元侯爵令嬢の異世界薬膳料理~転生先はみんな食事に興味が無い世界だったので、美味しいご飯で人の身も心も癒します~

向原 行人

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第3話 攻撃魔法が使えないアリス

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 リアムさんが馬に乗せてくれたおかげで、旅路がかなり楽になった。
 後ろでリアムさんが支えてくれているから落ちる事もないだろうし、このペースで進めば、すぐに農村に着いちゃうかも。
 だけど、街道が林の中に入って暫くしたところで、木陰から人影が飛び出してきた。
 馬が驚いて嘶くと共に急停止したので、思わず荷物を手放しそうになってしまう。

「きゃあっ!」
「アリスお嬢様! 大丈夫ですか?」
「えぇ、ありがとう。それより馬の前に出た方は大丈夫かしら?」

 農村の住人だろうか。
 のどかな村で殆ど馬が通らないとか、山菜採りに夢中だったりしたのだろうか。
 車が急に止まれないのと同じ様に、馬だって急に止まれないだろうし、馬に踏まれたら怪我では済まない可能性もあるので気を付けて欲しい。
 そんな事を考えている間に、リアムさんが馬から降りて様子を見に行く。

「おい、大丈夫か?」
「ははっ、すまないね」

 リアムさんが様子を見に行くと、男性がすぐに起き上がり、逃げるようにして林に向かって走り出す。
 一体何だったのだろうと思っていたら、私の後ろに誰かが飛び乗り……馬が走り出したっ!?

「えっ!?」
「悪いな、嬢ちゃん。何処かのお嬢様なのかもしれないが、死にたくなければ、ジッとしている事だな」

 走る馬の上で、後ろから伸びてきた手に握られた刃物を見せつけられる。
 もしかして、さっきの男性も仲間なの!?

「あ、アリスお嬢様っ!? クソっ! 待てぇぇぇっ!」

 後ろからリアムさんの叫び声が聞こえてくるけど、振り返る事も出来ず、ただジッと耐える事しか出来ない。
 私が初級魔法だけじゃなく、中級の攻撃魔法とかが使えたら、何とか打開出来そうなのに。
 暫く街道を走ると、途中から獣道に入って行く。
 右へ左へと木々を避けて行き、私は息を呑んで頭を下げるしかない。
 その後は、背の高い草の中を進んで小川を飛び越え……ボロボロの小屋の前で馬が止まった。

「一人で降りられるかい? お嬢様」
「……だ、大丈夫です」
「悪かったな。狙いは、馬とその鞄だけだ。素直に金目の物を出してくれたら、まぁ命までは取らねぇよ。明日には近くの村で解放してやるから、少し我慢しろ」
「わかり……ました」

 ボロボロの服を着た男性に刃物を向けられているので、わかったと言うしかないのだけど、この荷物には残念ながら大した物が入っていない。
 おそらく盗賊だと思うのだけど、着替えとアリスが貰っていたお小遣いしかないので、金目の物がないじゃないか! と言われたらどうしよう。
 だけど、言われるがままに荷物を渡すと満足したようで、小屋に入れられ……中には男性が三人もいた。

「お疲れ……ん? その女は何だ?」
「例の商人との取引の為に馬を盗んだんだが、その馬に乗っていたから、そのまま連れて来た。まだガキだし、命まで奪わなくても良いだろう」
「ふむ。明日になったら俺たちは億万長者だ。このアジトも捨てて高飛びするし、まぁ良いんじゃないか? 見たところ貴族のお嬢様のようだし、殺したりしたら後が面倒だ」

 例の商人とか取引とかっていうのが気になるけど、ひとまず命を取られるような事はないみたい。
 とりあえず、部屋の隅でジッとしていろと言われたので、指示通りにしゃがみ込み……すぐ傍に大きな袋が置かれているのに気付いた。
 小さな物が大量に詰まっている感じがするけど、これは何だろうか。

「あの、これは?」
「ん? あぁ、俺たちの飯のクズ豆だ。そのまま食べられるパンを買う金なんて無いからな。料理は自分たちでしないと……あぁ、貴族のお嬢様は料理なんてした事がないか」
「いえ。むしろ料理はよくやっていました」

 まぁこれはアリスに転生する前の、私が……だけど。
 しかし、この発言に興味を持ったのか、男性の一人が近寄ってきた。

「ふぅん。貴族のくせに自分で料理をするなんて、変わっているな。まぁ良い……じゃあ、その豆の殻を取ってくれ。飯にする」

 汚れた浅いお皿を差し出されたけど、ここに殻を剥いた豆を入れろという事だろうか。
 ……まさか、この豆をそのまま食べたりしないわよね?
 見た感じ、大豆のように思えるけど、確か生では身体に良くなかったはずだ。

「どうした? やっぱり貴族のお嬢様はクズ豆の殻が取れないのか?」
「いえ、そうではなくて、どのようにして食べるのかなと」
「どのようにって、そのまま食べる以外にどうする気なんだ?」

 なるほど。この人たちにとっては、大豆を殻から取り出す事が料理なんだ。
 だったら……と、辺りを見渡すと、取っ手が壊れているけど、鍋のようなものがあった。
 よし、私が本当の料理っていうものを教えてあげる!
 少しの手間を加えるだけで、いつも食べているであろう、この豆を美味しくしてみせるんだからっ!
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