理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第4章 超越者の門出編

第84話 『風の国』と『水の国』……前回の意趣返しは少しは出来ただろうか?

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「能力値は2000オーバーですか……思ったより低いですね」

   敗北感からだろうか、思いの外元気が出ない声で俺が感想を述べると、レリックさんは小さく肩をすくめる。

「この数値を聞いてそんな感想を言えるのは、今期の勇者では博貴殿位でしょうね。今の時点で人間を辞めている今期の勇者は、博貴殿を除けばおりませんから」
「人間を辞めたって、随分嫌な言い方をしますね。自分だって辞めてるくせに」
「はっはっは、私は仙人です。人を超越してしまった博貴殿と違って、ちゃ~んと人の部分は残ってますよ。それで、スキルですが、【超級剣術】【上級盾術】【体力強化(強)】【筋力強化(強)】[精神力強化(強)】【斬撃力上昇】【剛体】【臨界突破】ですね」

   二百年以上生きててどの辺に人の部分が残っているのか知らないが、レリックさんはどこか勝ち誇った様に高笑いをすると、再び何事もなかった様に井上のスキルを言い始める。その内容を聞いて、俺はレリックさんに対してムカつく前に拍子抜けしてしまった。
   はっきり言って、全く驚異を感じない。そして、【臨界突破】。

「ハズレスキルを取得していましたか」
「ええ、【限界突破】と【臨界突破】は比較的早く出てきますから、出てくると喜び勇んで取得してしまうんですよねぇ」

   確かにそうかもしれない。【限界突破】はレベル80、【臨界突破】はレベル100で出現するという事だから、ダンジョンのラスボスを倒した時点で取得してしまう勇者が多いらしい。

「実際、今回の勇者達も三割位は取得してるわ。でも、レベル200オーバーとなると、井上ぐらいだから宰相が強気になるのも頷けるわよねぇ」
「……勇者の情報って、そんなに簡単に手に入るものなの?」

   お茶を飲み、リラックスしながら各国の勇者の情報を語るかなねぇの情報量に、勇者の情報って、国家機密じゃないの?   と思ってしまった。

「各国とも勇者のお披露目をしてるのよ。自分とこの勇者はこんなに強いんだぞーって事なんだろうけど、鑑定スキル持ちなら簡単に調べられるから、各国、密偵を放って互いに調べあってるわ」
「ふ~ん……という事は、宰相は確実に勝てる国を見つけたって事か……『風の国』と隣接してるのは……」
「北に『闇の国』、東に『火の国』、南に『水の国』ですね」

   俺が前にアユムに口頭で教えてもらったこの大陸の形を思い出していると、レリックさんがスラスラと答えてくれる。

「ふむ、その三国で一番弱そうなのは?」
「う~ん、勇者の力量って点では『闇の国』と『火の国』はほぼ同じね。それ以外の要因としては、『闇の国』には魔族がいるし、『火の国』にはドラゴンがいる。どっも刺激したら洒落にならない種族ね」

   あー、ドラゴンね……
   俺は竜の超越種、ガウレッドさんの特訓と称したイジメを思い出し、気分が重くなる。

「どうしたのひろちゃん?   随分苦々しい顔をしてるけど」
「いや……何でもない。それより『水の国』の情報が無いけど、どうなってるの?」
「あー、『水の国』……ね。あそこは勇者のお披露目をしてないのよ」

   勇者のお披露目をしてない、ね。それは何ともキナ臭い情報だけど、それよりも、なんか言いづらそうに答えるかなねぇに違和感を感じる……ちょっとカマをかけてみるか。

「それって、勇者の情報を見せない為?   それとも……」
「それは分からないわ」

   勇者が死んだか、弱いままだから、と言葉を続けようとしたのだが、かなねぇは食い気味に分からないと答える。
   へぇ~……かなねぇ、まだそんな癖を持ってたんだ。
   かなねぇは、聞かれたくない事を質問をされそうになると、相手の言葉を遮る様に否定してくるんだよね。
   これは何か隠してるな。

