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Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
第三章:神姫二人、激突する刃と刃/06
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一方、隙を見て離脱した遥はといえば。戦場となった河川敷から少し離れた場所、住宅街の真ん中にポツンとある割と大きな公園の傍に自分のバイク、ニンジャZX‐10Rを停め。スタンドを立てて路肩に停めたそれに独りぽつんと寄りかかりながら、憂うように深く息をついていた。
(あの神姫……一体、何だったんでしょうか)
溜息をつく彼女が思うのは、やはりあの襲い掛かってきた謎の神姫……赤と黒の人間武器庫めいた神姫、ガーネット・フェニックスのことだった。
当然、神姫であるからには認識阻害が掛かっているから……遥はフェニックスが顔見知りのセラフィナ・マックスウェルであることを知らない。向こうもまた同様だ。互いに互いが顔見知りの間柄であることを知らぬままに戦い、そして……戦いが終わった今、遥は独り彼女のことを憂いていたのだ。
(どうして、突然私に襲い掛かってきたりなんか)
分からない。考えたところで、分かるワケがないのだ。
ただ……彼女と戦っている中で、彼女と言葉を交わしている中で分かったことがある。
それは――――ガーネット・フェニックスが並々ならぬ事情を抱えて戦っていること。強い哀しみを背負い、確固たる信念のために戦っていること。それだけは……あの戦いの中で、遥は確かに感じ取っていた。
もしかしたら、昔の……記憶を失う前の仲間だったのか。
一瞬そんなことも考えはしたが、それはあり得ないと遥は即座に否定する。
あの口振りから察するに、ああして直に逢ったのは先刻が初めてのことなのだろう。まず間違いなく、セイレーンとフェニックスは初対面だ。少なくとも、神姫としては。
だとしたら……本当に彼女は、どうして襲い掛かってきたりなんかしたのか。
そんなこと、考えたって答えなんて出やしない。考えるだけ不毛な話だ、こんなこと。
(それにしても……私以外に、神姫が存在していただなんて)
同時に、遥はそんなことも胸の内で思っていた。
――――自分以外の神姫。
可能性としては十分に考えられた話だ。実際、自分が神姫であることを戒斗とアンジェに打ち明けるよりずっと前から、遥はその可能性もあると考えていた。
だが……イザ実際に自分以外の神姫と出逢うのは、今日が初めてのことだ。
実を言うと、他の神姫と出逢えたことが最初、遥は嬉しかったのだ。戦っているのが自分だけではないと知れたから、決して孤独な戦いではないと確信できたから。
しかし――――直後にガーネット・フェニックスが襲い掛かってきて、喜びは全て掻き消えた。
神姫同士で争ったって、何の意味もない。ずっと遥が思っていることだ。先程は降りかかる火の粉を払う意味で、彼女の相手をしたが……正直なところ、神姫とは戦いたくないのが遥の本音だ。
だが、かといって彼女に素性を打ち明ける気も毛頭無い。
戒斗やアンジェに自分のことを話せたのは、あくまで相手があの二人だったからだ。互いに気心が知れた間柄で、そして遥にとっては家族同然の二人だからこそ……そんな二人に諭されたからこそ、遥は勇気を出して自分の真実を打ち明け、そして今でもあの家に居候させてもらっている。
しかし――――ガーネット・フェニックスは幾ら同じ神姫といえ、赤の他人だ。
互いに何も知らぬ、顔見知り以下の間柄。そんな相手に自分の秘密をおいそれと話す方が妙だろう。
だからこそ、遥は一緒に来て貰うと言ったフェニックスの言葉を、事情を洗いざらい話して貰うと言った彼女の言葉を拒んだ。
そして、戦った――――。
(彼女は私の味方? それとも……敵?)
