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第五章
涙の理由
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冷たい雨が降る夜、星空は&barの前に足を止めた。
蓮志のことが気になって仕方がなかった。
触れていはいけないと思いながらも、彼の孤独の底に少しでも寄り添いたいと思ってしまう。
「七瀬くん、来てくれたんだ。開店時間もうすぐだけど中で待つ?」
勝手口の扉から現れた蓮志は、相変わらず柔らかい笑みを浮かべていた。
「蓮志さん、今少しだけ話したいことがあって」
「話なら、また今度でも」
「今じゃないと、ダメなんです」
思わず蓮志の手を強く握っていた。
自分でもなぜこんなに焦っているのかがわからなかった。ただ、言葉を失う前に、伝えなければいけない気がした。
「蓮志さんの隣にいるのは、あの男の人じゃなくて、俺じゃダメなんですか?」
蓮志はしばらく黙って、視線を逸らすように微笑んだ。
「何言ってるの、そういうのはちゃんと好きな人に言った方がいいよ。じゃぁそろそろ戻るから」
それだけ言うと、蓮志は星空の手を優しく振りほどき、店の中へ戻っていった。
その背中はどこまでも遠く感じた。
数日後、星空は偶然、蓮志がとある店に入っていくのを見てしまう。
それは洒落たゲイバーだった。
星空は、思わず後を追って中に入っていた。
蓮志は、知らない男性から軽くキスを受けながら笑っていた。
温かさなんてない、ただ、その場に合わせた作り笑い。
それが蓮志の"もう一つの顔"なのだと、知ってしまった。
蓮志の隣にいた男性は少し席を外した時、星空に一人の男性が近づいてきた。
「君、ここに来るのは初めて?」
「はい」
彼は、明るい茶髪にゆるいパーマをあてた20代半ばぐらいの男性だった。
「やっぱり、見ない顔だったから。よく見ると可愛い顔してるね」
「えっ」
戸惑っていると、ガタンっとグラスがテーブルを叩く音がした。
「あの、やめてもらえませんか?俺のなんで」
その瞬間、俺は蓮志さんの手に連れられて急かされるように店を出た。
顔が見えない。
感情がわからない。
蓮志さんはどう思ってるのだろうか。
ただ知りたくてゲイバーになんて入って行ったことを怒っているのだろうか。
ただ引かれる手に力が入るのがわかる。
「あの、手痛いです」
「ごめん」
ゆっくり手が解かれる。
「なんであんなところに来てたの」
「たまたま蓮志さんを見かけて」
「そうなんだ、でもこれ以上踏み込まないで欲しい」
「そうですよね…わかりました。でも一つ聞いてもいいですか?」
「うん」
「さっきの、俺のってどういう意味ですか?」
「それは…君が困ってそうだったからそう言うしかなかっただけ。期待しないでね」
「わかりました。じゃぁこの辺りで大丈夫です。送ってもらってありがとうございました」
少しでも期待した自分が恥ずかしかった。
触れてはいけない場所に踏み込んでしまった罪悪感と、なぜか湧き上がる嫉妬で苦しくなった。
星空は、まっすぐに歩けなくなった。
「なんで、こんなに苦しいんだろう」
その夜、布団の中で星空は涙をこぼした。
蓮志の心に触れたい、誰にも触れさせたくない。
ただの嫉妬なのかもしれないと思ったけど、胸を打つ感情がそれとは違うことを教えていた。
蓮志のことが好きかもしれない、そう思ってしまった。
でも、それは迷惑だろうか。重いだろうか。蓮志の過去を、痛みを、理解もせずに。
自分の無力さと、想いだけが先走ってることに、打ちのめされた。
でも……。
それでも、逃げたくなかった。
蓮志の心に触れることができるのなら、たとえ傷ついても。
少しでも、その孤独に手を伸ばせるのなら。
あなたを、独りにしたくない。
蓮志のことが気になって仕方がなかった。
触れていはいけないと思いながらも、彼の孤独の底に少しでも寄り添いたいと思ってしまう。
「七瀬くん、来てくれたんだ。開店時間もうすぐだけど中で待つ?」
勝手口の扉から現れた蓮志は、相変わらず柔らかい笑みを浮かべていた。
「蓮志さん、今少しだけ話したいことがあって」
「話なら、また今度でも」
「今じゃないと、ダメなんです」
思わず蓮志の手を強く握っていた。
自分でもなぜこんなに焦っているのかがわからなかった。ただ、言葉を失う前に、伝えなければいけない気がした。
「蓮志さんの隣にいるのは、あの男の人じゃなくて、俺じゃダメなんですか?」
蓮志はしばらく黙って、視線を逸らすように微笑んだ。
「何言ってるの、そういうのはちゃんと好きな人に言った方がいいよ。じゃぁそろそろ戻るから」
それだけ言うと、蓮志は星空の手を優しく振りほどき、店の中へ戻っていった。
その背中はどこまでも遠く感じた。
数日後、星空は偶然、蓮志がとある店に入っていくのを見てしまう。
それは洒落たゲイバーだった。
星空は、思わず後を追って中に入っていた。
蓮志は、知らない男性から軽くキスを受けながら笑っていた。
温かさなんてない、ただ、その場に合わせた作り笑い。
それが蓮志の"もう一つの顔"なのだと、知ってしまった。
蓮志の隣にいた男性は少し席を外した時、星空に一人の男性が近づいてきた。
「君、ここに来るのは初めて?」
「はい」
彼は、明るい茶髪にゆるいパーマをあてた20代半ばぐらいの男性だった。
「やっぱり、見ない顔だったから。よく見ると可愛い顔してるね」
「えっ」
戸惑っていると、ガタンっとグラスがテーブルを叩く音がした。
「あの、やめてもらえませんか?俺のなんで」
その瞬間、俺は蓮志さんの手に連れられて急かされるように店を出た。
顔が見えない。
感情がわからない。
蓮志さんはどう思ってるのだろうか。
ただ知りたくてゲイバーになんて入って行ったことを怒っているのだろうか。
ただ引かれる手に力が入るのがわかる。
「あの、手痛いです」
「ごめん」
ゆっくり手が解かれる。
「なんであんなところに来てたの」
「たまたま蓮志さんを見かけて」
「そうなんだ、でもこれ以上踏み込まないで欲しい」
「そうですよね…わかりました。でも一つ聞いてもいいですか?」
「うん」
「さっきの、俺のってどういう意味ですか?」
「それは…君が困ってそうだったからそう言うしかなかっただけ。期待しないでね」
「わかりました。じゃぁこの辺りで大丈夫です。送ってもらってありがとうございました」
少しでも期待した自分が恥ずかしかった。
触れてはいけない場所に踏み込んでしまった罪悪感と、なぜか湧き上がる嫉妬で苦しくなった。
星空は、まっすぐに歩けなくなった。
「なんで、こんなに苦しいんだろう」
その夜、布団の中で星空は涙をこぼした。
蓮志の心に触れたい、誰にも触れさせたくない。
ただの嫉妬なのかもしれないと思ったけど、胸を打つ感情がそれとは違うことを教えていた。
蓮志のことが好きかもしれない、そう思ってしまった。
でも、それは迷惑だろうか。重いだろうか。蓮志の過去を、痛みを、理解もせずに。
自分の無力さと、想いだけが先走ってることに、打ちのめされた。
でも……。
それでも、逃げたくなかった。
蓮志の心に触れることができるのなら、たとえ傷ついても。
少しでも、その孤独に手を伸ばせるのなら。
あなたを、独りにしたくない。
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