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25.お姫様抱っこの予感と、小さな独占欲
その日、紗幸は商店街の福引きで、一等賞の温泉旅行ペアチケットを当てて帰ってきた。
「北原さん、見てください! 温泉旅行ですよ、温泉!」
いつになく興奮気味の紗幸が、チケットを裕也の目の前に差し出した。
裕也はカウンターで洗濯物を畳む手を止め、じっとそれを見つめる。
「……ペアチケット、か」
「はい! 行きましょうね、二人で!」
裕也の視線が、チケットから紗幸の顔へ移る。
その瞳の奥に、ふと、懐かしいような、けれど今は穏やかな「独占欲」の色が揺れた。
彼は無言で紗幸の頭に手を置き、ぐしゃぐしゃと撫でた。
「……温泉もいいが、どうせなら、もっとゆっくりできる場所がいいか」
「え?」
「……風呂が調子悪いままだ、まだ直してねえだろ。広い湯船で、ゆっくり温まりたいんだけどな」
そう言って、裕也は珍しく少しだけ口元を緩めた。
「俺は、お前を連れて、どこへでも行く。……お前が望むなら、どこへでも。だが、今は、この場所(お前)を一番大事にしたい」
「……北原さん」
紗幸は、彼の真意を理解した。派手な旅行ではなく、日常の中で、二人だけの空間を大切にしたいという、彼なりの不器用な愛情表現。
「はい。……わたしも、北原さんが隣にいるだけで、どこだって幸せです」
紗幸が優しく微笑むと、裕也は満足そうに頷き、再び洗濯物を畳み始めた。
その日の夜。
二人で近所のスーパー銭湯に出かけることにした。
当てた温泉旅行はしばらく保留となった。
裕也がシャワーを浴びている間、紗幸は脱衣所で髪を乾かしていた。
ふと、体重計が目に入り、何気なく乗ってみる。
「……あれ? ちょっと増えたかな……」
そんな独り言が、シャワールームから出てきた裕也の耳に届いたらしい。
「何やってんだ、こんなとこで」
裕也は大きなタオルで髪を拭きながら、紗幸のそばに寄ってきた。
そして、その体重計の数値を覗き込んだ途端、彼はわずかに眉を顰める。
「……食いすぎじゃねえか?」
「もう! そんなことないです! ちょっとだけですよ!」
ムッとして言い返す紗幸を、裕也は呆れたような顔で見つめていたが、次の瞬間、彼はフッと口元を緩めた。
そして、突然、紗幸の身体の下に腕を差し込むと、軽々と彼女を抱き上げたのだ。
「え、きゃっ! 北原さん!?」
紗幸は思わず声を上げた。まるで、お姫様抱っこ。
両腕に抱えられた紗幸は、自分の体が宙に浮いていることに驚き、裕也の首に慌ててしがみついた。
「なに、急に……!」
「……重くねえよ」
裕也は、どこか得意げな顔で紗幸の身体を抱き直し、そのまま脱衣所から浴室へと向かおうとする。
「ちょ、ちょっと! ここ、女湯ですってば! なんでここに! ……誰もいないからって」
裕也は一瞬だけ足を止め、ハッとしたように辺りを見回した。
そして、耳まで真っ赤にして、慌てて紗幸を床に下ろした。
「……悪りぃ。客はいねえからいいぞってオヤジが言ったから、つい。ちょっとだけ、な」
不器用な彼の照れた顔を見て、紗幸は思わず吹き出してしまった。
「ふふ、もう! 番台のおじさんが言ったからって駄目ですよ。おじさんもからかっただけだと思いますよ。もう、北原さんったら、たまにそういうとこ、可愛いんだから!」
「……うるせえ。早く帰るぞ」
裕也はそう言うと、真っ赤な顔で足早に脱衣所を出て行った。
紗幸は、まだ少し熱が残る両腕をそっとさすりながら、彼の後を追いかけた。
帰路に就く二人。
裕也は黙って紗幸の手を握り、繋いだ指先がじんわりと温かい。
今日の出来事が、まるで二人の関係を象徴しているようだった。
お姫様抱っこのような劇的なことは、日常の中では起こりえないと思っていた。
けれど、ふとした瞬間に、彼はその不器用な優しさで、彼女を驚かせ、そして包み込んでくれる。
「北原さん」
「……なんだ」
「もう一回、やってください」
「……馬鹿」
そう言って、裕也は繋いだ手を、さらに強く握りしめた。
