88 / 172
第4章 超越者の門出編
第84話 『風の国』と『水の国』……前回の意趣返しは少しは出来ただろうか?
しおりを挟む「能力値は2000オーバーですか……思ったより低いですね」
敗北感からだろうか、思いの外元気が出ない声で俺が感想を述べると、レリックさんは小さく肩をすくめる。
「この数値を聞いてそんな感想を言えるのは、今期の勇者では博貴殿位でしょうね。今の時点で人間を辞めている今期の勇者は、博貴殿を除けばおりませんから」
「人間を辞めたって、随分嫌な言い方をしますね。自分だって辞めてるくせに」
「はっはっは、私は仙人です。人を超越してしまった博貴殿と違って、ちゃ~んと人の部分は残ってますよ。それで、スキルですが、【超級剣術】【上級盾術】【体力強化(強)】【筋力強化(強)】[精神力強化(強)】【斬撃力上昇】【剛体】【臨界突破】ですね」
二百年以上生きててどの辺に人の部分が残っているのか知らないが、レリックさんはどこか勝ち誇った様に高笑いをすると、再び何事もなかった様に井上のスキルを言い始める。その内容を聞いて、俺はレリックさんに対してムカつく前に拍子抜けしてしまった。
はっきり言って、全く驚異を感じない。そして、【臨界突破】。
「ハズレスキルを取得していましたか」
「ええ、【限界突破】と【臨界突破】は比較的早く出てきますから、出てくると喜び勇んで取得してしまうんですよねぇ」
確かにそうかもしれない。【限界突破】はレベル80、【臨界突破】はレベル100で出現するという事だから、ダンジョンのラスボスを倒した時点で取得してしまう勇者が多いらしい。
「実際、今回の勇者達も三割位は取得してるわ。でも、レベル200オーバーとなると、井上ぐらいだから宰相が強気になるのも頷けるわよねぇ」
「……勇者の情報って、そんなに簡単に手に入るものなの?」
お茶を飲み、リラックスしながら各国の勇者の情報を語るかなねぇの情報量に、勇者の情報って、国家機密じゃないの? と思ってしまった。
「各国とも勇者のお披露目をしてるのよ。自分とこの勇者はこんなに強いんだぞーって事なんだろうけど、鑑定スキル持ちなら簡単に調べられるから、各国、密偵を放って互いに調べあってるわ」
「ふ~ん……という事は、宰相は確実に勝てる国を見つけたって事か……『風の国』と隣接してるのは……」
「北に『闇の国』、東に『火の国』、南に『水の国』ですね」
俺が前にアユムに口頭で教えてもらったこの大陸の形を思い出していると、レリックさんがスラスラと答えてくれる。
「ふむ、その三国で一番弱そうなのは?」
「う~ん、勇者の力量って点では『闇の国』と『火の国』はほぼ同じね。それ以外の要因としては、『闇の国』には魔族がいるし、『火の国』にはドラゴンがいる。どっも刺激したら洒落にならない種族ね」
あー、ドラゴンね……
俺は竜の超越種、ガウレッドさんの特訓と称したイジメを思い出し、気分が重くなる。
「どうしたのひろちゃん? 随分苦々しい顔をしてるけど」
「いや……何でもない。それより『水の国』の情報が無いけど、どうなってるの?」
「あー、『水の国』……ね。あそこは勇者のお披露目をしてないのよ」
勇者のお披露目をしてない、ね。それは何ともキナ臭い情報だけど、それよりも、なんか言いづらそうに答えるかなねぇに違和感を感じる……ちょっとカマをかけてみるか。
「それって、勇者の情報を見せない為? それとも……」
「それは分からないわ」
勇者が死んだか、弱いままだから、と言葉を続けようとしたのだが、かなねぇは食い気味に分からないと答える。
へぇ~……かなねぇ、まだそんな癖を持ってたんだ。
かなねぇは、聞かれたくない事を質問をされそうになると、相手の言葉を遮る様に否定してくるんだよね。
これは何か隠してるな。
「博貴殿」
どうやってかなねぇの口を割ってやろうか思案しようとした矢先、レリックさんが口早に俺を呼んだ。
「どうしたんですレリックさん」
「まだ、井上殿のオリジナルスキルの説明をしてませんが」
「ああ、そうでしたね。では、教えてもらえますか」
今、明らかにレリックさんは話をそらしに来た……まあ、いいか。かなねぇの口を割るのは、井上のオリジナルスキルを聞いてからにしよう。
「井上殿のオリジナルスキルは【寛大なる独裁者】。効果は任意のパーティメンバーの経験値を搾取する代わりに、その者の能力値を三倍にするという効果です」
「へぇ、それで健一達のレベルが50で止まって、井上のレベルが異様に高かったわけですか」
「そうですね。それに、その効果がある以上、健一殿達は容易にパーティから外れる事が出来なくなっています」