実際に刃を交えてしまった現状だと、どうしても後者としか考えられない。明らかな敵意を持って攻撃してきた神姫ガーネット・フェニックスは、自身にとっての敵と認識するしか……少なくとも、今の状況だとそれ以外の選択肢はあり得ない。
――――だが。
(でも……不思議と、悪いヒトだとは思えなかった。乱暴だったけれど、でも……彼女のあの眼は、決して悪人の眼じゃあなかった)
それでも、遥はそう思ってしまっていた。
間宮遥がそう思うのは、ガーネット・フェニックスの正体が知人であると無意識に悟っているからなのか、それとも彼女が天性のお人好しだからなのか。
どちらかといえば、後者だろう。神姫が有する認識阻害という特性を考えれば、前者は万に一つもあり得ない話だ。もしあり得るのならば……間宮遥はとっくにその素性をP.C.C.Sに看破されているはずなのだから。
だが、戦っている最中のガーネット・フェニックスの眼が――――セラの眼が悪い色をしていなかったのも、また事実だ。
寧ろ、その真逆。遥は刃を交える中で、セラの金色の双眸の奥に強く感じていたのだ。深い哀しみと燃え滾る怒り、それでも揺るがぬ強く真っ直ぐな信念と、そして……どこまでも懐の深い、暖かな慈愛の心を。
だからこそ、遥の内心は複雑だった。果たしてあの赤と黒の神姫を、ガーネット・フェニックスを敵と判断すべきなのか、それとも味方だと思うべきなのか……どちらとも結論を付けられず、彼女の内心はただただ複雑な色ばかりが支配していたのだ。
(何にしても、あの二体を取り逃がしてしまったのは痛い。近い内に……必ず、私が倒さないと)
そんな複雑な心境の中、遥は同時にそんなことも考えていた。
あの二体のバンディット――――マンティスとビートル、二体をすんでのところで逃がしてしまったのは、本当に痛かった。
故に遥は思うのだ。近い内に追い詰め、必ず自分があの二体を仕留めなければならないと。これ以上、もう誰の泣き顔も見たくないから。誰かに悲しい思いをさせたくない、だから……必ず、倒さなきゃと。遥は胸の内側で強く思い、そして固く決心していた。
「…………私が、必ず護りますから」
固い決意を胸に間宮遥はひとりごち、寄りかかっていたバイクに再び跨がる。
長い脚を翻して跨がり、引っ掛けていた黒いフルフェイス・ヘルメットを被って、イグニッション・スタート。甲高い唸り声を上げて目を覚ましたニンジャZX‐10Rのスロットルを捻り、遥は猛然とした勢いでまた走り始めた。
――――心に浮かぶ迷いを、困惑を風の中に振り切っていくかのように。間宮遥は無心のまま、夕暮れの街にバイクを走らせていった。
(第三章『神姫二人、激突する刃と刃』了)
(あの神姫……一体、何だったんでしょうか)
溜息をつく彼女が思うのは、やはりあの襲い掛かってきた謎の神姫……赤と黒の人間武器庫めいた神姫、ガーネット・フェニックスのことだった。
当然、神姫であるからには認識阻害が掛かっているから……遥はフェニックスが顔見知りのセラフィナ・マックスウェルであることを知らない。向こうもまた同様だ。互いに互いが顔見知りの間柄であることを知らぬままに戦い、そして……戦いが終わった今、遥は独り彼女のことを憂いていたのだ。
(どうして、突然私に襲い掛かってきたりなんか)
分からない。考えたところで、分かるワケがないのだ。
ただ……彼女と戦っている中で、彼女と言葉を交わしている中で分かったことがある。
それは――――ガーネット・フェニックスが並々ならぬ事情を抱えて戦っていること。強い哀しみを背負い、確固たる信念のために戦っていること。それだけは……あの戦いの中で、遥は確かに感じ取っていた。
もしかしたら、昔の……記憶を失う前の仲間だったのか。
一瞬そんなことも考えはしたが、それはあり得ないと遥は即座に否定する。
あの口振りから察するに、ああして直に逢ったのは先刻が初めてのことなのだろう。まず間違いなく、セイレーンとフェニックスは初対面だ。少なくとも、神姫としては。
だとしたら……本当に彼女は、どうして襲い掛かってきたりなんかしたのか。
そんなこと、考えたって答えなんて出やしない。考えるだけ不毛な話だ、こんなこと。
(それにしても……私以外に、神姫が存在していただなんて)
同時に、遥はそんなことも胸の内で思っていた。
――――自分以外の神姫。