「博貴殿」

   どうやってかなねぇの口を割ってやろうか思案しようとした矢先、レリックさんが口早に俺を呼んだ。

「どうしたんですレリックさん」
「まだ、井上殿のオリジナルスキルの説明をしてませんが」
「ああ、そうでしたね。では、教えてもらえますか」

   今、明らかにレリックさんは話をそらしに来た……まあ、いいか。かなねぇの口を割るのは、井上のオリジナルスキルを聞いてからにしよう。

「井上殿のオリジナルスキルは【寛大なる独裁者】。効果は任意のパーティメンバーの経験値を搾取する代わりに、その者の能力値を三倍にするという効果です」
「へぇ、それで健一達のレベルが50で止まって、井上のレベルが異様に高かったわけですか」
「そうですね。それに、その効果がある以上、健一殿達は容易にパーティから外れる事が出来なくなっています」
「パーティを抜けたら、極端に弱くなるからですか」
「はい。レベル50では、この辺の魔物には中々勝てませんからね」

   そんなの、健一達なら気にしないで抜けてしまいそうだけど……そうか。

「力を誇示しなければ、城で肩身の狭い想いをする羽目になるか……」
「ご明察です。健一殿達は勇者などと祭り上げられていますが、いわば居候。勇者としての力が無ければ、あの宰相なら手のひらを返して城から放り捨てる位は簡単にしますからねぇ」

   放り捨てる……ね。まるで健一達を物みたいに言ってくれる。健一達が我慢して井上の術中にはまっているのは、迎えに行くまで城で待っててくれという、俺との約束を守ってるに過ぎないというのに。
   俺はフツフツと込み上げて来た怒りを、今は静かに押さえ込む。

「成る程……ね。こりゃあ、なるべく早く健一達との合流を果たさないと」

   健一達がそんな儘ならない状況に身を置いていたとは……多少は想像してたけど、思ってたよりも酷い。
   それにしても、井上と宰相。今の健一達を苦しめているのは明らかにこの二人だな。この二人には、健一達が味わってる苦渋を何倍にもして味わってもらわないと気が済まない。

「ひろちゃん。なんか、すっっっごい邪悪な笑みを浮かべてるけど、一体、どんな悪巧みを考えてるの」

   押さえても次々と心の奥から湧き出てくる怒りの矛先を定めていると、かなねぇが頬を引きつらせてそう聞いてきたが、あれ?   顔に出てたか。

「悪巧み……まぁ、そういう事になるのかな。でも、内容まではまだ考えてないよ。ただ、その相手を定めただけ」
「ふ~ん……どうせ、井上とか宰相辺りなんだろうけど、二人が死んだら『風の国』が弱体化しちゃうから、早まった真似だけはやめてね。そんな事になったら、他の国が要らない野心を出しかねないから」
「殺すなんてとんでもない。そんな簡単に楽になる様な選択肢は選ばないよ。俺を本気でイラつかせた相手には、トコトン苦しんでもらわないと」

   俺が笑顔でそう答えると、かなねぇとレリックさんは本気でドン引きしていた。

「ところで……」

   場の空気がちょっと嫌な感じになったので、話題を変える事にする。

「『水の国』の勇者は間違いなくいるの?」

   俺の質問に、レリックさんは無表情だが、かなねぇは僅かに肩を震わせた。ポーカーフェイスではあるんだけどね、他の部分で反応を見せちゃったら意味が無いよ。

「それは……いるんじゃないの。『水の国』だけ勇者がいないなんて事、あり得ないでしょ」
「へぇ~、確証は無いのに、いると確信してるんだ」

   俺の言葉に、かなねぇは再びビクビクと肩を震わせると、気を取り直すように茶飲みに口をつける。

「おそらく、『風の国』の標的は『水の国』だよね」
「ブハァッ」

   ボソッと呟いてやると、かなねぇは盛大にお茶を吹き出し、ゲホゲホと咳き込む。
   はい、確定です。

「なんで、『水の国』の勇者の情報を隠す必要があるんだ?」
「それは、『水の国』と冒険者ギルドの機密なのでお答え出来ないんですよ」

   俺の質問に答えたのはレリックさん。かなねぇはお茶が気管に入ったのか、まだ咳き込んでいた。

「機密?」
「はい。その事でギルドは『水の国』から相談を受けているのですが、内容が内容だけに、他言は出来ないんです」
「そうですか。まぁ、俺も国やらギルドやらの大事に首を突っ込むつもりはありませんから、これ以上は聞きませんが、一つだけ、『風の国』が狙っているのは……」
「間違いなく『水の国』でしょうね」

   レリックさんの言葉で確証は取れた。戦争の準備をしてるという事は、勇者の動きも活発になるだろう。
   健一達との合流チャンスは意外に近いかもしれない。

   

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