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第4章 超越者の門出編

第75話 デストラップ……そして振り出しへ

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「くそっ!   何たってこんな事になってるんだ!」

   子供達を追いかけ、ダンジョンの奥に足を踏み入れると、そこは円形の大きな広間になっていた。
   広間の壁には無数の横穴が開いており、そこからスケルトンやグールがわらわらと湧いてきていて、広間の中央にいる子供達に群がっている。
   子供達も必死に応戦をしているが、広間を覆い尽くさんとする程に湧いてくるアンデット共がその周りを囲んでいて、その抵抗は無意味なものになり始めていた。

「最初は雑魚をチビチビぶつけて余裕だと思わせといて、十分に奥に誘い込んでから物量頼りのデストラップかよ……こんな数のアンデット、一体何処から調達してきたんだ?」

   広間の入り口付近でその光景を見て、思わず二の足を踏んでしまった俺は、悪態をつきながらもこの状況を打破する方法を必死に模索し始めた。

[グールなどは比較的新しい死体を利用しているのでしょう。スケルトンの方は、装備の形状から推測するとおそらく、500年前に出現した魔物王の犠牲者のようです]

   俺の焦りから出た悪態に、アユムが律儀に答えてくれる。

「魔物王出現の時の犠牲者?   それは一体どれ程の数になるんだ?」
[記録によると、数十万の犠牲者は出ていたと言われています]
「……つまり、たくさんって事ね」

   こちらにも寄ってくるアンデット共を、時空間収納から取り出したミスリルスピアーで迎え撃ちながら、絶望するに十分な数字を聞いて、俺はその場で頭を抱えたい気分になった。

「んっ!   もう持たない」

   打開策が全く浮かばないなか、ティアが陽炎でアンデット共を迎撃しながら、視線で子供達を指し鋭い声を上げる。
   子供達の方を見ると、その姿はもうアンデットに隠れて見えなくなっていた。

「ああっもうっ!   人前で【時空間魔術】は使いたくはなかったんだがな。ティア、飛ぶぞ」
「ん、了解」

   俺の言葉を直ぐに理解したティアと共に、俺は時空間移動を使用し、子供達の頭上に転移する。

「おらぁ!   お前ら邪魔だ!   【超級聖神魔術】ホーリースペース」

    ヤケクソ気味の魔法発動と共に、俺を中心とした半径五メートル程の空間が、空から舞い降りた光により明るく照らされた。
   【超級聖神魔術】ホーリースペース。あらゆる邪を祓う聖なる空間を生み出す魔法との事だが、光に触れたアンデット共は漏れ無く跡形も無く消滅していき、俺が地面に着地する頃にはアンデット共が近付けない空白地帯が出来上がっていた。

「あんたら……」

   突然、俺達が現れアンデット供が消滅した事に驚いたのか、俺に生意気な口を聞いてきた少年が、茫然自失といった表情で俺を見上げる。

「お前ら忠告はしたよな」
「………………」

   少し厳しめの口調でそう言ってやると、少年は黙ったまま俯いてしまう。

「欲に駆られてこんな所に来た結果がこれだ」
「………………」
「このパーティのリーダーはお前か?」

   俺が少年に聞くと、今まで黙って俯いていた少年がコクンと力無く頷いた。

「名前は?」
「……ナグル」

   【聞き耳】を取得してなかったら、聞き取れなかったんじゃないかと思う程小さな声で答える少年。

「ナグルか……なぁ、ナグル。お前がリーダーだというなら、情報の怪しさを知った時点で止めるのもお前の仕事だよな」
「………………」

   ナグルは俯いたまま答えない。ただ、その肩が小刻みに震え始めていた。他のメンバー達も、俺がナグルを詰問してるのを、泣き出しそうな顔で黙って聞いている。

「どうせ、ここに来るのを強く勧めたのはお前だろ」

   町で俺に詰め寄って来た勢いから察してカマをかけてみると、ナグルはビクッと一回身体を震わせた。どうやら正解らしい。俺はそれを確信して大きくため息を吐いた。

「全く……別に一攫千金を狙うなとは言わんが、こんな胡散臭い話に首を突っ込まない位の思慮は持て!」
「………………」
「返事は!」
「…………はい」
「よし!   じゃあ、次は助けに来た俺達に言う事があるんじゃないか」
「……有難う」
「声が小さい!   それと、後ろのお前達もだろ!」
「「「「「有難うございました!」」」」」

   俺の一喝の後に、五人のヤケクソとも取れるお礼の言葉が、ダンジョン内に木霊した。

「よし。じゃあ帰るぞ」

   五人の謝礼の言葉に満足した俺がそう促すと、少年達が笑顔を取り戻すが、俺はそこでふと思った。
   どうやって帰ろう……
   ホーリースペースの外には隙間が見えない程アンデットがたむろっている。俺とティアだけならば力押しで突破も可能だろうが、少年達を連れ立ってとなると、あまりに無理がある。

(ホーリースペースの連続使用しか無いかな?)
[それは無理です。ホーリースペースは言わば聖域を擬似的に生み出す魔法で、一度聖域を生み出してしまうとその周辺に暫くは聖域を生み出せなくなるのです]
(なんだそりゃ!)
《神の奇跡の安売りはしないって事じゃない?》

   ニアの御気楽口調に、俺はがっくりと項垂れた。

(こんな事なら【魔力操作】で消費MPを増やして、効果範囲をこの広間全域にすればよかった……くそっ!   腐れ神め!   こんな事でも俺を不快にさせやがって)

   まぁ、済んでしまった事で悩んでも仕方がない。こうなったら次の手を……

「ティア、入り口に向かって【上級聖神魔術】ホーリーレイを撃って」
「ん!」

   ティアは俺の指示に親指を立てて答えた後、入り口に向かって右手を向ける。

「【上級聖神魔術】ホーリーレイ」

   抑揚の少ない魔法発動の言葉と共に、ティアの手の先から直径一メートル程の極太レーザーが入り口に向かって放たれる。
   極太レーザーはその進行方向のアンデット供を消滅させながら入り口付近に到達するが、レーザーが過ぎ去った先からアンデットがわらわらと押し寄せ、せっかく出来た入り口迄の道を直ぐに埋めてしまう。
   あー……予想はしてたけど、やっぱり無理か……もしかして走り抜ける時間位稼げるかなと思ったんだけどなぁ……こうなったらもうあれしかないよな……こうなってくると、首都に設置すればいいやと思ってこの町にポインターを設置しなかったのは痛いよなぁ……
   ははは……振り出しに戻る……か……
   俺はその場で力無く項垂れた。

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