可能性としては十分に考えられた話だ。実際、自分が神姫であることを戒斗とアンジェに打ち明けるよりずっと前から、遥はその可能性もあると考えていた。
だが……イザ実際に自分以外の神姫と出逢うのは、今日が初めてのことだ。
実を言うと、他の神姫と出逢えたことが最初、遥は嬉しかったのだ。戦っているのが自分だけではないと知れたから、決して孤独な戦いではないと確信できたから。
しかし――――直後にガーネット・フェニックスが襲い掛かってきて、喜びは全て掻き消えた。
神姫同士で争ったって、何の意味もない。ずっと遥が思っていることだ。先程は降りかかる火の粉を払う意味で、彼女の相手をしたが……正直なところ、神姫とは戦いたくないのが遥の本音だ。
だが、かといって彼女に素性を打ち明ける気も毛頭無い。
戒斗やアンジェに自分のことを話せたのは、あくまで相手があの二人だったからだ。互いに気心が知れた間柄で、そして遥にとっては家族同然の二人だからこそ……そんな二人に諭されたからこそ、遥は勇気を出して自分の真実を打ち明け、そして今でもあの家に居候させてもらっている。
しかし――――ガーネット・フェニックスは幾ら同じ神姫といえ、赤の他人だ。
互いに何も知らぬ、顔見知り以下の間柄。そんな相手に自分の秘密をおいそれと話す方が妙だろう。
だからこそ、遥は一緒に来て貰うと言ったフェニックスの言葉を、事情を洗いざらい話して貰うと言った彼女の言葉を拒んだ。
そして、戦った――――。
(彼女は私の味方? それとも……敵?)
実際に刃を交えてしまった現状だと、どうしても後者としか考えられない。明らかな敵意を持って攻撃してきた神姫ガーネット・フェニックスは、自身にとっての敵と認識するしか……少なくとも、今の状況だとそれ以外の選択肢はあり得ない。
――――だが。
(でも……不思議と、悪いヒトだとは思えなかった。乱暴だったけれど、でも……彼女のあの眼は、決して悪人の眼じゃあなかった)
それでも、遥はそう思ってしまっていた。
間宮遥がそう思うのは、ガーネット・フェニックスの正体が知人であると無意識に悟っているからなのか、それとも彼女が天性のお人好しだからなのか。
どちらかといえば、後者だろう。神姫が有する認識阻害という特性を考えれば、前者は万に一つもあり得ない話だ。もしあり得るのならば……間宮遥はとっくにその素性をP.C.C.Sに看破されているはずなのだから。
だが、戦っている最中のガーネット・フェニックスの眼が――――セラの眼が悪い色をしていなかったのも、また事実だ。
寧ろ、その真逆。遥は刃を交える中で、セラの金色の双眸の奥に強く感じていたのだ。深い哀しみと燃え滾る怒り、それでも揺るがぬ強く真っ直ぐな信念と、そして……どこまでも懐の深い、暖かな慈愛の心を。
だからこそ、遥の内心は複雑だった。果たしてあの赤と黒の神姫を、ガーネット・フェニックスを敵と判断すべきなのか、それとも味方だと思うべきなのか……どちらとも結論を付けられず、彼女の内心はただただ複雑な色ばかりが支配していたのだ。
(何にしても、あの二体を取り逃がしてしまったのは痛い。近い内に……必ず、私が倒さないと)
そんな複雑な心境の中、遥は同時にそんなことも考えていた。
あの二体のバンディット――――マンティスとビートル、二体をすんでのところで逃がしてしまったのは、本当に痛かった。
故に遥は思うのだ。近い内に追い詰め、必ず自分があの二体を仕留めなければならないと。これ以上、もう誰の泣き顔も見たくないから。誰かに悲しい思いをさせたくない、だから……必ず、倒さなきゃと。遥は胸の内側で強く思い、そして固く決心していた。
「…………私が、必ず護りますから」
固い決意を胸に間宮遥はひとりごち、寄りかかっていたバイクに再び跨がる。
長い脚を翻して跨がり、引っ掛けていた黒いフルフェイス・ヘルメットを被って、イグニッション・スタート。甲高い唸り声を上げて目を覚ましたニンジャZX‐10Rのスロットルを捻り、遥は猛然とした勢いでまた走り始めた。
――――心に浮かぶ迷いを、困惑を風の中に振り切っていくかのように。間宮遥は無心のまま、夕暮れの街にバイクを走らせていった。
(第三章『神姫二人、激突する刃と刃』了)
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