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第4章 超越者の門出編
第74話 スキルの効果……もしかして今、ヤバイ状況ですか?
しおりを挟むダンジョンは岩をくりぬいた様な一般的かつ、手抜きの様な作りだった。しかし、圧迫感というか、不快感というか……何とも言えない嫌な感じがするのは、決して気のせいでは無いと思う。
「なんだこの嫌な感じは……」
「ん、ティアもこの感じ嫌い」
ダンジョンは薄暗く場所によっては狭い為、圧迫感を受ける事があるが、この感じはどうも違う。
大体、つい最近までダンジョン生活を送っていた俺とティアが、ダンジョンに入ったくらいで嫌悪を抱くほどの威圧感を感じる訳が無い。
「胡散臭いダンジョンだとは思っていたけど、やっぱりダンジョン自体に何かしらの秘密があるみたいだな」
[そうですね。正体不明のスキルの発動を、ダンジョン全体から感じられます]
「正体不明のスキル?」
アユムの報告に俺は眉をひそめた。
[はい。どの様なスキルかは分かりませんが、おそらくは【迷宮を作りし者】から派生するスキルだと思われます]
「アユムでも分からないスキルがあるんだ」
[【迷宮を作りし者】はこの世界の歴史の中でも取得者は少なく、その派生スキルも全ては解明されていないもので……ダンジョンマスターを直接視認出来れば、【森羅万象の理】でスキルの効果も確認出来るのですが……]
「そうか……」
俺はてっきり【共に歩む者】は、この世の全てを知っているものだと思っていたが、そうではないらしい。
しかし、ダンジョン全体に影響を与えるスキルねぇ……
「ますます胡散臭いじゃないか……」
俺達が訝しんでいる間に、少年達はダンジョンの奥へと進んで行ってしまっていた。
「本当に、怪しむって事を知らない連中だな」
《若さゆえの無謀ってやつだね》
流石のニアも、呆れた様に呟く。
「若さゆえか……俺も若いんだけどね」
《マスターの場合、考え方が年寄り臭いから……》
「ほっといてくれ」
ニアのからかいに軽く答えながら、俺達は少年達を追ってダンジョンの奥へと進んで行く。
ダンジョンはそれほど分岐もなく、単純な構造をしていた。そして出てくるモンスターも、スケルトンやグールなど、視覚的にくるものがあるものの、強さ的には弱い部類のアンデットばかり。
「ああっ、もう。そんな奴らに手こずるなよ」
近くに寄って来たスケルトン五匹を瞬殺し、同じスケルトン三匹に苦戦する少年達を曲がり角からこっそり覗いて、やきもきする俺。
[彼等の平均レベルは13。対してスケルトンは平均10です。人数的に有利な上、レベルも上なので負ける事は無いでしょうが、マスター達の様に瞬殺という訳には行かないでしょう……心配ですか?]
「心配? そんな訳ないだろ。こんな浅い所で手こずってるからちょっとイラっとしただけだよ」
[そうですか]
アユムさん。その『私は分かっていますよ』的な言い方は止めてもらえないでしょうか……
⇒⇒⇒⇒⇒
少年達のダンジョン攻略は進行速度は遅いものの、順調に進んでいた。
最初は手こずっていた戦闘も、慣れてきたのかあまり手こずらずに対処できる様になっている。
「思ったより順応性が高い連中だな」
〈冒険者をしてるのなら、あれくらいの順応力が無ければ命に関わりますからね〉
「ん、筋は悪く無い」
トモの返答に、ティアが偉そうに同意する。
「あれならほっといてもいいかな。本当は痛い目にあった所で説教でもしたかったが、敵が弱すぎる」
[そうですね。それで、マスターは彼等をほっといて、どうするおつもりですか?]
「ん~、ダンジョンマスターを探してみたいんだけど」
[それはお勧め出来ません。ここはダンジョンマスターの作った領域。つまり、ダンジョンマスターの掌の上なのです。戦闘になった場合、こちらに有利な点は一つもありません]
「そうか……何でこんなダンジョンを作ったのか気になったんだけどな」
《ねぇ……》
アユムと念話していると、ニアが珍しく神妙な口調で話しかけてくる。
「どうしたニア」
《何かおかしくない?》
「何がだ?」
《あの子達、このダンジョンに入って結構戦ってるよね》
「そうだな……ん?」
《気付いた? あの子達、まだ誰もレベルが上がってないんだけど》
「……! アユム」
小声で鋭くアユムに確認を取ると、アユムは少し間を置いて念話を返してくる。
[マスター! マスターにも経験値が入っていません! モンスターとのレベル差が大きいので入ってくる経験値は微々たるものですが、それでも全く経験値が入らないという事は有り得ません]
アユムの回答を聞いて、背筋に冷たいものが走る。
「まさか……それがスキルの効果か?」
[おそらくそうでしょう。このダンジョン内の戦闘で発生する経験値は、全てダンジョンマスターに入ってると思われます]
「おいおい、ダンジョンマスターの権限てのはそんな事まで出来るのか! ……って事は、ダンジョンマスターがダンジョンに冒険者を誘い込む理由は……」
《入って来た冒険者がモンスターを倒した経験値を労せず得る為、または、その冒険者をモンスターに殺させてその経験値を戴く為……こりゃ、今回が初犯じゃなさそうだね。ここのダンジョンマスター、一体どれだけレベルが上がってるんだろ》
ニアが気楽にダンジョンマスターの目的を語るが、その内容はとても気楽に聞いてられるものではなかった。
「冗談じゃないぞ。早くあの子らを連れてここを出ないと!」
「「「「「うわーーーーっ!」」」」」
そう決断した時、ダンジョンの奥から子供達の悲鳴が響き渡った。
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