理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第2章 最弱勇者卒業編

第17話 ティアの境遇……推測ですけど

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「おはよ」

   厨房で二人分の食事を作っていると、後ろから遠慮がちな挨拶が聞こえた。振り返るとTシャツをワンピースの様に着たティアが、眠そうに右目を擦りながら厨房の入り口に立っている。

「おはようティア。洗面所に着替えが置いてあるから、顔洗って着替えてきて」
「……ん」

   ティアはコクンと頷き、洗面所の方に歩いて行った。

(ナビさん)

   ティアの姿が見えなくなってから、ナビさんに呼び掛ける。

〔なんでしょうか、マスター〕
(ティアって口数少ないよね。接続詞もあんまり使わないし、返事も『ん』で済ますから口をあんまり開かないように喋ってるみたいだけど、あれってエルフの流儀かなんか?)
〔いえ、エルフに、そんな、喋り、方の、流儀など、存在、しません〕
(じゃあ、なんであんな喋り方してるんだろ?)
〔恐らく、今まで、まともに、会話を、しなかった為、スムーズな、会話の、仕方を、知らない、のでは、ないでしょうか〕
(会話をしてこなかった?)
〔はい。エルフは、非常に、プライドの、高い、種族です。劣等種と、された、ティアと、積極的に、会話する、者は、居なかったと、推測、します〕
(村八分ってやつか……全く、生まれつきスキルが一つ無いだけで仲間外れにした挙句追放なんて、プライドが高いが聞いて呆れるわ)
〔プライドの、持ち方など、人、それぞれ、ですから〕
(……ナビさんって、偶に淡白だよね。でも、今まで会話をしてこなかったのがティアの口数が少ない原因なら、これからでも改善は出来るかな)

   俺の考える『ティアが一人で生きられる力』の中には、他人とのコミニケーションも含まれる。
   いくら外敵から身を守る力を手に入れたとしても、仲の良い人を作れなければ一人で寂しく暮らす事になる。少なくとも俺はティアにそんな人生?   エルフ生か?   を歩んで欲しく無い。
   そんな思いでナビさんに問い掛けたのだが、ナビさんから意外な回答が返ってきた。

〔はい、ティアには、まだ、今までの、二百倍、近い、時間が、あります。矯正は、十分、可能かと〕
(えっ?   ……ナビさん、今なんて?)
〔矯正は、可能だと〕
(いやいや、違くて。ティアに後どれ位時間があるって?)
〔二百倍……もしかして、マスターは、知りません、でしたか?〕
(何が?)
〔エルフの、平均、寿命が、二千歳、前後、だと〕
(はぁ?   始めて聞いた。何その超絶生物)
〔エルフは、十五歳、位まで、人間と、同じ、様に、成長し、後は、緩やかに、歳を、とっていく、種族、です〕
(生物学的に有り得ない成長の仕方だな……いや、野生動物なら適切か?)

   馬などは産まれて直ぐに立ち上がる。外敵が多い世界なら、その様な成長をする様に進化しても不思議では無いのかも知れない。

〔生物学が、どの様な、学問か、分かりませんが、未熟な、幼少期が、長い、ようでは、この、過酷な、世界では、生き残れ、ませんから、妥当な、成長手順かと〕
(過酷……ねぇ、まっ、この世界の理不尽さは身に染みて分かってるから、一概に変だとは言えないか)
〔……マスター〕

   軽口の様な会話から、ナビさんの口調に少し真剣味が帯びる。

(ん?   何、ナビさん)
〔マスターは、この世界で、何を、成したい、のですか?〕
(成す?   ……ああ、この世界でやりたい事か。そうだな……やりたい事は特に無いけど。健一とヒメ、桃花さんに、窪さん。それとティアが平穏で楽しく暮らせたらいいかな。それで、退屈が無ければ最高だ)
〔ティア、以外の、方は、知り合い、ですか?〕
(ああ、大事な親友だ)
〔そうですか……しかし、それを、成すには、相当な、力が、必要かと〕
(かもな)

 勇者としてこの世界に来た俺達が自由気ままに生きる為には、周りを黙らせるくらいの力が必要なのかも知れない。必要以上の力なんて要らないんだけどな……余計ないざこざに巻き込まれる可能性も出てくるし……
 でも、力尽くで来る奴らには力で対抗するしか無いのもまた事実だろうな……全くもってままならないものだ。

〔……分かりました。マスターが、その理想を、実現、する為に、全力で、サポート、しましょう〕
(ああ、期待してる)

