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【第1部】13.リセット
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***
電話がかかって来た。
(レイナさんだ)
レイナからの電話に、自宅でのんびりしていた聡子はすぐに出た。
「こんばんは。お疲れ様です」
『ミヅキ、今いい?』
勤務中のようで、後ろがガヤガヤしている。が、すぐに静かになった。少し人の声がうるが、外に出た様子だ。
「はい、いいですよ」
『さっきね、店に川村さんとあの人が今日時間差で来たの』
あの人──トモのことだと察した。
川村は聡子が辞めたことを知っても、時折店を尋ねて来ていたようだ。辞めたと知って、ショックを受けたようだが、聡子の情報がないかと聞き出そうとしているらしかった。聡子に本気だと言っていたくらいだ、諦めきれないのかもしれない。
『まあ、そんな感じ。適当に遇っとくね』
「すみません」
『でも、もう一人のほうもね……』
トモのことだ。
『最近顔出して、ミヅキが辞めたこと知ってみんなに連絡先知らないかってきいてまわってるの』
トモのほうも、先月に聡子が店を辞めたことを知って、あれこれ探っているらしかった。
が、今日は裕美ママがトモを呼び止めたという。
「ママが?」
『うん』
「影山さん、あなたミヅキと連絡取ってないんですか?」
「ああ……取っていない。少し前電話をかけたがつながらなかった。メッセージのIDも、電話番号も変えたみたいだ。……ミヅキは、あの会社役員とどうにかなったのか?」
「そんなこと教える義理はありません。元従業員とはいえ個人情報ですから」
「そうか……やっぱりつきあってんのか」
前一緒にいるところ見たんだよな、とトモは呟いた。
「交際してるならあの方が店に来るわけないでしょう」
とママが言う。
「あの方はミヅキに会いたい気持ちでこうして通い続けてるんです。そういうあなたはどうなんですか?」
「俺?」
「どうしてミヅキを訪ねてきたの? ……というより、ミヅキに何したの。以前、ミヅキは酔いつぶれたの」
「え、あいつ……酒飲めないんじゃ……」
「そう、あの子はお酒が飲めない。そんな子が、飲んで酔いつぶれて醜態さらして……。それからはあなたは店に来なくった。きっとあなたに関係してると思ったけど、何も言わなかった。あの子は一生懸命働いてくれたから。ミヅキが店を辞めるって言ったのも、あなたが関係してるんでしょう。あの子は家庭の事情に目処がついたと言っていたけど」
「違う……」
トモは首を振った。
今にも胸ぐらを掴んできそうなママを見下ろし、
「違うと、思います。店を辞めたことと自分とは関係がないと……」
力なく言った。
「ちょっと来なさい」
ママはトモを部屋に連れて行った。
「何があったのかはもう訊きませんけど。でも、ミヅキを傷つけたのなら許しません」
ママはトモに詰め寄った。
「神崎会長のお身内の方だからと思ってましたけど、場合に寄ってはタダじゃすみませんからね」
「……ミヅキは、あいつと付き合ってないんだな」
「はあ!?」
ママは手元のグラスの水をトモの頭からぶっかけた。
「あんたは出禁だよ! 佳祐、塩持っといで!」
「…………」
雫が滴り落ちていくが、トモは立ち尽くすだけだ。
「ミヅキにはあんたなんて相応しくない。ミヅキにはもっといい男がいるよ。ミヅキは真面目で賢い子なの、あんたみたいなバカにはもったいないわ!」
『──ってことがあったの』
「そう、なん、ですか……」
もう関係ないですから、と聡子は言う。
『ねえ、あの人のほうは、ついさっきお店出たみたい。今なら引き留められるよ?』
「ほんとに、もうわたしには関係ありません」
『ミヅキ、まだ影山さんのこと好きでしょ? ミヅキのこと探してるよ』
(どうせセックスの相手しろって言いたいんだわ)
その時、おいこらちょっと電話貸せ、という声が聞こえた。
『ちょっ、なっ、いきなり何ですかっ!?』
「レイナさん?」
レイナからの電話にガタガタという雑音が混じった。
誰かと揉み合いになっているようだ。
「レイナさん!? 大丈夫ですか!?」
『おい、ミヅキか? 今どこだ』
「えっ!?」
『俺だ。わかるか?」
ミヅキ、という名前を聞きつけたトモが、レイナの電話を奪い取ったのだ。まだ近くにいたらしい。
