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第4章 超越者の門出編

第77話 再びレリックさんと……恐れられたり、嫌味を言われたり散々です

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「それで、今度は何をしたんですか……」

   部屋に入ると、途端に弱腰になったイルムさんが俺達に困った様な表情を向けてくる。

「いやー、ちょっと少年少女に礼儀作法を教えたら、職員さんに洗脳したなんて言われまして」
「洗脳って……勘弁して下さいよ。ただですら、貴方達には魔物王の生まれ変わりではないかなんて噂も出てるんですから」
「はぁ?   何でそんな事に……」
「無名だった貴方達が、いきなりギルド内であんな暴挙を犯したのですよ、そりゃあ、冒険者達も色々と憶測を語りますよ。更に、貴方達に絡んだ四人も行方不明になってますからね、彼等も貴方が秘密裏に消した事になってますよ」

   イルムさんの言葉に、何故かティアがそっぽを向いて音のしない口笛を吹く素振りを見せる。
   この仕草……森の中で四体の死体を見付けた時もしてた様な……
   一瞬、嫌な想像が脳裏を過ったが、考え過ぎるとドツボに嵌まりそうなので考える事を止め、今のこの町での俺達の酷評に対する問題に思考を戻す。

「マジですか……これは、この町に長居は出来ないな」
「そうしてくれると、助かります」

   俺の呟きに、素直にそれを進めるイルムさん。
   この町の鍛冶場なんかも見てみたかったんだけどなぁ……仕方がない、さっさと首都に向かう事にするか。とっ、その前に、

「イルムさん。ちょっと聞きたいのですが」
「何です?」
「森に新しく出来たダンジョンは一体どうなってます?」

   もしかしたら、まだ行方不明者が出てるのではないかと遠回しに聞いてみると、イルムさんは意外な返答を返してきた。

「ああ、一部の冒険者の間で噂になっていたあれですか。あのダンジョンなら、もう、無いそうです」
「……へ?」
「前回、貴方達が町に来た直後あたりですかね。森にあったダンジョンが忽然と消えたという噂が立ちまして、ギルドとしても調査してみたのですが、あの森にダンジョンは存在しないという結果報告が上がってきました」

《逃げたね》
〈逃げましたね〉
[おそらく、マスター達という生存者が現れ、これ以上はあの場所にダンジョンを構えても人は来ないと判断したのでしょう]

   ニア、トモ、アユムの見解が一致する。

(となると、ダンジョンごと引っ越したって事か?)
[ダンジョンを短時間で作れるという事は、その逆も可能だと思われます]
(あらゆる場所にダンジョンを作ったり消したりでき、更にダンジョン内でのアドバンテージは常にダンジョンマスターにある……それって、ダンジョンに篭ってたら最強じゃないか?)
[そうとも言えません。ダンジョン内ではむこうが有利というだけで、無敵という訳ではありませんので、有利性を打ち消す力量差があれば、勝つ事は可能かと]
(でも、相手はダンジョンホイホイでコツコツレベルを上げてるんだろ?)
[それも苦肉の策だと思われます。前にも説明しましたが、【迷宮を作りし者】を取得した時点で、ダンジョンマスターにはスキルによる戦闘能力の向上は殆ど見込めません。【迷宮を作りし者】取得前にどれ程のスキルを取得していたのかは分かりませんが、もう、新たにスキルで強化する事は出来ない筈です。だから、レベルアップによる能力値上昇によって戦闘力強化を行っているのでしょうが、【超越者】でない者には能力値の上限がありますので、それも限界近い筈です]

   はー、成る程……つまり、俺の力量次第では次に同じ目にあっても対処は可能だという事か……じゃあ、この問題は取り敢えず置いといて、気が乗らないけど、もう一つの問題を片付けますか……
   俺は気が重い気持ちを無理矢理奮い立たせ、イルムさんに頼みごとをする。

「すいませんがイルムさん。通信球をお借りしても良いですか?」
「ええ、構いませんよ」

   イルムさんはそう答えると、机から通信球を出して机の上に置いてくれる。

「お借りします」

   イルムさんに一言断ってから、俺は通信球を起動させる。少しすると、約二週間ぶりに聞く声が通信球から聞こえてきた。

『イルム殿、どうかしましたか?』
「レリックさん、俺です」
『……博貴殿?』
「……はい」
『………………いやはや、全く来ないのでどうしたのかと心配してましたが、まさかまだ、ルティールの町にいたとは……私の予想ではこちらに来るのに一週間と踏んでいたのですが、二週間経ってまだ出発してなかったんですね。いやはや全く、博貴殿はいつも私の予想を遥かに超えてきますねぇ』

   丁寧な言葉使いでの皮肉が思いの外、精神にダメージを与えてくる。

「いや、まあ、色々ありまして……」
『でしょうね。これでただ遊んでたなんて言われたら、それこそビックリです』
「ははは、そんな訳ないじゃないですか。それで、例の件は……」
『あれですか……それは、こちらに来てからって事で宜しいですか』

   レリックさんの口調が、真剣な物に変わる。要するに、イルムさんにも聞かれては困る内容なのかもしれない。
   ただのワイバーンの子供を攫った事件の筈なのに、そんなに厄介な事が絡んでいたのか?

「分かりました。では、早急にそちらに向かう様にします」

   レリックさんの雰囲気に感化され、声を低くして真面目に対応する。

『ええ、本当にお願いしますよ。総統も博貴殿が来ると楽しみにしていたのに、肩透かしを食らわされて大分機嫌を損ねているので、早急に来ていただければこちらも助かります』
「えっ!」
『では本当にお願いします』
「ちょっ!   レリックさん?   かなねぇの機嫌は直しておいて……」

   通信球に叫んでみたが、通信球は既に切れていた。
   かなねぇ、機嫌が悪いと面倒臭いんだよな……
   一瞬、首都に行くのを止めようかという考えが脳裏をよぎった。

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