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第2章 最弱勇者卒業編
第24話 第30層ボス戦……今夜は焼肉かなぁ
しおりを挟む第二十層に転移して二十八層まで最短ルートで通り抜け、二十八層の安全地帯でお弁当の昼食を済ませた後にここ、三十層のボス部屋の前に辿り着いた。
【地図作成】で最短ルートを通り【隠密】で余計な戦闘を避けた結果、所要時間は約六時間。スキルは本当に有り難い。
「ティア、準備はいいか?」
「んっ! 問題無い」
ティアの気合の入った返答を聞き、頭を軽く撫でてからゆっくりと扉を開いた。
ボスの部屋は今までのそれと変わらない作りだった。
部屋は直径三十メートル程の円形の吹き抜けで、床は大理石の様な磨かれた石が敷き詰められている。天井は天然の岩肌で床から十メートル位の高さがあった。
そして部屋の中央にはこの部屋の主人が、巨大な斧を持ってこちらを見据えている。
身長は三メートル程だろうか、筋骨隆々の体躯で凛々しい雄牛の頭を持っていた。
マッチョな二足歩行の牛。それが俺の印象だったが、ティアはボソッと『食べられる?』と呟いて、俺の緊張感を見事に削いでくれた。
まっ、気を取り直して能力を確認しとくか……
ティアに削られた緊張感を取り戻しながら、【森羅万象の理】を使用する。
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名前 ミノタウロス Lv 45
魔物種 獣人
状態 正常
HP 2350/2350
MP 500/500
体力 470
筋力 500
知力 55
器用度 123
敏捷度 350
精神力 226
魔力 100
〈ノーマルスキル〉
中級斧術Lv10
剛力Lv5
剛体Lv3
威圧Lv3
斬撃力上昇Lv6
炎耐性Lv8
地耐性Lv6
HP自然回復(小)Lv5
弱点 水属性 風属性
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「うっわ……体力と筋力が異様に高い上に物理攻撃に直接プラス補正を掛ける【剛力】と【斬撃力上昇】を持ってる!」
あまりの耐久性と物理攻撃の特化ぶりに、思わず呻いてしまった。
〔素で、攻撃を、受けると、推定、400、前後の、ダメージが、予想、されます〕
「はぁ~、勘弁してよ……」
ナビさんのダメージ予想に嫌気を差しながらも、攻略法を模索する。
「ティア、ウォーターエンチャントを掛けて射程ギリギリから弓で攻撃して。後、ヒールの援護をお願い」
「ん、了解」
ティアは俺の指示を受けて直ぐ行動に移す。
ウォーターエンチャントは【初級水術】の魔法で、武器に水属性を付属する効果がある。直接の攻撃力が上がる訳では無いが、弱点である以上ダメージは上がる筈だ。
俺は自身に【中級光術】プロテクトを掛け、防御力を底上げしてからミノタウロスに向かって歩き始めた。
シュッ……ドッ!
俺がミノタウルスの攻撃範囲に入る直前に、ティアからの弓の攻撃が撃ち込まれる。
相変わらず良いタイミングだが、ミノタウロスのダメージは95。
あまりダメージが無い事に顔をしかめた。
ミノタウロスの持つ【HP自然回復(小)】は、十秒毎に休憩時は五パーセント、戦闘時、移動中でも二パーセントHPを回復させるというスキルだ。ミノタウロスのHPは2350。戦いながらでも十秒でHPを47回復させる。
「ブモォォォォッ!」
俺が攻撃範囲に入った瞬間、ミノタウロスがその巨大なバトルアックスを頭上から振り下ろした。
ゴォォォッという豪快な風切り音と共に振り下ろされた攻撃を紙一重で躱し、腹部に槍を突き入れる。
分厚いゴムに刺したような感触が槍を通して手に伝わる。ダメージは147。
「カーズ!」
待機させていた【中級闇術】のカーズで回復力を下げた後、バックステップで距離を取る。
〔マスター、回避が、ギリギリ、すぎます。もう少し、余裕を、持って、躱して、下さい〕
「ひろにぃ! 近すぎ」
ナビさんとティアから同時に忠告が来る。
自覚は無いが、俺の戦い方は余裕というものが無いらしい。ナビさんとティアからちょくちょく忠告を受けていたが、俺自身に実力が無いのだから、仕方がないと思うんだが……
そんな事を考えていたら、ミノタウロスが床を踏み抜いてるんじゃないかという様な爆音を響かせ、こっちに突進して来た。敏捷度350は伊達じゃ無いらしい。とんでもなく早い。
「おおうっ!」
紙一重で横っ飛びをして体当たりを躱す。
危なくミノタウロスに轢かれるとこだった。衝撃は自動車……いや、トラックレベルかも知れない。
ミノタウロスの体当たりの衝撃を想像して、背筋が寒くなる。
ドッドッドッ!