「パーティを抜けたら、極端に弱くなるからですか」
「はい。レベル50では、この辺の魔物には中々勝てませんからね」
そんなの、健一達なら気にしないで抜けてしまいそうだけど……そうか。
「力を誇示しなければ、城で肩身の狭い想いをする羽目になるか……」
「ご明察です。健一殿達は勇者などと祭り上げられていますが、いわば居候。勇者としての力が無ければ、あの宰相なら手のひらを返して城から放り捨てる位は簡単にしますからねぇ」
放り捨てる……ね。まるで健一達を物みたいに言ってくれる。健一達が我慢して井上の術中にはまっているのは、迎えに行くまで城で待っててくれという、俺との約束を守ってるに過ぎないというのに。
俺はフツフツと込み上げて来た怒りを、今は静かに押さえ込む。
「成る程……ね。こりゃあ、なるべく早く健一達との合流を果たさないと」
健一達がそんな儘ならない状況に身を置いていたとは……多少は想像してたけど、思ってたよりも酷い。
それにしても、井上と宰相。今の健一達を苦しめているのは明らかにこの二人だな。この二人には、健一達が味わってる苦渋を何倍にもして味わってもらわないと気が済まない。
「ひろちゃん。なんか、すっっっごい邪悪な笑みを浮かべてるけど、一体、どんな悪巧みを考えてるの」
押さえても次々と心の奥から湧き出てくる怒りの矛先を定めていると、かなねぇが頬を引きつらせてそう聞いてきたが、あれ? 顔に出てたか。
「悪巧み……まぁ、そういう事になるのかな。でも、内容まではまだ考えてないよ。ただ、その相手を定めただけ」
「ふ~ん……どうせ、井上とか宰相辺りなんだろうけど、二人が死んだら『風の国』が弱体化しちゃうから、早まった真似だけはやめてね。そんな事になったら、他の国が要らない野心を出しかねないから」
「殺すなんてとんでもない。そんな簡単に楽になる様な選択肢は選ばないよ。俺を本気でイラつかせた相手には、トコトン苦しんでもらわないと」
俺が笑顔でそう答えると、かなねぇとレリックさんは本気でドン引きしていた。
「ところで……」
場の空気がちょっと嫌な感じになったので、話題を変える事にする。
「『水の国』の勇者は間違いなくいるの?」
俺の質問に、レリックさんは無表情だが、かなねぇは僅かに肩を震わせた。ポーカーフェイスではあるんだけどね、他の部分で反応を見せちゃったら意味が無いよ。
「それは……いるんじゃないの。『水の国』だけ勇者がいないなんて事、あり得ないでしょ」
「へぇ~、確証は無いのに、いると確信してるんだ」
俺の言葉に、かなねぇは再びビクビクと肩を震わせると、気を取り直すように茶飲みに口をつける。
「おそらく、『風の国』の標的は『水の国』だよね」
「ブハァッ」
ボソッと呟いてやると、かなねぇは盛大にお茶を吹き出し、ゲホゲホと咳き込む。
はい、確定です。
「なんで、『水の国』の勇者の情報を隠す必要があるんだ?」
「それは、『水の国』と冒険者ギルドの機密なのでお答え出来ないんですよ」
俺の質問に答えたのはレリックさん。かなねぇはお茶が気管に入ったのか、まだ咳き込んでいた。
「機密?」
「はい。その事でギルドは『水の国』から相談を受けているのですが、内容が内容だけに、他言は出来ないんです」
「そうですか。まぁ、俺も国やらギルドやらの大事に首を突っ込むつもりはありませんから、これ以上は聞きませんが、一つだけ、『風の国』が狙っているのは……」
「間違いなく『水の国』でしょうね」
レリックさんの言葉で確証は取れた。戦争の準備をしてるという事は、勇者の動きも活発になるだろう。
健一達との合流チャンスは意外に近いかもしれない。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。
だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。
互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。
ハッピーエンド
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/03/02……完結
2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位
2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位
2023/12/19……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる