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第2章 最弱勇者卒業編

第12話 解体術……人型は無理でしょ

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「斧盾!」

   ギィィィン!
   激しい金属音が辺りに響き渡る。攻撃を防がれたゴブリンは大きく跳びのき間合いを取った。
   アーツのお陰でなのだろう。こちらの防御は破られなかった。咄嗟に反応した自分を褒めて上げたい。
   ゴブリンは攻撃が通らなかったのが意外だったのか、ショートソード構え直しながらこちらを警戒してるみたいだ。
   こっちを警戒してくれるなら好都合。呪文の詠唱に入る。
   しかし、警戒するって事は其れなりの知能があるって事か?   人型で知能があるって道徳的に凄いやり辛い。
   俺が躊躇してるのを感じ取ったのか、ゴブリンは腰を落とし、こちらに飛びかかる姿勢を取る。
   殺る気満々だ。
   ゴブリンの殺気を感じ、俺の中でスイッチが入った。頭の中が妙にスッキリとし、雑念が消えていく。
   これは初めてスライムと戦った時にも感じた感覚。恐らく【恐怖耐性】の効果だろう。
   ゴブリンが腰を落として得られたバネを利用し跳びかかってくる。その跳躍力は高く、俺の頭上よりも高く跳び上がり、放物線を描いて落下速度を味方に付けながらショートソードを上段から振り下ろそうとしてくるーーが、その攻撃は予備動作から予想はついていた。

「ファイアウォール!」

   先程詠唱が完了し待機させていた魔法を発動させると、目の前に火の壁が現れ、ゴブリンの姿が見えなくなる。そして次の瞬間、ゴッ!   という鈍い音と共に『グギァ』という濁声が火の壁の向こうから聞こえてきた。
   ファイアウォールを解除すると、顔を黒く焦がしたゴブリンが両手で顔を抑え、地面をゴロゴロと転がりながら悶えていた。
   あー、顔からいったのか……そりゃ痛いよな、でも!
   勿論、そんな情け無い姿を見ても情けをかけるつもりは無い。情けをかける程俺は強く無いし、かけたら殺られるのは俺の方だと分かっている。

「はあっ!」

   転がるゴブリンに斧を振り下ろすが、当たる直前でゴブリンはゴロゴロを急加速。斧の一撃を避け、落としていたショートソードを右手で拾うと、左手で顔を抑えたまま憎しみの篭った目で俺を睨んできた。
   くそ!   思ったより元気だ。
   【鑑定】で確認すると、ゴブリンのHPは52ーーやっぱりまだまだ元気な様だ。
   そこからゴブリンとの斬り合いが始まる。
   相手の攻撃を受け、躱し、隙をついて斬りつけるが、大きく飛び退かれて躱される。
   くそっ!   斧じゃあ、予備動作がデカくなってしまう。
 スライムなら簡単に当たってくれたけど、小さくて敏捷性が高そうなゴブリンでは、大きな攻撃動作を読まれて躱されてしまうな。
   斬り合いをしながら呪文の詠唱を試みるが、上手くいかなかった。例えるならテレビを観ながら小説を読む様なもので土台、両方に集中するなんて無理な話である。

「ギギャ!」

   ゴブリンが耳障りな気合いと共に突きを繰り出してきた。突きを躱そうと身体を捻ったけど、躱し切れずに脇腹に剣先が突き刺さる。
   火で焼かれた様な、熱いのか痛いのか分からない感覚が脇腹から広がるが、ただ攻撃を受けたのではあまりに損が大き過ぎる。痛みを堪え構わずライトアックスをゴブリンの側頭部に叩き付けた。

「くっ……痛ってぇ、錆びた剣で刺しやがって、破傷風になったらどうする」

   この世界に破傷風菌が無い事を祈りつつ、側頭部にライトアックスの一撃を喰らい吹き飛んだゴブリンを見る。
   ゴブリンは頭を軽く振りながら立ち上がっていた。一撃を受けた側頭部は血は出てるものの、大した傷では無い様だ。確認すると、俺の脇腹の傷も大した出血はしていない。今の攻撃のダメージは俺が10でゴブリンは8。どうやら傷とダメージ量は比例するらしい。
   再びある程度の間合いを空け、俺とゴブリンが対峙するーー
   参ったな、ゴブリン強い!   よくよく考えたら推奨レベル3ってパーティを組んでの話だよな。ソロでレベル2じぁ苦戦するの当たり前だ。やはり地下二層に来たのは軽率だった。
   後悔という言葉が頭を過るが、今は戦いに集中せねばと気持ちを切り替える。
   間合いが空いている内に呪文を唱え終わった魔法を待機させておき、ゴブリンに向かって走る。ゴブリンはカウンターで横薙ぎにショートソードを振るってきたので、殆ど反射的にフルブレーキをかけた。腹の皮スレスレにショートソードが通過する。
 あっぶね! と内心冷や汗をかきながらもショートソードを振り終わって隙だらけのゴブリンに斬りつけると、そこからまた斬り合いが始まった。
   良い手応えの攻撃を何発か当てたが、ゴブリンからの攻撃も何発か喰らい、HPが心許なくなってくるが、ここで待機させていた魔法を発動する。

