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2.地味男子×無邪気女子
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「ほかの男の子なんて、全然気が利かないし。顔とか身体しか見てないんだよ」
「そうなのかな?」
「海に行こうって誘われたりもしたけど、水着とか身体に興味があるだけなの見え見えだし。だから絶対水着は見せないって思った」
翔平が、陽花を誘ったが断られたというようなことを言っていた気がする。
「でも僕とはプールに行ったよね?」
「ちーちゃんには見せたかったから」
「そ、そうなんだ」
女心はわからないな、と千尋は不思議に思った。
「花火の時だって、そう。ただ可愛いって言うだけで、足が痛いって言っても何にもしてくれなかった。ちーちゃんは、コンビニに走ってくれたよ」
「まあ、去年はそうだったね」
「今年は、ちゃんと用意してくれてたし、ゆっくり歩いてくれたし、いつも気遣ってくれてる」
「はるちゃんとずっと一緒だから、僕はなんとなく想定できたしね……」
それだけじゃないよ、と陽花は言った。
「ちーちゃん以上の人、いないんだもん……」
「まあ、いないかもしれないよね……」
ここまで陽花の行動を想定できるのは、家族以外では、長く一緒にいる自分くらいなものだろうと思えた。
「意味わかってる!?」
いきなり陽花が顔を上げた。
「うぉっ……と。意味?」
「そう」
「わたしは、ちーちゃんの隣にいたい」
「うん、いるじゃない」
「そうじゃなくて!」
陽花は地団駄を踏む。
子供のようだ、と思った。
「ちーちゃんに彼女出来てほしくない」
「……なんで?」
「なんで、って……ちーちゃんの隣はわたしがいたいの!」
「……はあ」
「もうっ! ここまで言ってもわかんないかな!?」
「えー……」
うーん、と考え込む。
押さえ付けていた感情の蓋がずらされてゆく。
ゆっくり、ゆっくり、陽花への温かな感情が溢れてゆく。
「……それって」
「わかった?」
「わかったような、ないような……」
彼女が出来てほしくない、自分が隣にいたい……。
(まるで、はるちゃんが僕の彼女になりたい、みたいな言い方)
「え……!?」
陽花が顔を赤らめて千尋を見つめている。
「えと……つまり」
「つまり?」
「はるちゃんは、僕を特別だと思っているってこと?」
「そうだよ」
「な、なんか、僕を好きって言ってるみたいに聞こえるんだけど」
まさかね、と千尋は小さく笑った。
「好きだよ!」
陽花は目を潤ませて、真っ直ぐに見つめ続けている。
「えっ」
「ちーちゃんが好き。わたしのこと妹みたいに思ってるってわかってたけど、わたしはちーちゃんをお兄ちゃんみたいとか、そんなこと思ったことない。男の子として好きなんだよ。だから、他の男の子になんて興味ないし、どうでもいい」
ふいっと目を逸らし、零れそうな涙が落ちないよう俯いた。
「あの……え……ええっ……」
かあっと身体が熱くなっていくのがわかった。
ドクドクドク……、そして心音が早くなっていく。
「ごめん」
「……謝らなくていいよ。わたしが勝手に好きになったんだから。ごめんね。ちーちゃんに甘えすぎてた。もう、ちーちゃんに話しかけないから、安心して。名前も呼び方変えるから」
陽花は立ち上がった。
「違う!」
慌てて陽花の手を引き、もう一度座らせた。
「そういう『ごめん』じゃなくて……。気付かなくて、ごめん、って意味のつもり」
「いいよ。ちーちゃん、鈍感だもんね。アピールしてたのに全然だもん」
「……そうなの?」
アピールされてたのか、と過去を振り返ろうとしたが、今は振り返っている場合では無いと思った。
「僕は、人気者で可愛いはるちゃんに釣り合わないと思ってたし、それだから、ただの幼馴染に徹しようと思ってて……。本当は、はるちゃんが男子に誘われたりしてるのを見て、もやもやしてたし、僕を頼ってくれるのがすごく嬉しくて。でもそれじゃ駄目だと思って、はるちゃん離れしなきゃいけないと思ってて……」
