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第1章 精霊と共に追放された元聖女
第2話 精霊との旅の始まり
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十一歳の頃に聖女と呼ばれるようになり、約五年間過ごした家を出る。
無駄に広くて、結局一部屋しか使わなかったけど、それでも少し寂しく思ってしまう。
『まぁまぁ。それより、どっちへ行くの? 東のイーサリム公国は、ここアメーニア王国よりも更に大きく栄えた国で、とにかく人が多いって聞くし、西のウラーイーツ連合国は商人の国だから、新しく商売を始める人に支援が手厚いらしいよ』
(凄いね、エミリー。よく、そんな事まで知っているんだね)
『まぁねー。伊達に千年も生きてないし、それに精霊からいろいろ聞けるからねー』
人が多い東の国か、支援して貰える西の国か。
少し迷った後、
『じゃあ、西に行こう』
(おっけー! じゃあ、早速出発だねー。風の精霊の力で空を飛んで行く?)
『んー、聖女のお仕事でも、それは最後の手段として殆ど使わなかったし、歩いて行こうよ。別に急ぎの旅でも無いしね』
ゆっくり歩いて行く事にした。
今までのお仕事では、街から街への移動は馬車だけど、街から精霊石のある場所までは徒歩だったから、歩くのには慣れている。
それに、いつも目的地へ急いでいたから、こうしてゆっくり町並みを見て歩くのは初めてかもしれない。
日が傾き、オレンジ色に染まる大通り。美味しそうなパンを売る露店や、美味しそうなスープを売る露店や、美味しそうな……
『……リディア。リディアってば。さっきから、目が食べ物にしか向いてないよ!?』
(だ、だって、お仕事が終わって、ご飯を食べる間も無く追い出されちゃったんだもん)
『何か買って食べればいーじゃない。お仕事でもらった給金って、今まで殆ど使ってないんでしょ?』
(だけど、これから何があるか分からないし、使わない方が良いと思うんだ)
『でも……じゃあ、いつものでいい?』
(ごめんね。じゃあ、いつものお願い出来るかな)
エミリーからも食事を取るように言われたので、美味しそうな露店通りを通り抜け、街の外へと向かう。
街の門では当然兵士さんが立っているんだけど、近場の洞窟なんかへ行く事もあって、私はしょっちゅう街を出入りするので顔パスで通る事が出来る。
街を出て、街道沿いに少し歩いた所で、
『そろそろ良いんじゃない?』
(そうかな。じゃあ……あの川の近くにしよう)
『はーい。じゃあ、先ずは……ドリアードッ!』
エミリーが樹の精霊のリーアちゃんを呼び出すと、そのリーアちゃんの力で、あっという間に私の背よりも少し高いくらいの樹が育つ。
そこには赤い木の実が沢山生っていて、その実――リンゴを一つ取る。
(ごめんね。いつも、ありがとう。……いただきます)
『どういたしまして』
リーアちゃんはいつも一言二言しか喋ってくれないけど、可愛い笑顔を浮かべて姿を消す。
薄暗い夕暮れの中で、紅い宝石のようなリンゴを一口かじる。
「……おいしいっ!」
『今日は結構歩いたのに、飲まず食わずだったからね』
(それはそうなんだけど、それを差し引いてもリーアちゃんの果物はいつも美味しいよね)
今回はリンゴだったけど、みかんや桃にバナナとか、その時々で、リーアちゃんはいろんなフルーツを生み出してくれる。
その時のリーアちゃんの気分なのか、それとも季節や土地柄なのかは分からないけれど、いずれも瑞々しくてとにかく美味しい。
ただ、樹が丸ごと一本生えるから、食べきれない程の実が出来てしまう事が、困り事と言えば困り事なんだけどね。
『じゃあ、リディアはそのままご飯を食べててね。次は……ノーム!』
続いて土の精霊のムーちゃんが呼び出され、石と土を使ってあっという間に小さなレンガのお家が出来た。
(ムーちゃん! 今日もありがとう!)
『気にしないでー。じゃあ、またねー!』
ムーちゃんのレンガのお家は、あんまりないけど予定していた目的地と違う場所に着いてしまったりとか、あんまりないけど思っていた場所に街が無かった時とかに使わせてもらう。
『要はリディアが道に迷った時だよね』
(ま、迷ってないもん。それに、こういうのはレアケースだし)
『最近は道を間違えていた時に、見かねてウチが指摘するもんね』
(むー。まぁ、その……エミリーにはお世話になってます)
『まぁ、お世話になっているのはお互い様だけどね。さてさて、次はウィル・オー・ウィスプ!』
作ってもらった小屋に入ると、今度は光の精霊のオーちゃんが天井に淡い光を生み出してくれた。
えっと、実は私が真っ暗だと寝られないタイプで、これは本当にオーちゃんのおかげで助かっている。
(オーちゃん。ありがとー!)