その掌の熱さが、どんな言葉よりも雄弁に、二人の幸せな日常を語っていた。
「北原さん、見てください! 温泉旅行ですよ、温泉!」
いつになく興奮気味の紗幸が、チケットを裕也の目の前に差し出した。
裕也はカウンターで洗濯物を畳む手を止め、じっとそれを見つめる。
「……ペアチケット、か」
「はい! 行きましょうね、二人で!」
裕也の視線が、チケットから紗幸の顔へ移る。
その瞳の奥に、ふと、懐かしいような、けれど今は穏やかな「独占欲」の色が揺れた。
彼は無言で紗幸の頭に手を置き、ぐしゃぐしゃと撫でた。
「……温泉もいいが、どうせなら、もっとゆっくりできる場所がいいか」
「え?」
「……風呂が調子悪いままだ、まだ直してねえだろ。広い湯船で、ゆっくり温まりたいんだけどな」
そう言って、裕也は珍しく少しだけ口元を緩めた。
「俺は、お前を連れて、どこへでも行く。……お前が望むなら、どこへでも。だが、今は、この場所(お前)を一番大事にしたい」
「……北原さん」
紗幸は、彼の真意を理解した。派手な旅行ではなく、日常の中で、二人だけの空間を大切にしたいという、彼なりの不器用な愛情表現。
「はい。……わたしも、北原さんが隣にいるだけで、どこだって幸せです」
紗幸が優しく微笑むと、裕也は満足そうに頷き、再び洗濯物を畳み始めた。
その日の夜。
二人で近所のスーパー銭湯に出かけることにした。
当てた温泉旅行はしばらく保留となった。
裕也がシャワーを浴びている間、紗幸は脱衣所で髪を乾かしていた。
ふと、体重計が目に入り、何気なく乗ってみる。
「……あれ? ちょっと増えたかな……」
そんな独り言が、シャワールームから出てきた裕也の耳に届いたらしい。
「何やってんだ、こんなとこで」
裕也は大きなタオルで髪を拭きながら、紗幸のそばに寄ってきた。
そして、その体重計の数値を覗き込んだ途端、彼はわずかに眉を顰める。
「……食いすぎじゃねえか?」
「もう! そんなことないです! ちょっとだけですよ!」
ムッとして言い返す紗幸を、裕也は呆れたような顔で見つめていたが、次の瞬間、彼はフッと口元を緩めた。
そして、突然、紗幸の身体の下に腕を差し込むと、軽々と彼女を抱き上げたのだ。
「え、きゃっ! 北原さん!?」
紗幸は思わず声を上げた。まるで、お姫様抱っこ。
両腕に抱えられた紗幸は、自分の体が宙に浮いていることに驚き、裕也の首に慌ててしがみついた。
「なに、急に……!」
「……重くねえよ」
裕也は、どこか得意げな顔で紗幸の身体を抱き直し、そのまま脱衣所から浴室へと向かおうとする。
「ちょ、ちょっと! ここ、女湯ですってば! なんでここに! ……誰もいないからって」
裕也は一瞬だけ足を止め、ハッとしたように辺りを見回した。
そして、耳まで真っ赤にして、慌てて紗幸を床に下ろした。
「……悪りぃ。客はいねえからいいぞってオヤジが言ったから、つい。ちょっとだけ、な」
不器用な彼の照れた顔を見て、紗幸は思わず吹き出してしまった。
「ふふ、もう! 番台のおじさんが言ったからって駄目ですよ。おじさんもからかっただけだと思いますよ。もう、北原さんったら、たまにそういうとこ、可愛いんだから!」
「……うるせえ。早く帰るぞ」
裕也はそう言うと、真っ赤な顔で足早に脱衣所を出て行った。
紗幸は、まだ少し熱が残る両腕をそっとさすりながら、彼の後を追いかけた。
帰路に就く二人。
裕也は黙って紗幸の手を握り、繋いだ指先がじんわりと温かい。
今日の出来事が、まるで二人の関係を象徴しているようだった。
お姫様抱っこのような劇的なことは、日常の中では起こりえないと思っていた。
けれど、ふとした瞬間に、彼はその不器用な優しさで、彼女を驚かせ、そして包み込んでくれる。
「北原さん」
「……なんだ」
「もう一回、やってください」
「……馬鹿」
そう言って、裕也は繋いだ手を、さらに強く握りしめた。
その掌の熱さが、どんな言葉よりも雄弁に、二人の幸せな日常を語っていた。
感想
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