『ミヅキ、おまえに、会いたい』
「え……」
電話がかかって来た。
(レイナさんだ)
レイナからの電話に、自宅でのんびりしていた聡子はすぐに出た。
「こんばんは。お疲れ様です」
『ミヅキ、今いい?』
勤務中のようで、後ろがガヤガヤしている。が、すぐに静かになった。少し人の声がうるが、外に出た様子だ。
「はい、いいですよ」
『さっきね、店に川村さんとあの人が今日時間差で来たの』
あの人──トモのことだと察した。
川村は聡子が辞めたことを知っても、時折店を尋ねて来ていたようだ。辞めたと知って、ショックを受けたようだが、聡子の情報がないかと聞き出そうとしているらしかった。聡子に本気だと言っていたくらいだ、諦めきれないのかもしれない。
『まあ、そんな感じ。適当に遇っとくね』
「すみません」
『でも、もう一人のほうもね……』
トモのことだ。
『最近顔出して、ミヅキが辞めたこと知ってみんなに連絡先知らないかってきいてまわってるの』
トモのほうも、先月に聡子が店を辞めたことを知って、あれこれ探っているらしかった。
が、今日は裕美ママがトモを呼び止めたという。
「ママが?」
『うん』
「影山さん、あなたミヅキと連絡取ってないんですか?」
「ああ……取っていない。少し前電話をかけたがつながらなかった。メッセージのIDも、電話番号も変えたみたいだ。……ミヅキは、あの会社役員とどうにかなったのか?」
「そんなこと教える義理はありません。元従業員とはいえ個人情報ですから」
「そうか……やっぱりつきあってんのか」
前一緒にいるところ見たんだよな、とトモは呟いた。
「交際してるならあの方が店に来るわけないでしょう」
とママが言う。
「あの方はミヅキに会いたい気持ちでこうして通い続けてるんです。そういうあなたはどうなんですか?」
「俺?」
「どうしてミヅキを訪ねてきたの? ……というより、ミヅキに何したの。以前、ミヅキは酔いつぶれたの」
「え、あいつ……酒飲めないんじゃ……」
「そう、あの子はお酒が飲めない。そんな子が、飲んで酔いつぶれて醜態さらして……。それからはあなたは店に来なくった。きっとあなたに関係してると思ったけど、何も言わなかった。あの子は一生懸命働いてくれたから。ミヅキが店を辞めるって言ったのも、あなたが関係してるんでしょう。あの子は家庭の事情に目処がついたと言っていたけど」
「違う……」
トモは首を振った。
今にも胸ぐらを掴んできそうなママを見下ろし、
「違うと、思います。店を辞めたことと自分とは関係がないと……」
力なく言った。
「ちょっと来なさい」
ママはトモを部屋に連れて行った。
「何があったのかはもう訊きませんけど。でも、ミヅキを傷つけたのなら許しません」
ママはトモに詰め寄った。
「神崎会長のお身内の方だからと思ってましたけど、場合に寄ってはタダじゃすみませんからね」
「……ミヅキは、あいつと付き合ってないんだな」
「はあ!?」
ママは手元のグラスの水をトモの頭からぶっかけた。
「あんたは出禁だよ! 佳祐、塩持っといで!」
「…………」
雫が滴り落ちていくが、トモは立ち尽くすだけだ。
「ミヅキにはあんたなんて相応しくない。ミヅキにはもっといい男がいるよ。ミヅキは真面目で賢い子なの、あんたみたいなバカにはもったいないわ!」
『──ってことがあったの』
「そう、なん、ですか……」
もう関係ないですから、と聡子は言う。
『ねえ、あの人のほうは、ついさっきお店出たみたい。今なら引き留められるよ?』
「ほんとに、もうわたしには関係ありません」
『ミヅキ、まだ影山さんのこと好きでしょ? ミヅキのこと探してるよ』
(どうせセックスの相手しろって言いたいんだわ)
その時、おいこらちょっと電話貸せ、という声が聞こえた。
『ちょっ、なっ、いきなり何ですかっ!?』
「レイナさん?」
レイナからの電話にガタガタという雑音が混じった。
誰かと揉み合いになっているようだ。
「レイナさん!? 大丈夫ですか!?」
『おい、ミヅキか? 今どこだ』
「えっ!?」
『俺だ。わかるか?」
ミヅキ、という名前を聞きつけたトモが、レイナの電話を奪い取ったのだ。まだ近くにいたらしい。
『ミヅキ、おまえに、会いたい』
「え……」
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