『……』
無口なオーちゃんが、気にするな……とでも言いたげに手を振り、姿を消す。
それからリンゴを食べ終えた私は、これからどうしようとか、アクセサリーの形だとかを考えたり、エミリーとお喋りしたりして、
『じゃあ、そろそろ寝よっか』
(だねー。エミリー、おやすみ)
『おやすみー』
聖女を辞めた初日は特に何も無く、移動で終わった。
無駄に広くて、結局一部屋しか使わなかったけど、それでも少し寂しく思ってしまう。
『まぁまぁ。それより、どっちへ行くの? 東のイーサリム公国は、ここアメーニア王国よりも更に大きく栄えた国で、とにかく人が多いって聞くし、西のウラーイーツ連合国は商人の国だから、新しく商売を始める人に支援が手厚いらしいよ』
(凄いね、エミリー。よく、そんな事まで知っているんだね)
『まぁねー。伊達に千年も生きてないし、それに精霊からいろいろ聞けるからねー』
人が多い東の国か、支援して貰える西の国か。
少し迷った後、
『じゃあ、西に行こう』
(おっけー! じゃあ、早速出発だねー。風の精霊の力で空を飛んで行く?)
『んー、聖女のお仕事でも、それは最後の手段として殆ど使わなかったし、歩いて行こうよ。別に急ぎの旅でも無いしね』
ゆっくり歩いて行く事にした。
今までのお仕事では、街から街への移動は馬車だけど、街から精霊石のある場所までは徒歩だったから、歩くのには慣れている。
それに、いつも目的地へ急いでいたから、こうしてゆっくり町並みを見て歩くのは初めてかもしれない。
日が傾き、オレンジ色に染まる大通り。美味しそうなパンを売る露店や、美味しそうなスープを売る露店や、美味しそうな……
『……リディア。リディアってば。さっきから、目が食べ物にしか向いてないよ!?』
(だ、だって、お仕事が終わって、ご飯を食べる間も無く追い出されちゃったんだもん)
『何か買って食べればいーじゃない。お仕事でもらった給金って、今まで殆ど使ってないんでしょ?』
(だけど、これから何があるか分からないし、使わない方が良いと思うんだ)
『でも……じゃあ、いつものでいい?』
(ごめんね。じゃあ、いつものお願い出来るかな)
エミリーからも食事を取るように言われたので、美味しそうな露店通りを通り抜け、街の外へと向かう。
街の門では当然兵士さんが立っているんだけど、近場の洞窟なんかへ行く事もあって、私はしょっちゅう街を出入りするので顔パスで通る事が出来る。
街を出て、街道沿いに少し歩いた所で、
『そろそろ良いんじゃない?』
(そうかな。じゃあ……あの川の近くにしよう)
『はーい。じゃあ、先ずは……ドリアードッ!』
エミリーが樹の精霊のリーアちゃんを呼び出すと、そのリーアちゃんの力で、あっという間に私の背よりも少し高いくらいの樹が育つ。
そこには赤い木の実が沢山生っていて、その実――リンゴを一つ取る。
(ごめんね。いつも、ありがとう。……いただきます)
『どういたしまして』
リーアちゃんはいつも一言二言しか喋ってくれないけど、可愛い笑顔を浮かべて姿を消す。
薄暗い夕暮れの中で、紅い宝石のようなリンゴを一口かじる。
「……おいしいっ!」
『今日は結構歩いたのに、飲まず食わずだったからね』
(それはそうなんだけど、それを差し引いてもリーアちゃんの果物はいつも美味しいよね)
今回はリンゴだったけど、みかんや桃にバナナとか、その時々で、リーアちゃんはいろんなフルーツを生み出してくれる。
その時のリーアちゃんの気分なのか、それとも季節や土地柄なのかは分からないけれど、いずれも瑞々しくてとにかく美味しい。
ただ、樹が丸ごと一本生えるから、食べきれない程の実が出来てしまう事が、困り事と言えば困り事なんだけどね。
『じゃあ、リディアはそのままご飯を食べててね。次は……ノーム!』
続いて土の精霊のムーちゃんが呼び出され、石と土を使ってあっという間に小さなレンガのお家が出来た。
(ムーちゃん! 今日もありがとう!)
『気にしないでー。じゃあ、またねー!』
ムーちゃんのレンガのお家は、あんまりないけど予定していた目的地と違う場所に着いてしまったりとか、あんまりないけど思っていた場所に街が無かった時とかに使わせてもらう。
『要はリディアが道に迷った時だよね』
(ま、迷ってないもん。それに、こういうのはレアケースだし)
『最近は道を間違えていた時に、見かねてウチが指摘するもんね』
(むー。まぁ、その……エミリーにはお世話になってます)
『まぁ、お世話になっているのはお互い様だけどね。さてさて、次はウィル・オー・ウィスプ!』
作ってもらった小屋に入ると、今度は光の精霊のオーちゃんが天井に淡い光を生み出してくれた。
えっと、実は私が真っ暗だと寝られないタイプで、これは本当にオーちゃんのおかげで助かっている。
(オーちゃん。ありがとー!)
『……』
無口なオーちゃんが、気にするな……とでも言いたげに手を振り、姿を消す。
それからリンゴを食べ終えた私は、これからどうしようとか、アクセサリーの形だとかを考えたり、エミリーとお喋りしたりして、
『じゃあ、そろそろ寝よっか』
(だねー。エミリー、おやすみ)
『おやすみー』
聖女を辞めた初日は特に何も無く、移動で終わった。
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