大人の恋愛の始め方

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【第1部】8.都合のいい女

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 あれほど暑かった夏が終わろうとしている。季節は秋のはずだが、昼間は暑く、朝夕がようやく秋らしいといったところだ。
 トモとの関係は相変わらず継続中だ。半年も続いている。こんな関係はダメだとわかっていながらもやめられなくなっていた。
 週に何度か呼び出されて、簡単に身体を重ねてしまう。トモと繋がれるならなんでもいい。
 ズキズキと胸が痛む。
 トモと会ったあとは、いつもこんなふうに胸が痛む。身体も痛むけれど、それはトモの温もりの証拠だから、そちらの痛みは今は平気だと思えるようになった。
 聡子の恋は盲目で後戻りできなくなっていた。


 季節も変わりかけた頃だ、川村光輝に再びデートを申し込まれた。
 何度か誘われ、その度に丁重に断ってきた。誘われなくなり、てっきり諦めてくれたかと思ったのに。
 すっかり忘れた頃だ。
 最近はトモの来店も少ない。かわりに川村の来店が多くなり、こうしてまた誘いを受けることになってしまった。
「もう見習いなので、なんて言い訳は通用しないよ」
 一年が経った頃には店では「見習い」という肩書きは外れた。
「もうママの許可なしでもいいんでしょ?」
 もう外れてからかなり経過している。聡子は観念した。 

 とある土曜日。
 待ち合わせの駅前に川村がワンボックスカーで迎えに来た。
 聡子の変貌ぶりに驚いている様子だ。聡子はごくごく普通の出で立ちのつもりだ。カットソーに淡い色のスカート、恐らく同世代の女子よりは地味だという自覚はある。
「素顔は地味ですみません」
「いや……そんなことないよ」
 素顔のほうが可愛いね、と言う川村。
 驚きはいい意味のようだった。
「大学生って言われてもわかんないね」
(そっか)
 自分は年齢的には大学生くらいだもんな、と聡子は納得した。

 二人は川村の運転で酒造カフェに出かけた。
 川村の会社の同業他社が経営しているカフェだ。川村の会社は醸造、販売のみだというが、ずれはカフェのような飲食店を併設したいと話していた。
 カフェ店内の席に通されたあと、川村はあれこれいろいろチェックをしはじめた。
「仕事熱心ですね」
「あ、ごめん。ついつい……」
「いいですよ。川村さんは偵察ですよね」
 小声で言うと、川村は申し訳なさそうな顔になった。
「ミヅキちゃんことほったらかしにするつもりじゃないからね!」
 焦った様子だが、メモ帳に書き写す手は止まらない。
 川村は店側許可のもとで写真撮影をしたり、いくつかのスイーツを注文してメモをしている。
 聡子とスイーツのシェアをしながらも、偵察に夢中だ。
 聡子は男性と外出をしたことがほぼない。トモと出かけたことはあっても、ファミレスとラーメン屋、そしてホテルだけだ。友人の美弥とも出かけたことがないので、新鮮だった。
 川村とでは特別ドキドキはしないのだが、デートはこんな感じなんだろうなと一つ賢くなった気になった。
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