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【第二章】 たとえ悪役だとしても
第24話
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「全部、あなたの仕業だったんですね!?」
「今さら気付いたの? お馬鹿さんね」
「どうして!? 『死よりの者』にみんなを襲わせるなんて、どうしてそんな酷いことが出来るんですか!?」
「それが嫌ならあんたが止めればよかったじゃない。ご自慢の聖力とやらで」
「……あなたには、何を言っても無駄なんですね」
「だったら何? もう遅いわよ」
「このっ、ローズ!!!!!」
「さようなら。お馬鹿で可愛いウェンディ。せいぜい最後まで足掻いてみせなさい?」
――――――ガチャリ。
BAD END
**********
「確か『死花の二重奏』のバッドエンドは、こんな感じだったわね」
手持無沙汰になった私は、原作ゲームのバッドエンドを紙に書き出していた。
この後、『死よりの者』によって滅茶苦茶にされた学園のイラストが一枚表示され、その上をスタッフロールが流れる。
バッドエンドだとしても、乙女ゲームとは思えないエンディングだ。
「私が処刑されないようにするのはもちろんだけど、この結末も避けたいわね」
明確な描写はされてはいないが、エンディングのイラストを見る限り、学園の荒れ方は凄まじい。きっと多くの生徒が死んでしまったことだろう。
「さすがに私が『死よりの者』を操らなければ、あのバッドエンドには行き着かないと思うけど……それにしても遅いわね」
夕食を済ませてシャワーも浴びたが、ウェンディが戻ってくる気配はない。
ナッシュはずいぶんと長い間、時間稼ぎをしてくれているらしい。
ウェンディの部屋に入って図書館の鍵を盗むだけだから、ここまで時間稼ぎをしてくれなくてもよかったのだが。
でもそのおかげでシャワーを浴びることが出来たのはありがたかった。
長い髪をタオルで乾かしながら窓の外を眺める。
いつウェンディが帰ってくるか分からないから烏の行水だったが、元社畜の私にとっては簡単なことだ。
普通の令嬢が髪さえ洗い終わらないだろう短時間で、全身をくまなく洗い上げることが出来る。
ローズの長い髪を乾かすのだけは時間がかかりそうだが、髪は窓の外を監視しながら乾かせばいい。
「こんなことなら、ウェンディの日記を読んでくるべきだったかしら」
安全策をとってウェンディの部屋では日記を読まず、かといって日記を持ち去りもせずに帰ってきてしまったが、案外読んでいても問題なかったかもしれない。
「……って、ダメよ。他人の日記を読むなんて。それに危険をおかして退学にでもなったらどうするの」
思わず自分で言った言葉を自分で否定した。
時には危険をおかす必要があるが、あの場でそんなリスクを取るだけのメリットは無かった。
攻略対象について書かれているかどうかも分からないウェンディの日記を読むために退学のリスクをとるなんて、どう考えても馬鹿げている。
「……なんて考えているうちに、二人が戻ってきたようね」
女子寮にやってくる二つの人影が見えた。
寮に近づくにつれ、顔がはっきりしてくる。
間違いない。
ウェンディとナッシュだ。
ウェンディの部屋の鍵を置いた辺りまでやって来たナッシュが、何かに気付いたような動作をした。
三階の私の部屋から見てその動作に気付けるのだから、近くから見たら過剰な演技だろう。
今度こそウェンディに不審がられるのではないだろうか。
不審がられたかどうかは二人の会話が聞こえないから判明しないが、ウェンディとナッシュは二つの鍵を見比べて、持っている鍵を交換したようだった。
「順調ね。さあ、この後も計画通りに動いてくれるかしら」
私はブラックコーヒーを片手に、そのまま窓の外を眺めていた。
* * *
約一時間後。
慌てた様子のウェンディが女子寮を飛び出てきた。
エドアルド王子から借りていた図書館の鍵が無いことに気付いたのだろう。
失くした鍵は今夜探すにしても、取り急ぎ一緒に図書館へ行くはずだったセオに中止の連絡をしなければならない。
女子寮の前にセオが待機していることも確認済みだ。
忙しいだろうに、三十分も前から待機している。
しかもウェンディに目印にしてもらうためなのか、用務員の格好のままで。
女子寮を飛び出したウェンディは、辺りを見渡してセオを発見すると、何度も頭を下げていた。
しかし、さすがに鍵を失くしたとは言っていないだろう。
エドアルド王子から借りた鍵を失くしたなどと言えるわけがない。
大方、急に体調が悪くなったとでも説明しているのだろう。
セオはウェンディにお辞儀をして、女子寮から去って行った。
三十分も待ち続けて、待っていた相手に約束を断られるのは少し気の毒だ。
……私のせいなのだが。
見たかったものを確認した私は、ほっと息を吐いた。
「無事に今日の図書館イベントは中止になったようね」
このためにどれだけの危険をおかしたことか。
本番はこれからだが。
「ごめんなさいね、ウェンディ。でも『死よりの者』の退治が終わったら、ちゃんと図書館の鍵は返すから。怒られはしないわよ」
誰にともなくそう言って、何杯目かのブラックコーヒーを飲み干した。
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