元侯爵令嬢の異世界薬膳料理~転生先はみんな食事に興味が無い世界だったので、美味しいご飯で人の身も心も癒します~

向原 行人

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第10話 薬草嫌いの少女

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 奥さんに連れられてやって来たのは、先程かなり遅い昼食を取ったあのお店だった。

「ウォルト。邪魔するよ」
「ん? 急にどうしたんだ……って、後ろの二人はさっきの客!? またウチの料理に難癖をつけに来たのか!」

 難癖って、あれは料理に対するアドバイスなのに!
 氷魔法が掛かった保存庫を使うにしても、前日の朝に調理したものを殺菌作用のあるものも入れずに置いておくと、食中毒になる可能性がある。
 提供したこのお店も、食べたお客さんも嫌な想いをする事になってしまう可能性があるのに!

「待ちな。このお嬢ちゃんは、エイミーの為に薬草料理を作ってきてくれたんだ。二階に上がらせてもらうよ」
「お、おい! 何を言っているんだ!? 薬草って、あの木の根だろ!? エイミーは、アレが嫌いで食べられないんだ!」
「だから、それを食べ易くしてくれたと言っているんだ。お嬢ちゃん、こっちへ来ておくれ」

 奥さんが私の手を引き、強引にお店の奥へ入っていく。
 リアムさんが困惑しながらもついて来て、駆け寄ってきた店主のウォルトさんを止めているみたいだ。

「やめろっ! 変な物を食べさせて、エイミーが更に薬草嫌いになったら、どうしてくれるんだっ! アンタに責任が取れるのかっ!?」
「お嬢さんの嗜好を知らないので、絶対……とは言えませんが、食べ易いように調理しました。もしもダメなら、食べられるまで改善してみせます」
「……そうまで言うなら、勝手にすればしろ! だがな、そんな事は俺だって何度も試したんだ! スープにしたり、ミルクと混ぜたり……だが、どれもダメだったんだ!」

 ウォルトさんの怒声がお店中に響き渡る。
 きっと今のはエイミーって子にも聞こえただろう。
 変に身構えていなければ良いのだけど。
 そんな事を考えているうちに、奥さんが二階の左手の部屋をノックし、中へ。

「エイミー、久しぶりだね。聞こえていたかもしれないけど、こちらのお嬢さんが美味しいご飯を作ってきてくれたんだ」
「いらない……」
「エイミー。そう言わずに食べてみないか? 私も食べたけど、びっくりするくらい美味しかったよ」

 部屋の隅に小さなベッドがあり、小学四年生から五年生って感じの女の子が横になっていた。
 だけど、私と目があった途端に、頭から毛布を被ってしまう。
 思春期……かな? 難しいお年頃みたいだ。

「帰って! 今の私の顔は誰にも見せたくない!」
「エイミーさん、初めまして。私はアリスって言うの。料理が好きでね、今までにいろんな料理を作ってきたんだけど、薬草をどういう風に食べて美味しくなかったのか聞かせて欲しいな」
「どういう風に……って、お茶だよ。薬草を煎じて水に溶かしたってパパは言っていたけど、すっごく不味くて、泥みたいだった」
「え? ゴボウ……じゃなくて、土の枝を粉にして飲ませたの!?」

 チラっと奥さんに目をやると、普通の飲み方だと小声で教えてくれた。
 だけど……それは、私だって厳しいと思う。
 日本にもゴボウ茶はあったけど、あれは煮出しているはずで、決して粉状のゴボウを飲んだりはしない。

「それは……エイミーさんのお父さんたちには悪いけど、飲めなくても仕方がないかも」
「そうだよねっ! あんなのを飲めって言われても無理だよねっ!? ……あ」

 私の言葉が意外だったのか、エイミーが身体を起こし、毛布から顔を出してくれた。
 だけど、私と目が合って、再び毛布を被ろうとしたので、慌てて待ったを掛け……持ってきたトレイに掛けていた布を取る。

「待って待って。今のは私の本心よ。飲めない事はないのかもしれないけど、凄く苦いと思う。でね、これは決して苦くないから、ちょっと食べてみてくれないかな?」
「これは本当だよ。私だって食べたけど、薬草とは思えない美味しさだったよ。そっちの兄さんも美味しかったよね?」
「そうですね。俺としては、このカリカリ炒めが好きですね。無限に食べられそうです」

 いやあの、リアムさんはさっき沢山食べたよね?
 あと、ゴボウは食物繊維が多くて消化されにくいから、一度に食べ過ぎない方が良いと思うけど。

「エイミーさん。冷めてしまう前に、一つ食べてみてくれませんか?」
「冷めてしまう前に……って、温かいの!?」
「えぇ。さっき作ったばかりですから」

 トレイを持ってベッドに近付くと、以前に飲んだと言う薬草茶を思い出したのか、エイミーの表情が曇る。
 だけど、そんなエイミーの視線に気付いたのか、それとも単に食べたかったのか……リアムさんが一つ摘まんで、パクっと口へ運ぶ。

「うんっ! やっぱり美味しいっ! ホクホクなのが良いですね」
「ズルいっ! ボクも食べるー! ……ふふっ、温かくてカリカリで美味しいね」
「えっ……じゃ、じゃあ私も一つだけ……」

 タマちゃんがリアムさんに食べさせてもらったのを見て、エイミーがカリカリ炒めに恐る恐る手を伸ばす。
 薄くスライスしてあるので、子供でも噛み切れるはずだ。
 だけど、エイミーが口へ運ぼうとして……手が止まった。
 以前に飲まされた薬草茶がトラウマになってしまっているのだろうか。
 だけど、エイミーがゴボウの香りを嗅ぎ、嫌な香りがしなかったからか、目を閉じて口に入れ……目を見開く!

「美味しいっ! これが、あの薬草なのっ!? 本当にっ!?」
「えぇ。大丈夫そうなら、こっちもどうかな? 私は、こっちのきんぴらがオススメよ」
「……こっちは優しい味。私、キャロートが好きだから、一緒に食べられるのがいいな」

 キャロート……ニンジンみたいな野菜の事ね。
 それから、五種類くらい用意していたゴボウ料理をエイミーが少しずつ食べて行き……どれも美味しいと言ってくれた。
 そして……

「エイミーが薬草を食べた!? ……こ、これは本当に土の枝なのか!?」
「ウォルト。お嬢ちゃんが料理していたところは私が全てこの眼で見ているよ。間違いなく、これは土の枝さ」
「そうか……お嬢さん。ありがとう! 数日間、土の枝を食べ続ければ、娘の病気はすぐに治るはずなんだ。だから、その……この料理の作り方を教えてもらえないだろうか」

 ウォルトさんが深々と頭を下げる。
 良かった。この様子なら、ちゃんと話を聞いてくれそうね。

「えぇ、任せて! けど、さっきも言ったけど、作り置きには気を付けてくださいね? かえってエイミーさんの体調が悪くなってしまうかもしれませんから」

 という訳で、お店のキッチンを借りて、ゴボウ料理をレクチャーする事になった。
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