次第に声が震え始める。
恥ずかしさでいっぱいだった。
同時に温かな気持ちが溢れ出して止まらない。
「僕だって……はるちゃんに彼氏が出来るなんて嫌だ……でもそんなこと言えなくて……」
ずっと自分の気持ちに気付かないようにしてた、と吐露する。
すると、すうっ……と胸の奥のつかえが取れていくような気持ちがしていた。
「ちーちゃん、わたしのこと、好きってこと?」
「たぶん」
「たぶんじゃなくて、ちゃんと教えてよ」
「うん、好きだ。はるちゃんが好きだ。間違いないよ」
嬉しい、と陽花が笑う。
釣られて、千尋も笑った。
「言えてよかった。ちーちゃん、鈍感すぎるから」
「ごめん……」
陽花は千尋の身体を押した。
「わわっ」
倒れた千尋の身体に覆い被さった。
「ちーちゃん、大好き」
陽花は千尋の胸に頭を乗せ、それに答えるように千尋は彼女の身体を抱きしめた。
ジージーと蝉の鳴き声のなかに、二人の心音が聞こえた。
「あのね、はるちゃん」
「うん?」
「僕も男だってことわかってる?」
「うん、わかってる」
「好きっていうことは、キスしたり、それ以上のことしたくなったりするかもしれないけど、いいの?」
天井を見つめ、自分の身体が疼いていることを、遠回しに言ったつもりだった。
「いいよ」
「幼馴染なのに、そんなことしたら戻れなくなるけどいいの」
「いい」
ぎゅっと陽花は千尋にしがみつく。
「……よかった」
「え?」
「ちーちゃん、もしかしたら性欲ないのかなって思ってたから……」
「あ、あるよ」
「安心した」
陽花は身体を起こし、千尋の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「ね、チュウしていい?」
「……いいよ」
千尋も身体を起こした。
キスなんてしたことはなかったし、ぎこちなかったが、自然と陽花の唇に触れることが出来た。
「はるちゃん、僕の彼女になってよ」
「……うん」
二人はもう一度唇を重ねた。
fin
「そうなのかな?」
「海に行こうって誘われたりもしたけど、水着とか身体に興味があるだけなの見え見えだし。だから絶対水着は見せないって思った」
翔平が、陽花を誘ったが断られたというようなことを言っていた気がする。
「でも僕とはプールに行ったよね?」
「ちーちゃんには見せたかったから」
「そ、そうなんだ」
女心はわからないな、と千尋は不思議に思った。
「花火の時だって、そう。ただ可愛いって言うだけで、足が痛いって言っても何にもしてくれなかった。ちーちゃんは、コンビニに走ってくれたよ」
「まあ、去年はそうだったね」
「今年は、ちゃんと用意してくれてたし、ゆっくり歩いてくれたし、いつも気遣ってくれてる」
「はるちゃんとずっと一緒だから、僕はなんとなく想定できたしね……」
それだけじゃないよ、と陽花は言った。
「ちーちゃん以上の人、いないんだもん……」
「まあ、いないかもしれないよね……」
ここまで陽花の行動を想定できるのは、家族以外では、長く一緒にいる自分くらいなものだろうと思えた。
「意味わかってる!?」
いきなり陽花が顔を上げた。
「うぉっ……と。意味?」
「そう」
「わたしは、ちーちゃんの隣にいたい」
「うん、いるじゃない」
「そうじゃなくて!」
陽花は地団駄を踏む。
子供のようだ、と思った。
「ちーちゃんに彼女出来てほしくない」
「……なんで?」
「なんで、って……ちーちゃんの隣はわたしがいたいの!」
「……はあ」
「もうっ! ここまで言ってもわかんないかな!?」
「えー……」
うーん、と考え込む。
押さえ付けていた感情の蓋がずらされてゆく。
ゆっくり、ゆっくり、陽花への温かな感情が溢れてゆく。
「……それって」
「わかった?」
「わかったような、ないような……」
彼女が出来てほしくない、自分が隣にいたい……。
