にせず、遥のやりたいようにやってこい」
「……はい!」
戒斗がフッと小さく笑んでそう言うと、遥は強く頷き返し。身に着けていたエプロンを放り出せば、そのまま戒斗たちの傍をすり抜けて……バンッと戸を開けて、そのまま店の外へと駆け出していく。
そのままの勢いで店の前に停めてあった黒いバイク、二〇一九年式のカワサキ・ニンジャZX‐10Rに飛び乗り、フルフェイス・ヘルメットを被った遥は暖機運転の時間も待たぬまま、スロットル全開で飛び出していった。
(遥……今日も忙しいんだな)
そんな遥の、加速度的に遠ざかっていくZX‐10Rの音色を聴きながら、戒斗はふとそんなことを思っていた。
飛び出していった遥はきっと、辿り着いた先でまた誰かの笑顔を守ることだろう。神姫ウィスタリア・セイレーンとして、誰かの笑顔を護り抜く為に……彼女は日々、こうして人知れず戦っているのだ。
だからこそ、そんな彼女の使命を知っているからこそ……戒斗は、そしてアンジェは彼女を快く見送るのだ。無力な自分たちに出来ることは、彼女にしてやれることは……結局のところ、それだけなのだから。
「っ……!」
とまあ、戒斗がそんなことを思いながらカウンターの方に戻っていくと。すると、そこで戒斗が見たのは――――。
「アンジェ……!?」
――――カウンターの奥、隅の方で頭を抱えて蹲っている、そんなアンジェの姿だった。
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