「ファイアアロー!」

   ファイアアローを至近距離で受けたゴブリンは後方に吹き飛び、再び間合いが生まれた。その間にポーションをマジックバックから取り出して一気に飲み干すと、HPが完全回復し身体に受けた傷も癒える。
   これでやっと優位に立てた。しかし気は抜かない、HPでは優っていても能力値では劣っているのだ。気を抜いている余裕などある筈が無い。
   俺がポーションを飲んだ意味が分かっているのか、ゴブリンに動揺が見える。
   俺はその隙を逃さず更に呪文を唱えファイアアローを撃ち込む。ファイアアローを喰らったゴブリンは、魔法による遠距離攻撃を持つ俺に対して間合いが離れているのは不利だと理解したのか、なりふり構わずに間合いを詰めて来て、がむしゃらにショートソードを振るってきた。
   劣勢が分かっているのか……死に物狂いとは面倒な。
   手数が増えた分、力が乗ってなく、単調になっている攻撃を丁寧にいなしていく。いなし切れなかった攻撃が何回か身体を掠めるが、ダメージは少量なので気にせず淡々といなす。
   どの位そうしてただろうか、ゴブリンのスタミナが切れ手数が減ってきた。
   そろそろ頃合いだな。反撃に移るか。
   ゴブリンのスピードは目に見えて落ちている。斧で受けるのを止め、ゴブリンの攻撃を躱しながら、カウンターになる様に慎重に反撃を与える。
   三撃程攻撃を当てると、ゴブリンはその場で崩れ落ちた。

〔レベルが2上がりました〕

   脳内アナウンスの内容からゴブリンが死んだ事を確認出来、安堵と疲労からその場に座り込む。
   ふぅ、きつかった……昨日はスライムで今日はゴブリンと死闘だもんな、これからは慎重にレベルを上げながら進むことにしよう。
   でも何でレベルが2つも上がったんだ?   上の階でスライムを五匹倒してレベルが上がる寸前だったとしても、ゴブリン一匹でレベル1つ分以上の経験値が入った事になるよな?   幾ら何でも多過ぎると思うけど……まぁ、損した訳じゃ無いしいいか。それよりも、ゴブリンの戦利品を回収して上に戻ろう。
   そう考え、ゴブリンが倒れた場所を振り返り、俺は硬直した。
   スライムがそうだった様に、魔物は死ぬと死体は消え、戦利品だけが残るものだと思っていた。しかし、ゴブリンの死体はその場にそのまま残っていたのだ。
   えっ……ゴブリンも魔物だから多分核ってやつを持ってるよな、これどうやって回収すればいいんだ?   まさか……解剖……いやいやいやいや、動物型ならまだしも人型は無理だろ!
   核は使い道が分からないので必要無いといえば必要無いのだが、あれだけの死闘を繰り広げた相手の戦利品だからなんとなく欲しい。
   実は昨日倒した記念すべきスライムの核も、自室の机の上に飾ってある。しかし、人型を解剖するとなると、物欲よりも不快感が優ってしまう。
   スライムってもしかして殆ど水分だからああなってたのか?   だったらこの先、例え人型じゃ無かったとしても実体のある敵は、いちいち解体しないと戦利品が得られ無いって事じゃないか?   ダンジョン内で解体なんて無防備な事出来無いだろ……あっ!
   解体というワードで思い出し、取得可能スキル一覧を出す。
   確か一覧の下の方に……あった!    解体術。
   一覧の中に【解体術】を見つけ、レベル10で取得すると、ゴブリンに向かって【解体術】を使ってみる。
   するとゴブリンはみるみるチリと化し、後にはゴブリンの核とゴブリンの牙、それに錆びたショートソードが残る。
   よし!   一瞬、解体技術が向上するだけのスキルだったらどうしようと思ったけど、想定した効果で良かった。
   安堵しながらゴブリンの核と牙を回収する。錆びたショートソードは武器庫のショートソードの方が性能が良いので要らない。
   待望のゴブリンの戦利品を手に入れ、俺はホクホクとログハウスへと戻った。
   
   

   
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