   ナビさんの決心に心強さを感じつつ、丁度朝食も完成した頃、ティアが着替えを終えて戻ってきた。
   白い長袖の上に若草色のベストを着て、下は膝丈のベストと同じ色のスカート。うん。即席で作った割には、いい出来だ。

「服、着た」

   何故か満足気に胸を張るティアの頭を無意識に撫で、リビングに座るように促す。ティアが椅子に座ったのを確認し、料理を盛った皿をテーブルに並べていく。
   昨日までは一人だったので朝食は手抜きで作っていたが、今日からはティアも一緒なので少し手の込んだ料理を作ってみた。内容はフレンチトーストにハムエッグ、コーンスープとサラダだ。

「いただきます」
「……だきます」

   俺が手を合わせ食前の挨拶をすると、ティアが後を追うように真似る。子供のこういう仕草は本当に可愛いと思う。思わず顔がにやけてしまう。
   朝食を俺が食べ終わる頃、ティアもほぼ同時に食べ終わった。そして……

「ん!」

   元気に空になったフレンチトーストの皿をこちらに差し出してきた。

「まだ食べるのか?   あんまり食べると戦う時に動きが鈍るぞ」
「まだ三枚は余裕」

   言いながら『どうだ』と言わんばかりに胸を張るティア。

(だから何で偉そうなんだ?)
〔エルフは、プライドの、高い、種族、ですから〕
(だから、プライドの使いどころが違うだろ!)

   ナビさんの分析に苦笑いを浮かべつつ、ティアから皿を受け取り厨房に向かうと、ティアも付いて来た。
   ボウルに牛乳と玉子、それに砂糖を少々入れ、かき混ぜる。ある程度混ざったら、それにスライスしたパンを浸しフライパンで焼く。
   ティアはその工程を背後からじっと見ていた。

「何だティア、料理が珍しいか?」
「ん、ひろにぃの料理は、お母さんより美味しい」
「……ティア、お母さんとお父さんは……優しかったか?」

   聞くか、聞かないか迷っていた事だが、ティアの口からお母さんという単語が出たのでそれに合わせて聞いてみた。
   これで両親からも冷遇されていたら、目も当てられない。

「ん!   外は危ないって家から出してくれなかったけど、お父さん、お母さん、優しかった」

   嬉しそうに語るティアを見て、ホッと胸を撫で下ろす反面、疑惑が浮かぶ。

(建物に入れて外に出さないって、幽閉じゃないのか?)
〔他の、エルフに、弾劾、されるのを、恐れての、苦肉の策、でしょうか?〕
(弾劾って……ったく、エルフって種族はどうしようも無いな。まぁ、両親はティアを守ろうとしてたみたいだから、良しとするか……)

   出来上がったフレンチトースト三枚を皿に乗せ、ティアと共にリビングに戻る。
   ティアがフレンチトースト三枚をペロリと平らげるのを見て、昨夜の食欲は空腹だったからではなかったのかと呆れる……まぁ、育ち盛りって事かな。

「さて、じゃあ行こうか」
「ん!」

   軽い食休みの後、ティアと共に鍛冶場に入り昨夜作ったレイピアと短弓を渡すとティアはとても喜んで、俺も嬉しくなった。が、ここで一つ、ど忘れしていた事に気付いた。

「ティア、すまん。防具を準備するのを忘れた」
「ん、問題無い」

   言いながらティアは短弓の弦を引いて見せる。
   ああ、弓での後方支援なら何とかなるか。
   ティアの考えに納得し二人でダンジョンに向かうが、魔法陣の部屋に入ったところでナビさんから念話が入る。

〔マスター、ダンジョンに、入る、前に、ティアと、パーティを、組む、べきかと〕
(えっ、パーティを組むって一緒に行動すれば勝手にそうなる訳じゃないの?)
〔はい、片方が、パーティ申請を、して、もう、片方が、受ければ、パーティを、組む、事が、出来ます。また、パーティを、外れる、場合は、ステータス、画面の、パーティ、メンバーの、欄に、外れる、旨を、念じれば、外れる、事が、出来ます〕
(パーティを組む時は双方の同意が必要だけど、外れる時は一方的に外れる事が出来るのか。よく出来てるな)

   ナビさんの説明を聞き、後ろにいたティアに向き直る。

「ティア、パーティを組もうか」
「ん!」

   ティアが了承の意を口にすると、勝手にステータスが開いた。
   ステータス画面を見てみると、ステータスの一番下にパーティメンバー   ティアと記してあった。

「ん、ひろにぃと組んだ」

   ステータスを見たのだろう。ティアは誇らしげに微笑んだ。
   
   
   

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