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【第1部】9.金平糖
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トモはジャケットのポケットに手を入れた。周囲を少し伺ったあと、そこから小さな箱を取り出し、聡子の手を掴み、それを握らせた。
「やる」
「え?」
聡子の掌に乗る程度の小さな箱だ。
カサカサカサ……と音がした。
「土産だ。好きかどうかわかんねえけど」
「何ですか?」
「京都で買った金平糖だ。一昨日まで京都に研修に行かせてもらってた」
「そうだったんですか」
ひと月近く連絡がなかったことに納得している様子だ。トモから連絡がないからといって、彼女のほうから連絡がされることもなかった。遠慮をしていたのかどうかはわからないが。
「帰りに見つけた。あんまりでかいのはどうかと思ったし、日持ちしないのも、いつ会うかわかんねえからやめた。それならいいかなと思ってよ」
聡子の顔に笑みが零れてゆく。
「ありがとうございます。嬉しい……」
「たいしたもんじゃんねえ。金平糖だ」
「京都の金平糖、有名なお店もありますよ? なんか……嬉しいです」
両掌で包むように持ち、聡子はトモに礼を言った。
「いただきますね」
「おう。そんな高価なもんでもねえからな」
「ありがとうございます」
「まあ、とっとけ」
二人がそんなやりとりをしていると、ふと視線を感じる。
レイナだ。
レイナの目は半目だが、口元がにやにやしている。
(な、なんだよ……)
見てたのかよ、と思ったが、見えても仕方が無い。間違いなく会長やママ、カズにも見られている。
気恥ずかしくて、ウーロン茶を口にした。
帰りの運転はトモだ。そのつもりで酒も飲んでいない。
助手席にカズ、後部座席に会長の神崎が座っている。カズは浴びるほどではないが酒を飲み、今はいい気分で眠っているようだ。
「影山」
「はい」
ふいに神崎が口を開いた。
「おまえの女関係が派手なことは知っている。私は見て見ぬ振りをしていただけだ」
「…………はい」
女好きなのは周知の事実だ。その自覚もあるが、会長にまで言われると思わなかった。
「私がどうのこうの言う筋合いはない。だが、あと二年もすれば《縛り》もなくなる。そうでなくとも、交際をすることも、結婚をすることも真面目に考える権利はあるんだ。好きな女性がいるなら、一緒になることも考えてもいい」
「……そういう相手はいないです」
「今はなくとも、この先あるやもしれんという話だ」
神崎は誤解をしたのかもしれない。
(ミヅキのこと感づいたのかもな……でもあいつとは身体だけの関係だ)
「私はおまえたちには幸せになってもらいたいだけだ」
「……はい」
トモは車を静かに走らせた。
「やる」
「え?」
聡子の掌に乗る程度の小さな箱だ。
カサカサカサ……と音がした。
「土産だ。好きかどうかわかんねえけど」
「何ですか?」
「京都で買った金平糖だ。一昨日まで京都に研修に行かせてもらってた」
「そうだったんですか」
ひと月近く連絡がなかったことに納得している様子だ。トモから連絡がないからといって、彼女のほうから連絡がされることもなかった。遠慮をしていたのかどうかはわからないが。
「帰りに見つけた。あんまりでかいのはどうかと思ったし、日持ちしないのも、いつ会うかわかんねえからやめた。それならいいかなと思ってよ」
聡子の顔に笑みが零れてゆく。
「ありがとうございます。嬉しい……」
「たいしたもんじゃんねえ。金平糖だ」
「京都の金平糖、有名なお店もありますよ? なんか……嬉しいです」
両掌で包むように持ち、聡子はトモに礼を言った。
「いただきますね」
「おう。そんな高価なもんでもねえからな」
「ありがとうございます」
「まあ、とっとけ」
二人がそんなやりとりをしていると、ふと視線を感じる。
レイナだ。
レイナの目は半目だが、口元がにやにやしている。
(な、なんだよ……)
見てたのかよ、と思ったが、見えても仕方が無い。間違いなく会長やママ、カズにも見られている。
気恥ずかしくて、ウーロン茶を口にした。
帰りの運転はトモだ。そのつもりで酒も飲んでいない。
助手席にカズ、後部座席に会長の神崎が座っている。カズは浴びるほどではないが酒を飲み、今はいい気分で眠っているようだ。
「影山」
「はい」
ふいに神崎が口を開いた。
「おまえの女関係が派手なことは知っている。私は見て見ぬ振りをしていただけだ」
「…………はい」
女好きなのは周知の事実だ。その自覚もあるが、会長にまで言われると思わなかった。
「私がどうのこうの言う筋合いはない。だが、あと二年もすれば《縛り》もなくなる。そうでなくとも、交際をすることも、結婚をすることも真面目に考える権利はあるんだ。好きな女性がいるなら、一緒になることも考えてもいい」
「……そういう相手はいないです」
「今はなくとも、この先あるやもしれんという話だ」
神崎は誤解をしたのかもしれない。
(ミヅキのこと感づいたのかもな……でもあいつとは身体だけの関係だ)
「私はおまえたちには幸せになってもらいたいだけだ」
「……はい」
トモは車を静かに走らせた。
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