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第5章 『水の国』教官編
第136話 初めてのおつかい2……ティア、あまり粗相はしないでくれ
しおりを挟む「ん~♪」
お尻がゴワゴワしてドラゴンの背の乗り心地は悪かったが、その空を飛ぶ気持ち良さにティアは上機嫌になり鼻歌などを歌っていた。
「山頂にまで飛んだら直ぐに火口へと降りますんで、気を付けて下さい」
「ん」
雲を突き抜け山頂が見え始めた頃、赤いドラゴンの忠告にティアは目を細めて頷く。赤いドラゴンはそのまま言葉通りに山頂まで飛ぶと、山頂部の巨大な火口へと降りていく。
火口内部の奥底には活発に波打つ溶岩が見えたが、山頂から五百メートル程降りた辺りに平らな広い足場があり、赤いドラゴンはそこに降り立った。 赤いドラゴンが着地するとティアはその背からポンッと飛び降り、火口の底からくる熱気に額から流れ始めた汗を袖で拭う。
「超魔竜様はそこの横穴の先におります」
赤いドラゴンはそう言いながら脇の壁に開いた百メートル超える大穴を顔で指し示す。
「ん、分かった」
ティアが頷くと赤いドラゴンはティアに顔を近付け、神妙な面持ちで口を開く。
「くれぐれも超魔竜様を怒らせるようなマネはやめて下さい。粗相の無いようにお願いしますよ」
赤いドラゴンの恐怖と心配が入り混じった言葉に、ティアがコクリと頷く。『本当にお願いしますよ』と言いながら赤いドラゴンは警備の仕事に戻る為に山頂へと飛び立っていく。それを見上げて見送っていたティアは、赤いドラゴンが見えなくなると壁に開いた大穴へと視線を移し、ゆっくりと歩を進めた。
穴の先は入り口と同じ広さで緩やかな螺旋状の下り坂になっており、暫く進むと熱気も感じなくなり快適な温度となる。ティアは徐々に早足になりながらその薄暗い下り坂を降りて行く。そして、最後には全力疾走になりながら下る事十分程、広かった通路は更に広い空間へと繋がり、ティアはその空間に入った時点で足を止めた。
その空間は巨大なドーム状になっていた。その岩肌が輝いていて昼のように明るい。そして、入り口の反対側の壁際には百メートルはあろうかという巨大な黒いドラゴンが鎮座している。その両脇には五十メートルから二十メートル程の様々な種のドラゴン達が壁に沿って並び立ち、その全ての視線がティアへと注がれていた。
「よく来たなティア」
黒いドラゴンが口を開くが、ティアは小首を傾げる。
「誰?」
「くかっかっかっかっ、この姿で会うのは初めてだからな」
言いながら黒いドラゴンは立ち上がりティアへとよってくる。
「俺だよ俺」
ティアへと近付き、黒いドラゴンはその首をティアへと近付けたのだが、
バギィ!
「おごっ!」
「「「「「なっ!」」」」」
その顎をティアが思いっきり蹴り上げ、黒いドラゴンが首を上に仰け反らせると、それを見ていた壁際に控えていたドラゴン達が恐怖におののきながら声を上げる。
「そんな図体で近付かれたら流石に怖い」
ティアの切り捨てるような一言に対し、ゆっくりと無言で仰け反っていた首を戻し、その鋭い視線をティアへと向けていた黒いドラゴンは、やがてニヘラっと締まりのない笑みを浮かべる。
「くかっかっかっかっ、確かにそうだな。ならば、これでどうだ?」
そう言うと、黒いドラゴンの体が輝きながら縮み始め、長身の人型へと姿を変えた。
「んっ、おっちゃんだ」
「そうだ、おっちゃんだ」
見慣れた姿にティアが納得すると、ガウレッドはそんなティアを抱き上げて笑ってみせる。
攻撃されてなお上機嫌な自分達の王を見て、壁際に控えていたドラゴンの重鎮達は、安堵しながらも驚きの表情でその様子を見ていた。
「で、今日は何でここを訪ねてきた?」
抱き上げたティアにガウレッドがそう尋ねると、ティアは使命感に燃える瞳をガウレッドへと向ける。
「ひろにぃに頼まれて、おっちゃんにお願いにきた」
「ほう……博貴が俺に頼み、ねぇ……」
「ん………………」
《『火の国』の軍を『風の国』に入る前に追い返してほしいだよティアちゃん》
ガウレッドにお願いの内容を話そうとして口籠ってしまったティアに、すかさずニアが助け舟を出す。
「ん! 『風の国』に入る前に『火の国』を追い返す」
ニアの言葉に頷き、言葉足らずで復唱したティア。その言葉の意味が分からず首を傾げるドラゴンの重鎮たちとは違い全てを悟ったのか、ガウレッドはニヤリと笑ってみせる。
「ほほぅ……博貴は俺に戦争の火種を消せと言っているのか……中々に偉くなったもんじゃねえか」
ガウレッドがその笑みを獰猛なものへと変えていくと、ティアはガウレッドが博貴に対して良からぬ事を考えていると感じ取ったのか、指をチョキにしてガウレッドの両目に突き入れる。
それを見て、ドラゴンの重鎮達が『あー!』といっせいに目を見開きながら叫んだのだが、やられた当の本人は『あうっ!』と呻いたっきり怒る様子は無い。
「……ティア、目はいかん、目は!」
涙目になりながら困ったような表情をティアに向けるガウレッド。
「今、ひろにぃに敵意をみせてた?」
「敵意……まあ、【超越者】の先輩を顎で使う様な真似にイラッときたのは確かだな。大体、報酬も無しに俺を使おうって魂胆がムカつく……っと、待った待った!」
再び凶悪な表情になっていたガウレッドは、ティアが指をチョキにしているのに気付いて慌てて止める。すんでのところでお仕置きを止められたティアは『むぅ……』と唸りながら手を引っ込めた。
「……全く、お前は相変わらず博貴が大事なのだな」
「んっ! ひろにぃは大事」
屈託無く笑うティアに、ガウレッドはやれやれと嘆息を吐く。
「で、博貴は頼み事以外で報酬なんかの話はしてなかったのか?」
「報酬? んー……いつも遊んであげてる?」
ガウレッドの訓練と称したしごきを遊びと表現したティアに、ガウレッドはキョトンとした後で、今日一番の大声で笑い出した。
「くかっかっかっかっ! そうか、遊びか! そりゃあ良い! ……やはりお前は面白い。豪胆で思い切りが良く、物怖じしない。博貴には勿体無いわ!」
ティアの豪胆さに機嫌良くし賛辞をおくるガウレッドだったが、その勿体無い発言に、ティアがプクーと頬を膨らませた。
「んー、ひろにぃは優しい。ひろにぃこそティアには勿体無い」
「そうか、そうか、優しいか……この世界でそれがどれ程の力を持つのか知らんが、ティアにはそれが一番大事なのだな……良し分かった! ならば博貴に伝えておけ。今回はお前の思惑通りに動いてやる。ただし、その報酬として後で盛大に遊びに行ってやるとな」
「ん、分かった」
それが博貴にとって地獄への招待状だとは知らずに、ティアは頷くとピョンとガウレッドの腕から飛び降りた。
「もう帰るのか?」
地面に降り立ち自分に背を向けるティアに、ガウレッドは少し声のトーンを落として尋ねる。
「んー……健一達が心配だけど……少し、遊んでく」
そう言ってクルリと振り向き構えを取るティアを見て、ガウレッドは満面の笑みを浮かべた。
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