(まるで、はるちゃんが僕の彼女になりたい、みたいな言い方)
「え……!?」
陽花が顔を赤らめて千尋を見つめている。
「えと……つまり」
「つまり?」
「はるちゃんは、僕を特別だと思っているってこと?」
「そうだよ」
「な、なんか、僕を好きって言ってるみたいに聞こえるんだけど」
まさかね、と千尋は小さく笑った。
「好きだよ!」
陽花は目を潤ませて、真っ直ぐに見つめ続けている。
「えっ」
「ちーちゃんが好き。わたしのこと妹みたいに思ってるってわかってたけど、わたしはちーちゃんをお兄ちゃんみたいとか、そんなこと思ったことない。男の子として好きなんだよ。だから、他の男の子になんて興味ないし、どうでもいい」
ふいっと目を逸らし、零れそうな涙が落ちないよう俯いた。
「あの……え……ええっ……」
かあっと身体が熱くなっていくのがわかった。
ドクドクドク……、そして心音が早くなっていく。
「ごめん」
「……謝らなくていいよ。わたしが勝手に好きになったんだから。ごめんね。ちーちゃんに甘えすぎてた。もう、ちーちゃんに話しかけないから、安心して。名前も呼び方変えるから」
陽花は立ち上がった。
「違う!」
慌てて陽花の手を引き、もう一度座らせた。
「そういう『ごめん』じゃなくて……。気付かなくて、ごめん、って意味のつもり」
「いいよ。ちーちゃん、鈍感だもんね。アピールしてたのに全然だもん」
「……そうなの?」
アピールされてたのか、と過去を振り返ろうとしたが、今は振り返っている場合では無いと思った。
「僕は、人気者で可愛いはるちゃんに釣り合わないと思ってたし、それだから、ただの幼馴染に徹しようと思ってて……。本当は、はるちゃんが男子に誘われたりしてるのを見て、もやもやしてたし、僕を頼ってくれるのがすごく嬉しくて。でもそれじゃ駄目だと思って、はるちゃん離れしなきゃいけないと思ってて……」
次第に声が震え始める。
恥ずかしさでいっぱいだった。
同時に温かな気持ちが溢れ出して止まらない。
「僕だって……はるちゃんに彼氏が出来るなんて嫌だ……でもそんなこと言えなくて……」
ずっと自分の気持ちに気付かないようにしてた、と吐露する。
すると、すうっ……と胸の奥のつかえが取れていくような気持ちがしていた。
「ちーちゃん、わたしのこと、好きってこと?」
「たぶん」
「たぶんじゃなくて、ちゃんと教えてよ」
「うん、好きだ。はるちゃんが好きだ。間違いないよ」
嬉しい、と陽花が笑う。
釣られて、千尋も笑った。
「言えてよかった。ちーちゃん、鈍感すぎるから」
「ごめん……」
陽花は千尋の身体を押した。
「わわっ」
倒れた千尋の身体に覆い被さった。
「ちーちゃん、大好き」
陽花は千尋の胸に頭を乗せ、それに答えるように千尋は彼女の身体を抱きしめた。
ジージーと蝉の鳴き声のなかに、二人の心音が聞こえた。
「あのね、はるちゃん」
「うん?」
「僕も男だってことわかってる?」
「うん、わかってる」
「好きっていうことは、キスしたり、それ以上のことしたくなったりするかもしれないけど、いいの?」
天井を見つめ、自分の身体が疼いていることを、遠回しに言ったつもりだった。
「いいよ」
「幼馴染なのに、そんなことしたら戻れなくなるけどいいの」
「いい」
ぎゅっと陽花は千尋にしがみつく。
「……よかった」
「え?」
「ちーちゃん、もしかしたら性欲ないのかなって思ってたから……」
「あ、あるよ」
「安心した」
陽花は身体を起こし、千尋の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「ね、チュウしていい?」
「……いいよ」
千尋も身体を起こした。
キスなんてしたことはなかったし、ぎこちなかったが、自然と陽花の唇に触れることが出来た。
「はるちゃん、僕の彼女になってよ」
「……うん」
二人はもう一度唇を重ねた。
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