俺への体当たりが不発に終わり動きを止めていたミノタウルスにティアのアーツ【三連の矢】が刺さるが、ミノタウロスは怯むことなく横っ飛びで体勢を崩していた俺に横薙ぎの一撃を振るう。
ゴッ!
直撃は槍で防いだが、鈍い音と共に来た激しい衝撃で身体が地面と水平に数メートル飛ばされた。
二、三回床に叩きつけられながら吹き飛ばされたが、防御のお陰かダメージはあまり無い。
「ひろにぃ、大丈夫?」
「ああ、問題無い」
ティアの心配する声に軽く答え、体勢を整え槍を構える。
〔マスター、スピードで、撹乱、しましょう〕
(えっ? でも敏捷度はあっちの方が上だよ)
〔直線的な、スピード、では、勝てませんが、体格の、差と、【隠密】、を、駆使、すれば、小回りは、こちらが、上です〕
(分かった、やってみよう)
ナビさんの提案を受け、ミノタウロスの周りを回りながら、小刻みに槍を突いていく。途中何度か攻撃を喰らい吹き飛ばされるが、直ぐに体勢をを立て直し、また同じ事を繰り返す。
ティアは俺の動きの隙間を突いて矢を射り、俺がダメージを受けたら【ヒール】で回復してくれた。
そうして、チクチクと攻撃を繰り返していたのだが、いかんせん大きな戦果は得られない。
「ちぃぃっ! いい加減倒れろ!」
〔マスター、冷静に!〕
長い時間同じ事を繰り返してきた俺は、乱れる呼吸と重くなり始めた足に焦りを覚え、正面から渾身の突きをミノタウロスの鳩尾に突き入れる。しかし、それは悪手だった。
ナビさんが警告してくれたが、間に合わない。
ミノタウロスは俺の攻撃を腹に受けると同時に、バトルアックスを振り下ろしたのだ。
ゴッ!
鈍い音と共に後方に吹き飛ばされる。全身を激しい衝撃と鈍い痛みが駆け巡った。
「痛っっ! ……まだ死んじゃいないな」
まだ動く四肢に力を込めて、ヨロヨロと立ち上がる。
〔マスター、また、マスターの、悪い、癖です〕
「ひろにぃ、生きてる?」
起き上がりながらナビさんにお叱りを受けていると、ティアが心配そうに側に駆け寄ってきた。
「ああ、問題は……無いわけないか……」
言いながらHPを確認すると、三割を切っていた。慌ててHPを3000回復させるハイポーションをあおる。二十八層の宝物で手に入れた一本しか持ってないポーションだったが仕方がない。
ミノタウロスを見ると腹に槍を刺したまま、こちらに向かって身構えていた。
〔ミノタウロスの、残り、HPは、684です。マスターは、正面から、ティアは、背後から、攻めて、一気に、畳み、掛け、ましょう〕
(ナビさん、さっきは正面から強引に行ったら怒ったじゃないか)
〔強引な、攻めと、連携は、違います。正面から、と、いっても、防御を、無視して、とは、言って、ません。良いですか、くれぐれも、防御を、念頭に、置いて、戦って、下さい〕
ナビさんに念を押され、俺はそれを心に刻んだ。
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